NEXT TIME 仮面ライダーツクヨミ、トゥルース   作:祝井

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 1ヶ月以上お待たせしました。



EP3「20X8:眠れる真実」

 

「マルか、バツか」

 

 赤い燕尾服の男は今夜も問い続ける。リストに書かれた名を読み上げて、答えさせて、その繰り返し。

 

 少女も慣れたもので、拒否することなく淡々と答えていく。だが、答えはしたが、それが事実と異なることで電流が流れることもある。未だに少女も電流の痛みには慣れていなかった。

 

 その男の苦痛は、まだ続く。

 

 

○○○

 

 

〈"ナイト"ォーゥッ!〉

 

 仮面ライダーゲイツ・ナイトアーマー。ゲイツが変身したそれは、有日菜とウールに襲い掛かるアナザーリュウガの一閃を受け止め、ベランダに繋がるガラス張りの扉の方へと押し込んでいく。アナザーリュウガに抵抗されながらも、肩から伸びるマントが変化した槍──ウイングランサーGで押しながら、ゲイツはドライバーを素早く操作した。

 

「ダァァーッ!!」

 

〈ファイナル!〉〈タァイム・バースト!〉

 

 ウイングランサーGがマントに戻ってから肥大化し、ゲイツを包み込んで巨大な投げ槍と化す。それがアナザーリュウガへ突っ込み、更に閉じられたままの扉にも突き進み、衝突した。 

 

 が、扉は破壊されることはなく、二体はまるですり抜けたように雪が降る空へと現れる。アナザーリュウガと同様に、ナイトアーマーにもミラーワールドを行き来する力が備わっているのだ。

 

 アナザーリュウガの腹を貫いたゲイツ。一足先に地面へ着地した彼を鏡から飛び出す投げ槍が狙う。しかしもう遅い。ゲイツのドライバーは既に回っていた。

 

〈リ・バイブ・疾風ゥー!〉〈疾風!〉

 

 青き高速の救世主・ゲイツリバイブ疾風は目にも止まらぬ速度で、先程放った自身の必殺技を避けて跳び上がる。彼には空中のアナザーリュウガが止まっているようにしか見えていない。

 

 アナザーリュウガの周囲360度。ゲイツリバイブは球を描くように飛び回る。すると、空中のアナザーリュウガは大量のエネルギーニードルに囲まれていて。

 

〈"つめ"連斬……!〉

 

 ジカンジャックロー・つめモードの音声が鳴り響く刹那、アナザーリュウガにニードルが一斉に突き刺さる。それらの威力と数は双方ともに、アナザーリュウガのキャパシティーを超えていて。

 

 鏡を発生させることもできず、空中でアナザーリュウガが爆ぜた。再び着地したゲイツリバイブは振り返る。少し離れたところにアナザーウォッチが落ちてきていた。

 

「契約者がいない……」

 

 ゲイツリバイブはアナザーウォッチに近寄って拾い上げようとしたが、その前にオーロラカーテンがウォッチを包み込んで消失させる。

 

「……なるほどな」

 

 契約者のいないアナザーライダーに、オーロラカーテン。そして連絡のつかない一人の仮面ライダー。

 

 早く伝えねば。

 

 ゲイツは変身を解除して歩き出す。その顔は、笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「そうか。これからも注意してくれ」

 

 スウォルツが電話を切る。ウールからだった。

 

 昼休みの進路指導室。最近はここで仕事をすることが多いスウォルツの他に、政治科目の質問に来ていたオーラがいた。オーラは心配そうにスウォルツに問う。

 

「ピナ、また襲われたの?」

 

「ああ。今回はウールが一緒だったそうだ」

 

 そう、と素っ気なく返してオーラは少し黙り込む。そして、昨日から少し疑問に思っていたことを切り出した。

 

「本当に狙われてるのはピナだけなの?」

 

「どういうことだ」

 

「昨日襲われた時は私が一緒だった。今日はウールと。ピナだけが目的なら、ピナが一人の時を狙えばいいのに」

 

「つまり、かつてタイムジャッカーであった者達も狙われていると」

 

 答えを先取りしたスウォルツの言葉に、オーラは頷いた。話が早くて助かる。

 

「加古川飛流と連絡がつかないのだって、もう襲われたからかもしれないし。その上で私達が狙われている理由を考えると、アンタの一族の力が目当てかもね」

 

「お前の言う通りなら、次は俺というわけか」

 

「茶化すんじゃないわよ」

 

 笑い混じりのスウォルツを軽く睨みつけて立ち上がる。もう質問することはした。ソウゴが目撃した真実のソウゴについても、昨日とっくに共有してある。もう今はここにいる意味はない。

 扉に手をかけて、ちらりと振り返る。スウォルツは仕事に戻っていた。

 

「気を付けてね、スウォルツ。アンタなら問題ないとは思うけど、一応」

 

 スウォルツが軽く手を挙げるのを見てから、オーラは退出した。ホントに分かってんのかなアイツ。

 

