ウルトラマンザイン   作:魚介(改)貧弱卿

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エピソード9 同調と協調 1

「結局セイバーは飛ばせたにせよ役には立たなかったか……」

「役に立たないじゃなく現場に着いた時にはもう終わってたんですよまったく

間に合わなかっただけじゃないですか

そんなボロクソに言わんでください」

 

「あ、あぁすまない」

 

 ブラックエンドは雄介の変身したザインによって現場で倒されたため、結局二の足を踏まされた部隊の展開は間に合わずに周辺避難程度のことしかできていない、そもそもが怪獣対策の専門チームであるにも関わらず出遅れる失態を演じ、即応戦力でありながら行動が間に合わないというのは堪えたようで、ついついこぼれた弘原海のらしくない一言を咎めた野次を飛ばすヒラ。

 

「……で、結局どうなんですか、アレは」

「いやまだだ、まだ特定とはいえない」

 

 二人の脳裏に浮かぶのは疑わしい人物の名前

しかしまだ絞り切れてはいない

ならばまだだ、疑わしきは断じず。

それがこの国の基本原則なのだから。

 


 

 翌日の朝、雄介は朝に若干の目眩を覚えるくらいで済むレベルまで回復し

大学に課題を出しに行っていた

今日は取っている講義はないため、ここからすぐに毒ヶ丘邸まで取って返すことになる。

 

(雄介、大丈夫か?)

「いや……割と厳しい」

 

 しかし精神的な負担を受けながら肉体的なダメージのある変身を繰り返し、最近は頻発どころか毎日レベルの頻度で変身を強いられている状態

これではスタミナ切れがいつ来てもおかしくはない。

 

(もっと上手く戦わなくては……)

 

 内心に心配を強めるザインであった。

 


 

「先生まだかなぁ……」

 

「待たせたなあ!」

 

色々あったせいでやや遅刻気味になってしまったが、家庭教師業務の時間である。

 

「さて……課題は今回作れる時間がなかったのでこの場で作ります

ごめんね、最近忙しくてさ

その代わりきっちり作るから気にしなくていいよ」

 

サラサラとノートにボールペンを走らせる雄介、今回の一限は国語の文法解説がメインとなる

五段活用における

『終止』『連体』『未然』『連用』『仮定』『命令』の六段変化についてを解説しながらそれらについての質問を投げていく

 

「では、なぜ五段活用が五段と呼ぶかわかる?」

「五段活用では活用形の末尾が母音の五音全てにわたって変形するから」

正解(エサクタ)……これは流石に簡単すぎたかな」

「教科書読んでればわかるからね」

 

「終止形にして、『本を読む』はどうなる?」

「変わらずそのまま『本を読む』」

 

「なら未然形は?」

「『本を読もう』」

 

「連用形」「『本を読みたい』とか『読みながら』とかかな」

「どれも正解」

 

 

(これは為になるな、後で私にも資料をくれないか?)

(別にいいがちゃんとしたコピー用紙で作ったような資料じゃないし、手書きだから雑なものだぞ?)

(構わない、貰えるだけありがたいものだ

光の国の地球言語学分野の知識に役立ってくれる、どこの言語もネイティブから教わることこそ最大の効果を発揮するものだからな)

 

 約50年前の先人は非常に奇妙なエセ日本語を喋りまくることになった反省を活かして光の国のウルトラ学校では言語学分野にも力を入れている

ザインはその一助とするべく資料を要求したのだが、後日資料をまとめた雄介が思った以上に喜んでくれたので時間以上の価値はあったと思うのだった。

 


 

 国語社会音楽数学と各授業を終えてしばらく後、12時を過ぎた頃になって、雄介が昼食を調達するべく邸を離れようとすると、それを有彩が引き留めた。

 

「先生、今日時間なかったんでしょ、お昼食べていく?」

 

「え?……どうしようかな、また適当にビニ弁でも」「だーめ!」

 

最近雄介の食事においてインスタント食品の頻度が高いのは事実だが、健康に影響を及ぼすほどのレベルには入らない程度に抑えている

はずだったのだが、なぜか有彩は至極嬉しそうな表情で雄介の手を引く。

 

「今度は私が作ってあげる」

 

「……あぁ、ありがとう」

 

手を洗ってピンクのエプロンを掛けて、咥えたヘアゴムでポニーテールに髪を括る

エプロンの布を押し上げる豊かな胸によって見事な空白のデルタ地帯が出来上がっているのだが

その姿を眺めながら雄介は空白部分の面積を求めて目測で『底辺×高さ÷2』を計算するのみであった。

 

 


 

「雄介…いなくなんないでよ……」

 

 大学を無断で自主休講し、電灯も付けずに膝を抱えて自分の部屋に引きこもっていた小鳥に、光が差し込んだ

開かれた扉の向こうから声が掛けられる。

 

「ねぇ小鳥ちゃん、流石に鍵もかけないで居留守するのは無防備過ぎないかな?」

 

 部屋の中へと入った女が屈み込んだままの小鳥を見つめる。

 

「……んぇ?」

 

 突然かけられた声に思わず顔を上げる小鳥、そして。

 

「えっ?スイちゃん?!なんでスイちゃんがいるの?もう」「はいそこまで」

 

 混乱する小鳥へと平手を出して静止した女はにっこりと微笑むと、容赦なく小鳥をさらに混乱させる。

 

「あんまり情けないことしてるから、帰ってきちゃったよ、わたし」

 

 黒いコートと真新しい白帽子

相変わらずモノクロ調な彼女の姿を見て、小鳥はそれを指摘するよりも前に、意識を失った。

 

「ウルトラウムシンクロナイズ」

 

 力に触発された精神が解放され、その心の形に現実を書き換えるべく虹色の干渉紋が部屋中に満ちる

傷つけられた女の心が切り開かれ、血を滴らせた。

 

「いいのが出たね、やっぱり見込み通り

小鳥ちゃんありがとう

 

これでアイツも始末できる」

 

 悲しみに暮れる女の波動にシンクロしたそれは、幸福な夢だった。

今後の作品展開の方針は?

  • ニュージェネ系統
  • 昭和兄弟系統
  • ンネェクサァス(ねっとり)

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