芸能人と一般人   作:初見さん

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芸能人と芸能人

「いってらっしゃい、ことのは。今日は何が食べたい?」

 

 そう聞いてくるのは俺の実の母親、桂世界(かつらせかい)である。親父を亡くしてから前の仕事を(テレビ関係とか言ってたけどあんま分からない)辞めて俺を育てながら別の仕事(事務系)で食い繋いでくれていた。前の仕事の方が楽しかったんじゃないかと言った事があるが、彼女は

 

『貴方が生きてくれれば仕事を辞めるくらいどうって事ないわ』

 

 と、まるでドラマの1ページのような台詞を言ってくれたのだ。そのおかげか、癌で生還してしまったと考えた俺だが、死のうとは思わなかった理由の一つでもある。

 

「行ってくる。そうだな、もやしとほうれん草のおひたしが食べたい」

「そんな安物でいいの?」

「普通に好きだしな。しかも、親父も死んで母さん一人で生計立ててるんだ。贅沢はできん」

「……ありがとう、ことのは。最近、貴方変わったね」

「俺が?」

「うん。なんか、楽しそうだよ、お友達でも出来たの?」

「あー……弄れる芸能人達が出来たかな」

「え?」

「んじゃ、行ってきます」

 

 そう言って俺は家を出た。

 

「……花咲川……芸能人……もしかして……」

 

 そう呟いた世界は何処かへ電話をかけた。

 

 ♪♪♪ 

 

「よう、マラドーナ彩、今日のテスト大丈夫か?」

「丸山だよ! って言うか今度は私に標的向いたの!?」

「だって千聖仕事でいねぇんだもん」

「……何で千聖ちゃんだけ名前で弄るの?」

「あれだよ。初対面で名前間違ったんだけどさ、あまりにもあいつがツッコミ綺麗だからはまっちまったんだ」

「……成る程、好きとかはないの?」

「いや、好きだぞ? 俺は千聖が大好きだ。だから弄るんだ! 超楽しいぜ!」

「あ、恋愛的な話じゃないんだ。しかもいつものことのは君と違うくらいにしかテンション高いね」

「アイドルと一般人の恋愛ってアニメとかじゃないと成立しなくね?」

「うちの事務所恋愛OKだよ? 死にたいならだけど」

「……地獄絵図じゃん」

「とにかく千聖ちゃんの事気に入ってるんだね」

「俺に話しかける奴もいなければ俺にツッコミ入れる奴もいないからな。流石芸能人ってやつだ」

「芸能人関係無いよ」

「それよりテストは?」

「……不安かも」

「教えてやろう、俺に感謝しろ……ゲホッ、咳出たごめん」

「何で上からなの!? ってか大丈夫?」

「大丈夫たまたまだ。後、最近暇つぶしに誰か困ってるやつに勉強教えるゲームしたいだけだから」

「何そのそこそこ悪意ある遊び! ……まぁ、分からないのは事実だから、この数学教えて貰おうかな」

「数学は赤点ギリギリだから無理ですね」

「さっきの言葉取り消してよ!」

「冗談だ。数学は苦手だけど赤点ほどじゃねぇからな」

 

 そう言って、ことのははメモ用紙に絵と図と言葉を書く。

 

「……ってことでこことここは同じなんだ。証明完了」

「……え? めっちゃ分かりやすいんだけど? ことのは君勉強出来るの?」

「教えるのは得意だ。中学の時入院中に小さい子とかに勉強教えてたから」

「……まぁ、その中の1人2人亡くなったけどな……」

 

 声のトーンが下がったことのは。地雷を踏んだ彩は慌てて答える。

 

「……ことのは君……だ、大丈夫だよ! 千聖ちゃんが私の事信用出来るからって言って、私に教えてくれたけど、わ、私や千聖ちゃんがことのは君のそばにいるから! そりゃ、人間だから死んじゃうかもしれないけど、それでもことのは君より長生きするよ! だからことのは君は安心して私たちより先に……あ、間違った!」

