この素晴らしきメタルマックスに祝福を!   作:サイデリア

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 エリス様の元ネタがまんまギリシャのアレだって知った時からエリス・ブロイラーのネタは考えていました。


第六十八話 崩壊の序曲

 バイアス・シティは未曾有の大混乱に陥った。

 何故かって? テッド・ブロイラー敗死の訃報が届いたからだ。

 クローニングされた強化兵士達といえども、感情を持った人間には違いない。無敵のテッド・ブロイラーがハンターに斃されたというのは、受け入れ難い衝撃だった。彼らにしてみれば、太陽が西から昇った、という方がまだ信じられる。

 

「も、もうおしまいだ! 侵入者もいるらしいし、この基地ももう持たねえぞ!」

 

 誰かが吐いた弱音が、油紙に火を灯したように拡がっていく。

 

「俺は逃げるぞ! 逃げて別の組織に鞍替えだ!」

「お、俺もだ! 沈んでいく船に用はネェーぜぇー!!」

 

 クローン兵士達は意外と情緒豊かで、自己保身やら危機管理能力もしっかりしていた。我先にとバイアス・シティから逃げ出そうとするが……そんな事を企てた小悪党(ザコキャラ)の末路など一つだけだ。

 

「どこへ行くんだァ?」

「あ、あん? 誰だ、テメェ!?」

 

 長い銀髪に青い全身タイツを着込んだ、色々と小さい娘が立ち塞がった。

 

「人体改造の被検体か? オレたちゃ忙しいんだよ、邪魔すんな!」

「バイアス・シティは厳戒態勢中だぞ。持ち場に戻れ」

「テメェにゃ関係ねーだろ! このまな板チビスケが!!」

 

 面倒になった兵士は娘を突き飛ばそうとした兵士は、次の瞬間。頭から爪先までを瞬時に炎に包まれた。

 

「ほへ?」

 

 崩れ落ちた仲間の姿を呆然と眺める兵士達だったが、彼らもまた一人ずつ、次々と火達磨にされ、炭化して崩れていく。

 

「な、なんだぁぁぁ!?」

「この炎……それにその衣装! ま、まさかテッド・ブロイラー様ァ!?」

「がががー。気付いたなら命令に従え。……どうした?」

 

 エリス・ブロイラーは見せしめとばかりに兵士の焼死体を蹴り壊す。しかし兵士達がその場を動こうとしないので、人差し指に炎を灯して彼らに突き付けた。

 ところが、である。

 

「ぷっ」

「くくくくっ!」

「ギャーッハッハッハッハ!!」

 

 小さく平たいエリス・ブロイラーの姿は、以前の厳つい顔を見慣れていた兵士達には、脅威とは映らなかったようだ。一斉に銃を構えてエリス・ブロイラーへ向けた。

 

「なんのつもりだ?」

「予備ボディか何か知らねえが、天下のテッド・ブロイラーもそうなっちまったら形無しだぜ!!」

「どのみちグラップラーはおしまいだ! あんたを殺して俺達は逃げるぞ!!」

「世界にはグラップラーだけじゃねえ! 悪の組織はいくらでもある! そっちで好き勝手やらせてもらう!!」

「……やれやれ。これなら予算をケチらず、製造時に服従回路を組み込んでおけばよかった」

 

 やれやれ……と言わんばかりに肩を竦めたエリス・ブロイラーは、愚かで哀れな脱走兵達へ右手を軽く上げた。

 

「では死ぬがいい」

 

 エリス・ブロイラーが指を鳴らす。摩擦が起こした火花が一瞬にして数十倍から百倍以上に膨れ上がり、爆発となって脱走兵達を呑み込んだ。

 あまりの火力と延焼速度に、燃やされた兵士達も何が起きたか分からなかっただろう。

 

 さらに炎は勢いを失わず、バイアス・シティそのものを蹂躙していく。背後にあった電波塔が、あっという間に炎に呑まれ、支柱を溶かして倒壊していく。

 

「ま、組織を見限りたい気持ちは理解できる。もはやバイアス・グラップラーは目的を果たし、その存在意義を失った。であれば、いつまでも燃えるゴミを残す必要は無い!」

 

 エリス・ブロイラーが僅かに手を動かしただけで、火線が走り爆発が乱れ飛ぶ。

 もはや敵も味方もヤツには無い。手に入れた力でもって破壊し、蹂躙するだけの(ケダモノ)と成り果てた。

 ……いや、元からケダモノだったな、うん。

 

「ががががーっ!! なんとも小気味よいものだな、パイロキネシスというのは!」

『テッド……テッド・ブロイラーよ』

「む。この声はヴラド様」

 

 破損したスピーカーから、ノイズで潰れた主の声が流れ出し、ようやくエリス・ブロイラーは破壊の魔の手を一旦休めた。

 

『テッド・ブロイラーよ。お前のオリジナルも倒され、もはやこのバイアス・シティを護る戦力は残っておらん。各なる上は――』

「ええ。プランD……バイアス・シティ中枢を完全に閉鎖し、ヴラド様とメインシステムを永久に封印する。解っていますとも」

『では遊んでいないで仕事に取り掛かるのだ。その不死身の体を愉しむのはそれからにしろ。急げよ』

 

 投げつけるように一方的な命令を下し、通信はブツリと切れた。

 吽とも寸とも言わなくなったスピーカーを指パッチンで焼き尽くしたエリス・ブロイラーは、ニンマリとした笑みを浮かべて嘆息する。

 

「やれやれ、最後まで口うるさい雇い主だな。……ま、そんなに言うならカズマ君達は後回しでもいいか、な? ブロロロロ」

 

 取り出した葉巻に着火し、優雅に紫煙を燻らせるエリス・ブロイラーは、もはや地上に敵などいないとばかりに肩で風を切り、地下施設へと足を向けた。

 