 オーラが出て行くのを見届けたスウォルツは、開けっ放しの扉を閉めてから軽く呟く。

 

「……確かめてみるか」

 

『その必要はあるのか? お前は答えを持っているというのに』

 

 スウォルツは無言で、割れた鏡をひっくり返した。

 

 

○○○

 

 

「ねぇ」

 

「なんだ」

 

 放課後。スウォルツに呼ばれたという有日菜を、ソウゴとゲイツは3-G教室で待っていた。他の生徒は他の教室や塾で勉強しているのか、二人きりだ。

 椅子の背もたれに腕を乗せたソウゴは、ぼんやりと扉を見つめるゲイツに話しかける。

 

「ツクヨミに告白した人達から話を聞いてきたんだけど、昨日の昼休みは皆アリバイあったよ。あと祝ってくれた人もいた」

 

「だから信じるのか? その場しのぎの嘘かもしれないぞ」

 

「かもね。でも俺は彼らじゃない気がする」

 

「……真実のソウゴ、だな?」

 

 うん、とソウゴは小さく頷く。彼は戦いの最中に複数体の化物を強化していたこともある。更に弱体化しているだろうとはいえ、アナザーライダーを数体程度生み出して使役することなど造作もないのではないだろうか。

 

 その旨をソウゴから説明されたゲイツは「なるほどな」と頷いた。

 

「だがソウゴ、忘れていないか? 俺達は同じことができる奴を一人知ってるはずだ」

 

 ソウゴはすぐに思い至った。

 

「飛流が? なんで?」

 

「奴はかつてアナザーディエンドに変身していたし、その力でアナザーウォッチを用いてアナザーライダーを生み出したことがあっただろう」

 

「いやそれは知ってるよ、他でもないゲイツと飛流から聞いたんだから」

 

「じゃあなんだ、その『なんで』は」

 

 ぶっきらぼうに訊いてくるゲイツに、ソウゴは信じられないながらも答えようと口を開く。あの時一度疑い、そして認識を改めると決めたゲイツが一番わかっているはずなのに。

 

「理由だよ。飛流には今までたくさん助けて助けられてきた。過去を守りたいって夢もある。俺は飛流が今更敵になると思えない」

 

「理由なんていくらでも考えられるぞ。お前への恨みが再燃したのかもしれないしな」

 

 そう言い残して、ゲイツは席を立つ。「トイレ」と付け足してから、扉を開けて教室を出た。

 

「……やっぱり、変だ」

 

 一度信じた男を疑うゲイツも、真実のソウゴを覚えていないツクヨミも。他にも変なところはいっぱいある。でもとにかくゲイツを一人にしないべく、ソウゴもまた教室を出た。

 

 

 

 

 

「兄さん、どうかしたの?」

 

「今のお前は、幸せか?」

 

「……何言ってるの」

 

 進路指導室。入ってくるなり告げられた言葉に、有日菜は首を傾げるしかなかった。スウォルツは背を向けている。

 

「私は幸せだよ」

 

 一歩近づく。まだスウォルツは振り向かない。

 

「私はもう、あの時と違ってひとりじゃない」

 

 二歩近づく。まだ兄は振り向かない。

 

「ひとり、か。本当にそうか?」

 

 三歩近づこうとして、二歩半で止まる。まだ目の前の男は振り向かない。

 

「本当にお前は、ひとりではないのか」

 

 かつて私を追放した男が悲しげに呟くのが聞こえる。まだ振り向かない。でも、手は届く。

 

「そんなわけ────」

 

 手が届こうとしたところで、アナザーリュウガが現れる。有日菜は即座に手を引っ込めると、悲鳴をあげて駆け出した。

 

 スウォルツはようやく振り返り、妹とアナザーリュウガの背を見つめる。足を前に進めることすらしないで。

 

「……やはりお前だったか。アルピナ」

 

 思い出されるのは、かつて躊躇なく振り払った手と、絶望した顔。スウォルツは救いを求めるように割れた鏡へと視線を移したが、何も返事はなかった。

 

「あれって」

 

「またアナザーライダー……!」

 

 駆ける有日菜と追うアナザーリュウガを偶然見かけたのはオーラとウールとゴロウだった。

 

 咄嗟に物陰に隠れ、離れていく一人と一体から目を離さないようにしながら小声で話す。

 

「どど、どうしよう」

 

「私が追う。二人は常磐とゲイツを呼んできて」

 

「でも危ないんじゃ……」

 

「あんた達よりはマシよ」

 

「いや携帯で連絡すれば──」

 

 一方的に言い捨てて、ウールの正論を最後まで聞かずにオーラは走る。実際、記憶が戻っていないウールや一般人のゴロウよりも、記憶と若干の力が戻った自分の方が戦いになっても保たせられるだろうという自信があった。

 

 携帯で連絡するにしても場所を把握してなきゃ意味ないじゃん、という理屈を思い付いたのは走りながらだった。

 