 

 丸藤彩最低の失言である。「丸山だよ!」

 だが、ことのはは苦笑して言う。

 

「おっと急にふわふわさんから暴言が飛び出したぞ? 私たちより先に死ねってか……まぁその方がアレだよな俺は悲しまないな」

「ご、ごめんなさい! そう言う意味じゃなくて……え、ええと!?」

「焦るなよ彩。別に本心じゃねぇのも本当に言いたいこともわかるから。安心しろってことだろ? 全く。急に知り合ったやつがアイドルで、俺の過去を知られた挙句諭されるなんざ、今期アニメでもそんな展開ねぇよ」

「……ごめんね」

「いいや、ありがとう、彩。千聖にも、なんならパスパレのみんなにも礼をいわねぇとな」

 

 そう言ってことのはは少し笑顔になり、彩に勉強を教えるのだった。

 

(もしかして日菜ちゃんが言ってたのはコレなのかな?)

(こー君は天才だよ。身体もそうだけど、やっぱり何か天才なのはあたしに似てる。多分隠してるか気づいてないかどっちかだねー)

(……教えるのが上手いのも才能の一つだよね)

「だから答えは毛利○五郎だ」

「なんで言うねん!?」

「どうした松島」

「丸山だよ!」

 

 天才……なのかな? 少なくとも言葉選びは上手いよね。後、千聖ちゃんの話する時楽しそう。

 

 ♪♪♪ 

 

「全く、今日は撮影が長引いてしまったわ。遅くなったし、早く帰らないと……」

「こんにちは、白鷺さん」

「……貴方は……?」

 

 とある事務所内で撮影を終えた千聖はある人物と出会った。黒髪のロングストレートヘアーに、どこかで見たことのある優しい眼……どこだったか? 千聖は分かっていなかった。

 

「ここは一般人のいる場所では無いですけど?」

「……伊藤世界って知ってる? これでも有名なんですよ。白鷺千聖さん」

「……伊藤世界……貴方もしかしてあの女優の!?」

 

 聞いた事はある。伊藤世界はテレビ界では知らない人はいない名俳優で、かなり前に電撃引退をした女優である。原因は子供の病気とか、旦那さんの葬儀とかで引退したとは聞いていたが……

 

「まぁ、今は桂……自分の苗字にしてるけどね」

「桂……聞いた事があるわね……」

 

 ふと、彼こと桂ことのはの顔が浮かぶ。濁った眼をした彼に似ているのだ。眼の色ではなく、眼の形とか、美形な所とか、ことのはに似ていた。

 

「……花咲川の芸能人なんてことのはが言うからもう貴方か丸山彩さんしかいないのよ。若宮イヴさんは……多分あの子とはあまり話さないと思うから」

「彩ちゃんも弄られてますけど……ってことのは? ……まさか貴方ことのはの……」

「ええ、私はことのはの母です。桂世界って今は名乗ってるの。子供の頃の病気は……癌は多分ことのはから聞いてると思うけど」

「……はい、聞いてます」

「旦那の件は……まぁ、それも多分ことのはが言ってると思うわ。旦那が死んでから私は旧姓を名乗る事にしたの。ことのはって仲良くなりずらいけど、一度仲良くなったら自分の事いっぱい話すから」

「……お世話になってます。白鷺千聖です。まさか貴方が……ことのはの母が、あの伊藤世界さんだとは思いませんでした」

 

 そう言って頭を下げる千聖に、世界はクスリと笑う。

 

「別に取り繕わなくてもいいわよ。謝る必要も、身構えるのも無し。今日は昔の事務所に無理言って私が貴方にお礼を言いに来たのよ」

「私に?」

「ええ、ことのはと仲良くしてくれてありがとうってね」

「それだけで?」

「私にとっては大切なのよ。あの子は癌になって生きてたけど、いろんな人が別の病棟に移されるのを見てる。まぁ、簡単に言うと亡くなってしまったとか、危篤状態でって理由なんだけどね。そのせいで人は死んでしまうって理解してしまって、あの子が癌を治したときにはもう、人を脆いものだと、すぐに亡くしてしまうものだと強く思い込んでしまってるの」

