「椎名、ちょっと待って」
「どうした?昼飯買いに行くんだが」
「小鳥と一緒にお弁当作ってたら作りすぎたの、分けてあげるわ」
実に都合のいい話だ、雄介に断る理由はない
完全に足を止めた雄介に、明が更に言葉をかける。
「椎名ってBURK隊員だったよね?」
「いや正確には
小鳥は雄介の幼馴染であり、小学校時代からの親友でもあるが明は違う
高校の折に彼女の仲介で初めて出会ってからの関係だ
彼女がいなくなってからは自然に疎遠になりかけていたが、小鳥が両者を引き合わせ、全員が同じ大学に進学したことで関係は維持されている。
「じゃあ残念……ま、いいや
最近また出てきた怪獣がどこの出なのかとか、聞きたかったんだけど」
薄茶色の瞳をこちらに向ける明。
「今度の秋、お盆にさ
みんなで一緒に、お墓参りに行こう」
『誰の』とは言わない
この二人の間にいた人間など、一人しかいないからだ。
「……わかった」
雄介達が分かれてから1時間程後、昼下がりの商店街
喧騒はそこにあった。
「だから!お前がチャリ倒したんだろ!お前が!」
「風に文句言ってくださいよそんなの!スタンドロック掛けてても倒れるレベルの突風なんて知ったことじゃない!」
コンビニの前で言い合う筋肉質な大男と中学生くらいの少年、
少年の自転車が買い物中に風で倒れ、車に傷がついたから弁償しろと言われているのだ。
「だいたいあなたが僕のチャリの前に車止めるのが悪いんじゃないですか!
『かもしれない』は運転の基本なんでしょう?空いてる駐車場に停めるのは良いにしてもそれで文句言われたらこっちが堪らないんですよ!」
「お前がちゃんと距離開けてねぇのが悪いんだろうがボケ!もういい警察に連絡するからな被害届け出してやるせいぜい退学しろバカ」
「僕は社会人だし退学もクソもないが」
「うるさいなぁもう」
肉饅を手にした女は面倒臭そうな顔でその二人の横を通り過ぎ、そのまま立ち去る
臭い血染めの肉饅なんて食べたくはない
だが、男は怒りが収まらないのか口論の勢いを強め、そのまま拳を振り上げる。
そして。
「暴力は良くないよ、ねぇ」
めきり、という音と共に
男の拳が砕けた
花が咲くように皮膚が裂け、芳香と蜜の代わりに骨と血を撒き散らす。
「怖い?怖いよね
でもお前が悪いんだよ、自分が振るおうとした力の責任を思い知れ」
黒いオーラが放たれ、
触発された精神波を増幅し、解放する
男を支配する恐怖が世界とシンクロし、それを求める怪獣が出現した
「ゴァアアアッ!」
竜巻怪獣シーゴラス 東京湾沖より出現
怪獣出現に驚きながらも警報や推奨される避難場所へと意識を巡らせる者達
慌ただしく出撃するクルセイダー
しかし今回は様子が違った。
クルセイダーズの機体達はいつも通りなのだが、そのパイロットは
丈治、轍、竜弥のいつもの三野郎組ではなかったのだ。
「…………」
略称してバタフライ、日本の持つ最新鋭量子コンピュータ『恒河沙』と直結した最強の戦闘知性体である。
「しっかし、あんなのに任せて良いんですか本当に!」
「今回ばかりは上からのご指示だ
……私だってあんなのが信頼できるとは思えん、機械に頼って戦うのは効率的かもしれないが、人間性を損なう」
揃って渋面を突き合わせる男たち
そう、人類が頭を捻り心血を注いで作り上げるような大兵器、最新鋭武装
怪獣の生体能力を凌駕するような武器というものは、大概においてまともに運用できないのだ
最も良い部類で自爆特攻を前提とした使い捨てだったり、使用後に壊れてしまうような使い捨てだったり、悪い部類では暴走したり乗っ取られたりでかえって迷惑になる事も多い
かつての『プロトマケットゼットン暴走事件』や『ウルトロイドゼロ乗っ取り事件』は防衛チーム内では有名な話だ。
「……私にどうすることもできん以上、現場に期待する他あるまい」
その一言はどこまでも重い。
「無人機なのか?」
(そのようだな、コックピットにもプローブだけが設置されている)
シーゴラスの起こす竜巻が上空を掻き回して気流を荒らすが、まともな航空機では飛行困難なその気流変化すらも予測した量子コンピュータの演算速度が上回り
人間の限界を顧みない超機動で回避していく
非生物である機械にしかできない無茶苦茶な回避運動だ。
(さすが、ただのブリキの案山子ではないようだ)
無人戦闘機達へ賞賛を送りながら構え直すザイン、そして、水底から姿を現したシーゴラスへと拳を叩き込む。
「デァァァッ!」
しかし、その頭部はかの合体怪獣の王、
(いってぇ!?!)
(こいつ、硬い!)
殴った拳の方が痛むような鱗を持つ頭を派手に殴りつけたことで右手を痛めながらも再びファイティングポーズをとり、今度はレスリングよろしく掴み技を仕掛け、
掴んだ両手をぐいぐいと左右に捩って体重を動かし、体勢を崩したところを引き切り背負い投げ、揺れる水面に叩きつける!
「ギュァァアアッ!」
波濤で砕けたコンクリートの粉末が混じり攪拌されたことで疑似的なダイラタンシー流体となった海面に衝撃を与え、コンクリートの壁以上の硬度を発揮した水面はシーゴラス自身の体重に比例する運動エネルギーを弾き返した!
これには流石のシーゴラスも鱗による防御はできず、全身を打ちつけられる痛みを悲鳴を上げた。
「案外飛べるみたいですね、蝶々なんて名前のわりに」
「……認めん……」
「いや我々でもあんな無茶苦茶な風の中じゃまともに飛べませんって」
紛糾する会議室は静寂を極める現場の様相とは裏腹に過熱していく。
急遽搭載されたビデオカメラに映った画像が中央モニターに出されているが、その映像はひどい物だ
嵐の影響で地場が荒れ、電波接続も状態が悪いのか画像はひどくブレている
それでも嵐に振り回されて飛来する看板の破片やら電灯だったと思しきガラス片やらといった危険な破砕物も回避できているあたり、流石は最新鋭機といったところか
注目する面々達の前で、翼下から放たれた紅い重粒子ビームがシーゴラスの目に直撃した。
「で、どーするんですか?これ」
BURK公海支部、第8オーシャンベース
深海2000mを航行する巨大な潜水艦である
海底に建物としての基地があったり各海域ごとに拠点があったりするのだが
BURK基地として正式登録されているのはこの巨大潜水艦なのだ。
「まさか海中にまであの嵐の影響が及ぶとは思わなかったわね」
オーシャンベースの怪獣対策チーム隊長、岬がぼやく通り、
シーゴラスの起こした嵐は凄まじい勢いで空気のみならず海の底板までひっくり返すような大波を作ってしまったのだ、これでは当分視界も効かず、沈没はせずとも帰還することすらできない。
「砂に埋もれちゃう前に離脱するわよ、アルバコアに連絡は?」「ダメです!海底ビーコンの通信網もやられています」
「……万事休す、か」
オーシャンベースの連絡子機として海を回る200m級の潜水艦、アルバコア
基地そのものを戦闘参加させることは流石に困難であるために戦力として用意されたものなのだが
現時点では行方不明の上に連絡不能
このままでは既に出撃している
「任せたわよ、メイ」
今後の作品展開の方針は?
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ニュージェネ系統
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昭和兄弟系統
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ンネェクサァス(ねっとり)