 

 

 偽装用のダンボール箱も放り捨てて、カズマとめぐみんはサイレンが鳴り響く地下通路を全力疾走していた。

 さっきからヤバそうな爆発音と振動が断続的に続き、ヤバそうなサイレンが鳴り響いている。海送りではなく、オールひろゆきの方だ。

 兵士達はすれ違う二人に目もくれず、我先にと逃げ出していく。厄介な警備マシンも機能停止して佇んでいるが、これはさっきモニター室が破壊された影響だろう。

 逃げていく兵士達の流れに逆らう形で、カズマとめぐみんは通路を駆ける。

 

「めぐみん! 進路はこっちで合ってるのか!?」

「は、はいっ! そのまま直進――して、ぜひゅっ!!」

 

 息も絶え絶えで脂汗まみれなめぐみんは、犬にように舌を垂らしながらカズマに頷いた。

 スタミナが無い訳でも無いめぐみんでも、こうも走りっぱなしではグロッキーにもなる。それでもiゴーグルの操作に余念はなく、この通路の先に潜入時に隠しておいたクルマを遠隔操作で先回りさせている。

 閉鎖された通路はシンクロナイザーでこじ開け、あとは正面の非常階段を駆け上がれば野バスとゲパルトが待ち構えている算段だ。

 

「……って、ここ登るのか!?」

 

 地上直通の非常階段フロアで吹き抜けを見上げて、カズマは目眩がした。天井が薄っすらとしか視えていない。壁に沿って設置された螺旋状の階段が何階分あるか数えようとして、脳が即座に拒否をした。

 

「30階分ってところですね」

「一瞬で数えるんじゃあねーよ! 気が滅入るから」

「同感です。ちょっと作戦を変更しましょう」

 

 ちょっと下がって、とめぐみんに裾を引っ張られたカズマは、言われた通り入口のドア付近まで後退した。

 めぐみんが集中した様子でiゴーグルを操作している。砲弾ゲージツ中と同じ表情に一抹の不安を覚えながら、彼女のやることを見守る。

 

 その時だ。頭上の遙か先、天井の方から凄まじい爆発音が轟き、カズマは堪らず「ヒィィッ」と情けない悲鳴を上げた。

 

「あ、もうちょっと下がりましょう。危ないですよ」

 

 小さな手に引かれて階段室を出た次の瞬間、あの軍艦サウルスの足音にも匹敵する衝撃波が襲って来て、カズマとめぐみんは同時に跳び上がった。

 

「ぎゃああ! な、何をしたんだ!?」

「の、登るのが面倒なので来てもらいました」

「何言ってんだ……あ、野バスとゲパルト」

 

 土煙の晴れた非常階段室に再度入れば、倒壊した天井と階段の瓦礫に半ば埋まりながらも、全く無傷な愛車達の姿があった。入口を砲撃し、ここまで飛び降りさせたらしい。

 

「遠隔操作で主砲撃つのって難しいですね。爽快感もありませんし」

「言いたいことはあるけど、グッジョブだ」

 

 サムズアップしためぐみんにカズマも親指を立てて返してから、早速野バスに乗り込んだ。めぐみんも続いてゲパルトへ。

 改造に改造を重ねた車体は、30階分の高さを落下してもノーダメージだった。エンジンの出力を上げれば、瓦礫も蹴散らせてそのまま発進できそうだ。

 珍しくめぐみんのファインプレー……かと思いきや、発進準備を整えたカズマは半目で通信機のスイッチを入れた。

 

「で? ここからどうやって脱出するんだ、めぐみん先生? ドッグシステムは牽引車の中だぞ」

 

 そして牽引車はレナに預けてある。通信機越しでも分るぐらいに、めぐみんが「しまった!」と大口開けているのが伝わってくる。地頭が良くても無思考な癖がどうにもならない。

 

「ま、しょうがない。脱出は止めて、ひと暴れするとすっか!」

「さっきのクリスもどきと遭遇したらどうしますか? 我々だけで勝てると思います?」

「いざとなったら()()()()の使用を許可する」

「マジですか!? よっしゃあ!」

 

 歓喜するめぐみんとは裏腹、カズマの表情は苦渋に満ちていた。なにしろフメツ・ゲートの大橋をぶっ飛ばした爆裂砲弾、あれよりもさらに強力な弾を一発だけ持ち込んでいるのだ。

 屋内での使用はもちろん、想定される威力は戦略兵器に分類される、めぐみん史上最強傑作である。

 

「けどあれ、屋内で使ったら間違いなく私達も死にますよ?」

「だから最終手段だ。というか、あんなもん使わずに済む方がいいに決まってる。夜中の夜明けなどあってはならないんだ」

「何を言ってるんですか、核兵器じゃあるまいし。ただの連鎖爆裂式プラズマ結界ですよ。地上に太陽の模造品を出現させるだけです」

「核を使わないでそれが出来るって魔法使いか、お前は?」

 

 喋っている間に準備を整え、野バスの光子力ジェットとゲパルトの無双ドライブが最大出力で唸りを上げた。

 発生した超振動波が周囲の瓦礫、そしてクルマ二台が落下した衝撃でガタガタになっていた床の基礎構造を木っ端微塵に打ち砕く。

 アクセルを全開で踏み込んだカズマ達だったが、彼らの乗ったクルマは前方ではなく、突如として足元に開いた大穴へ真っ逆さまに落下を始めた。

 

「え?」

「おろ?」

 

 状況を理解する間もなく、二人は暗く果てない闇の底へと消えていく。数秒遅れでの悲鳴は、サイレンと崩落に掻き消されて誰にも届くことがなかった。




 めぐみんの爆裂ゲージツは世界一ィィィィッ!!
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