「え? 俺の母さん女優だったの? ケホッ」
千聖と世界の件から翌日。ことのはは千聖から世界が芸能人であることを聞いた。
「寧ろ知らなかったことに驚きだけど」
「いや、俺が癌になってから辞めたならそりゃ分からんわ。ゴホッ……母さんも自分語りあんましないし。んで、昨日ミサトの収録現場だか事務所だかに行ってたんだな」
「千聖よ。まさか貴方に内緒だったなんてね」
その千聖の発言に少し考えてことのはは言った。
「……多分俺のせいなんだろうな。俺が人に興味を無くしてるからよ、芸能人って言っても反応無いからって言わなかったんだと思うぞ」
「……成る程ね。でも、かなり有名なのよ」
「TV売ったからしらねぇよ。全く、俺を優先してくれたのはありがたいけど、女優辞めてまで……いや、それ言ったらダメだな」
「女優辞めてまで俺を面倒見てくれてたんだもんな。文句なんかいえねぇや」
「……優しいのね」
「そりゃ親だからな。親父がいない分、母さんしか俺に肉親はいねぇ。親戚とかいたんだろうが病気とかでいなくなったんだとよ」
「……貴方含めて、病気と縁が出てしまうのね」
「でも、俺が今生きているんだよな。死んだ人の屍を越えるって訳なのか分からんけど、とにかく俺は生きてる。たまに申し訳なく思うが、それを言ったら今こうして仲良くしてくれる千歌にもあやねるにも顔向けできん」
「千聖よ。しかも彩ちゃんすら弄り出したわね。……ええ、もし貴方が自分を否定するなら全力でビンタして、顔腫れてもやめてあげないわ。それくらい、私の中では、ことのはが大事な人になっているから」
「それは演技か? ゴホッ……咳ウゼェ」
「……どうでしょうね」
そう言って千聖は笑う。
「でも、前より考えが前向きになってきたんじゃない? 前は生きてていいのかみたいな感じだったのに、今はみんなの分も生きるなんて言葉が出てくるんだから。しかも、あなたから私に声をかけてきてくれる。その時点で、全く人間に興味がないわけも無くなってるんじゃない?」
「……確かにな。それも千聖のおかげか」
「千聖よ……あ、合ってるわ。所々正解言うのやめてよ。突っ込めないわ」
「それは弄り倒していいって許可得てることになるけどいいのか?」
「ええ、私も楽しいもの貴方といるの」
「……そうか」
「そうよ。そういえば貴方今日声変ね? どうしたの?」
「少し前から喉痛くてな。風邪というか喉だけ痛い……ケホッ、ゴホッ」
「あら、お大事に」
「言われなくても。にしても今日は特段ひどいな。なんか喉も腫れてる気がする。とりあえず薬でも飲んでおくか」
「事務所から貰った媚薬あるけど飲む?」
「なんでもん飲ませようとしてんだ」
「フフッ、冗談よ。でも、変態の貴方ならこういうの好きでしょ?」
「小さい女の子と付き合いてぇな」
「150センチよ」
「は?」
「私、150センチくらいよ。小さい女の子には該当するんじゃない?」
「……どういう事だ?」
「……鈍感ね、ズラ君」
「ズラじゃねぇ、桂だ」
「……フフッ」
「……ハハっ」
そう言って、俺と千聖は笑い合うのだった。
♪♪♪
千聖と別れて俺は家に帰ってきた。母さんはまだ仕事らしいので適当にご飯を食べることにする。
「……げっ、醤油しかねぇじゃん。食材買ってくるか……」
そう言って俺はスーパーに出かける事にした。
「ちと買いすぎたか? まぁ、調味料も無かったし別にいいか……ゲッホ! まだ治らんのかい」
そんな事を口ずさみながら俺は呑気に歩く。
「……いつからだろうな、こんな何も考えないで今を生きているのは。普段ならずっとあの病室が記憶に残るのに、今日は全然残ってねぇや。多分千聖のおかげなんだろうな」
白鷺千聖。俺が高校生で初めて出来た友達で、芸能人で、俺を救ってくれた人。考えを変えてくれて人、俺が楽しく生きられるようになったキッカケ。
気がつくとアイツの顔が浮かぶ、今度はなんて名を呼んでやろうかと、そんな事ばかり考える。
「……彩が言ってる恋ってこんな感じなのかな? まぁ、どのみち一般人の俺にはどうにも出来ないけど」
そう独りごちた瞬間
「離して!」
「……あん?」
聞いた事のある声、だけど声は震えていて、俺は嫌な予感がして、声のする方に向かった。そこにいたのは
「大人しくしろ!」
「嫌よ! 誰が貴方に……ってことのは!?」
「あ? 誰だテメェ!」
「誰だはこっちの台詞だよ。俺の級友に何しようとしてんだテメェ……ケホッ!」
刃物を持って、千聖の腕を掴む男。俺の声にビビったのか手を離した。
「動くんじゃねぇ、コイツがどうなってもいいのか?」
「……ことのは、逃げなさい。私がなんとかするから、一般人の部外者の貴方はすぐに逃げて!」
「うるせぇ!」
千聖の言葉に男が怒る。だが、俺にとっては
「しらねぇよ、どうせ俺含めてテメェら人間だろ」
「……は?」
そう言ってことのはは男に向かって全力で走る。驚いた男は千聖を押し退けて、ことのはに刃物を向ける。
「人間はいつか死ぬんだよ!」
「おい止まれ! 止ま……ひっ!」
「オラァ!」
ことのはは男の持ってる刃物を左手で押し退けて右手で首を掴み倒した。
「人質だろうが、偉い奴だろうが所詮は人間。いつか死ぬならそんなもんにビビる必要はねぇよな?」
「お、お前……人の心は……無いのか!?」
「少なくとも俺の大切な人に刃物向けるテメェには言われたくねぇよ!」
そう言った瞬間、ありえないことが起こった。
「……ぐっ!? ゴホッ!」
「「……え?」」
ことのはが急に咳き込み、大きく咳をした瞬間、赤い何かが、男にかかった。
「……血?」
「……ひぃ!!」
男はことのはの吐いた血に驚いたのか情けない声と共に失禁をしながら恐怖に怯えていた。やがて、もう一度血を吐いたことのはによって、男の視界は赤に染まり、そのまま意識を手放した。
「……なんだこりゃ、なんで血吐いてんだ俺……は……」
「ことのは!?」
気絶したことのはと男。頼れるのは白鷺千聖ただ一人と、男の持っていた