この素晴らしきメタルマックスに祝福を!   作:サイデリア

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 色々ありましたが再開です。
 今回のタイトルはこれしかないかと。


第六十六話 レッドゾーンmore

 真紅の重戦車ウルフが、重戦車がしてはいけない鋭いドリフトをかまして、過剰なまでに搭載された多弾頭ミサイルを雨あられと撃ちまくる。

 逃げそこねた哀れなグラップラー兵士を轢き潰しながら、レナは車内のマイクへ力いっぱいに叫んだ。

 

「バレンタインデーでお母さんからしかチョコもらったことない非モテ系のみんなーっ! レナお姉さんからのプレゼントよ!!」

 

 ミサイルのプレゼントなど物騒極まりない。レナは次元の壁を超えた先にまで喧嘩を売りながら、続けて大出力の火炎放射器でSSグラップラーを焼き尽くす。

 特殊な燃料によって鉄をも溶かす破壊力を実現したサンバーンXXが、ただでさえ炎が死ぬほど怖いグラップラーどもの士気をバキボキとへし折った。

 

「ぎゃあああああ! 前も後ろも炎だぁぁぁぁ!!」

「す、進んでも戻っても焼き殺されるだなんてぇぇぇ!!」

「みんな死ぬしかないじゃない!! くぁwせdrftgyふじこlp」

 

 何だったら自分で死んだ方がマシだと、手持ちのスマートボムで自害しだす兵士まで現れた。それほど炎が怖いらしい。

 無論、破壊の炎の化身とも呼べるあの男は、サンバーンの大火力にも臆すること無くウルフに立ちはだかった。

 

「がががーっ! レナ君ではないか!! わざわざ焼き殺されに来たのかね?」

 

 恐ろしいことに、テッド・ブロイラーは文字通りに鉄をも溶かす炎の壁を、何の障害にもならぬとばかりに突き抜けてのける。炎使いだから炎への耐性が高いのだ。どういう理屈かは不明だが。

 

「もはや手心は加えない! 君の母親と同じよう、炎に包まれて死ぬがいいッ!!」

「まあ怖い。股間の主砲と違って武器だけはご立派ね。それともコンプレックスの裏返しかしら?」

「がががーっ!!」

 

 挑発に乗ったのか平常運転なのか分からないが、テッドファイヤーの猛火はサンバーンの炎すら呑み込んでさらに勢いを増し、ウルフを襲った。

 地面の表層が溶解した挙げ句に水蒸気爆発まで巻き起こし、それらも一塊の爆炎となって波状攻撃を仕掛けてくる。まさしく灼熱の津波だ。喰らっているのは主にグラップラー兵士だが。

 

 レナは車体が分身しているかのようなドライビングで炎と地割れを回避して、恐れること無く憎きテッド・ブロイラーに肉薄していく。牽制の機銃をお見舞いしつつ、バックモニターを一瞬だけ確認する。

 遠目に映ったバイアス・シティに、まだ変化は起きていない。先行させたカズマとめぐみんは、まだ行動を起こしていないようだった。

 

(て、あっちを心配してる余裕なんか無いわね! 今のアタシがやるべき……ううん! 殺るべきは一つ!!)

 

 操縦桿を握り直して、レナは正面モニターを覆い尽くす炎の魔神へ全神経を集中させた。

 

「モヒカンスラッガー!!」

 

 テッド・ブロイラーが怒りのままに必殺の回転刃を放った。

 直撃即ち大破必至、現在の地球上で文句なしの最強物理攻撃。そこへ躊躇なく、アイリスがウルフとスラッガーの間に割り込んできた。

 二刀の光刃を交差させたアイリスは、四肢に小規模の爆発が立て続けに起こるのも構わず、スラッガーを真正面から受け止めてみせた。

 

「ベルゼルグ……フルパワーッ!!」

「なんとっ!?」

 

 否。防ぐだけに留まらず、テッド・ブロイラーに向かって飛んできた勢いのままに弾き返してのけたのだった。と同時に、両腕の付け根から背面に掛けてが激しいスパークを起こして爆発し、刃の維持も出来なくなったアイリスは地面に倒れ伏す。

 

 さしものテッド・ブロイラーといえども、自分の必殺武器が直撃しては堪ったものではない。真剣白刃取りの態勢で自らのモヒカンを掴み取って防御する。

 その有るか無しかの一瞬だけ、地獄の猛火が確かに凪いだ。

 

「その隙はッ!! 逃さん!!」

 

 テッド・ブロイラーの足元に亀裂が走り、鉄板を引き裂いてヤツが来る。

 ヨコヅナオーラとドラムストレッチにドーピングタブ(市販品)を重ねたドMマッスル、ダクネスである。

 

「ジェットッ! ハァァァァァーーーーーット!!」

「なにィィィィィッ!!」

 

 使用者の防御力に依存して破壊力を増すレスラーの妙技。人外の耐久力を誇るダクネスが放つ肉弾戦法は、軍艦ザウルスの首すらへし折った。

 改造に改造を重ねた怪物にすら、有効打を与えて余りある一撃だ。

 

