強酸の分厚い雲が覆い隠したレインバレーを抜けて、メタルマックスは約二日ぶりに日光の下に出た。
突き抜けるような青空はさすがに望めず、曇ってないのに灰色にくすんだ空色が蓋をする。大気汚染が特に酷い地域のようだ。
「まったくもう。こんな空模様じゃ、せっかくの討ち入りが台無しね」
などとレナは暢気に宣うが、いつもと違って声が固い。一緒にウルフに乗っているダクネスにだけは、武者震いする彼女の様子がよく見て取れる。
岸壁から、湖上に設営された巨大なメガフロートへと橋が続いている。アイリスが示すバイアス・シティの場所は、まさにそのメガフロートだった。
しかし、橋の入り口には高層ビルにも匹敵するサイバネティックな城塞がそびえ立ち、クルマを含めた大軍勢が侵入者を全力で拒んでいる。
数えるのも億劫になるほどの歩兵とクルマが守るゲートは、空からでも攻めない限り蟻の這い出る隙間もなさそうだ。
「やっぱり確保しておけば良かったかな、ホバリング・ノラ」
「今さら言っても仕方ないでしょ。それでカズマ、作戦とか必要?」
カズマにそう訊いたレナだったが、実のところ答えは決まっている。
いや。彼女だけでなくチーム・メタルマックスの全員が、とっくに覚悟を決めていた。
「判断は任せるよ、リーダー。仰せのままに、だ」
無論、カズマだって男の子だ。事ここに至っては腹を括るしかない。
参謀の許可を得たレナは、深呼吸一つして気持ちを整えた。そしてニヤリと、獲物を狙う獰猛な笑みで眼前のゲートを見据えた。
「全員、突撃!! グラップラーどもを根こそぎ狩り尽くすわ!!」
『おぉーっ!!』
リーダーの号令を受け、メタルマックスの各車両はエンジン全開で敵本陣へ正面突破をするべく討ち入った。
「で? めぐみん、何か言いたいことあるか?」
「ふ……ふはははは! どうですか、これぞアシッドキャニオンでの冒険が育て上げた我が爆裂の究極系!! すべてを消滅させる『メイオウエクスプロ』――」
「よーし反省なしかー! 湖の藻屑となるがいい!」
「ぎゃああああああごめんなさいすんませんっしたー!!」
めぐみんをアイアンクローで固めたカズマは、自慢の強肩を活かして
そう。何もない。メガフロートへと続いていた橋が、綺麗サッパリ消失していた。
戦闘開始の口火を切ろうと、止める間もなくゲパルトに追加された205ミリひぼたんから放たれた爆裂弾は、本人が言うように過去最高の破壊力を発揮した。城塞と守備隊もろとも大橋を跡形もなく消し去るほどの。
ちょっとしたキノコ雲が巻き上がる大騒動となり、せっかくレインバレーを抜けたのに黒い雨を降らせている。ガイガーカウンターは反応していないので、一応放射能的エッセンスは含まれていないらしい。
メガフロートと岸壁の中央に守備隊の拠点と思しき基地があったものの、こちら側に面した壁が綺麗に溶け落ち、グラップラーも「どーすんのこれ」と混乱していた。
「だってぇぇぇ! 決戦だし、メルトタウンですごい材料がたくさん手に入ったんですよ!? 持てる全てを注ぎ込むべき場面でしょ!?」
「加減しろ、馬鹿! 道が無くなっちまって、どうやって攻め込む気だ! クルマにロケットエンジンでも積んで飛ぶか、おい!」
「!! 天才ですか、カズマ! それでイキましょう!!」
「いけるかーっ!!」
大チョンボしたアーチストへのお仕置きは参謀に任せるとして、レナはクルマを降りて岸壁に立ち、どうしたものかと腕を組む。
岸壁から橋の焼け残った箇所までは、100メートル以上は確実にあった。元の建造物の規模以上に、何をどうやったらこれほど大規模な爆弾が作成できるのか。
「ダクネス、ダブルラリアットで向こうまで飛んでいけない?」
「それだとクルマが運べないぞ。敵の本拠地に生身で突入というのは避けたいところだ」
「あ、飛ぶだけなら出来るのね。アイリスは?」
「ダクネスと同じです。人間四人程度ならともかく、重装備のクルマを運ぶ推力は当機にありません」
「……これは本当にロケットエンジン積む場面かしら……」
メガフロートと繋がる道はこれ一本きりだった。グラップラーも外へ出られないから、最悪これで放置でも構わなそうだ。クリスについては平和の為の尊い犠牲と割り切って引き上げてしまおうか。
「仕方ないわね。みんな、一旦引き上げるわよ!」
「それしかないか。カズマ、めぐみん! 一度帰還するぞー」
ダクネスがカズマ達を呼び寄せるべく小走りに向かっていくと、いつの間にやらじゃれ合いを止めて、牽引用の装甲車に外から何か細工していた。
