NEXT TIME 仮面ライダーツクヨミ、トゥルース 作:祝井
「マルか、バツか」
事前に渡されたチェックリストを右手に、あるライドウォッチを左手に持って、赤い燕尾服の男は問い続ける。慣れすぎて、ウォッチに封じられた力を生身でも使えるようになってしまったのだ。
その眼前で問いに答えているのは一人の少女。答えることを拒否しようとして強烈な電流が流されることもある。
少女の苦悶に満ちた顔を見るのは、その男にとっても苦痛だった。
○○○
ホームルームが始まる前の僅かな時間。受験が近いのにもかかわらず、多くの生徒がある噂の真相を確かめようと3-Gに詰め掛けていた。
「はいはーい、見世物じゃないからねー!!」
「勉強しろ勉強! まぁ俺はゲーマー内定してるけどな!」
「恋路の邪魔なんて粋じゃねぇぞ!」
ソウゴや小和田、ゲイツの友人の柔道部員などのG組生徒の一部が身体を張って彼ら彼女らを通そうとしない。
「ていうか、何があったんですか……?」
「まぁ、アレを見ればわかりますよ」
何故か別クラスなのにそこに混ざっているゴロウとそもそも学年が違うのにいるウール。前者の疑問を後者が目配せをするので、ゴロウは顔だけそちらへ向けた。
ウールとゴロウの目線の先では、一組の男女が楽しそうに喋っている。
「なぁ。月よ──有日菜」
「どうしたの、ゲイツ」
「何で俺のことを選んでくれたんだ?」
「えーっとね。えへへ、教えなーい」
「教えてくれよー!」
ゲイツと有日菜だ。距離感は今までとは比較しようがないくらいに、非常に近い。ピッタリくっついている。有日菜は瑞々しい笑顔だし、ゲイツはデレデレだ。
現在の状況と柔道部員の話から察するに、二人は今日付き合い始めたようだ。
柔道の金メダルを嘱望されていた真面目で男前なイケメンと、成績優秀で容姿端麗な生徒会長だった美少女の熱愛。この二人に告白したり密かに想いを寄せていた生徒は少なくない。そのことはゴロウでさえ知っている。卒業が近くなってきた最近は、有日菜に告白する生徒も増えていたようだし。
なるほど、確かに人も詰めかけるか。ゴロウはそう納得しかけたが、普通におかしいだろうと思い直す。口には出さないし出す暇も無いが。
数分、また数分と経つたびに生徒が増えてくる。噂を確かめようとする者はもちろん、登校してきたばかりで何も知らない野次馬もやって来るのだ。比較的見慣れない生徒も見えてきているが、後輩も増えてきているのか。
「も、もう限界~!!」
ソウゴを始めとした二人の友人達でできたバリケードも、いよいよ多勢に無勢。たくさんの生徒に押しつぶされそうになってしまう。その時。
「何をしている」
背後に異様なまでの圧を感じ、群衆の動きが止まる。一斉に振り向くと、そこには3-Gの担任であり進路指導部長、そして有日菜の兄であるスウォルツがいた。多くの視線が集まっても、彼の圧は揺らがない。
「ホームルームの時間だ、自分の教室に戻りなさい」
「は、はい……」
生徒達は呆気なくスウォルツの圧に負け、すごすごと自分達の教室に戻っていく。右へ左へ生徒達が散らばる中心で、その圧は多少緩みはしつつもソウゴ達にも向けられた。
「お前達もだ」
「はーい!!」
ソウゴが元気に返事をして真っ先に自分の席へダッシュすると、他の面々も便乗して自分の席へ素早く戻っていく。ウールは階段を降りる同学年の流れにサラッと混じり、ゴロウは自分のクラスに戻る面々の後尾にこそこそと加わった。
全員が着席したところでちょうどチャイムが鳴り渡る。起立。令。おはようございます。
「じゃあ出席取るぞ。荒川成紀」
「はーい」
そういえば、とソウゴはスウォルツの点呼を聞きながら思い返す。
