ウルトラマンザイン   作:魚介(改)貧弱卿

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エピソード5 心に降る雨 1

「ねぇ、先生」

 

「ん?」

「先生って、何で体育は見てくれないの?」

 

 教え子(アリサ)の質問は普段、学習内容にまつわるそれに限られるが

今回に限ってはそうではなかった。

 

「俺は教員免許持ってないから、私塾とか家庭教師には必要ないけど

体育については他学科よりも専門的な面が大きいからね」

 

 特に体育と技術については理解と教育が別の所にあると言わざるを得ない

家庭科や芸術ならば屋敷でも教える事も出来なくはないが、体を動かす事を学ぶ体育についてはグラウンドやコートなどトレーニング施設が不可欠であるし、

競技のルール把握など運動そのもののみならず、各筋肉の使用度やその割合など、生徒の肉体的成長に責任を持たねばならない体育教師は職掌が違う、

技術科は扱う物品ごとに取り寄せたり自作したりと手間や金が掛かるため、私塾では教えることが困難である。

 

柔軟運動(ストレッチ)とか簡単な基礎運動くらいならまだしも、100メートル走とかできないでしょ?」

「家じゃ……だめかな」

 

 長いこと体育着を着ていないだろうむっちりと肉の詰まった体が揺れる

今の年齢は15歳、女としての成熟を迎えるちょうどその時期。

 

ダメかどうか(Go / No go)よりも出来るかどう(Can / Can't)かの面だよ

……さて、今日学ぶのは受動態だ

『私はピアノを弾く』の短文を英語にした時、『I play the piano』になるのは知っての通り

でも主語・be動詞・目的語の順番になるのは鉄則じゃあない

受動態というのは文の構造がまた変化する例だ

といっても大きく変わる訳じゃなく、意味の配置が変化する

She loves me(彼女は私を愛する)』が 『l'm loved by she(私は彼女から愛されている)』に変わるだけ

むしろ無理に他者表現で書いていた文を自己表現にする分、わかりやすいかもね」

 

「……」

 

 教科書の内容ほぼそのままであるが、一応の概論は既に理解しているらしいので、あまり複雑に語る必要もないだろう。

 

「『loved by she』に着目して、『by(〜から)』がこの文の鍵になる」

 

 どうにも面白くなさげな表情の有彩を宥めながら授業を進める

ただでさえ遅刻寸前まで寝かけてしまうような醜態を晒している以上、授業はスムーズに行きたいところだが、どうも今日は進みがよろしく無い。

 

「例文が良くなかったかな?」

(だろうな、この場合なら教科書通りに

a door is opened by he(彼によって扉が開かれた)』を解説したほうがいいだろう)

 

 結局有彩はその日ずっと不機嫌なままだった。

 


 

「バイト終わり!……っあ〜〜……」

 

 思いっきり背筋を伸ばして、疲労に凝り固まった体をほぐす雄介

封印中なので肉体がないザインはその動きを興味深そうに見ている。

 

(そういえば、ウルトラマンって変身していない時はどうなってるんだ?

俺の体の中にいるんだよな?)

 

(正確には、内的空間(インナースペース)に存在する、物理的にあるのではなく、概念の存在となって……ちょっと地球の概念で説明するのは難しいが、その人物の有する精神の世界……いわば小宇宙(ミクロスペース)にいるんだ)

 

 バイクで家に帰りながらザインに尋ねた内容は、ウルトラマンの実態についてだ。

 

(……)

(理解できていない反応だな、まぁ物理に対して精神科学があまり進んでいない地球の文明では仕方ないが

いや地球の物理化学の発展は凄まじいぞ、特に爆発物に於いては宇宙でもキル星人やペダン星人と並ぶ技術レベルⅦだ、光の国をも上回っているんだぞ)

 

(精神科学は?)

(正直に言えば技術レベルⅠだ、文明監視員も困惑するくらい不均衡、まさに未熟という他ない

今まで例のないくらいに偏った進歩をしている、どうしてこんな事になったんだ?

正直何かの関与を受けて急速に、かつ不均衡な成長を強いられたようにも思える)

 

 光の国、および銀河連盟の基準において、技術発展は

物理・エネルギー・精神・空間の4つの基礎分類とそれらに属さない特殊科学が存在し

それぞれにⅠ〜Xのレベルが設けられている

通常それぞれはほぼ均等に成長するのだが、地球は物理Ⅶ・エネルギーⅡ・精神Ⅰ・空間Ⅲと物理のみが飛び抜けて成長している特殊なモデルなのだ。

 

(精神科学が発展していないから念力や予知と言った精神的技術の概念への理解が進んでいない

エネルギー技術が未熟だから他の分野の発展の基礎が足りず、空間技術は……一部の突出した才人に頼りきりだが、一応極短距離テレポートの理論実証が始まったレベルだ

別星系の技術も取り入れてこれ、というのがまた悲しみを覚えるレベルで進んでいない)

 

「随分言うなぁ……」

 

 地球文明の一因として若干ヘコんだが、雄介は家に帰り着いた。

 

(いや悪い、傷つけるつもりはなかった

だが地球が本来理想的な成長モデルとはかけ離れた歪な成長を遂げているのは事実なんだ、それは理解してくれ)

(わかったよ)

 

 思考を切り替えて今日の夕食の方に頭を巡らせ始めた雄介は、しかし異常な気配を感知した。

 


 

 もう陽も落ちて、暗くなった公園で、砂場に掛かるブランコの影

 

キエテ・カレカレータ(私は・満足している)……なんてね」

 

 その中から現れて、軽く笑った女は少年へと語りかける。

 

「ねぇ、何で泣いてるの?

お話を聞かせて?」

「……ん、おねえちゃんが……おねえちゃんがね、ぼくの絵を捨てちゃったの

あさってのコンクールにだすのに!」

 

 泣き噦る少年と視線を合わせた女は嗤う

この闇は薄いが、その分激しい。

 

「そっかぁ、じゃあお姉ちゃんが悪いね、君の絵を捨てちゃったお姉ちゃんが

そんなお姉ちゃん、捨てちゃおう

思いっきりに叩いて、今度はぼくが捨てちゃおう、さぁ、怒りと憎しみを解き放って

ウルトラウム シンクロナイズ。」

 

 彼女の声と共に暗雲が生まれ

虹色の干渉紋が溢れ、激情が倫理の軛を超えて現実のレイヤーを上書きし幻想が世界の条理を傷つける

そして現れた理不尽の形は。

 

「ホー……微妙かな」

 

 煽りが足りなかったのか、憎悪や怒りの(ヘート)ではなく強い悲しみが核となった水属性(ソロー)

それも凍結や石化を持たない虚愁の怪獣ホー

勢いこそ激しいが大した力はない

これではあの光を討つほどの力は期待できないだろう。

 

「じゃあね、お姉ちゃんと仲良く……ね」

 

精神力の全てを怪獣に捧げさせられた少年が倒れ込むなか、女は笑顔でその場を後にした。

今後の作品展開の方針は?

  • ニュージェネ系統
  • 昭和兄弟系統
  • ンネェクサァス(ねっとり)

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