予備武器として車載していたレイルガンを主砲に、弾頭代わりに死んだ目をしたアクアが装填されていた。
「おい、これはどういう状況だ? 新手の拷問か?」
「なぜ鼻息が荒いんだ、ダクネス!? いやな、向こう側に渡る妙案を思いついたから」
「アクアにドッグシステムの受信機を持たせて射出します。向こう側に着弾したアクアをビーコンとしてワープするのです!」
控えめに言って非人道的な作戦だが、聞いたダクネスはなるほどと頷く。倫理観を度外視すれば、現状で一番手っ取り早い作戦だ。
作業に気付いたレナとアイリスもやって来て作戦を聞くと、レナは「その手があったか」と手を打った。一方でアイリスは難色を示す。
「ただアクア一人を撃ち出すのでは駄目です。軽く精査してみましたが、メガフロートを中心として通信を妨害するシェードが展開されています。対岸ギリギリの地点では、ビーコンの信号を遮断されてしまうでしょう」
「場所を選べば大丈夫ってこと?」
「肯定します、レナ。ですのでわたしも同行し、シェードの隙間を探しましょう。わたしとアクアの二人であれば戦力としても十分です」
「あ、結局私も行くんだ……」
アイリスが名乗り出てくれたので助かったと思ったアクアが露骨にガックリするのも無視し、レイルガンの準備が整った。
絶縁加工された砲弾型のカプセルにポチタンクが組み込まれる。小柄なアイリスなら、狭いポチタンクにもアクアと二人でもそこそこの余裕で乗り込めた。
「ドッグシステムはポチタンクに搭載しておきます。着弾と同時にカプセルが割れますので、なるべく二人離れず行動してください」
「アイリス。発射から一時間しても信号が届かなかったら、アクアを帰還させる。取り残されないよう注意してくれ」
「心得ています。では行ってまいります」
「……いってきまぁす……」
頼もしくサムズアップするアイリスとは裏腹に、アクアの方はお通夜の参列客並にテンションが低かった。
バイアス・シティをノアの軍団から守るべく設営された最終防衛ライン「フメツ・ゲート」の守備隊長ゲオルグは、かつてない損害に苛立っていた。
彼が守備隊長を任されてから、今日までフメツ・ゲートがここまでの被害を受けた事はなかった。そもそも襲撃自体が建設から数えるほどしか無かったが。
「お前達! 敵はまだ対岸に陣取っているぞ!! 直にテッド・ブロイラー様が増援を連れてお出でなさる! 丸焼きにされたくなければ、少しでも迎撃態勢を整えておけ!」
部下のSSグラップラー達に指示を飛ばすが、正直に言えばゲオルグ自身、橋が落ちてしまった状態で何をどうしたものかアイデアが浮かばないでいた。
敵戦力によってフメツ・ゲートが占拠された……とかであるなら、腹立たしいが理解可能だ。敵の狙いが何なのかが検討もつかない。
(やはり我軍唯一の航空戦力……
そんな内心をおくびにも出さず……というか改造されすぎて外見に人間的要素皆無なゲオルグは、焦ろうが狼狽えようが変わる表情を失っているが。ともかく、守備隊長としての職務を全うするべく指示を飛ばす。
その一秒後。アクアとアイリスの格納されたレイルガンの弾頭が、脳が収まるコアユニットに直撃したゲオルグは、名誉の戦死と相成った。
「あだだだ……お、思ってたより勢いが!」
「しっかりしてください、アクア。囲まれています、戦闘準備を!」
着弾と同時に、アイリスはカプセルを内側から破壊して飛び出した。両手を変形させたマシンガンで全方位射撃を開始する。
「ぐわぁあ! は、反撃ぃ〜っ!!」
本拠地直衛の親衛隊だけあり、指揮官がいなくなっても隊列を乱すことが無い。マシンガンやスマート爆弾が、雨あられとアクア達を襲う。さらにクルマ部隊まで動き出した。
「足を止めるのは不利ですね。アクア、2時の方向へ全速前進です! 戦闘は最小限に目的を果たします!」
「え〜っと、2時ってどっちだっけ?」
「……あっちです」
進路上のやたら固いSS装備のグラップラーを蹴散らして、アクアにポチタンクを走らせた。だがこちらが走り出す僅かな間に、敵も包囲網を狭めている。これまでのチンピラ連中とは根本的に動きが違う。
「クルマを前に出せ!! ヤツらを進ませるな!!」
「敵は二人だ! 取り囲んで押し潰せーっ!」
「スマート爆弾をくらえ! うおっ、まぶし!」
おびただしい銃弾や爆撃が追い立ててくる。
アイリスはポチタンクの上に跳び乗って攻撃に専念し、アクアには正面への最低限の反撃のみを指示して直進させた。シェードの隙間に向かって最短距離を突っ走る。
「って、アイリス! 前に壁が!!」