オーラはいなかった。群衆にも、バリケード側にも。
○○○
くるりくるりとフォークがパスタを巻き取っていく。弁当の三分の一を占めるそれはナポリタンであったが、従来のものよりも大分赤かった。スウォルツ特製の旨辛ナポリタンである。何を隠そう、有日菜は辛い食べ物が好物なのだ。
「はい、あーん」
ソウゴにはゲイツがそれを口に含むのを躊躇したように見えた。かつて夢見ただろう最高最善のシチュエーションとはいえ、有日菜の好む辛さが凄まじいものであることを彼が知らないわけがない。だって長い仲だし。
動かないゲイツを前に、有日菜は首を可愛く、そして少し悲しそうに傾げた。
「食べないの?」
「いっ、いただきます!!」
ゲイツ陥落。パスタを差し出されたフォークごと食らいつくようにゲイツは口に入れた。その瞬間、激痛が舌を襲う。負けじと麺を噛んでいくと、刺激の中に隠れていた旨味が口の中に少しずつ広がっていく。それはそれとして辛いが。
「どう?」
「旨かったが辛かった。……俺のも、どうだ」
水筒を飲んだゲイツも、負けじとピーマンの肉詰めを箸で掴む。持ち主の緊張でぷるぷると震えながら、ピーマンの肉詰めは有日菜の唇に近づいていく。
「あ、あーん」
「それはいらない」
が。有日菜はフォークでピーマンを刺し、そのままゲイツの口にまるまる突っ込む。頬を膨らませて力強く咀嚼するゲイツを見ながら、ソウゴは少し違和感を抱いていた。
好きとまではいかないけど、普通に食べられるくらいには克服してなかったっけ、ピーマン。
「カレシへの甘えってやつ?」
勝手に結論付けた後、ソウゴは唐揚げをかじった。美味い。流石はおじさん特製だ。
昼食時にも有日菜とゲイツがいちゃつく一方で、オーラは自分のクラスでルカとユリアという名の友人達と昼食を摂っていた。話題は当然、有日菜とゲイツが突然付き合い始めた件になる。特に、雰囲気が変わった有日菜について触れられることが多い。
「あれが本当の月読さんなんじゃない?」
「いや、あれは受験もとっくに終わってるし浮かれてるだけでしょ」
友人達の話を横で聞き流しながら、オーラは頬杖をついて溜息を吐いた。一切口を挟んでいないため、とっくに弁当は食べ終わっている。
そうこうしているうちに、話題の矛先がオーラに向けられる。
「オーラって元会長と付き合い長いんでしょ? 今の彼女のこと、どう見えてるワケ?」
想い人であったはずのゲイツのことに触れてこないのにはユリアの配慮が見える。今のオーラには気付けないが。
「どうって……」
あの事件の前のオーラならば、すぐに答えを出せただろう。だが今のオーラにはできない。
有日菜について思い出そうとすると最近決まって脳裏に浮かぶのは、タイムジャッカーと対立していたあの頃のツクヨミが、ファイズフォンXを向けてくる姿だった。
「わかんないわよそんなの」
オーラはイライラを隠さないまま立ち上がり、そのまま教室を出て行こうとする。
「どこ行くの?」
「トイレ」
見かねたルカの声にもぶっきらぼうに返して、オーラはドアを閉めた。
「……そういえば山田君はさ」
「えっ」
ルカに唐突に名を呼ばれて困惑するゴロウ。彼は実はオーラと同じクラスだったのだ。
オーラの友人達とは特に仲がいいわけでもなく、悪いわけでもない。そもそもあの事件までゴロウは俗にいうボッチだったのだ。最近は改善されてきているとはいえ、その人見知りは治っていないし、人付き合いもまだまだ少ない。
「常磐君とか明光院君と仲良いんでしょ?」
「ええ、まぁ」
「オーラと明光院君に何かあったりした?」
