対魔忍RPGクロスオーバー集   作:不屈闘志

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第2話 アサギと魔天郎

「どうぞ、座って。」

「失礼します。」

 

 アサギは、ふうまにソファに座らすように促し、自身も対面に座った。

 

「ヨミハラで直接報告したいことがあるなんて、どうしたの?」

「実は……」

 

 小太郎は、昨晩のヨミハラの火事に関して報告し始めた。

 アサギは、小太郎の報告を真剣な顔で聞いていたが『魔天郎』の言葉が出ると、やや驚きの感情が混じり始めたのを小太郎は感じた。

 

「亜希姉は、五車に帰る暇はないからってまだ捜査を続けています。」

「そう……報告有り難う、ふうまくん。二十年ぶりに魔天郎が現れ、ヨミハラに火をつけて火事場泥棒、さらに子供が行方不明。そうかあの魔天郎が……」

 

 アサギは、笑顔で小太郎を労いの言葉をかける。が、すぐに真剣な顔になり頭をわずかに伏せて指先を顎に当てて何かを考え始めた。

 

「…………」

 

 そのままアサギは何も喋らない。

 

(アサギ先生どうしたんだろう? なんか居た堪れなくなってきた。)

 

 アサギの沈黙が三十秒を越えた時、小太郎は、その重い沈黙に耐え切れず、アサギに明るく声をかける。

 

「亜希姉から聞いたんですけど、かつて魔天郎と対決した対魔忍がまさか、アサギ先生だとは思っても見なかったですよ。一体、魔天郎ってどんな奴だったんで……ッ!?」

 

 沈黙していたアサギは、小太郎の声にカッと目を見開いて顔を上げた。

 それに小太郎が驚く間もなく……

 

「子供には子供の夢を与えよっ! 大人の打算で子供を苦しめるなっ!」

 

 と、突如凄い剣幕で何の脈絡もない言葉を叫ぶ。

 

「えっ!?」

 

 いきなりのアサギの変貌に小太郎は遅れて絶句する。

 しかし、それは一瞬だけでアサギは元の穏やな表情に戻って小太郎に笑いかけた。

 

「びっくりした?」

「び、びっくりしましたよ。いきなり何ですか? その言葉は」

「どう? なかなか御立派な言葉でしょ?」

 

 アサギがいつものように優しく微笑むと小太郎は、安心する。

 

「そうですね。あ、解りました。先程の台詞はアサギ先生が魔天郎に言った言葉でしょう?」

「これは私が魔天郎と初めて出会った時に彼が言った言葉よ」

「え!?」

 

 小太郎は、アサギの予想外の言葉に目を瞬かせた。

 

「一番最初に出会ったのは、私が児童誘拐の囮として駆り出された時ね。」

「誘拐事件ですか? 窃盗ではなく?」 

「そうよ。二十年前、東京で三十人を超える児童が、同時に姿を消した事件があったの。それも全員、学問、スポーツ、武芸ともに優秀な児童ばかりがね」

「それが魔天郎の仕業だったんですね……」 

「いいえ」

 

アサギは、小太郎の言葉に首を振った。

 

「事件の犯人は、明治から東京の不動産を牛耳っていた暗闇一族という組織だった。それを命じていたのは、首領である『吉岡作蔵』と言う男。彼は自分の後継者を探すべく、子供を誘拐していたのよ。」

 

 アサギは、目の前の小太郎を映さず、まるで当時の事件を瞳の中に浮かべているような遠い目になった。

 

 二十年前、アサギは、わずか十二歳でありながらも溢れる才能を長老衆から見込まれていた。それ故に 小太郎も知る『ふうま時子』のように子供にしか出来ない任務に何度か駆り出されていた。これが現在なら、いくら才能があろうとも子供の年齢で対魔忍の任務を任せるわけはない。しかし、当時は、井河の長老衆が取り仕切る対魔忍であり、才能のある者は積極的に任務に当たらせていた。

