巨体をのっしのっしと唸らせて、軍艦サウルスは今日も行く。
なんとなく目に入った眩しい光と、癪に障る甲高い騒音の出どころに出向いてみれば、そこには虫けらみたいな連中が地を這っていた。
さっきの光はこいつらの仕業だと直感した軍艦サウルスは、早速自慢のサウルス砲を地上目掛けて一斉射撃を開始した。
『ぎゃああああああああ!』
スピーカーで拡声された少女達の悲鳴が、レインバレーに轟いた。
一発で地形すら変えてしまう軍艦サウルスの砲撃が、雨あられと降り注ぐ。さっきのクラスター爆雷が可愛く思える、空襲か天災のような破壊力に、メタルマックスは速攻で逃げに徹した。
アクアは服従スペルで車内に呼び戻されたが、ダクネスの方はウルフの車体にしがみつき、酸性雨の中を野ざらしで逃げる羽目になった。
「なんですかーっ、あれ!! カズマ、カズマーッ!!」
地響きと轟音が響く中に、色めきだっためぐみんの声が場違いに混ざる。
「あいつの主砲、めっちゃ欲しいです!! 大きさといい形といい威力といい、あんなすごいの見たことないですっ!!」
「言ってる場合かーっ!!」
「大きな大砲に惹かれる乙女心は分かるけどね〜。……ねえ、カズマの主砲ってどんなもんなの?」
「お前、このところ俺にまでセクハラするようになったよな〜レナ!!」
漫才のようなやり取りをしながらも、彼女達のクルマは砲撃を躱して軍艦サウルスから距離を取ろうと爆走していた。真正面からやり合うには分が悪すぎる相手だ、先日のダイダロスとは訳が違う。
しかし、その逃げる先に空気を読まない爆雷がばら撒かれる。
酸性雨に負けない緑色の炎の壁に進路を阻まれ、方向転換を余儀なくされたウルフ、ゲパルト、野バスwith装甲車。三方向に別れた中でも、ブッチギリで目立つプラチナカラーのウルフに軍艦サウルスが狙いを定めた。
巨体が唸りを上げ、ウルフの後を追って移動を始める。しがみついたダクネスも、さすがに顔が引きつった。
「はんっ! それでこそ塗り直した甲斐があるってもんよ!」
「レナ! ダクネス!!」
「情けない声を出さないの、カズマ!! 戦略的撤退はしても、勝負からは逃げないのがメタルマックスよ!!」
運転席で不敵に笑うと、レナは主砲を後方へ向けつつアクセルを全開にする。ダクネスが半回転した砲塔で思いっきり横っ面をぶっ叩かれたが、気にしてる余裕はない。
『逃さないザンスよ〜!! テッド・ブロイラー様が授けてくださったホバリング・ノラと軍艦サウルスの誘導弾、ここで活かさずしてなるものか〜っ!!』
「……あん?」
逃げながら戦うつもりだったウルフの砲塔が、軍艦サウルスから頭上でぎこちなく飛行する武装ヘリへと照準を変えた。
「おいこらピチピチ! テッド・ブロイラーがどうだって言うのよ、コラ!!」
『はン! 知れたこと、テッド・ブロイラー様は直々にミー達へお前らの抹殺指令をくだされたんザンス!! その為の戦力こそがこの戦闘ヘリ、ホバリング・ノラ!! そしてお前達さえ倒せば、グラップラーの新四天王に――』
「ドリルブラスト発射ぁぁぁぁぁーっ!!」
『ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!! だから、話してる途中で砲撃するんじゃないザンスぅぅぅぅぅーっ!!』
ヘリと軍艦サウルス、双方の狙いから外れたゲパルトが、口上を述べようと動きを止めたホバリング・ノラを見逃すハズが無かった。そろそろ本当に限界が近いようで、おかしくなっていた飛び方がますます傾いてしまった。ミサイルや対地用バルカンが軒並み暴発し、残った武器は体当たりぐらいではないだろうか。
『ちぃぃ!! 一旦引き上げるザンス!』
「あんニャロウ……カズマ、ヘリを追って!! 恐竜はアタシとめぐみんで仕留める!!」
再度砲塔を軍艦サウルスへ向けたレナは、振り下ろされた巨大な尻尾を回避しつつ、敵の船尾に二連射の砲弾で反撃した。
バリアも迎撃も無く、素通しで直撃するものの、軍艦サウルスは蚊に刺された程度にも感じない。巨体に似合わぬ敏捷さでウルフの追撃を再開し、ウルフもアクセル全開で逃げに徹した。
