気づけば二ヶ月もやってたのか〜、この話。
アクアはポチタンクの武装を展開するも、テッド・ブロイラーは余裕を崩さない。火炎放射器を身構えるでもなく、腕を組んで泰然と立ち塞がるばかりだ。
『て、テッド・ブロイラー様がどうしてここに!?』
「ふん! そんなことを気にしている場合か、オトピチよ。さっさとホバリング・ノラを修理して軍艦サウルスを援護しろ。あまりオレを失望させるな」
『ひいいいいい! か、かしこまりましたーっ!!』
ギロリと一睨みされたピチピチと、乗り物に過ぎないホバリング・ノラまでが明らかにビビった。その辺で強引に軟着陸すると、酸性雨に濡れるのも構わず兄弟で修理を開始した。
その姿に鼻を鳴らしたテッド・ブロイラーは、次にカズマに振り向いた。
ただでさえ犬用装備に、人間二人が詰め込まれ、ルーフまで広げているのでかなり狭い。カズマは上下逆さまで、アクアにほとんど踏まれる形でどうにかこうにか収まっていた。
「君もクルマの修理を始めたらどうだ、カズマ君とやら。シャシーこそ大破しているが、君ならあの程度の修理は可能なのだろう?」
「お、俺のこと知ってるのか!?」
「クリス――いや、女神エリス様が快く教えてくださったよ。君達メタルマックスのことをな。がががー」
「え……えぇぇぇ!?」
地上の人間が知るはずのないエリスの名前を出されて驚くアクアを見て、テッド・ブロイラーはますます満足げに嗤った。
「エリスって、どうして下界であの子の名前が出てくるのよ!?」
「良い顔をなさいますな、アクア様。その様子では、あのクリスというハンターの正体にも気付いていなかったようですなァ。ブロロロロー」
「クリスが、エリス!? カズマ、どういうこと?」
「俺が知るか。つーかエリスって誰だよ」
「後輩の女神よ! 別の世界の担当だったハズだけど……」
二人揃ってテッド・ブロイラーを見上げると、この大悪党は意味深なニヤケ面で見下ろしてくる。
「……アクア、ルーフを開けてくれ。野バス直してくる」
「えっ!?」
「大丈夫だ。殺すつもりならとっくに焼かれてる。そうだろ、賞金首」
「がががーッ! クールな男は好きだぜ、ブラザー」
対酸化装備*1を着込み、カズマは「ちょっと待って一人にしないで!!」と泣き叫ぶアクアを残し、メカニックキットを携えて野バスへ走っていった。
取り残されたアクアは、アシッドキャニオン最凶最悪の大悪党とたった一人で対峙する。飽くまでも紳士的なテッド・ブロイラーだが、どんな友好的な態度であろうと信用ならない。
「ふー。そんな表情で睨まれると傷つきますな。あなたはオレがこの世界を救うと信じて送り出してくれたのではなかったのですかな。転生する時、そう仰ってくださったではないですか」
「そ……それは、えーっとですね……」
「がががー。意地の悪い言い方をしましたな。存じていますとも、この世界がとうに見捨てられた廃棄場であることなど。我らが主、バイアス・ヴラド様はすべてお見通しであらせられる」
「ヴラド……って誰だっけ?」
「……こんなときにふざけないでいただきたいが。え、いつもこうなの?」
察しの悪いキョトン顔のアクアに、テッド・ブロイラーも肩を竦めた。ちょっとでも話が通じると考えていたのだろうか。
「まあ、いい。アクア様、今日はあなたに直接会うことと、もう一つ。エリス様についてお伝えします。あの方は今、我らの手中にあります」
「……人質ってこと?」
「いいえ。ヴラド様が完全なる不死を得るための礎となっていただいております。順調であるなら、数日以内には研究が完成するでしょう」
「ふ〜ん」
「いや、ふ〜んってあんた……か、カズマく〜ん!」
埒が明かないので、結局テッド・ブロイラーはアクアを無視してカズマの方へ逃げるように走っていった。
「ひえっ!! こ、こっち来んなよ!!」
「せっかく格好つけて来たのに、あの女神様察し悪すぎるだろ。あんなのと今まで旅してきたのか、君? 大変だったんだな」
何故か同情され、カズマは複雑な気分にさせられる。テッド・ブロイラーも一応は転生者なので、根本的な感性は近いのかもしれない。違いといえば理性や悪意に対するブレーキのあるなし程度か。
「まあいいや。カズマ君、タイムリミットはニ、三日といったところだ。我らの主ヴラド様は完全なる不死の存在となられる。その暁にはオレも不死の体がいただける事になっている」
「その間はクリスを生かしておくから取り戻してみせろってか? ゲーム感覚かよ、趣味が悪いな」