「な、ナメるなよレスラー風情が!!」

 

 しかしそこは怪物。爆発の如き突進を鳩尾に受けながら、テッド・ブロイラーはダクネスのかな〜り太い腰回りを両手でホールドする。そして怪力に物を言わせて彼女の体を思いっきり真上に振り上げ、脳天から地面に衝突させた。

 

「パーイルドライバーァァァァッ!!」

「ぬがぁぁぁぁっ!!」

 

 メガフロート全体が激震するほどの地響きを立て、ダクネスが地面に突き刺さった。さしもの彼女も脳震盪により、気絶こそしていないが動けなくされる。

 しかしテッド・ブロイラーはダクネスへの追い討ちよりも優先して、腰のホルスターに常備していたドリンク剤に手を伸ばす。

 

「思いの外、消耗が激しいが……こういう時はこれ一本!! まんたーんドリンク!!」

 

 瓶のスクリューキャップを握力で捩じ切って、テッド・ブロイラーは腰に手を当てて中身を一気に飲み干そうと上向いて、上空から号泣顔で飛来する駄女神とガッチリ視線が噛み合った。

 

「ごぉぉぉっどぶろぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!!!!」

 

 完全に裏返った声で絶叫し、アクアは渾身の力を込めた必殺拳を落下速度に乗せて振り下ろした。

 が、勢い余ったアクアは拳ではなく、脳天からテッド・ブロイラーのモヒカンが外れた頭頂部に激突。ダクネスをも超える耐久力が繰り出す突進が炸裂した。

 

「がっ! がっ! がががーーーっ!?」

 

 ドリンク剤の瓶を取り落としたテッド・ブロイラーが、直撃を受けた額を押さえてたたらを踏んだ。憤怒に染まって血走った眼を剥き、すぐ近くにいるであろう女神を探す。

 しかし、見つかったのは女神が乗っていた玩具のような戦車兵器だけである。

 

「ど、どこへ行った……ッ!?」

 

 飲み損ねたドリンクの瓶を忌々しげに踏み潰し、テッド・ブロイラーは姿を晦ましたアクアを探す。

 が、探すまでもなくアクアはテッド・ブロイラー背中に張り付いていた。火炎放射器のボンベを剥がそうと、力任せに固定器具を引っ張った。

 しかしボンベとテッド・ブロイラーとは半ば同化しておりビクともせず、むしろ背中の違和感に気付いたテッド・ブロイラーに察知される結果となった。

 

「そこにいたか!」

「ひぇっ!! あばばばばばっ!?」

 

 首を180度回転させて背後へ振り返ったテッド・ブロイラーが、唇の分厚い口を大きく開く。

 喉の奥には、もう一本火炎放射器のノズルが隠されていた。

 

「Good-bye、ゴッデス。テッドファイヤー!!」

「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 灼熱の業火に呑み込まれ、アクアは小動物のような悲鳴を挙げた。それでもボンベにしがみついた手を放そうとはしない。

 

「がががー! 頑張りますな、女神様」

「熱い熱い熱い熱い、けど……まだまだぁぁぁぁっ!!」

 

 この世界でバイオニックドッグとして培った耐久力に、存在の根幹に根差した水の権能でひたすら堪えた。

 必死に耐える女神の懸命さ、いじらしさに、テッド・ブロイラーの表情が愉悦に歪む。

 そうしてまたしても隙を晒すモヒカンの外れた後頭部に、ウルフの照準がピタリと重なった。

 

「必殺、必中! 『狙い撃ち』!!」

 

 レナの極限まで研ぎ澄まされた感覚が、ミリ単位まで照準を修正。APFSDS弾によるピンポイント射撃が放たれた。

 ところがテッド・ブロイラーは瞬時にまた正面に首を戻し、アイビームによって飛んできた砲弾を迎撃してしまった。

 間髪入れず、前方に突き出した両手から必殺の火炎流で即座に反撃までしてのけた。

 

「まず……っ!?」

 

 炎に包まれたウルフの弾倉が誘爆し、激しい衝撃がレナを襲った。

 武装のほとんどが瞬時に大破したとみるや、テッド・ブロイラーはウルフに向かって走り出す。両腕を広げ、極端な前傾姿勢を取り、脳天からウルフにぶち当たった。

 

「テッドボンバー!!」

「うわああああああああっ!?」

 

 まるで巨大な鉄球にでもぶつかられたように、ウルフの車体が撥ね飛ばされた。レナの悲鳴を轟かせ、地面に激突したウルフがエンジンから炎を噴き出す。

 

「あ、ぐ……まず、い…まず、いっ!?」

 

 車内の生き残ったシステムが、無数のアラートと警告音を発する。誘爆を防ぐためにエンジンが自動停止したせいで、ほとんどの機能が使用不可能となってしまった。

 

「レナ!?」

「ご心配無く、女神様。トドメを刺すのはこれからです、ブロロロロー」

「さ、させるかーっ!!」

 