そりゃあっただろう、とゴロウは思いながらも、全然話したことのない相手なので流石にそのまま口に出せない。それを察したのか、「いや、今朝のことじゃなくて」とルカはすぐに付け足す。
「結構前──9月の終わりだったかな。あの頃まではゲイツ、ゲイツ、ってずーっと言ってたんだよオーラ」
9月の終わり頃といえば、ゴロウは化物だらけの異世界に閉じ込められたことを思い出さざるを得ない。例外を除いたほとんどの生徒と教員が忘却してしまっているが、ゴロウはソウゴ達と同じく例外の一人だった。
しかしこれが関係しているかどうか。ゴロウが考え込んでいると、ユリアが口を挟んでくる。
「それが文化祭の後から何か付き合い良くなっちゃってさー」
「……それって良いことなんじゃ」
「まーね。でもやっぱり、救世主クンを追いかけたり、元会長のことを我がことのようにドヤるオーラだからこそってのはあるじゃん」
「いいんですか、それで」
ゴロウはわからなくなってユリアに問う。
「私はそういうオーラが好きなんだ。だからいいの。ルカもそうでしょ?」
「そうね。ちょっと遊べなくても友達は友達。それぞれやりたいこともあるから。
それで、ほんとに何も無かったの?」
「……僕の、知る限りでは」
ゴロウは素直に答えざるを得なかった。
用を足し終わったオーラは手を洗っていた。いつもより無駄に時間をかけて。変な空気にして抜け出してきちゃったし、戻りづらい。
鏡に映る自分を見て溜息を吐く。ちょっとひどい顔だ。自分の顔を見たくなくて、洗面台に手をついて排水溝をぼうっと見つめていると、背と腹に柔らかな感触。
「オーラっ」
「……ピナ」
有日菜が抱き着いてきたのだ。オーラからはその表情を窺い知ることはできない。それにしても、近づいてきたのを気付けないとは。オーラは自分の疲れを自覚する。
腹に回された有日菜の手に触れようとしたが、やめた。
「大丈夫? 暗い顔してるけど」
「別に。あんたこそ大丈夫なの、カレシと一緒じゃなくて」
心配してくれているのに、毒を含んだ返事をしてしまう。前の私がツクヨミに言うならそれは正しい。けど。こんなこと、私は言いたくなかった。だからなるべく離れていたのに。
「……大丈夫だよ」
オーラが内心後悔していると、有日菜の手が腹を離れて肩に触れたのを感じた。振り返らせようというのだろうか、でも振り返りたくない。オーラの肩がこわばると同時に、有日菜の吐息が首にかかる。
「えっ……何……?」
その瞬間だった。有日菜の震え声と共に、オーラの身体から温かい感触が離れる。足音からして、後ずさっているのだろうか。オーラは直感的に顔を上げる。目の前の鏡を見て、オーラもまた後ずさった。
鏡面がうねり、不快な耳鳴りが耳を襲う。映し出されたのは、合わせ鏡で作り出されたような多重世界。そして、その奥から近づいてくる異形だった。鏡の中で光が反射し、異形の顔を大きく照らす。
〈RYUGA……!〉
その黒い龍神のごとき異形の名はアナザーリュウガ。かつての世界でウールにより生み出され、一度はゲイツをも殺害した、本来なら存在し得ないアナザーライダー。この世界でもそのはずなのだが。
そんな異形が、右腕の龍を模した籠手を構える。すると、アナザーリュウガの周囲に六つの黒炎球が浮かび上がって。
嫌な予感がした。
「伏せて!!」
オーラは咄嗟に有日菜を抱きかかえて倒れ込む。その頭上を黒炎球が通り過ぎて、そのまま背後の個室とガラス窓を焼き溶かした。
「逃げるわよ」
すぐに立ち上がったオーラは有日菜の返事を待たないで、手を引っ張って走り出す。背後で、ズシッと何かが着地する音が聞こえた。
同時刻。昼食も食べ終わり、教室でソウゴと話していたゲイツがいきなり立ち上がった。両手にはライドウォッチ、腰には既にジクウドライバーが装着されている。