 

「攫われた私が見た光景は、知力、体力を測る拷問に近いテストを強いられている子供達だった。親の元に返してと泣き叫ぶ子、ネバーギブアップと言って気丈に振る舞う子、そんな子供達に容赦なくムチを振るう大人達」

「アサギ先生だったらその場で全員制圧できたんじゃ?」

「当時、私は12歳よ。戦えば攫われた子供も怪我をするかも知れない。それに私の忍務は、攫われた場所の特定のみで勝手に動くことは禁じられていたから。だから待ったわ。仲間の助けがすぐに来ると信じてね。けれどね……」

 

アサギは、会話を一旦区切り軽くため息をつく。

 

「これは後で解ったことだけど誘拐事件は魔界の住人の仕業と睨んでいた長老衆は、私の報告で犯人がただの人間と解ると事件を後回しにしたのよ。暗闇一族がやっていることは、単純にいえば子供達を選別していただけで、人身売買や人体実験でもないからって」

 

 再び会話を区切ったアサギは、当時の複雑な胸中の思いを吐き出すようにゆっくり呟いた。

 

「だから……最後まで仲間の助けが来ることはなかった」

 

「アサギ先生……」

 

 アサギは寂しそうに笑った。

 

 小太郎は、敵の術中にはまり、孤独な戦いを強いられたことが何度もあった。しかし、その度に仲間の助けが来ると信じて戦い抜き、実際に遊撃隊のメンバーや『鬼崎きらら』に『水城ゆきかぜ』、そして目の前のアサギに助けられてきた。

 

 当時、まだ子供であったアサギが感じたであろう失望感は、小太郎には計り知れない。だが、小太郎は同時にある疑問を持った。仲間が助けに来なかったとしたら、アサギ先生は一体誰に助け出されたのだろうと。

 

「私はそんなことも知らず、そのまま敵の全容を探るため試験に不本意ながらも合格していった。そして、候補者が二人に絞られた時、吉岡作蔵の経営しているビルに呼ばれた。私の後継者になれと直接説得するためにね。私は、その時、忍務の為に後継者になることを了承しようと思った。しかし、計算違いだったのはもう一人の候補者である男の子が、私が答える前に後継者になることを拒否したの」

「結構、勇気がある子が居たんですね」

「当時、隣にいた私もそう思ったわ。しかし、吉岡の瞳には勇気ある行動ではなく、ただの造反と映ったのよ。激昂した彼は、すぐに拳銃を持った部下に命じた。このガキを殺せって」

「え、それでどうなったんですか!?」

「私は、部下が拳銃を取り出す前に男の子と共に部屋から飛び出した。しかし、敵の本拠地だもの。すぐに大勢の武闘派の部下達に囲まれた。私も流石に忍務継続は困難と思い、隠していた忍者刀を取り出そうとしたその時……」

「?」

 

 アサギは会話を再度区切り、おもむろに立ち上がって、自分がいつも作業をしている机へと歩き出した。小太郎が不思議そうな顔で見守るなか、机の引き出しからある物を取り出した。それは怒っているのか笑っているのか解らない顔のようなマークが付いているトランプサイズのカード。

 

「それは?」 

「よく見て」

「…………ッ!?」

 

 小太郎が目を凝らしカードを見ると顔のマークの下に『魔天郎』と記してある。

 

「まさか、アサギ先生を助けたのは!?」

「そうよ、私達を救ってくれたのは、魔天郎だったのよ。このカードは、彼が拳銃を発射する直前の暗闇一族の手に投げて妨害してくれた時の物よ。」

 

 アサギの瞳に、その時感じた匂い、景色、そして感情が先程より深く蘇る。

 

  

 アサギと少年の前に、黒尽くめの魔天郎が二人を守るように降り立った。

 

『私は不死身だ。その者たちはどうしても許せん、私が成敗する!』

 