「ノー・プログレム。コード1333!」
正面で組まれたアイリスの両手が変形し、戦車の主砲にも匹敵する大砲が出現する。砲身はアイリスの全長より大きいが、彼女は大破壊前の極まったオーバーテクノロジーの塊だ。この程度の機構もあって当然なのだ。
「ファイヤ!」
「うわぁ!?」
大砲が一度に4連射された反動で、ポチタンクが激しく揺れる。
砲弾は四発全てが正面の隔壁に炸裂。着弾箇所にコンマ数ミリのズレも無く、一点集中で半壊させる。頑丈な表面が剥離し、露出した内部機構へ第二射を放つ。
「コード1332! これで!!」
隔壁に生じた亀裂へ大型の砲弾を撃ち込むと、大爆発が発生。人一人程度なら通り抜けられる程度の隙間が空いた。
それでもポチタンクの横幅にはちょっと足りない。アイリスは両手を人型に戻して、ポチタンクの左側に重心を傾けた。
「よっと!」
「あわわわわっ! 無茶しないでー!」
アクアの泣き言は無視して、ポチタンクを片輪走行させて強引に隙間を突破させた。
隔壁の向こうにも敵部隊は展開しつつあり、アイリス達をこの場に押し留めようと多数のクルマが待ち構えていた。
「ど、どうしようっ!?」
「進路そのまま! 蹴散らして進みます!!」
「ひぃぃぃ〜っ!! い、いいわよ! やったろうじゃないのーっ!!」
ヤケクソ気味に吠えた猟犬の女神は、アクセル全開で敵部隊へ吶喊する。
「撤退まで一時間でも長すぎたかもしれませんね」
アイリスも不吉な呟きは全力で聞き流した。
腹を括ったアクアは、
「ええい! どけ、どけ、どきなさーい! 道を開けないと真っ黒焦げよーっ!!」
「ブロロロロー! そのセリフも火炎放射も、オレの専売特許ですよがががーっ!」
「げっ――」
このタイミングで絶対に聞きたくなかった声に、アクアとアイリスは同時に顔色を変えた。
「テッドファイヤー! がががー!!」
上空から周辺のグラップラーごと巻き込む獄炎がアクア達を襲撃する。アクアの火炎放射を、更に飲み込む凶悪な炎の壁がポチタンクを呑み込んだ。
赤いモヒカン、縫い目の走ったタラコ唇のブタ面に、青い全身スーツを着込んだ身長3メートル超えの怪人。背負ったボンベから放たれる破壊の炎は、あらゆる物を焼き尽くす。
神であるアクアをして「地獄の方が生ぬるい」と評する炎の化身が、とうとう敵意を剥き出しに戦場へと降り立った。
「おや? いきなり火力が強すぎましたかな、アクア様? がががー!」
兵士達がテッド・ブロイラーの馬鹿げた火力に巻き込まれないよう距離を取る。燃え盛る炎は、生命どころか物質の存在すら拒絶する凄絶さだ。
その炎の壁を突き破り、ポチタンクはテッド・ブロイラー目掛けて爆走を続けていた。
「コード3322! 熱バリア!!」
アイリスを中心に、ポチタンクをすっぽり覆った光波が、テッド・ブロイラーの獄炎を完全に遮断していた。
「なんだとっ!?」
驚愕に目を見開いたテッド・ブロイラーへ向かい、アイリスがポチタンクから跳躍。エネルギーフィールドまとった拳でテッド・ブロイラーの顔を思いっきりぶん殴った。
「ぐほっ!?」
二倍以上の体格差を物ともせず、テッド・ブロイラーの巨体を殴り飛ばす。無敵と思われた怪人が尻もちをつく。
「アクア、行って!!」
怯んだテッド・ブロイラーの横を素通りして、アクアは振り返ることなくアイリスに指示された地点へ走り去っていった。
その場に残ったアイリスは、両手にビームセイバーを展開し、態勢を立て直したテッド・ブロイラーと真っ正面から対峙した。
「……ほう。このテッド・ブロイラーとたった一人で戦おうというのかね?」
「いいえ。あなたを斃すつもりです」
「冗談を言うアンドロイドとはな。それとも壊れて状況判断も出来ないのかね? がががー」
「つべこべ言わずに掛かってきなさい、ゴミクズ。破壊することしか知らない、不完全な改造人間が」
感情を露わに挑発するアイリスへ先制のモヒカンが飛んだのは、約一秒後のことだった。
【タイトルだけ考えてみたシリーズ Part3】
●ハイスクール・T✕D(テッド✕ブロイラー)
→一誠の左腕にテッド・ブロイラーが宿っている。がががーっ!
●異世界はテッド・ブロイラーとともに
→神様の手違いでテッド・ブロイラーが異世界に転生してがががーっ!
●Re.テッド様が始める異世界生活
→テッド様が異世界で死に戻りしまくって鯨とか焼き尽くすがががーっ!
●ワンピース FILM TED
→さすがにテッド様と言えども麦わら海賊団は分が悪すぎると思うブロロロロー!