「うわっ!?」
べしゃ、と潰れるように書類の束が崩れ落ちる
分を超えてあまりに重ねて束ねられたが故に重力の頸木に抗えなかった紙の群れが瓦解し
その場に白い水溜りを作った。
「あ〜……やっちゃったよ……」
ため息をつきながら紙束を再び集める青年、急いでいるのだ
文句の一つより時間が惜しい。
「えっと……よし」
集めた紙束を再び握り直して
今度こそ大切な
「アリサちゃん、入っていい?」
コンコンコン、とノックをして
為人を伝えるために声を入れる
程なくしていらえが掛かり、扉の鍵が開かれた。
「どうぞ」
黒い髪の小柄な少女が
扉を開けて青年を迎える。
――毒ヶ丘有彩《ぶすがおかありさ》 15歳
都内在住の中学3年生だったが、現在は不登校
そして、家庭教師のアルバイトをしている青年の教え子だ――
「お疲れ様、先生」
「ん、これが仕事だからね
じゃあまず、昨日の宿題を出してもらおうか」
回収した『昨日の宿題』内容は国数社英理+美家の7種類の復習
中学3年に相当する内容ではないが
彼女の思考力を以ってすれば7教科全てをまとめてでも2時間は掛からないレベルだ。
「それじゃあこっちは採点するよ
はい、今日の一時限目は社会科です」
回収した紙束と入れ替えるように、新しい紙を渡す
そちらの内容は古代の日本史だった
彼女の学校で今やっている授業と連動するようにカリキュラムを組んでいるため、彼女にとっては遅い内容だが、彼女の学校復帰のためには必須な内容でもあった。
「教科書と合わせて読めばわかる内容だから、質問はいつも通りに」
それっきり宿題の採点に取り掛かる青年、
都内でも最高峰と言われるT大学に進むため、都内最高の家庭教師となったアルバイターだ。
「先生、質問
蘇我氏派の推古天皇が対抗になるはずの厩戸王を立てるの?
女性の君主なんて国内でも珍しいし、当時は男女平等なんて概念はなかったはず
できる限り独裁体制を整えるべき」
「たしかに推古天皇は当時初の女性天皇だったけれど、聖徳太子を立てる必要はなかったよ、身内は全体的に蘇我派で固められていたから身内の裏切り以外に警戒する必要はほとんどなかった
身内の中で扱いやすくて政才ある子供を引っ張り出したらたまたま聖徳太子だったんじゃないかな
それに摂関政治による間接支配を考えたらうわぁっ!?」
地面が揺れる、爆発の音
土煙が舞って眼下が割れる
猛烈に揺れる地面に転び掛けながらも椅子から落ちそうになった有彩を支える。
「大丈夫かい?」
「ぅ、うん」
激震の後は落ち着いたが、それは台風の目のような儚い時にすぎないことは分かり切っていた。
「避難が必要だ、もしかしたら災害だけじゃなく……怪獣かもしれない」
「ギシャァァァア!」
「BURKはもう感知しているか……やっぱり怪獣だな」
視界を横切るBURKの戦闘機
曲線的なフォルムを特徴とする新型機、BURK|Crusader 略称を『ビークル』だ。
「それならBURKの逆方向に行けばいい」
有彩に逃げるべき方角を指示して
その方角から向かう避難所を算定する雄介
このご時世であるからして避難所は多いのだが、地下シェルター・高層ビル・地上階の学校等広場
怪獣によって何処に逃げればいいかが違う
まずBURK広報部による怪獣情報を拾得しなくてはならない
しかし。
「ドキュメントに該当なし?……面倒なッ!」
スマートフォン端末に表示された怪獣警報の文字列の後ろにはtype:Unknownの文字
歴代のウルトラマンや防衛隊によって倒され/放逐され/送還された怪獣たちのデータ集積ファイル、アーカイブ・ドキュメント
その中に今出現した怪獣のデータは無かったようだ、これは長い歴史に於いて複数回出現し、『定石』が知られた怪獣ではなく未知の存在であることを意味している。
「アリサちゃん、まずは一旦離れよう
地割れを起こしたと言うことは形象属性は地!つまり空気に干渉する能力を持つ確率が低いと言うことだ、ビルに逃げ込め!」
「先生は?」
「俺はこれでもライセンスホルダーだから、民間人の救助と避難誘導に行く」
たった一言、それだけを言い残して
雄介は走り出した
崩壊した街並みに向かって。
「ダェア!」
「ギシュアァッ!」
空中から突如出現した『脚』が、ガクマの背甲を蹴り飛ばす
それは突如現れた怪獣に対する、新たなるウルトラマンの登場を意味していた。
「あれは……」
「ウルトラマン!?」
カイナ達とも、かつて地球に飛来した過去の戦士達とも違うその姿
機械的なアーマーと一体化した体表装甲と
マッシブな肉体に銀赤のボディ
絞り込まれた筋肉と骨のシルエット
堅い意志を映した鋭い眼光。
「データ照合できません!完全に新しいウルトラマンです!」
その場にいたBURK隊員から無線報告が飛び、同時に司令室にいたBURK日本支部の即応部隊隊長、
「ウルトラマンを援護し怪獣を攻撃せよ!