 二人が見守るなか、魔天郎は銃で武装した暗闇一族を次々と鞭一本で倒していく。

 その時のアサギは、初めて見る魔天郎の戦闘に見惚れていた。いくら周りの者がただの人間でも拳銃や警棒で武装した武闘派の者達である。そんな彼らを鞭一本で華麗に制圧していく様は、美しくもあったからだ。

 

 一方、吉岡は部下達が徐々に減り、アサギとは間逆の地獄のような光景に映っていた。そして、部下がすべて倒される前に魔天郎から逃げようとする。だが、魔天郎はそれに気付き、素早く吉岡を羽交い締めにして怒りの感情籠もる声で叫んだ。

 

『吉岡作蔵っ! 子供を事故で失った悲しみはわかるが、子供たちを誘拐して息子の身代わりを作ろうなどとは、許せんぞ!!』

 

魔天郎の怒りの声に対し、吉岡も怖じずに叫ぶ。

 

『私は、息子に小さい頃からエリート教育を受けさせた! 息子は、学問、スポーツ、武芸、すべてに秀でた息子だった……将来は、日本の指導者になるはずだったんだぁっ!!』

 

 その声は、息子を失った怒りや無念さ、そして、何より悲しみが込められた声であった。しかし、その声にも負けずに、魔天郎は吉岡に鞭を突き付ける。

 

『馬鹿者っ! お前の過大な期待がミツル君を押しつぶして自殺させたことがまだわからんのかっ! 子供には子供の夢を与えよ! 大人の打算で子供を苦しめるなぁっ!』

 

魔天郎は、吉岡に対し怒りの鞭を浴びせながら叫ぶ。

 

『これは、さらわれた子供たちの苦しみっ!!』

 

さらにもう一度、鞭を振りかぶりながら叫ぶ。

 

『これは、さらわれた子供たちの親の悲しみっ!!』

 

 魔天郎は二度目の怒りの鞭を浴びせた。

 

「ぐおぁ……」

  

 魔天郎の鞭を二度も受けた吉岡は、あまりの痛みに気絶してしまった。

 魔天郎が吉岡を最後にすべての敵を倒し終えたその時、複数のパトカーのサイレンが聞こえて来た。

 すると魔天郎は、気絶した吉岡に背を向け、一部始終を見守っていた二人、それぞれの肩に手を置き力強く声をかける。

 

『タケル! アサギ! また会おうっ!』

 

 そして、すぐに魔天郎は、外の非常口へと走って行った。

 

「待って!? 魔天郎っ!?」

 

 アサギがすぐに後を追うが、魔天郎はその時にはもう非常口から外に出て行っていた。急いでアサギも非常口の扉を開け外に出る。扉の向こうは、ビル外の非常階段の踊り場で、上下の階段をアサギはすぐに確認するが魔天郎の姿はない。

 

「あの一瞬でどこに『フフフフフフ……』!?」

 

 誰かの乾いた男の笑い声が、空の向こうから聞こえてくる。

 

 アサギが月光射す空を見ると雲ではない一つの丸い影が見えた。それは気球であった。アサギがさらに目を凝らすと気球のバスケットから縄梯子が垂れており、そこに魔天郎はぶら下がっていた。

 

『私は蜃気楼の国からやってきた、幻の怪人魔天郎!悲しみの涙は、夢の欠片に流し込めっ!! 怒りの涙は炎と燃やし、火の鳥となって空を渡れっ!! 君の挑戦を待っているぞ! ハーハッハッハッ!」』

 

「待って、魔天郎! 貴方は泥棒なのに何で私を助けてくれたのっ!?」

 

 アサギの質問には、答えず高笑いだけを残して夜空の向こうに消えていった。

 

 ◇

 

「気絶した吉岡は、その後すぐに警察に逮捕されたわ。魔天郎は、また逃走したけどね」

 

「自分が原因で愛する息子が自殺なんて、まともな精神じゃ耐えられませんからね。やっていることは許せないけど、狂気に走った理由は理解出来るなぁ………それにしても」

 

