「はいこれ、あげるわ」
「どうした黒鷺、紙切れなんざ渡してきて」
「白鷺よ。腹黒の意味で言ったからお仕置きが必要ね」
「んで、このチケットは何だよ?」
「パスパレのライブチケットよ今度ライブあるから来てちょうだい」
「強引だな」
「来ないと刺すわよ」
「逃げ場がねぇ」
やれやれ、強引なお姫様だ。儚いな。
「今から死んでくれるかしら?」
「ちょいまて!? 何でそうなる!」
「私の幼馴染と同じ事言うからよ」
「このセリフ素で言うってどんな幼馴染だよ!」
「一度羽丘の王子様よ」
「男かよ」
「女よ」
「嘘だろ!?」
「残念な事にね」
そんな女いるんだなと、感嘆していたら
「白鷺よ。それで、来るの? 来ないの?」
「予定ねぇから行くわ」
「そう、良かったわ。来ないって言ったらチケットごと貴方を燃やそうとしたもの」
「怖」
「それじゃね、ことのは」
「……おう」
急に名前で呼ばれた事に驚きながらも俺はライブの日まで時を過ごした。
♪♪♪
ライブ当日はやはりパスパレだからだろうか。人だらけでどこ座ったらいいか分からんかった。チケットに書いてる席番号とか当てにならないくらい人でごった返してるせいで椅子ひとつ見つけられもしない。
どこだと探してようやく辿り着いた席の隣は『彩ちゃんハァハァ』というTシャツを身につけたそこそこデブなオタク。関わらないようにしようとすると、
「……ライブは初めてですかな?」
「……ええ、まぁ、運良く当たったもので」
「そうですか、本当はコールとかがありますけど、初ライブの人は楽しみながら覚えていけばいいですぞ。私は気にしませんから、どうぞくつろいで下さい」
……前言撤回、めっちゃいい人だった。因みに左の席の人は
「ライブ始まったら起こしてくれ」
何だこいつ。とりあえず、ライブが始まる時間まで待って、彼を起こしてからライブはスタート。
「皆さんこんにちは! まんまるお山にウルトラソウルPastel*Palettesふわふわピンク担当の丸山彩です!」
「あいつマジで言いやがった」
「ベースの白鷺千聖です。本日は皆さんが楽しめるように精一杯頑張ります!」
「流石、化けの皮は一流だなオレオレ詐欺さん」
「白鷺です……って、私は何を言ってるのかしら」
そんな自己紹介を終えてから演奏が始まる。初めてのライブだが、ここまでの盛り上がりや技術は流石アイドルバンドというべきか。
「彩ちゃぁぁぁぁぁん!!」
「千聖さぁぁぁぁぁぁん!!」
「両席がうるせぇ」
寝てたお前なんなの? キャラ違くね? でも、
「ここまで心が踊るのは治療終わって以来かもな」
そう言いながら、俺はライブを楽しむ事にしたのだった。
♪♪♪
時は変わってカフェテリア。俺は珈琲を飲んで今日のパスパレのライブを頭で考えていたのだが……
「いやー! 盛り上がったねー!」
「お客さん、いっぱいいたから緊張しちゃった」
「今日も一網打尽なライブが出来たでしょうか?」
「イヴさん、なんかそれは違うっスよ」
「……何で俺の席にパスパレのみんながいるんだよ」
「あら、不満かしら? アイドルが貴方の元に集まるとか、一般人には夢のような話でしょう?」
「千代の里までいんのかよ」
「千聖よ。しかも千代の富士だしね。というか自己紹介ではよくも突っ込ませてくれたわね」
「俺何もしてないけど」
「心の声が聞こえたわ」
「エスパーですか?」
「貴方が分かりやすいのよ」
「眼が濁ってるのに分かるのか?」
「どうせくだらないこと考えてるって事くらい分かるわ」
「うわ酷くね?」
「アハハハハ!! もう、二人ともやめて! お、お腹痛い! ハハハハ!」
「日菜ちゃんがお腹抱えて笑ってる。こんなの見たことないよ」
「まさにホーフクゼットですね!」
「抱腹絶倒だな。えーとキーボードの
「違います、私は
「面倒だからイヴな。にしても白髪って珍しい」
「イヴちゃんはフィンランドのハーフなのよ」
「成る程。珍しい髪色なわけだ。んで、そこの
「それ中の人っスよ!? ジブンはドラムの
「おい稀勢の里何言いやがった?」
「千聖よ。やっと間違えないで力士言えたわね。強いて言うなら私を弄れる人間かしらね」
「弄ってねぇよこざとへん」
「もう考える気ないでしょう?」
「……コヒュー……コヒュー」
「日菜ちゃんが死にかけてる!?」
「なんなんだこのアイドルバンド蓋開けたらポンコツばっかじゃねーか。あ、彩だけ元からポンコツだったわ」
「なんでさ!?」
「俺の目の前で転んでプリントぶっかけたお前には言われたくねぇな」
「うっ……確かに」
「……コヒュー……」
「日菜さんはスルーですか!?」
「そこのぶっ倒れてる天災は俺と千聖の前から
「……かっはぁ!」
「日菜さぁぁぁぁぁん!!」
「めんどくせぇ」
何がアイドルバンドだ芸人じゃねぇか。いや、人間か。そんな事を考えてたら千聖が俺に言う。
「……私達のライブ、どうだったかしら?」
「……良かったんじゃねぇの。少なくとも俺にはお前らが生き生きしてたぜ」
「そう、でも、それを見て少しだけ貴方の眼の濁りが薄まったのは気のせいかしら?」
「……分からん。でも、俺は
「……っ、本当貴方って分からない人ね。あと、白鷺よ」
「お前らから見た俺は死んでんだろうな……でも、少なからず少しずつ死んだ人達の分まで生きてみるかって、そう思ったのはお前と出会ってからだよ」
「それじゃあ約束してあげるわ。私が貴方の眼を掃除してあげる。綺麗にして、清らかにしてあげるわ」
「ザリガニとか流すなよ」
「汚れるじゃない。私が流すのはニジマスよ」
そう作っていない笑顔で言う彼女に、俺の眼を預けてもいいと思ってしまったのは、胸に秘めておこう。
「……彩さん、あの二人って」
「まだ付き合ってないよ」
「……えぇ……」