可能であれば撃滅する!」
《了解!》
ビークル部隊の各機から紅色のレーザーが放たれるが、強化な岩盤の鎧を纏ったガクマには通じない
しかしそれは全くの無駄ではない!
「ギシュアァッ!」
「ダァァァァッ!」
装甲から火花が散り、注意が逸れたその瞬間、裂帛の大声を上げたウルトラマンによる横薙ぎの蹴りが入ってガクマを横倒しにする
爬虫類型特有の身体特徴である四肢の短さが仇となり、起き上がるのに十分な反動を作ることができなくなったガクマ
ウルトラマンは身動きの取れないガクマに対して必殺技の構えを取った
その瞬間、巨大な地割れが再び発生し
ガクマに集中していたウルトラマンの体勢を大きく崩した!
「ディアッ!?」
「ギシュオォオオッ!」
ビルが揺れ、大地が罅割れ
ゾンネルの体内核から解放される熱エネルギーによって気温が上昇していく
さらに、怪獣災害は加速する。
「二体目!?それにまた知らない奴か!」
避難誘導中であった雄介はそれほど近くにはいなかったため詳細な特徴は見えないが、少なくともキーラやネロンガなどの爬虫類型に分類される怪獣とは異なる存在であることは明白、願わくばサラマンドラのような再生能力まで持たないでいて貰いたい所だが、それにしてもとにかく。
「……暑い」
徐々にだが、二体目の登場から気温は上昇し続けている
これ以上暑くなっては救助や避難だって進みが遅れてしまう!
「急いでくれウルトラマン、二体目の方を早く!」
雄介は気温の上昇は二体目の能力によるものであると当たりをつけて叫んだ
尋常ではない聴力を持つウルトラマンならば、この距離からの声であっても十分に聞こえている筈だ。
「ジェアッ!」
横倒しになって動けない一体目よりも万全な二体目を優先的に攻撃する事にしたウルトラマンは素早く飛翔し地割れから足を抜いて
頭部から刃を撃ち放つ
数多のウルトラマンの中でも使用者の少ない物理刀剣、さらにその中から限られた数人のみが扱う念力感応型宇宙ブーメラン『スラッガー』だ。
「ギシュオォ!」
しかし
スラッガーを無視してウルトラマン本人へ溶岩弾が放たれ、直撃は回避したものの念力操作の乱れたスラッガーは不発に終わってしまう
そして落ちてきたそれはというと。
「うわぁっ!」
雄介の目の前、約2メートル
巨人の感覚で言えば指一本程度の間隔しかない場所へと着弾し、地面に深々と突き刺さったのだった。
「危ねぇ……」
しかしこれはある種、困った結果である
巨人が武器を地面から引き抜けばその瞬間、突き刺さっている部分の地面は抉られ
抜けたスラッガーに付着した土岩が落下してくる、それはもはや崖からの落石も同然であるからして、ウルトラマンは自らのスラッガーを使うために民間人を落石に晒してしまう事になる
そして極限的なお人好しであるウルトラマンにそんな選択はできない
つまり、ウルトラマンはその武器の一つを失ったも同然になってしまったのである。
「ジェアッ!」
スラッガーを諦め、格闘攻撃を挑む
しかし、背後で
格闘特化型の地底怪獣の突撃、それは岩盤すらも容易く掘削する天然のドリル。
「グウォオ!」
低い重心から足元へのタックルが入り、転倒するウルトラマンに対して二体の怪獣に容赦はない
体を構成する物質の殆どが金属や岩石で出来ている二体は、その重量を生かしての体当たりとボディ・プレスでウルトラマンを締め上げに掛かった!