 小太郎は、吉岡に同情するが、すぐに心の中に生まれたある疑問を口に出す。

 

「魔天郎は、ただの泥棒のはずなのに何で子供を助けようとしたんでしょうか?」

 

 小太郎の疑問にアサギは、複雑そうな笑みを浮かべて、何も答えない。

 

「アサギ先生?」

「次に魔天郎と出会ったのは、抜け忍捜索の忍務だったわ」

 

 アサギは、質問をする小太郎を敢えて無視し、話の続きを始めた。

 アサギの態度に小太郎は、彼女と魔天郎の関係に疑問を持った。

 

 (もしかして、アサギ先生は謎の魔天郎の目的を知っているんじゃないか?)

 

「当時、五車の里から逃げ出した忍び、猿の獣遁の使い手、通称『マシラの銀次』。こいつは猿の力を使って東京のお金持ちの民家に強盗を繰り返した。里を抜け出して普通の暮らしをするならまだしも、忍法を使っての泥棒行為に長老衆はカンカンでね。捕まえる為に東京中を警備した。もちろん私も駆り出されたわ。」

「抜け忍に対して、昔はかなり厳しい処置をしたと聞いてますが、まさか東京中を警備してたなんて………」

「幾人ものベテランの対魔忍が駆り出されて捜索していたなか、偶然私が最初にマシラの銀次に遭遇したのよ。そして、説得する間もなく私は銀次との戦闘になった」 

「銀次は強かったんですか?」

「何の準備もない強盗中の銀次と十二歳の子供だけど完璧に武装した私とでは、こちらの方が有利だった。私は、徐々に銀次を追い詰めていった。しかし……」

「しかし?」

「私は、道場稽古のみで実戦の経験が足りなかった。逃げながら戦う銀次を追って、いつの間にか木々に囲まれた公園に入ってしまったのよ。それこそが銀次の罠と気付いたのは、奴が真の力を発揮仕出した後だった」

「真の力………銀次はかなり戦闘向けの忍法だったんですか?」

「蛇子ちゃんや兎奈ちゃんと比べて、銀次は身体のほとんどを獣化出来たのよ。並の刃物なら通さない分厚い体毛、片足だけでも枝にぶら下がれる強靭な猿の足、そして、肉を容易く切り裂く牙と爪と身体の部位を凶悪に変化していった。そして、何より森の中は奴のテリトリー」

 

 アサギがまた先程と同じく、その時の情景をより深く思い出すように遠い目になり始める。

 

「生い茂る木々を飛び移りながら四方からくる攻撃に、私は徐々に疲弊していった。対魔殺法や逸刀流の剣術なら、間違いなく私の方が実力が上だったけど、それはあくまで地上での話。隙をついての攻撃も体毛で弾かれ、体勢を立て直そうと林の外へと出ようとしても素早く回り込まれる。私はもう切り札の隼の術を使わざるを得なかったその時だった。」

 

 ◇

 

 アサギの身体は、ボロボロだった。対魔スーツは切り刻まれ、その間からは、銀次の鋭い爪につけられた切り傷が数え切れないほど見える。

 

「井河家の有能な跡継ぎ候補も俺のテリトリーでは形無しだな。」

 

 銀次が両足で枝を掴み、コウモリのように逆さまの姿で嘲笑する。

 

「…………」

 

 それに対してアサギは、何も答えない。それは絶望しているわけではなかった。その目は死んでおらず逆転のタイミングを狙っていた。

 

『奴が攻撃するタイミングで隼の術を使い、体毛に覆われていない口内にこの忍者刀を突っ込んでやる。けれど、フェイントを使われて私の届かない木の上に逃げられたら、私の負けね』 

 

 アサギは、未完成ながら隼の術という忍術を使うことが出来る。それは、まるで周りがビデオのコマ送りのように見えるほど自らを素早く行動させる忍術である。しかし、その時間は、周囲の時間から見たら三秒程であり、地上ならまだしも、はるか木の上にいる銀次に斬りつけるとなると、まるで時間が足りないのだ。