 テッド・ブロイラーが素手でウルフの装甲を抉じ開けようとするのを見て、アクアは相手の後頭部を全力で殴り付けた。

 だが先の一撃で女神パワーを使い尽くしてしまったアクアでは、成人男性の三倍程度の腕力しか発揮できない。それではテッド・ブロイラーの石頭に通じる道理がなかった。

 

「こそばゆいですぞ、女神様。さて、これで万事休すだね、レナ君」

 

 運転席を丸裸にされ、剥き出しにされた生身のレナに、テッド・ブロイラーは凄みのある笑みを向けた。

 獲物を前にした狩人のそれに、レナもまた強引に口の端を釣り上げて笑い返す。そして白兵専用のワンハンドガリルを抜いた。

 

「ブロロロロー! そんな豆鉄砲でオレを倒せる気かね?」

「倒すわよ! アタシはハンターで、アンタは賞金首! どっちが狩る側か、考えるまでもないわ!!」

「しかし、熟練したハンターも僅かな油断で獣に殺される、とも聞く。ましてや君のようなヒヨッコが、本気でこのテッド・ブロイラーを倒せるとでも?」

 

 テッド・ブロイラーは、勿体付けた動作でレナに右手を差し向ける。

 

「何度も言わせないで。倒すわよ」

 

 レナは目をそらさず、僅かな震えすらも見せず、ただ真っ直ぐに敵を睨み返していた。

 ここで終わるとしても、こいつ相手には一歩も引かない。そんな覚悟を込めた眼差しが、テッド・ブロイラーをほんの少しばかり不快にする。

 

「では、その夢を抱いたまま灰となるがいい。テッドファイヤー!」

「ダメぇぇぇぇぇぇぇーーーーっ!!」

 

 アクアの悲鳴が響く中、あらゆる物を焼き付くす地獄の業火が放たれた。

 ……はずだった。

 

「冷たっ!?」

 

 流石に覚悟を決めていたレナが浴びたのは、炎ではなくひんやり冷たい、ただの水。世紀末には大変貴重な清水であった。

 水はテッド・ブロイラーの火炎放射器から結構な勢いで放たれており、レナだけでなく大破したウルフの車内までもを水浸しにした。

 

「な、なんだこ、これは……!?」

 

 そしてテッド・ブロイラー自身にも異変が起きていた。火炎放射器の故障による精神的ショックもあるが、それ以上に体の不調に愕然としている。

 

「がががーっ!? し、システムエラーだとぉ!? このて、テッド・ブロイラーの体に……ががーっ!!」

 

 ただでさえ土気色の顔に脂汗を浮かべ、胸元を搔きむしるように悶え苦しむ。あまりに激しく暴れるものだから、体力の限界が近かったアクアも振り落とされた。

 

「いったぁ!!」

「ががっ、女神様…ががーっい、いったい何を……ががーっ!!」

「え? なに? 私!? 私何かしちゃった!?」

 

 訳が分からない、といった様子のアクアだったが、レナはテッド・ブロイラーの様子を観察するうち、その原因にピンときた。

 

「……へえ! 随分とえげつない方法を使ったわね、アクア。カズマ似てきた?」

「や、やっぱり私なの!? でも特に何も……」

「あいつの持ってた燃料とか、体内の人工血液を真水に変えたんでしょ?」

「え?」

 

 そこまで言ってもキョトン顔なアクアに、レナは堪らず吹き出してしまった。

 改めてテッド・ブロイラーを見れば、顔中の穴、搔き毟った人工皮膚の亀裂から、清らかな透明の水を滴らせている。

 アクアの持つ、触れた液体を清水に変える異能……生物に対しては発動しないが、サイボーグや改造人間は真っ当な生物の範疇には無いらしい。

 

「が、がががー! め、女神様、助け……ま、また死ぬのはイヤだががーっ!!」

 

 ついには膝をつき、情けなくも女神の慈悲にすがろうとするテッド・ブロイラーであるが、素人目に見ても手遅れ感が強い。

 無論、かといって相手が死ぬのをただ待っているレナではなかった。

 

「うるさいっての!」

 

 道具袋からありったけのフリーズビールDXを引っ張り出して、テッド・ブロイラーに思う存分ぶちまけた。

 体内から水浸しである今のテッド・ブロイラーには、必要以上に効果覿面だ。一瞬にして、炎の魔神が氷の彫像に成り果てた。

 

「がががーっ!! さ、寒い……!」

「って、まだ喋れるの!? マジで化け物だわ、こいつ」

 

 呆れ半分に驚愕しつつも、ワンハンドガリルを構えるレナの手付きは冷静そのものだった。万感の想いで撃鉄を起こし、銃爪に指を掛けていく。

 

「女神様、どうして……オレなら、ノアだって倒せたの、に……っ!!」

「これで、本当に……!!」

 

 レナとテッド・ブロイラー、両者の指先が同時に動く。

 

「オレが死んだら、何にもならねーじゃねぇーか、がががーっ!!」

「くたばれッ!!」

 

 銃撃の残響に搔き消される程度の、ほんの僅かな音を立てて、氷像が木っ端微塵に砕け散った。




 更新していない間にも読んでくれた方、コメントを残してくれた方。
 本当にありがとうございます。
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