「悪党とはそういうものだろう? 伊達にヒャッハーの頭目などしていないのだよ、オレは。……やっぱり察しのいいヤツのが会話が弾むな〜」
「アクアのことは『日本語っぽい言語を話す生き物』ぐらいの認識のがいいぞ。……よっと」
大破修理が完了し、真っ二つだった車体がものの見事に元通りとなった。これにはテッド・ブロイラーもしゃくれた顎を撫でて唸った。
「大した腕前だ。これは君の持つ
「純粋な技術だよ。俺の特典はあっち」
「あっち……もしやアクア様をか!? 転生特典として女神を連れ込むとは……数々の悪事に手を染めたオレでも思いつかない発想だ――ん?」
素直に感心する大悪党は、直ったばかりで早速動き始めた野バスの主砲の矛先へ目をやった。
「あ」
照準が向く先には、絶賛ピチピチが修理中のホバリング・ノラがある。そこへ容赦なく特殊砲弾が飛んでいった。
「あ。あにきぃ〜!」
「ゴチャゴチャ言っていないで手を動かすザンス! せっかくグラップラーの正規隊員になれたのに、テッド・ブロイラー様に放り出されたら今度こそ行く場所がないザンス!」
「あにき後ろ〜! 後ろ〜!!」
「え、後ろ?」
ステピチの呼び掛けで振り返ったステピチは、そこでようやく自分達に迫る砲弾に気付くが時すでに遅し。めぐみんから没収しておいた爆裂弾の閃光に、ホバリング・ノラごとピチピチブラザーズは呑み込まれた。
「この状況とタイミングで撃つか、普通?」
そのあまりに容赦も躊躇もない不意打ちっぷりに、テッド・ブロイラーすら感心を通り越して戦慄すら覚えている。
「度胸は買うが、命が惜しくないのか? こんな真似をして、オレが本気になったらどうするつもりだ?」
悠々と運転席へ乗り込んだカズマは、火炎放射器のノズルを向けられながらも大胆不敵にニヤリと笑い返した。実際は膝が笑っているが、外からは見えないので問題ない。
「こんなところで戦ったって盛り上がらないだろ? わざわざクリスの事を教えに来たのだって、決戦を盛り上げる演出の一環なんだろ?」
「ブロロロローーッ!! 分かってるじゃあないか。君、意外と我々側の人間なんだな。今からでもグラップラーに入らないか?」
「冗談だろ? 世界の半分をもらったって、今さら悪党の仲間入りなんて御免だぜ」
「ハンターだって正義の味方というわけではないだろうに。がががー、だがそういう相手こそ叩き潰し甲斐があるというものだががーっ」
ニヤニヤと愉快そうなテッド・ブロイラーに、どうやらカズマは気に入られてしまったらしい。背筋をゾクリと悪寒が駆け抜けた。
テッド・ブロイラーはカズマとアクアに背を向けると、後ろ手に手を振って立ち去っていく。
「では、せいぜいこの場のピンチを切り抜けてくれたまえ。ここしばらく全力で暴れる機会が無かったからな。久し振りの挑戦者、期待しているぞ。……ピチピチ!! いつまでまごついている! さっさと切り札を切ってしまえ、グズが!!」
傍で聞いているだけでも身が竦む一喝を残して、テッド・ブロイラーは土砂降りの中へ消えていった。
「ひぇぇぇ! て、テッド・ブロイラー様がお怒りザンス〜!!」
「あにきぃ〜!!」
「うっそ、生きてたよあいつら……」
未だに燃え続ける爆裂の跡から慌てて出てきたピチピチブラザーズは、ゾンブレロやポンチョこそ焼け落ちてボロボロだったが、マシンボディにはほとんど損傷がなかった。
裸同然のピチピチは、生身の部分がほぼ残っていないようだ。古臭いゴーグル状のカメラアイが、野バスとアクアを睨みつけた。
「ぐぬぬぬっ! 女神アクアと、サトウカズマとか言ったザンスね!! ちょうどいいザンス、我ら兄弟の切り札、冥土の土産に見せてやるザンス!!」
「別にいいわよ、そんなの!!」
「遠慮するなザンス! オトピチ!!」
「あにき〜! シンクロナイザー、起動! 合体シークエンス〜!!」
ステピチの胸でクリスタル状のパーツが輝き、ピチピチブラザーズの体が光の球に包まれた。
「やっべ! カズマさん、あの光ってるの、転生特典の力だわ!! 効果は忘れたけど!」
「そこが肝心な部分だろうが、駄犬!!」
光の球に野バスの主砲が撃ち込むが、謎の力場に弾かれてしまう。
珠の中ではオトピチが上半身に、ステピチが下半身に形を変えてドッキング。二人は一つの巨人と成って、球を内側から破壊して大地に降り立った。
世紀末合体ピチピチブラザーズ
オトピチのチート特典「シンクロナイザー」によってピチピチブラザーズが合体した姿。ぶっちゃけ「あ! デビルアイランドでシンクロナイザー拾わせてねーじゃん! これじゃバイアス・シティに入れねえよどうしよう!!」と考えた末のキャラ。