ウルトラマンザイン   作:魚介(改)貧弱卿

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エピソード9 同調と協調 4

 

 幻の中で、くるりくるりと踊る

わたしだけの王子様

 

 愛していると、伝えられたから

わたしの隣にいてくれる

 

 ずっと昔から好きだった、ずっと前から恋してた、わたしだけの王子様。

 


 

 とある平日の昼日中、聴講を終えて帰宅中の男の元に、華が咲いた。

 

「大和大我様、貴方宛の招待状をお預かりしております」

「は?なんだそれ」

 

 角から現れた白衣姿の女に声をかけられる筋肉質な男、常で在れば大喜びなのだが、今回ばかりは突拍子もない事過ぎて流石に怪しまれる。

 

「闘心寺小鳥様からのご招待でございます、それではパーティ会場へお連れいたします」

「は?何言ってんだよ俺バイトあるんだって、もう行くからな」

「パーティ会場へお連れいたします」

 

 女の赤く柔らかな唇から湧くのは判で押したような同じ言葉、そして黄色い微細粉

瞬時に昏倒した男を見かけによらない剛力で抱え上げた女はそのまま男を連れて去っていった。

 

 


 

 

「気象レーダーより報告、空気中の重金属粒子量が増大しています、PM5.0の含有量注意域に入りました!」

「は?どうなってるん?最近は黄砂も落ち着いてるし台風も過ぎた後やろ?」

 

 間抜けな声を返したヒラに霧島が切り返す。

 

「わかりません、ですが事実です」

「とりあえず空気質調査は気象庁と環境省に任せとけ、何でもかんでも怪獣の仕業って事もなかろう」

 

 先の一件の責任を取らされて大分給料袋が薄くなってしまった弘原海だが、流石にここで行動を焦るような愚はしない

先手先手と空回れば待っているのは真綿の首輪だ。

 

「一応監視は厳にしておけ」

 


 

 

「佐城薊様、貴女に招待状が届いております」

「え?何?もしかしてナンパ?」

 

「それでは会場にお連れいたします」

 

 イケメンに声をかけられて反射的にナンパと出る頭の緩い女子大生

彼女が気絶したその直後だった。

 

「おい」

 

 その更に後ろから、もう一人の声。

 

「さっきから見てればお前、ウチの生徒に何してんだ」

 

「貴女は…」

「ウチの生徒に何してんだって聞いてんだ」

 

 互いに白い服を羽織る男女が対峙し

そしてお互いに視線を向けた。

 

「キモいクソ華野郎が、ウチの生徒に手なんざ出しやがって」

「排除する」

 

 拳を向け合う二人、咥えたままのタバコを地面に落として踏み潰す、その音が合図。

 

「宇宙拳法 妙妖拳型 天海葬送拳の煙王瑠璃」

 

「……排除する」

 

 左逆拳をスイングと同時にテレポート

空中上方から左ストレートを叩き込む

さらに落下しながら襟首を掴んで引き下ろし、そのまま背負い投げへ移行して腕の力と遠心力で投げ飛ばし、投げた先へテレポートして右後ろ回し蹴り。

 

「いきなりコナ掛けんのはノーマナーだ、女の扱いってもんがなってねぇ

義務教育からやり直しな」

 

 戦闘開始から撃破まで、この間わずか4秒。

 


 

 「重金属の鑑定結果が回ってきました!データを霧島さんに回します」

「僕?……わかりました

って、これ宇宙由来の金属じゃないですか?!」

 

「なに?」

 

 質量やら組成やらのデータを一瞥して悲鳴をあげる霧島に弘原海は視線を注いだ。

 

「これ、ソリチュラ化合銀ですよ

宇宙でも自然には生成されないバイオメタルです!」

「つまりなんなんだよ!」

 

「つまり、つまりですね、この地球にはいま存続の危機が迫ってるんです!

宇宙植物ソリチュラ、星と同化するほどの規模の能力を持った植物怪獣が地球に潜伏してる可能性が高いんです!」

 

 それを聞いて皆顔色を変える

船舶の一隻やオイルコンビナートを襲撃する怪獣程度なら週イチで来る世界でも、そうそう星を危機に晒すような怪獣など出てはこないものだ

 

「レーダーは?」

「エネルギー及び生命反応ありません」

 

「では衛星からの自動索敵」

「反応無しです、全く」

 

「時空変動帯の干渉」「ありません」

 

「じゃあ一体どこで何をしてるんだ!」

 

 弘原海とて翼を捥がれた鳥と、目を潰された盲人を行き来するのはごめんだ

だが、彼は追い詰められた時にこそ輝く現場指揮官。

 

