「ステージ4ですね。リンパにも癌の転移が見つかりました」
そう言った医者の言葉を私は信じていない。いや、信じられない。
確かに咳は酷かったが、血を吐いたのは今日初めて。ことのはが隠す? いや、本人も驚いていた。
だからこそ、信じられない。ことのはの癌が再発し、転移してるなんて。
事務所でパスパレのみんなにも言ったが、一番私に寄り添ってくれてたのは同じ学校の彩ちゃんであった。
「……千聖ちゃん。大丈夫?」
「これが大丈夫なら……良いわね」
「……だよね。なんでことのは君ばかりなんだろう」
「知らないわよ」
「……え?」
「知らないわよ。そんなの、私も、彩ちゃんも今はいないけど、パスパレのみんなもそう思ってる。どうしてことのはだけが癌になるのか、ならないといけないのか。言ってしまうけど、私を襲おうとしたあの男に全部ことのはの癌を丸投げしてやりたいわ」
淡々と言いながらも感情が篭ってる千聖の言葉に、彩は何も言えなかった。
♪♪♪
抗がん剤治療はことのはには慣れっこである。苦しくても、ギリギリなんとかなっているのだろう。
意識が覚醒して、そのまま抗がん剤を投与することにした。
「迷惑かけたな
「私と彩ちゃんを合体しないで頂戴」
「相変わらずなんだねことのは君は」
「こー君……大丈夫?」
「これが大丈夫に見えたら俺はこのまま学校にいるんだろうよ……薬は相変わらず気持ち悪い、二日酔いの気分だぜ。後、また髪抜けるのは嫌だな」
「ことのはさん……ジブン達に出来ることって無いんですかね……」
「コトノハさんに向かって演奏するのはどうですか?」
「イヴ、他の患者の迷惑になるしなんならアイドルのお前らがいるだけでも軽く大変なのに一般人1人のために演奏なんてしたら角が立つぞ」
「ことのはのいう通りね。私たちにはただ祈るしか方法は無い」
「かくいう俺も神頼みだけどな。4までいったらちとどうするかって話だし。末期じゃないだけマシだがよ……うっ……」
俺の言葉に千聖がすぐゴミ袋を手渡してくれる。俺はなるべく、まぁ難しいけど、あまり視界に入らないよう心がけながら背を向けて静かに吐く。
「……恥ずかしいから見るなよ」
「気にしないわ。人間だもの」
「……お前も俺に似てきたな」
「誰のせいかしらね」
「うるせぇ
「千聖よ」
そんな冗談めかした事を千聖が続けてくれるあたり、俺の事を思いながら話してくれてるんだろうなと思う。日菜も笑いを堪えてくれてるし。酸欠とかで俺より先に死ぬなよ?
「……少し横になる。ありがとう、お見舞い来てくれて」
「ええ、今日は運良く全員OFFだから話し合って来れてよかったわ。ねぇ、ことのは」
「……なんだ?」
「……私より先に死なないで」
「っ! ……どうだかな」
「ちょっとことのは君! 「いいのよ彩ちゃん」」
俺の言葉に彩が反応するが、千聖はそれを止めた。こういうのは口約束でどうすることも出来ないのはお互い知ってるからだ。
そうして、俺とパスパレのみんなは別れた。
♪♪♪
しばらく目を閉じていたせいで視界は暗い。かなり寝てたなと目を開けると、何故か俺は暗闇に立っていた。
夢か、なんて簡単に思ってしまったがどうにもリアルな夢だ。でも、身体が苦しくないので、夢なんだろうな。
「……なぞのばしょなんだが」
少し歩くと白い光が一つ、二つ、いや、複数はある。
その一つが人の形をしだして……
「……よぉ坊主、デカくなったな」
「……貴方は……」
会ったことがある。どこで会ったか思い出せない。でもすぐに彼は言った。
「病室では世話になったな。ことのはって言ったか?」
「……豪さん?」
「ああ、お前と同じ病室で死んじまったけどな。元気……ではないんだな」
「まぁ、また癌です」
「……そうか」
彼は悲しそうな眼を俺に向けて言った。
「……ごめんな」
「え?」
「俺がお前に死にたくねぇなんて弱音を吐いたばかりによ、ガキだったお前からしたらトラウマになるなんてちょっと考えりゃわかったのに……本当にすまねぇ」