 

「流石に跡取り候補を殺したとなると俺も本気でヤバくなる。だから安心しな。半死半生でギリギリ生かしといてやるぜっ! キィェェエエェェッッ!!!!」

 

『来るッ!』

 

 銀次が雄叫びを上げ、アサギが忍法を発動しようとしたその時……

 

「マシラの銀次ぃ……」

 

 その場に低い男の声が響いた。

 

 二人は互いに動くのを止め、声の出所である森林の向こうの草原に注目する。

 

 そこには、長い髭を生やした和服の老人が居た。そのなりは、どこにでもいそうな格好だが、目つきは鋭く、二人を射殺さんばかりの眼光を放っている。

 

 二人のうち、先に動いたのは銀次のほうであった。銀次は、アサギには目もくれず、老人の方へと迫る。しかし、襲いかかったのではない、老人の目の前まで来ると獣遁の術を解き、いきなり土下座をしたのだ。

 

「お、長まで来ているとは、ど……どうかお許しを」

 

 銀次は、数秒前の勢いが嘘と思えるほど、顔は青冷めてガタガタと震えていた。

 アサギも遅れて、老人の前に片膝を付き頭を垂れる。

 

「まさか、長老まで来られているとは……」

 

 いきなり現れた老人を、銀次は長と、アサギは長老と言った。それは、対魔忍を統括する対魔忍頭領という意味である。そして、頭領の実力なら、いくら林の中のテリトリー内とはいえ、銀次を一瞬で殺害出来る事を二人は知っている。その上、頭領はアサギの実の祖父でもあり、今まで銀次は、目の前で孫をいたぶっていたことになる。

 

「銀次よ。抜け忍にならまだしも、忍術を悪用し守るべき市民に強盗まで働くとは許しがたい。」

「へへぇっ~!?」

 

 銀次が顔が土にまみれるのにも関わらずに地面に頭を擦り付ける。

 だが、アサギだけは、長が先程言った市民を守るという言葉を聞くとピクリと訝しげに眉を動かした。

 

「だが、今里に戻れば、咎めはあれど、厳罰には処さん。貴様の忍術は消すのには惜しいからのぉ。」

「ほ、本当ですか!?」

 

 銀次が希望に溢れた表情で地面から顔を上げる。

 

「あくまで自ら改心をしたということにせよ。わしに説得されたと言えば、わしに反目している里の者から取り引きを疑われる。解ったなら、さっさと五車に戻れっ!」

「はははぁっ! 恩に来ます!」 

 

 長に言われた銀次は、風のように去っていた。

 長は銀次の姿が見えなくなるとアサギの方を向く。

 

「アサギよ。貴様もさっさと五車に戻れ。銀次が説得されたということは内密……何のつもりだ?」

 

 アサギは、いつの間にか膝を付くのを止めて忍者刀を取り出している。

 

「誰に向かって刃を向けている?」

「ふざけないで……貴方は誰なの? 姿や背格好は完璧でも、魔の者を狩ることだけが対魔忍の役目と言っている長老は、間違っても市民を守るなんて言わないわ!」

『……フフフフフフ』

 

 すると長は、先程と違う声で笑い出した。

 その笑い声にアサギは目の前の男が長老ではないと確信する。

 

「話す気はないようね。イヤァァァッッ!!!」

 

 アサギは、忍者刀を振りかざし、長の格好をした男に突進した。

 その瞬間、男は遥か後方に向かって、対魔忍顔前の空中回転でアサギの刃を避ける。そして、数メートル先の地面に降り立つと、その格好は先程の長では無かった。その姿を見たアサギは、驚愕した顔になる。

 

「まっ、魔天郎っ!?」

 

 その姿は、笑う黄金の仮面に黒尽くめの怪盗服を着た魔天郎に変わっていた。

 