その間にも、ホバリング・ノラはガタガタになりながらどこかへ向かって真っ直ぐ飛んでいく。
「んのっ! カズマ!!」
「分かった!! いくぞ、アクア!」
軍艦サウルスはホバリング・ノラを追いかけて戦線を離脱する野バスを一瞬だけ目で追ったが、そこへドリルブラストの電撃が顔面を直撃したことですぐにターゲットを切り替えた。
「その大砲、いただきますよ恐竜野郎!!」
血気に逸っためぐみんは、軍艦サウルスの備える大砲の一つに狙いを定めた。
「奪ってどうするのです、めぐみん。あんなのゲパルトには積み込めませんよ」
「……へ、部屋に飾りましょうか……?」
「最低でも重量は25トンと推定されます。床が抜けるので推奨できません」
「う、うるさいですよアイリス!! 欲しいものは欲しいんです!! あのサイズがあれば設計したはいいけど発射出来なかった超爆裂弾だって!!」
「めぐみん、以前にも言いましたが
「へっ?」
見れば、ウルフを飛び降りたダクネスが本当に軍艦サウルスへ一直線に突撃していた。勢いのままに跳躍し、両足を揃えたドロップキックを放つ。
雷のような轟音が響くが、質量でいえばデストロイヤーを上回る相手には効果が――。
「ギャオォォォン!?」
効果があった。見上げるばかりな軍艦サウルスが、たたらを踏んで後退りする。ダメージ自体は通っていないようだが、確かにダクネスの攻撃が巨体を押し返したのである。
「やっぱりもう人間辞めてますね……人間戦車ってああいうのでしょうか?」
「あ、踏まれました」
ダクネスは調子に乗ったか大質量の圧迫を味わいたかったのか知らないが、軍艦サウルス怒りのストンプを受け止めようとして地面に埋まった。
念入りにダクネスを踏みしめた軍艦サウルスは、次に顔目掛けてバースト砲を食らわしてきたウルフへと主砲を向けた。
「ええい! 倒した後をゴチャゴチャ考えるのはヤメです!! まずはあのデカブツをぶっ潰しますよ!」
「その提案を肯定。この土砂降りのロケーションではドリルブラストの破壊力が最大限に発揮されます。船体を避け、剥き出しの生身部分を狙い撃ちましょう」
「ええ! 照準補正は任せましたよ!!」
自分から囮となったウルフの行動に合わせ、ゲパルトを敵の死角に回り込ませるようにしてめぐみんは攻撃を開始した。
一方。逃げるホバリング・ノラを追いかけるカズマも、搭載した電撃系S−Eで敵を追い詰めつつあった。
『チクショウ! 飛んでるやつに走って追いついてくるんじゃねーザンス!!』
「ぬはははは! 悔しかったら反撃してみやがれー! もっともヘリコプターじゃ後退しながら撃ってくるなんて真似は不可能だろうがなー!! この俺から逃げを打った時点でテメエらの敗北よ!!」
「カズマさん、悪い顔してるわ〜」
連射性能以外はゲパルトの電撃と同等の特殊兵装DDヒステリックが、ついにホバリング・ノラの後部ローターを粉砕する。
黒煙を吐き出しながらグルグルし、バランスを完全に失ってしまったホバリング・ノラは、徐々に高度を下げていく。
『だ、ダメージコントロール不能! じ、自動修復機能は!?』
『間に合わねえよ、あにきぃ〜!!』
「だっはっは! 悪党どもの断末魔は何度聞いても心地良いな〜!! ダメ押しにもう一撃だ!」
トドメの一撃で完全に武装ヘリを撃墜、踵を返してレナ達の元へ戻る。
余計な横槍が入らなければ、その作戦は確実に成功していただろう。
「モヒカーン・スラッガー! がががーっ!!」
音速を軽々ぶち抜いた鋭い刃が、野バスのシャシーを真横から真っ二つに切り裂く。
「は……えっ!?」
「カズマ!!」
エンジン全開で爆走していたところを、突然分解された野バスの車内から、カズマとアクアが放り出された。
空中で上手いことカズマをキャッチしたアクアは、すぐにポチタンクを展開して酸性雨から身を守りつつ、突如として乱入してきた青いスーツの怪人を睨みつけた。
「はっはっは! お久し振りですな、女神アクア様。転生させられた日以来でしょうか」
「て……テッド・ブロイラー……!!」
強酸の雨など物ともしない、炎と破壊の権化が、余裕の笑みをブサイクなタラコ唇に浮かべてそこにいた。
このすば!の本編をうろついてても違和感ないと思う軍艦ザウルス。