「死にたくないのは人間誰でも同じですよ。貴方も、俺も、あの少女とかだって。でも、最悪な事に、俺だけ生きてしまったんです」
「いや、お前が生きてくれて良かった」
「どうして?」
「俺みたいなおっさんよりも、若いお前が生きてくれたら将来的に救いがあるってもんよ」
「……それはあの子だって「お兄さん」……誰?」
豪さんと話をしていた時隣から何か声が聞こえた。それは髪が昔よりも長くなり大人びた、でも、俺より幼い少女。
「……覚えてますか? アイドルの話をした私のことを」
「……今日は不自然な夢だね。俺が関わって死んでいった人達が俺を道連れにする夢なんて」
「違いますよ。貴方は生きるべきです。私達の分まで、今日はそれを言いたかったんです」
「私は小さい時癌になって、助からないって言われてたらしいです。でも、馬鹿みたいに夢をお兄さんに語って、死んでしまいました。仕方ないことだったんです。だから、お兄さんとお話が出来た事が、私の中で人生一番の楽しい事だったんですよ」
「大袈裟だよ。俺だって誰かと話して現実逃避したかったんだ。お互い様だよ」
「でも、ことのは。お前は俺達のことを考えてマイナスな言葉を使わなかっただろ? 気づいてなかったかもしれないが、お前はずっと前向きな言葉で俺とこのお嬢さん達を励ましてくれたんだぜ? 俺に言った言葉覚えてるか?」
「言葉?」
「お兄さんのラーメン食べたいです。って言ったんだよ。それだけ? って思うかもしれないけど、俺はその一言でめっちゃ嬉しかったんだぜ」
「私もアイドルになったら一般人は会えなくなるからサイン貰うよって言ってくれたのは嬉しかったです。その時よく分からなかったからお兄さんの手に下手な字で読めない名前しか書けなかったけど……でも、希望が持てたんです」
「……俺はただみんなに頑張って欲しかった。生きていて欲しかった。だからマイナスな言葉を言いたくなかった」
「それがお前の才能だよ」
「才能?」
「ああ、言葉選びの天才なんじゃねぇか? 人に希望を持たせる言葉……言の葉を乗せるってそういうことなんだと思う」
「……言の葉を乗せる……」
少し考えていると別の所から声がした。
『兄ちゃん! 勉強教えてくれてありがとう!』
「……っ!? 今のは?」
「ああ、多分お前が今までに救ってくれたガキどもの言葉だろうな。お前をここに呼んでも言いたかったんだと思うぜ。かく言う俺もだけどよ」
「……豪さん」
「お兄さん、私達の分まで生きて下さい。私達はもう死んでますから現実を生きることは出来ませんけど、貴方はまだ、生きている。だから、生きて」
「お嬢さんの言う通りだ。ことのは、生きろ。俺はお前を見守ってやる。変な事したらあの世こら脱獄してまで喝入れに行ってやるよ」
そう言ってサムズアップする豪さん。あんた、もし生きてたら最高のラーメン屋出来てたと思うよ。
「……ありがとうございます。でも、俺の癌は……」
「俺達があの世に持っていってやるよ!」
「そんな事出来るんですか?」
「いや、しらねぇけどお前が生きたいって思えば可能性はあるだろ」
「そうですよ。あの白鷺千聖さんのために生きて下さい。私も、彼女のファンなんです」
「……千聖……そうだな。あいつを弄れんのは俺だけだ。生きるか」
そんな決心をしたのも束の間、白い光が俺を包み込んだ。
「……お別れだな。じゃあな坊主。また会う日までだ!」
「豪さん、ありがとうございます。それと……」
「ことのはさん。私は、すぐに死んでしまったので名前を言い忘れてましたね。字も、読みづらくてごめんなさい。私の名前は……ことり。
「……ありがとう。ことり、豪さん!」
そう言ってことのはは消えた。
「……お嬢さん、いいのか?」
「ええ、本当は渡したかったけど、彼にはもう、最高のアイドルがいますから」
そう言ったことりの手の中にはことのはが昔欲しがっていた、自分が渡せなかったサインの紙が一枚あったのだった。