「ゲイツ?」
ソウゴの怪訝そうな声も無視して、ゲイツは教室を出て走り出す。走りながらウォッチをそれぞれ起動してドライバーに装填し、そしてドライバーを回した。
〈リ・バ・イ・ブ!剛烈ゥー!〉〈剛烈!〉
「えっ何やってんの……!?」
幸い、生徒の大半は教室で勉強したり喋ったりで廊下に出ていなかったからいいものの。ソウゴも周囲を確認して、ジクウドライバーを片手にこっそりと廊下に出る。
ソウゴがゲイツリバイブの元に追いつくと、そこは女子トイレ前だった。ゲイツリバイブと黒い異形──アナザーリュウガが戦っている。
一方的な蹂躙だった。アナザーリュウガが黒い長剣で斬りつけても、ゲイツリバイブの鉄壁の装甲の前では呆気なく受け止められてしまう。それどころか、ジカンジャックロー・のこモードで反撃まで喰らった。
「ツクヨミ! オーラ!」
ソウゴはひとまず、座り込んでいる有日菜とオーラの前に立つ。ゲイツリバイブの方は大丈夫そうではあるが、まだ伏兵がいる可能性がある。
〈"のこ"・切・斬!〉
ふらついたアナザーリュウガにジカンジャックローの強力な斬撃が刻まれる。せめてその一撃を反射しようとアナザーリュウガは鏡を喚び出すが、ゲイツリバイブはそれを容赦なくのこの追撃で両断。その衝撃でアナザーリュウガは廊下に倒れ込んだ。
「終わりだ……ッ!?」
とどめを刺そうとドライバーのウォッチに手をかけるゲイツリバイブだったが、アナザーリュウガが唐突に出現したオーロラカーテンに包まれて消えるのを見て驚愕する。ソウゴとオーラも驚きを隠せない。唯一有日菜だけはきょとんとした顔だったが、彼女はそれを人間が用いた瞬間を見たことがないからだろうか。
そんな時に、ゴロウが現れる。オーラを探しに来たのだ。ゲイツリバイブを見て少しビビりながらも、険しい顔のソウゴに訊ねる。
「……何かあったんですか」
「ごめん、パシリみたいになっちゃうけどさ。スウォルツ先生に放課後空けてもらえるように頼みに行ってもらえるかな」
怪訝な顔になるゴロウに、ソウゴが更に告げる。見られたからには巻き込まざるを得ない。
「怪物にツクヨミとオーラが襲われたんだ」
○○○
「──ほう、そんなことが」
放課後の進路指導室。そこには先程居合わせた全員に加えて、スウォルツとウールが集まっていた。人数が人数なので若干手狭だが、他の教室は受験勉強や部活を行う生徒でいっぱいだから仕方ない。
「加古川やウォズはどうした?」
「飛流は電話しても出ないし、LINEも既読が付かないんです。ウォズも呼んでも来てくれなくて」
これは大問題だな、とスウォルツは溜息を吐く。このような事態に真っ先に動くであろう二人が音信不通とは、何かあったことを示す以外の何物でもない。
「また並行世界からの敵襲、というわけだな」
ゲイツが言った端的な結論に、ゴロウ以外の全員が頷く。ゴロウにとってはちんぷんかんぷんである。
「それに多分、単独犯じゃないと思う。アナザーリュウガはあの、なんだっけあのもやもや──」
「オーロラカーテンだな。あれで撤退していたのか」
「ええ。アナザーリュウガは鏡の中を行き来する力を持ってるから、契約者がオーロラカーテンを使う理由はあまりないはず」
「なるほどな」
オーラとスウォルツの間でトントン拍子に話が進んでいく。その中に、ソウゴが首を傾げながら疑念を差し込む。
「ていうかさ、オーラめっちゃあのアナザーライダーのこと知ってるじゃん。名前とかも」
違和感を持たれるのも当然のことだった。悩みすぎて、前と今の境界線が曖昧になってしまっているのかもしれない。オーラはそんな自分にもイライラした。
