この素晴らしきメタルマックスに祝福を!   作:サイデリア

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PartFINAL ふぁんたすてぃっくくらいんぐさん
第七十話 バベルの塔


 ウルフが滑り込みセーフでバイアス・シティの中心部に飛び込んだ、その直後。メガフロートエリアは完全に崩壊し、湖の底へ沈んだ。

 しかし落ち着いている暇などない。中央部にあった巨大なビルを破壊して、地下からさらに巨大なビルが迫り上がって来たのだから。

 強引に出てきたせいであっちこっち破損し、外壁を崩落させながら現れたソレは、巨大な人面が張り付いた要塞だった。

 大きい。あまりにも大きい過ぎる。その規模は、あの母艦サウルスの巨体にも比肩している。

 

 車内モニターで謎の建造物を観たレナ達も、開いた口が塞がらない心持ちだ。

 

「な、何よアレ!?」

「まさか……無敵要塞ザイガス!?」

「知ってるの、アクア??」

「……ごめん、適当に言っただけ――あだだだだ!! 止めて、レナ!? おっぱい掴まないで、もげる!! もげちゃうから!!」

 

 空気を読まないボケに珍しくガチギレしたレナだったが、要塞からの全方位オープンチャンネル……というか巨大スピーカーでの大音響放送で正気に戻された。

 

『――死。死は恐ろしいものだ』

 

 聞こえてきた声は、しゃがれて枯れ果てた老人のものだ。生命力を感じないどころか、地獄の亡者か何かが喋っているように陰鬱だ。

 

『わしのあらゆる行い……、わしの偉大な才能……、そのすべてが死によって失われてしまう。死はわしからこの世界を奪い取り、わしという偉大な叡智を消し去ろうとした……』

 

 要塞は地響きを起こしながら、徐々に形を変えていく。破損していた表面装甲がビデオの逆再生のように修復され、各部のあらゆる場所で機銃やミサイルランチャーなどの武装が展開していく。一部はどう見ても大出力レーザーだ。

 

『ハンター達よ。お前達はわしの死を望むのか!? さあ、答えるのだ!!』

 

 無数の殺意がウルフを狙う。否が応にも緊張が高まるが……問い詰められたレナの心は、闘志に満ちた肉体とは裏腹に冷めていった。

 

『このバイアス・ヴラドに死をもたらそうというのか!?』

「この期に及んで、貴様! グラップラーを使ってどれほどの――」

 

 激高するダクネスが、車載マイクに叫ぼうとした寸前だ。

 すでに照準を要塞表面のデカイ顔に合わせていたレナが、返答の代わりに最大改造済みの205ミリひぼたん砲を撃ち込んでいた。

 顔面直撃した砲弾がいくつもの爆発を起こし、相手の答えを受け取ったヴラドも要塞中の武装から一斉に火を噴いた。

 

『ではこのわしが! お前達に死を教えてやろう!』

「じゃかあしいっ!! 賞金が掛かってなければハンターが大人しく見逃すと思ってるの!? 死ぬのはあんたよ、化け物め!!」

『己の体で存分に味わうがいい! 死とは何かを!』

 

 互いに問答無用という勢いで、もうちょっと会話とか交渉とかしようよと心配になる血の気の多さで、最終決戦の火ぶたは切って落とされた。まあ、レトロゲームのラスボス前会話なんて薄味ぐらいで十分なのだろうが。

 急発進させたウルフの車内で、レナは仲間達へ指示を飛ばした。

 

「アイリス! 照準は無理やりにでも合わせるから、火力だけに全集中して!!」

「分かりました! LOVEマシン、コード3133! トリプルストライク!!」

「ダクネスとアクアは車内で待機してて! あの大きさが相手じゃ、不用意に飛び出しても消し飛ばされるだけよ!」

 

 二人が渋々ながら肯首するのを気配で察しつつ、次にレナはウルフの最高速度を維持しながら、ジグザグに走って火線を回避し、同時に大砲、機銃、S-Eのすべてを同時にヴラドへぶっ放した!

 

「最終決戦だし、出し惜しみは無しよ!! 喰らいなさい!!」

 

 アイリスによって回転率の上げられたひぼたん砲、一発一発がチタン製の特注品な機銃、多弾頭ミサイルと大出力ビームによる波状攻撃だ。

 無数の爆発が要塞を包む。直撃すれば戦車だろうが高層ビルだろうが消滅必至の砲撃が、バリアも何も張っていない要塞に炸裂した。

 アクアが「やったか!?」と口を滑らしそうになり、自分で口を塞ぐ。

 

「次! 特殊砲弾、セット!!」

 

 音声入力で弾倉を切り替え、奥の手であるめぐみん印の爆裂弾を手早く装填する。相手があそこまで巨大とあれば、出し惜しむ理由は無い。

 装填完了と同時に、発射ボタンは押された。

 

「あ。忘れてた、耐ショック・耐閃光防御!」

「先に言って!?」

 

 一秒後。いつものように極小規模の疑似太陽が発生、爆熱と衝撃波が崩壊著しいバイアス・シティに更なる崩壊を招きながら要塞を飲み込んだ。

 

「やったか!?」

「ダクネス、そのセリフは……って、あれ?」

 

 本当に砲撃がレナは訝しがりながらもウルフを急停車させた。

 巨大すぎる爆発の余波が収まると、要塞は上部三分の一までもが吹き飛ばされ、顔面パーツも上顎から上を見事に消滅していた。クルマでいえばシャシー大破もいいところだ。

 

「これで終わり?