「よし、そのナンタラ化合銀の多いエリアを洗うぞ、密度の高い場所が攻撃の起点になりえる筈だ、ロシア支部に“フリズスキャルヴ”使用許可を要請しろ

ローマから来た新型の動作テストも含めて機体を回すぞ、炮龍とケルベロスを爆装して暖機しておけ、アメリカ支部には軍事衛星と防衛衛星のカメラ映像も回してもらえ、もちろんリアルタイムでな」

 

 しかし、現状の逆境を顧みたヒラが弘原海に問い返した。

 

「今のタイミングで他国に頼るんですか?」

「確かに我々は先日無能を晒しているが、先方にだって貸しがある、それにな」

 

 一旦言葉を切った弘原海はヒラに強い視線を向けて言い切る。

 

「我々は仲間なんだ、いくら内ゲバがあってもスクラム組んで防衛線張ってる仲間に手を貸さないほど薄情じゃないさ」

 

 


 

「ここは一体どうなっているんだ!?」

 

「いらっしゃい、雄介(わたしの王子様)

 

 荒れた土地、ひび割れたアスファルト、転がるコンクリート、そこここに蔓延る植物の根

困惑する雄介の前に、女が現れる。

 

「小鳥……?」

 

「うん」

 

 白緑の豪奢なドレスを纏った小鳥の姿に一瞬正体を疑うが、どうやら本物で間違いないらしい。

 

「これでみんなずっと一緒だよ

みんならで幸せになれるね

誰も泣いたりしない、誰も悲しまない世界を作れるよ」

 

「は?」

 

 虚な目、突拍子もない発言

本物は本物でもどうやらまともな状態ではないらしい。

 

(ザイン!)(あぁ!)

 

 透視によって彼女を『観る』事で状況の正体を暴く、その瞬間、雄介は後悔した

これほどならば、見なければよかったと

彼女の体内には無数の植物繊維が入り込み、また彼女自身の体組織が流出し、足元の地面と一体化している

もはや半分以上植物と化した状態だ。

 

(植物と同化している……?)

「ぐ……おぉ……」

 

 あまりに衝撃的すぎる不自然な形をした生命を直視した事で吐き気を催しながらも必死に耐える雄介。

 

「雄介、ほら」

 

 ヒールを鳴らして歩み寄ってくる小鳥の笑顔は、既に人間のそれではない

雄介の手をそっと握る柔らかい手も、その内には無数の枝葉が入り込んでいる。

 

(離れろ雄介っ!)

 

 ザインの側から体を動かして飛び退った次の瞬間足元から触手の様な根が生え上がってくる。

 

(そいつはソリチュラ、宇宙植物だ

最大の特性は……現地生物と同化する融合能力だ!)

 

「ほう……それが例のウルトラマンか?

雄介の中にいる邪魔者(きせいちゅう)

消すか」

 

 

融合能力(フュージョン)

 

 

 ずるり、ぼとりと実が堕ちる

既に融合され、同化され、元がなんだったのかすらわからない植物もどき(デミプラント)

それらが形を成し、立ち上がり、吠える。

 

「ごめんね、雄介、ちょっとだけ我慢して

何、痛みは一瞬だとも、すぐに終わる

終わったら治してあげるからね

私の苗床になってもらおうじゃないか」

 

 枝垂れる枝が鞭となり、硬い樹皮が鎧となり、彼女自身の体を覆う

猟犬を伴った騎士の様に

さぁ、狩りが始まった。

 

 


 

「高エネルギー反応でました!場所はエリアS-2、種別は仮称トライです!」

「よし!すぐに急行するぞ、クルセイダーズ!徹はクルセイダーで乗機待機、竜弥はバオロンで現場へ回れ、丈治はケルベロスのオプション武装換装するまで待機、換装完了次第出撃しろ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 銀騎士は格闘性能は高いが広範囲に攻撃できる武器は少なく、ショックウェーブや拡散設定にしたブラスターくらいのものしかない

どちらも堅牢な樹皮の装甲を持った植物の怪獣であるソリチュラへの効果は怪しい

故に、クルセイダーを直衛として爆装した重火力機体をぶつける判断だ。

 


 

 

「ソリチュラ……!」

「もう、そんな無機質な呼び方やめてよ、私は小鳥だよ?」

 

「嘘を……吐くな……ッ!」

 

「雄介、これ以上連続で変身すれば命に関わる、ここは私一人で戦うから離れるんだ!」

 

 ザインが雄介から分離し、単独で等身大サイズのまま戦闘を開始する。

 

「デァァァッ!」

今後の作品展開の方針は?

  • ニュージェネ系統
  • 昭和兄弟系統
  • ンネェクサァス(ねっとり)

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