「……あのアナザーライダーを差し向けたのが私だっていうわけ?」
「い、いやそういうわけじゃないけど」
オーラの刺々しい態度に、ソウゴはうろたえる。別にちょっと気になっただけなのに。
「そもそもいたじゃんあの時!」
「私なら、容疑者から真っ先に外れるために自分を巻き込──」
「ムキになるな、オーラ」
スウォルツはオーラの反論を遮り、落ち着かせるように肩を叩いた。その重みに、オーラの頭は冷えた。ごめん、常磐。
「一番の問題は誰が襲ったかじゃない。誰が襲われたかだ。オーラ、お前は有日菜が襲われたと考えているな?」
「ええ。ピナが来てからアナザーリュウガは現れた。私を襲うなら、その前にいくらでも隙はあったはず」
「ふむ、最もな意見だ」
「あの、犯人について思ったことがあるんですけど」
ウールが割り込むように控えめに手を上げる。どうした、とスウォルツは続きを促した。
「アナザーリュウガって、月読先輩にフられた人の内の一人なんじゃないですか?」
「いやそんな理由でなること──」
「ありえるな」「ありそうね」
「あるんだ……」
「普通に考えてくださいよソウゴ先輩、月読先輩って競争率激しかったでしょう? それこそ今月は告白が相次いでたじゃないですか」
いやまぁ確かにそうなんだけど、そういうことじゃなくて。これまで戦ってきた白ウォズやフィーニス、真実のソウゴなどの目的と比べると、ソウゴにはギャップが激しく感じられてしまうのだった。理屈としては正しいが、釈然としない。
ウールが提示した可能性を認めた、スウォルツやオーラもそれは同じである。だが、彼らにはかつての世界での記憶があった。かつて彼ら自身が契約したアナザーライダー達に、そのような類いの願い程度しか持たない者も多くいたからこその納得だ。
「ひとまず有日菜、今月フった男を覚えているか? いや女もいるなら女もだが」
「……自信ない、かな。一日だけ待ってくれない? ラブレターが残ってるかもしれないし」
「そうか、わかった」
「じゃあその人達には僕が話を聞きに行きます」
「俺も行くよ。急に暴れられても、俺なら止められるからさ」
ゲイツとツクヨミは安心していちゃついてよ、とソウゴは笑う。室内の雰囲気が一気に緩んだ。
「い、いちゃついてなどおらん!」
「そーなんですけどー!」
「一応教師の立場から言わせてもらうがな、アナザーライダー関係なくそういうのは控えてもらえると助かるんだが」
「なんで!?」
何故かソウゴがあげた悲鳴にスウォルツは「今朝の件を忘れたか」とぼやく。
「それがレアケースだとしても、今は受験期。授業の合間の僅かな時間さえも受験生にとっては大切な勉強時間だ」
「そっか、そうだよね」
「確かにな」
「お前達もせめて、私立受験くらいはしてくれてもよかったんだぞ」
来年度の資料作りが既に怖かった。王様志望と救世主志望の生徒とかどう記述しろと。
「とにかく、校外で恋人っぽいことをするのはまだしも、校内ではある程度控えろ。昼食中くらいにしておけ」
「意外だなー。校外では禁止しないんだ」
いたずらっぽく言うウール。
「俺達教員に本来、そこまで口出しする権利はないからな。クレームを付けてくる輩もいるから全体では言わざるを得ないだけだ」
「ええ……?」
「話が逸れたな。とはいえ、これ以上話せることも無い」
スウォルツはこの場にいる全員を見渡す。
「今回の事件が解決するまで、なるべく有日菜を一人にせず注意するように。特に学校の鏡にはな。だが普段通りの生活でいい。何かあったらいつでもすぐに俺に連絡しろ。意見は求めん」
はい、と全員が返事をする。ソウゴやオーラ、ウールは無茶言うなぁ、と内心思ってはいたのだが。