 一人と一体が止まったのは中庭だった。オーラはアナザーリュウガの背中に強襲を仕掛けようとする。が、細い腕に草木の影へ引き摺り込まれた。

 

「何着いてきてんのよ」

 

「それは、その、ほっとけないというか」

 

 オーラの友人達が気にかけていた、ぐらいしかゴロウには理由が無いけれども。

 

「……何よ、それ」

 

「とにかく、連絡しましょう」

 

 有日菜とアナザーリュウガがいる方向に二人は目線を戻す。すると、距離を取って籠手を構えて黒炎を放つアナザーリュウガに、有日菜は右手をかざそうとしていた。

 

 その挙動を、オーラは知っていた。

 

「えっ──」

 

 その瞬間。意識はそのままに、身体全てが氷漬けになったかのように動かなくなる。ゴロウはその身に這う未知の脅威に怯えるままだが、オーラにとっては久々の感覚。

 

 時が止まったのだ。

 

 有日菜は、動きを止めたアナザーリュウガにゆっくりと近づいて話しかける。

 

「誰がよこしたのかわからないけど、ありがとう」

 

 襲ってきたモノに薄く微笑んで、感謝さえ述べる。あれは月読有日菜ではない、姿かたちは似ているが別のナニカだ。

 

 オーラは見過ごしてはならないものを通してしまった過ちが、自分にあることをようやく知った。目はそらせない。身体の向きどころかまぶたさえも止まっているから。

 

「あなた自身はちょっと邪魔だったけど。楽しかったよ、守られるだけのヒロインごっこ」

 

 でも飽きちゃった。冷たい目がアナザーリュウガを見据える。いや、既に見ていないのかもしれない。無表情に、有日菜は右手を構える。

 

「あなたはもう、いらない」

 

 有日菜の右手から生えた白い光剣が、アナザーリュウガの胸をアナザーウォッチごと貫く。

 

「いたの、オーラに……誰だっけ」

 

 崩れ落ちるアナザーリュウガには目もくれず、有日菜は二人の方を向く。

 

「まぁいっか。見られちゃったし──」

 

 時は既に動き出していたが、オーラもゴロウも動けない。有日菜の放つプレッシャーに圧倒されているのだ。

 

 ゆっくりと有日菜は歩きだし、アナザーウォッチを取り出した。そして、自然な動きで胸に埋め込む。拒絶反応、無し。

 

「──あなた達もいらないな」

 

〈KIVA-LA……!〉

 

 たくさんの桃色のフィルム片に包まれた有日菜が変貌したのは、かつてのアナザーキバに似た異形。しかしその体色は白く染まり、紫の血が通っている。更にその複眼は茶色にあせて破れた写真を接ぎ合わせたようになっており、むき出しだった牙はひっこんで美しい形の唇に隠れていた。

 

 新たな白き女王・アナザーキバーラの誕生である。

 

「逃げて!!」

 

 ゴロウを突き飛ばしてからオーラは衝撃波を放つ。アナザーキバーラは手を軽く払うだけでそれを霧散させた。

 

 再び衝撃波を放つ時間を与えられず、オーラは首を掴んで持ち上げられる。アナザーキバーラの背後には透き通った牙が一対浮かび、その矛先はオーラの首筋に向いていた。

 

「いただきます」

 

「だ、め……」

 

 オーラは咄嗟にアナザーキバーラの手首を掴んでそこから力を奪おうとする。だが力の差なのか奪われることはない。無力にほどけるオーラの手を見て、アナザーキバーラは舌なめずりした。

 

「だっ、誰かッ……」

 

 助けを求めるゴロウの声は恐怖で強張っている。アナザーキバーラは「来ないよ」と嘲笑い、ついに透明の牙をオーラに突き立て──

 

〈ファイヤー・ホーク!〉〈あっ、コダマぁ~ッ!ザ・ビックバン!〉

 

 ──られることはなく。二つの牙は炎をまとった機械鷹と、スイカ型エネルギー体をまとった球体に撃ち落とされた。

 

「なっ!?」

 

〈エクシードチャージ!〉

 

 更に撃ち込まれた赤のポインティングマーカーがアナザーキバーラを硬直させ、オーラをアナザーキバーラの手から放させる。ここでオーロラカーテンが複数発生し、オーラとゴロウを回収して一人の青年をアナザーキバーラの前に出現させた。

 

 少し離れた場所に吐き出された二人には、ファイズフォンXを構える青年の姿が見えた。

 

「……遅いわよ」

 

「悪い、趣味の悪いクイズ大会に巻き込まれてたもんでな」

 

 安堵を隠し切れないオーラに青年は小さく笑いかける。

 アナザーライダーのこと。オーロラカーテンのこと。オーラは聞きたいことがあったが、ひとまず飲み込んでおく。まずは有日菜じゃない有日菜をどうにかしてもらわなくては。

 

「月読。お前は俺が裁く」

 

 空色と金色のライドウォッチを構えた青年──加古川飛流は、アナザーキバーラに向かってそう堂々と宣言した。

 

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