『アサギくん! よくぞ私の変装を見破った。流石、対魔忍の若きエースだ!』

「魔天郎! 何故長老に化けて私を助けたっ? それよりも何故長老の姿を知っている!?」

『私は、君達の事は何でも知っている!』

「誤魔化さないで! ただの泥棒なら見逃すけど、長老に化けたのなら捕縛するしかないわ」

『止めたまえ! 君は今、傷付いている!』

 

 追い風が吹きすさぶなか、魔天郎がマントを不自然な程、格好良くはためかせ、説得しようとする。

 しかし、アサギは、聞く耳を持たず忍法を発動させた。

 

「隼の術!」

 

 アサギの周りの風景が魔天郎を含めてスローモーションになり、アサギは思い切り息を吸い込んで、魔天郎に突っ込んで行った。

 

 ◇

 

「そ、それでどうなったんですか!?」

「気づいたら、私は草原の上で寝ていたわ。ご丁寧に胸の上に『お見舞い』と書いてある魔天郎のカードが置かれていてね。ついでに銀次との戦いの傷も勝手に治療もされていたわ」

「アサギ先生の隼の術が破られたんですか!? 一体どうやって!?」 

「小太郎くん。貴方なら今までの情報で分かるはずよ。」

 

 アサギは、小太郎の問いに答えず、面白そうに小太郎に逆に問う。

 一方の小太郎は、自分が試されていると感じ、顎に手を置いて真剣に考える。

 

「もう一人仲間がいた? 催眠術? いや、それでも隼の術には追いつけないはず……アサギさんのすべての動きは常人の何十倍……魔天郎はマントをはためかせ……ハッ!?」

 

 小太郎が何かに気づいたように顔を上げる。

 

「もしかして、静流先生の花散る乱のような眠り粉をアサギ先生の術の発動前にあらかじめ撒いたのではないでしょうか? 隼の術は、確かに常人の何十倍の速さで行動することが出来る。それは内臓や肺の動きも同じく何十倍も早く活動します。それに相乗して毒の効果も常人よりも何十倍も速く効いてしまったのではないですか?」

 

小太郎の答えにアサギは、破顔する。

 

「そうよ。向かい風が吹くなか、魔天郎の大袈裟なマントの動きを見て、私は気付くべきだったわ。結局、私は銀次捕獲の忍務は失敗し、そのすべてを里に報告をしたわ。この事件を切っ掛けに、少し後で魔天郎捕縛の命令が出ることになる。」

「マシラの銀次は、どうなったんですか? 大方、想像はつきますが……」 

「当時の長老衆には、『葉取星船』や『鴉野魎馬』が居るのよ。銀次が何か言う前に問答無用で彼は処刑されたわ。」  

「そうですか……しかし、何故魔天郎は、対魔忍頭領の姿やアサギ先生の術まで知っていたのでしょうか?」

「おそらくだけど、魔天郎はこの里に何度か潜り込んで、そこで実力ある対魔忍の何人かを調べていたのでしょうね」

「それはもう泥棒の域を超えていませんか? 魔天郎はやはり魔界の住人、もしくは対魔忍だったのでは?」

 

 小太郎の問いにアサギは、ゆっくりと首を横に振る。

 

「いいえ、魔天郎は何の力もないただの人間よ。戦闘も変装も忍法の領域に達してはいるけど、それはただの奇術や手品の延長線に過ぎない。」

「何で断言できるのですか?」

「次に対峙した時、彼から直接聞いたからよ。」

「ぇ!?」

 

 小太郎は、アサギの答えに驚くが、アサギはそのまま話を続ける。

 

「私は、また魔天郎と出会うことになるわ。そして、次からね。私が魔天郎の目的を理解し始めるのは……」

 




元ネタ20話『怒り仮面の逆襲』
   28話『忍者志願』

怒り仮面を話に入れると話が少しややこしくなってしまうので、そのまま助けることにしました。
本当は、好きなんですけどね…
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