「デェァァ!」
流石にこれには悲鳴をあげたウルトラマンは必死に二体を押し退けようとするが
凄まじいパワーによって攻撃を仕掛けてくる二体に対しては抗い切れないのか、次第に力が失われていく
しかし、そう思うがままにはさせない。
《特殊照明弾使用許可!》
「了解!サンライトスターシェル投下!」
司令官による指示により、BURKの戦闘機達から青白く輝く照明弾が投下される
それは化学の結晶、太陽の光と同じ波長スペクトルを出力する照明であり、地球環境において十分な光エネルギーを得られないウルトラマン達に力を注ぐための光
ウルトラマンはその光を吸収して消耗した力を取り戻すことが出来る、ウルトラマンと共に戦うための人類の努力の結晶である。
「ディエェァァア!」
ウルトラマンは再び裂帛の大声を上げ、己にぶつかってくる
爆発的な念力によって弾き上げられ
空に飛ばされた二体目に、さらに必殺技が直撃する。
巨人が両手を広げると同時に、薄紅と蒼白の二つのエネルギー弾が生成され
それらが二体目の肉体へと直撃し
その体内に二つの光が重なり合った。
重なる二つの光は鮮烈に輝き、同時に怪獣は爆発四散した
だがウルトラマンも相当量のエネルギーを消費したのかエネルギー残量を計測する装置、カラータイマーが鳴り始めた
しかし、戦いはまだ終わっていない。
「ギシュアァァアッ!」
周囲一体へと吐息を注ぎ始めた
そして、それに触れたものは、石へ。
まさにその名を冠するガーゴルゴンなど、幾らかの怪獣が使用する特殊能力
名が示す通りに対象を石化する力だ
物質を石にする能力というだけあってこの能力を破ることは困難であり、使用する怪獣によっては機械などの無生物すらも石へと転換されてしまうために防御も困難な能力であった。
霧のような吐息が拡散し、周囲の領域を石の神殿へと変質させていき
その中に突っ込みそうになって急遽旋回離脱を試みるBURKクルセイダー
しかし回避は間に合わず半分ほど石に変えられてしまい、墜落。
「デェァァッ!」
することはなく、ウルトラ念力によって確保されたクルセイダー
しかし、その代償は大きく
ウルトラマン自身はその霧の中に取り残されてしまう。
霧が晴れたそのとき、ウルトラマンは既に石像と化していた
物言わぬ大きな、そして冷たい石像へと。
「嘘だろ……やられたのか……!?」
地球に来て、初戦
圧倒的な力を見せつけるケースの多いこの状況で、敗北
それも敵の能力で石化されての完敗
なんとか退避できたらしい残り2機のクルセイダー達も攻撃は通らず近づけば石化するという状況にはお手上げのようで、無意味な旋回ばかりを繰り返していた。
咆哮を上げる怪獣と沈黙する石像
しかし、そのカラータイマーはまだ石になってはいない
赤い点滅は失っても、金剛石のように透き通るそれからはまだ、光は失われていない
それを目にした時、雄介は考えた
今すぐ出来る事はなんだ、と
答えは一つ、試みる事
ウルトラマンとの、融合を。
今後の作品展開の方針は?
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ニュージェネ系統
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昭和兄弟系統
-
ンネェクサァス(ねっとり)