「じ、じゃあわざわざマドの町から徒歩でエルニニョまで来たの!? よく無事だったわね……」
「ショットガンがあればどうってことなかったわ」
腰に下げたポンプアクション式のダブルバレルを指したレナが、ふてぶてしくニヤリと笑う。九死に一生を得たばかりとは思えないほど活き活きしていた。
彼女はカズマ達が出発してすぐに目を覚まし、リハビリがてら追い駆けてきたそうだ。そんな軽いノリで歩いて来られる距離ではないのだが。
「それで、さっきから何をデバガメしてたの?」
「嫌な言い方しないで! アレよ、アレ!」
「アレ……って、確かカズマだっけ? あなたの飼い主、ちゃんと覚えてるわ」
「飼い主でも所有者でもないわよ!!」
カズマが捕まった経緯を分かる範囲で説明すると、途端にレナの表情が険しくなった。
「ふぅん、グラップラーにね。じゃあ助け出しても問題ないわけだ」
「助けるって……ど、どうする気?」
作戦でもあるのか、詳細を聞こうとしたところへ、タイミング悪くガラガラなダミ声が割り込んできた。
「おぅい、姉ちゃん達。こんなとこで何してやがんだ〜、ヒック」
「げっ、グラップラー!?」
現れたのは二人組の、いかにもチンピラな風体のグラップラーだった。どっちも酔っているのか赤ら顔で、アクアとレナの瑞々しい肢体を舐め回すように見ていた。
不躾な視線に身震いするアクア。しかし、レナの受けた不快感は一層激しかった。
「ゲヘヘへ、女の子二人でヒマしてるならよ〜。ちょっとそこの宿までオレらと付き合ってくれよ〜」
「ひぇ……っ! た、立て込んでますので結構です……!」
「結構……ってことは付き合ってくれるんだなァ? ゲヒヒヒヒ」
「そんな消防署の方から来たみたいなこと言わないでっ!」
チンピラの片方がアクアの腰に手を回す。だが触れるかどうかの瀬戸際で、伸び切った鼻の下にレナのショットガンが突き付けられる。
引き金がノータイムで弾かれ、チンピラの顎から上を丸ごとふっ飛ばした。
「うぎゃああああああーっ!!」
甲高い悲鳴はアクアのものだが、目の前でスプラッタシーンを披露されたことより、耳元で発砲されて受けた鼓膜のダメージだ。
「な、なんだテメ――」
もう一人のチンピラが酔いの冷めたツラで銃を抜こうとするも、レナは先んじて二射目を放つ。
胴体に大穴を空けて吹き飛んだチンピラは、近くの壁に叩きつけられ動かなくなった。
「お互い苦労するわね。見た目が良いとこういうのが際限なく寄ってくる」
「あわわ……れ、レナ!? い、いくらなんでもいきなり撃つのはあんまりじゃない……!?」
「言ってる場合? 助けるんでしょ、あの二人」
ショットガンの弾丸を込め直して、レナは銃声を聞きつけて集まってきたグラップラー達の前に立ち塞がった。
「さあ! 行って、アクア!」
「いや、行ってって言われても! いきなり放り出されてどうしろっていうのよ!?」
「簡単よ。アタシがグラップラーを何とかする。あなたは捕まってる二人を何とかする」
「具体的には!?」
「銃ぐらい持ってるでしょう!」
ノープランなまま走り出したレナは、駆けつけた六人ものグラップラー兵士の前へ迷いなく飛び出していった。
仕方なく、アクアもカズマ達が雑に入れられている檻へ駆け寄った。
カズマともう一人の囚人も騒ぎには気付いており、何事かと驚いている。
「カズマ!」
「アクア!? ひょっとしてさっきの銃声ってお前か!?」
「違うけど、とにかく逃げるわよ! 鍵がどこにあるか知らない!?」
「分からねえよ。見張りも付けずに放置されてたし」
「あ。鍵なら私が持ってます」
シュタっと片手を上げて存在をアピールしためぐみんが、檻の戸まで近づいていく。
「あなた誰よ?」
「ふっ。よくぞ聞いてくれました! 我が名はめぐみん!! この世紀末に――」
「それはもういいから! つーか鍵なんて持ってたのかよ、めぐみん!?」
