俺は3度死にかけた。これは大袈裟とかじゃなくて本当の話だ。
「ステージ2ですね」
そんな医者の話を聞いた時は何を言ってるか分からなかった。幼稚園児くらいの時肺に癌が見つかったらしい。
俺は親の判断で訳もわからず病院に投げ込まれ、治療をした。これが1回目。
治療の時、自分以外も同じ病室で共にした仲間がいたらしいが、覚えては居ない。幼稚園だからな。でも、大人が泣いていたと言う記憶はあるので、多分何人かは助からなかったんだろう。
そして、俺は癌を乗り越えて、学校生活に身を入れる事ができた。だが、それも束の間、癌が移転して小学校、中学校と累計3度癌になった。中学の頃はステージ3だったらしく、そこそこ危なかったそうだ。
小学校、中学校になるといまだに記憶が残っている。
酸素の吸引機みたいなのをつけられて、点滴を刺されて、抗がん剤で髪が抜けた。
辛い治療の中でも、楽しかった……こう言ったらダメだと思うけど、同じ病室で共にした患者と話すのは俺の楽しみだった。
「坊主も癌なのか? こんな小さいのに、可哀想だな。俺みたいにもう生きる価値とか無ければなってもいいんだが、こんな未来を背負うガキに癌を作るとは神も落ちたものだ。いや、やっぱり俺はラーメン作りてぇ,坊主、俺が治ったらラーメン食いに来い」
そう言って俺とよく話をしてくれた男の人がいた。俺は彼以外にも老若男女色んな人と病室で話をした。
当時はよく分からない話もあったが、俺にとっては治療を頑張れるたった一つの元気であった。
だが、俺の治療が進むにつれ、一人、また一人と別の病棟に連れてかれた。
彼もその一人だった。
「……死にたく……ねぇよ……なんで、俺が……死ななきゃいけねぇんだ……」
そんな一言が俺の頭の中でループする。アレだけ元気そうだったおじさん。確か名前は……豪さんだかだっけか。
それ以外にも仲良くしてくれたおばさんや俺よりも小さい子が元気だったのに死んでいくのだ。
「……わたしね、大きくなったらアイドルになりたい!」
「それじゃあ、有名になったら会えないからサインだけもう貰おうかな」
「……サイン決めてないから、お兄さんの手に私の名前書いてあげる!」
「ありがとう……やべぇ、読めない」
そんな事を言って、俺が読めないけど一生懸命自分の名前を書いてくれていた少女も、多分亡くなったんだろう。女の子の両親がかなり泣いて、膝をついていた。中学生の俺ならこれがどんな状況か分かっていた。
だからだろうか、誰でも死ぬ可能性があると確信してしまったのは。だが、皮肉なことに、俺は生還した。してしまった。なんならしばらくしたら親父も死んでしまったので泣いている母さんを見たらもう何も言えなかった。
幼稚園、小学校、中学校と共にした奴らにはよく戻ってきたと喜ばれた。賞賛の意味だと思うが『不死鳥』だと、言われた。高校でさよならバイバイしたけど。
でも、俺にとっては全てがどうでもよかった。死んでいったであろう人達、彼らだってこれからの生活があったかもしれない。特に少女も生きてたらトップアイドルになれたかもしれない。
でも、死んでしまったら何もできない。だから、アイドルとか有名人とか関係なく人は死ぬんだ。だから俺は……
♪♪♪
「他者に興味はねぇんだ。まぁ、強いて言うなら小さい女の子が好きなのは彼女に……多分初恋してたんじゃねぇのかな? 今は違うけど」
そう、躊躇いなく言う彼がそこにいた。私は何を言えばいいのだろうか。
最初に会った時は誰か彼の身内が大勢亡くなったのかと思った。誰かに殺されたのかとも思った。
お父さんが亡くなったとは聞いた。でも、それ以上に、彼が家族と同じくらい仲が良かった人達が死んでいくのを直接ではないが見ていたのだ。
芸能人の闇とか、そんなのとは比ではない悲しみやそんな中で生きてしまったと、罪悪感があるんだと。
私は自分を恥じる。腐った眼をしていると私は言った……彼が何を見てどんな思いをしたのか分からないのに。貴方の過去を教えろ、解決できるかもしれないとも言った……解決も何も出来ない話を聞いて何ができる。
何が白鷺千聖だ、何が芸能人だ、何がある程度ならなんとか出来るだ。
どれだけ偉くても、人に死にはどうする事も出来ないのだ。
「……何しけた面してんだ白鷺」
「誰のせいよ……ごめんなさいなんて言葉じゃ足りないわ」
「俺の考えに、お前まで同意する事はねぇだろ」
「それでも、私は貴方に謝らないといけないわ。何も、出来ないから」
「まぁな、お前には何も出来ねぇよ。ただ……」
「割とお前と会ってから楽しいんだよな。死んでしまった人達には申し訳無いけど。なんか、こうやって人と話てるお陰で、生を実感してんだ」
「だからよ、あの時は気まぐれかもしれないけど、俺に話しかけてくれてありがとう。千聖」
そう言った彼の眼はなぜか少しばかり濁りの薄い眼をしていた。彼の見た事ない優しい笑みにあっけに取られた私に彼は言葉を続ける。
「だから、アレだ……俺より先に死なないでくれ」
「……っ、ええ」
その言葉に、少しばかり私の顔が赤くなったのは、彼の笑顔に心が少し奪われただけだ。