「だからね。あの子は誰とも仲良くならずに高校生まで成長していた。きっと私の事もなんとも思ってないと思うわ。だから私も実は芸能人だったって事を伝えてないから。彼は、人はいつか死ぬ脆いものだからみんな同じだと、だからこそ、大切だと思いたくないって。思ってしまったら、無くしてしまうから」

 

 そして彼女は笑いながら千聖に言う。

 

「でも、貴方と出会ってことのはは前みたいに明るくなった。完全ではなくても、少しずつ昔のあの子に戻ってる。話を聞いたら花咲川の芸能人を弄ってるからなんて答えが飛んできたけどね。若宮イヴさんは弄れる人ではないから同じ高校なら彩さんか千聖さんのどちらかだと思ったのよ。まぁ、まさか千聖さんだとは本気で思わなかったけど」

「私は彼に謝りたいんです……ことのはは、彼は、不思議な人なんですよ。芸能人の私や彩ちゃんを見ても、演技とかじゃなくただ純粋にひとりの人間って思って接してくれてるんです。確かにそれは彼が悲しい思いをしたからです。でも、私は最悪なことに、それを利用してるだけなんです」

「……どう言う事?」

「彼の性格を利用して、彼といれば安全だなんて思っていた。でも、彼がそんなに苦しい思いをしていたなんて、知らなかった……だから」

「……申し訳ない気持ちなら私も貴方に負けてないわ」

「……え?」

「彼を癌にしたのは私が彼を産んだから。仮に否定されても私はそう思うのよ。彼がこの性格になったのは癌で病院に行ったから。それを繋げてしまえば、私のせいになるの」

「そんなの……」

「私のせいじゃない、仕方ない、そう言われても私自身がそう思い込んでしまったら止められないのよ。貴方もそう、彼の気持ちを踏み躙ってって思ってしまえば後は自己嫌悪なの。だから……」

 

 そう言って世界は千聖の頭に手を置いた。

 

「私が貴方を否定するわ。貴方はことのはの心の命の恩人よ。ことのはと仲良くなってくれてありがとう」

「……なん……で」

 

 千聖は、泣いた。子役から芸能人になり、人の闇を知り尽くし、上部だけの演技が出来る白鷺千聖が本気で涙した。

 それくらい、千聖の中には彼に対しての気持ちがあったのだ。

 

「私はことのはを救えなかった。でも、貴方は救ってくれた。だから、ありがとう。どんなキッカケでもあの子が変わっている事が一番私にとって最高なのよ」

「……こと……のは……ごめん、なさい……」

「謝るならもっとことのはに構ってあげて。あの子どうせ千聖さんくらいにしかもう懐かないから」

「……それなら、私も、否定します……」

「え?」

「貴方が……ことのはを癌にさせたとか……苦しめたなんていう、自己嫌悪を……私が否定します……ことのはと出会わせてくれて、ありがとうございました……!」

「……全く、流石天才子役ね……ここまで芯が強いなんて、思わなかったわ……」

「……世界さん。私は……彼が……好きです」

「名前弄ってくるけど……眼が濁ってるけど……私達が悲しまないように自分を傷つけて……でも、私を一人の女の子として優しく見てくれる……そんな彼が……私は好きです」

「……千聖ちゃん……大丈夫よ。彼は貴方といれば、きっと幸せになれるわ」

 

 そう千聖に言いながら、世界は眼に水を溜めながら言葉を小さく発した。

 

「……ことのは、後で弄り倒すからね。こんなに貴方を思ってくれてる子と……ましてやあの千聖ちゃんを弄ってるんだから」

 

 その言葉はもちろん千聖にも届いてない。




桂ことのは、桂世界、伊藤世界……うっ、頭が。
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