カズマの横槍で名乗りを中断され、あからさまに不機嫌となっためぐみんは、頬を膨らませたままローブの内側からピンク色をした粘土のようなものを取り出した。
「捕まったときに銃とか爆弾は没収されてしまいましたけど、
めぐみんは粘土を檻戸の鍵穴にねじ込み、そこから金属製のコードのようなものを伸ばして檻の端ギリギリまで下がった。カズマも何をするのか予想がついたので、一緒になって避難した。
「水色の人も、その位置は危ないですよ」
「え、ええ。分かったわ」
めぐみんが手元にあるコードの先端に細工をする。案の定、鍵穴に詰め込んだ粘土が花火のようにパンと爆発し、鍵を破壊してあっさり戸は開いた。
「鍵って爆弾かよ……」
「期を見て脱出する手筈は考えていました。ただどうしても音がうるさいので奴らに気付かれてしまいますから。誰かは知りませんが、騒ぎを起こしてもらえて助かりました」
「……おっかない小娘ね……」
爆破までの手際の良さに、カズマとアクアは感心しつつもビビっていた。
そうする間に、レナの起こした騒ぎはさらに大きくなっていった。
「さあ、今のうちに町から脱出しましょう!」
迷いなく先頭に立っためぐみんは、しかし何故か町の外ではなく、中央に向かってコソコソと歩き出した。カズマが慌てて呼び止める。
「ちょちょ、めぐみん!? どこ行くんだよ!?」
「この騒ぎの中、バカ正直に出口から出ていっては巻き込まれます。転送装置を使いましょう」
「転送装置!? そんなものがあるのか、この時代……」
「得体の知れない機械ですから、正直に言って使いたくありませんけど。でも好き好んで使う人間がいないから馬鹿なグラップラーは見落としがちですし、この町の転送装置はレジスタンスが管理しているのは事前に調査済みです」
自信満々のめぐみんは、理路整然と逃亡計画をカズマ達に説明した。しかもこれ、捕まる前から考えていたいくつかのプランの一つらしい。
「すごいな、めぐみん! これで俺を無意味に巻き込んでなけりゃ完璧だった!」
「うぐっ!? そ、それは悪かったと思ってますよ! すみませんでした! はい、謝ったからこの話題は終わりー!」
めぐみんが強引に話を打ち切ってくるも、カズマも今はそれどころでないと理解しているのでグッと堪えてスルーした。
そして、あとはそこの角を曲がれば転送装置まで一直線というところに差し掛かった。
「……ところでめぐみんさん? 転送装置があるマンホールってあそこのテントよね」
「へ? ……あ」
ところが、そこにはグラップラーのクルマ二台を含めた大部隊が待ち構えているではないか。テントを撤去して、その下にあったマンホールに兵士が次々と突入していく。
そのうえその場には、機械仕掛けの武装車椅子に腰掛けて葉巻を燻らせる、エルニニョを牛耳るボス・メンドーザの姿まであった。
「完全に封鎖されてるじゃんか……」
「あわわわわ!? め、めぐみんさん? 次のプランってあったりします?」
「……こ、このまま一気に突っ込んで、後は野となれ山となれ作戦なら」
「詰んでるじゃねーか!」
なお、他に考えていた脱出プランもほぼ全て転送装置による離脱が最終目標だったので、手持ちの爆弾が全て没収された今のめぐみんには残念ながら打つ手がなかった。
そうこうする間にも、クルマの一台がレナの暴れている方へと発進してしまった。いくらなんでもクルマを相手にしては、まだまだヒヨッコハンターであるレナに勝ち目はない。
「こうなったら……どうしましょう!?」
「こうなれば……どうしよう、カズマぁ!?」
想定外の事態に弱いらしいめぐみんと、そもそも頭が回らない性質のアクアに挟まれたカズマであったが、この平凡な少年は追い詰められた土壇場において恐るべき冒険を考えついた!
「なあ。あいつらのクルマ、奪えないかな?」
カズマの発案に、アクアとめぐみんは顔を見合わせた。
めぐみんの技能にどうしても汎用性が出てしまうのはご愛嬌としてください。