「……僕はどうすれば」
「すまん、LINE交換するか」
ゴロウと連絡先を交換した後、スウォルツは生徒達を帰した。
それにしても久々の事件か。ただでさえ忙しい時期だというのに。スウォルツはパイプ椅子に座り込んで天井を仰いだ。
ふと先程の話を思い出して、流しの上の壁にかけられている割れた鏡を見る。アナザーライダーとなった自分の顔が映し出されているように、スウォルツには見えた。
『逃避するな、現実を見ろ』
「……然るべき時が、来ればな」
ポケットの中のアナザーウォッチを強く握り込む。アイツにこの刃を向ける未来が来ないように、信じるしかなかった。
○○○
下校。ゲイツと有日菜が二人で並んで歩く数歩後ろに、残りの三人が付いて行っている形になっている。ゴロウは学校じゃないと勉強できないというので泣く泣く別行動だ。スウォルツがいるので然程問題はないだろうが。
「ねぇゲイツ。どうしてあの時、私が襲われたってわかったの?」
「そりゃあもちろん、愛の力だ!」
「……ありがとね、ゲイツ」
「あ、当たり前だ! 恋人を守るのが俺の役目だからな!」
手を繋いで片方のコートのポケットに入れ、楽しそうに話しながら歩く二人。対照的に三人が会話もあまりせずに鏡を警戒しながら歩く中、突然オーラがソウゴの横に来る。
「常磐。……さっきはごめん」
珍しく、オーラは頭を下げた。ソウゴはちょっと驚きながらも表情を緩める。
「俺もごめん。ちょっと無神経だったかも」
「いいわよ。無神経なのはいつもだし」
「ひどぉ!?」
ソウゴのわざとらしい反応に、オーラは安心した。どんなことがあっても、こいつだけは何故か変わらない気がする。
「……アナザーライダーは身体に名前が刻まれてるの」
「えっ?」
「あれの名前がわかった理由よ」
「そうなんだ。いやよく見えたね!?」
「オーラって目だけは良いですから」
「もっと良いところあるに決まってるでしょ。ウール、十個挙げなさい」
「む、無茶だ……」
ようやく三人が和気あいあいと喋り出す。もちろん、警戒はそのままで。
そうしているうちに、クジゴジ堂の近くにある五差路まで来た。いつもならここで各々の家に別れたり、そのままクジゴジ堂に向かったりする。後者の場合そのまま夕食を共にすることも多い。
昨日クジゴジ堂に向かったのはゲイツとウールの男子勢だけだった。理由はいわずもがな。
今日はどうするか聞くために、ソウゴは四人の方を向く。
「今日はそのまま家かな」
「俺は有日菜を送り届けてから戻ってくる」
「僕はそのまま付いていきます」
「私は塾で勉強しなきゃだし帰る」
「わかった、じゃあ──」
ソウゴが前を向いた、その時。少し離れたところに、何かがいた。微かに笑う、何かがいた。
「ソウゴ先輩?」
足を止め口を閉じたソウゴを案じるウール。いつもならそれに応えるソウゴは、ただ正面を見るばかり。
「──なん、で」
「あれは……」
「……子供?」
「どうしたのよ、常磐」
ソウゴは耐えられずに瞬きをした。その後に、何かは──有日菜の言う男の子は、消えていた。
「真実の、ソウゴなんだ」
全員の目線が集まる。懐疑の目線。ソウゴは目線には動じず、震える声で真実を告げる。
「あの子供は。かつて俺が倒した──"俺"だ」
週一更新予定ではありますが、今回はリアルタイムで執筆しているので、リアルの都合上日曜日に投稿できない可能性もございます。その場合は次の日曜日に投稿を目指し、それもダメであれば更に次の日曜日に投稿を目指す、という感じになっていくと思います。
余韻を破壊してしまうようなタイミングですが、大切なお知らせ故にここで伝えさせていただきました。ご了承ください。