「あれ、脆すぎじゃない?」

 

 光が収まり、敵の惨状が露になると、レナは戦果を誇るよりも先に疑問符を浮かべる。

 

『死……』

 

 また大音響で老人の声が響き渡る。

 それと同時に、要塞の消滅した部分がすさまじい速度で再生を始めた。

 

『このわしにとって、死さえももはや懐かしい……』

「冗談でしょ……!?」

 

 再生の速度は速いなんてものではない。銃座やレーザー砲が形を取り戻すと同時に、すぐさま砲撃を再開してくるぐらい完璧な復元率だった。自己再生どころか、壊れる前まで時間を巻き戻しているかのようだ。

 レナは敵の砲撃再開より一瞬早く、ウルフのアクセルを全開で踏み込んだ。

 

『わしは一度死んだ。だが、死が手に入れたのは病に蝕まれたわしの体だけだったのだ! すでにわしの脳髄はこの、ブレイン・バイザーに移し替えられておったのだ!! バイアス・ヴラドという偉大な精神は! 死をも乗り越えたのだ!』

「訳の分からないことを! アイリス、ヤツの弱点とか分からない!?」

「――――――」

「あれ、アイリス? ちょっとアクア、アイリスどうしてる!?」

 

 返事のないアイリスの様子を尋ねられ、アクアは後部座席のCユニットドライブへ目をやった。

 

 接続されたアイリスは両目をガッと見開いて小刻みに震えていた。

 

「ガーガーガービーーーーーデータ更新中」

 

 口も動かさないままアナウンスする幼気な少女。アンドロイドでなかったら……いや、アンドロイドなのを差し引いてもかなりヤバイ状態である。

 

「ひぇ……っ! あ、アイリス大丈夫!? 熱中症? 水飲む?」

「それには及びません……ロックされたメモリーエリアの全開放を確認。Aクラス機密情報を開示できます」

「ごめん、日本語で言って!?」

「重要な記憶を思い出しました。レナ! このままでは絶対にアレには勝てません! 撤退を進言します!!」

「はあっ!? て、撤退って言っても!」

「あの再生能力はサイクロトロン共鳴装置による、多重次元連結によるエネルギー吸収と、吸収したエネルギーのダイレクトな質量変換で――どうしました?」

 

 専門用語と超科学理論の応酬で脳がパンクしたらしく、アクアとダクネスは口半開きでヨダレを垂らし、レナは運転に集中して話をシャットアウトしていた。

 

「つまり無敵です」

 

 身も蓋もないアイリスの結論は誇張でもなく、どんなに砲撃が要塞に穴を開けようと瞬時に元通りなのだ。下手な生物兵器の自己再生より遥かに早い。確かに倒せる見込みは無さそうだ。

 だが、帰り道どころかメガフロートが完全に崩壊し、水没してしまった今、撤退自体が容易ではなくなっていた。

 そして、仮にドッグシステムでの離脱に成功したとしても、今度は再びバイアス・シティへ戻ってくる方法が無いのである。

 

「……撤退は出来ないわ。ここでヤツを倒す」

 

 回避に専念しながら、レナはハッキリと宣言した。状況的にも心情的にも逃げるワケにはいかない。

 アイリスはリーダーの答えを知っていたかのような、小さな笑みを浮かべた。

 

「でしたら、方法は一つです。ヤツの内部にあるサイクロトロンの中枢装置を破壊する。それしか手はありません」

「内部って、あの要塞に突入するって!?」

「その通りです、ダクネス。サイクロ……ヤツの特殊なエネルギーの流れは、あの要塞の地下ブロックから全体に浸透しています。というか、光ってるエネルギーラインが見えてますよね」

「あら、ほんとだ」

 

 要塞の外周に沿って走っていると、緑と赤の光る線が下から上にいくつも登っていた。機銃一発で簡単に破断したが、目視できない速度で元通りになった。本当に呆れた再生力だ。

 

「外壁が壊せないと、内部への突入もできなくない? 作戦とかないの?」

「作戦か。そーゆーのは副リーダーの仕事なんだけど」

 

 アクアの言葉に、レナが別行動中の参謀役を思い出した、その時だった。

 

「まったく、カズマってばこの一大事にどこで油売ってるんだか。めぐみんとどっかでしけこん――」

 

 喋ってる途中で何の前触れもなく、走行中の車内からアクアの姿が消失した。

 

「あれ、アクア??」

 

 驚いたダクネスに、アイリスが心配無用と告げる。

 

「過去に同様の事象の記録あり。カズマによる召し寄せ、量子ワープによる召喚操作です」

「カズマがアクアを呼んだということか?」

 

 過去の戦いでも戦略的に利用された、従属の首輪によるアクアの瞬間移動だ。それはカズマが命じるか、カズマとアクアが一定距離離れると起動するシステムである。

 レナの思考に、電流のような閃きが走った。

 

「……! アイリス、トレース出来る!?」

「ノー・プロブレム。アクアの転移先座標の算出は完了済みです。あの要塞の真下40メートル、サイクロトロンエネルギーラインの中枢部です」

 

 レナの口許が思わず吊り上がった。ドンピシャのタイミングで、本当によくやってくれる参謀だ。

 

「つまり、カズマもそこにいるってことね! アイリス! アクアをビーコンにもう一度ドッグシステムを起動して!!」

「もうやっています。ワープ開始、3秒前」

 

 橋の壊れたギガフロートを飛び越えたのと同じ要領で、アイリスのナビゲートによりウルフは量子跳躍を開始する。

 逃がすまいと要塞から極太ゲロビームが放たれたが、レナのドライブテクニックによって華麗に回避してのける。

 そして次の瞬間。決戦の舞台へ向かってウルフは空間を飛び越えた。

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