ウルトラマンザイン   作:魚介(改)貧弱卿

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エピソード11 変わり始める世界 1

「あーあ、ことりちゃん惜しかったのにー……嫉妬(グリーンアイズ)の怪獣の中でも相当の大当たりだったのになぁ

ゆーくんじゃなくてウルトラマンの方を狙えば良かったんだけど……ねぇ」

 

 ばきり、残った根の一本を割って咥えて、彼女は笑った。

 

「残念だけど、ここで脱落ね」

 

 空いた窓から風が吹き込み、カーテンが揺れる

風に煽られたコントローラーが床に落ちて、騒々しい音を立てる

そう、そこは小鳥の家の中。

 

「また次を探さなきゃ」

 

 心に傷を持つものを探して、女は窓から身を投げた。

 


 

「……はぁ……」

「どうかした?雄介最近元気ないけど」

 

 大学の構内で、やけに重いため息をつく雄介と、それを心配してか、後ろから声をかけてきた明

今は材料工学の講義前の準備時間、いつも教授が少し遅れることで有名な講義であるため、もう少しだけ時間に余裕がある。

 

「あぁ、明か」

 

 あれから1週間が経過した、雄介の体表に残った怪我は最新医療の賜物によってすぐになくなったものの、小鳥は未だに附属病院の治療病棟の中

雄介自身の退院後も毎日通ってはいるが、その状態が更新されたことはない。

 

「小鳥が前の怪獣被害に巻き込まれたことは知ってるか?」

「え?あぁテレビでやってたね、あの戦いから2ヶ月ぶりだっけ?重傷者出したんだよね」

 

 オーシャン所属の明も日本支部の騒ぎについては知っているが、立場上部外者の雄介に内部機密に当たるその話を詳しく語ることはできないため、あくまで噂語りに済ませるように話す。

 

「……小鳥がその重傷ってことね、そりゃ元気出ないよね」

「正確には小鳥と……俺も重傷判定だそうだ、俺は骨折と火傷で済んだが小鳥はよくわからない、未だにBURKの病棟から出ていないらしい」

 

 ソリチュラとの同化による生体組織の脱落と欠損、全身がスカスカのスポンジも同然になるような未知の損傷、どう治療するのが正しいというのかも定かではないものだ、とりあえず生命維持装置で心臓や脳を保護しつつ本人の生命力に期待する他にないというが現状であろう。

 

「待つことしかできないというのは……苦痛だ」

 


 

「先生、大丈夫かな」

 

 私が救助された時、先生はヤケドしていた

私を抱える左腕、黒く煤けた顔とは対照的に左手が真っ白になっていて、それでも先生は一度も『痛い』とは言わなかった。

 

「Ⅲ度熱傷、深部へのダメージ、表面の白化と蛋白質の熱変性……これか」

 

 お父様の書斎にあった医学関係の本、その中の火傷に関するページを漁って見つけた該当する症状、明らかに深刻なこれを見つめる。

 

「火災などによる発生の場合、煙を吸って呼吸器・気道へのダメージがある可能性もある……」

 

 指で文章をなぞりながら読むそれは、果てしない恐怖を振り起こす

先生の腕はもう、治らないかもしれないという恐怖を。

 

「重症の場合、皮膚の再生は望めない可能性が高い…こんな……こんな事になるなら……!」

 

 暗い寝室に、啜り泣きが響いた。

 


 

 一方その頃、ロシア支部の担当する北極海周辺エリアでは、異常な振動波が検知されていた。

 

「これは……一体……」

「わかりません、至高の玉座(フリズスキャルヴ)にも該当地点の異常は観測できませんでした、

通常レーダーもエネルギー反応含めた全てで規定値以内です」

 

「最近日本では怪獣がまた目覚めていると言います、我が国にも現れるかもしれません

我が国の国土面積は日本と比べるべくもないほど広いのですから、日本の何倍にも警戒しなくてはならない」

 

ロシア支部も最近フリズスキャルヴの使用権を日本に求められたばかり、ソリチュラ事件直後ということもあってBURKの全支部は殺気立っていた

それ故に、気づいた。

 

 

「時空変動確認!これは空間転移です!」

「こちらも予兆確認しました、予測座標はAT-17地区中心から半径75キロメートル、メインモニターに予測円を展開します!」

 

「周囲の避難指示を急いで、住宅街が入ってる、今ごろには人も多いはず、転移出現予測時刻は!?」

「波長揺れからすると……もう15秒とありません!」

「BURKクルセイダー各機、対夜間戦闘装備への換装は終えていて!?」

 

「もちろんです!ただ外気温低下のためビーム攻撃時には十分なプレドライブによる暖気が必要です」

「聞こえたわね、各パイロット出撃なさい!

それとユーリャさん、各支部長に報告して、最優先は日本よ」

 

 ちょうどこの時、空間転移が完遂され、浅異空間から巨大な飛行物体がワープアウトした。

 

「あれは……!?」

「出現座標はAT-24地区、予測中心地点より南東40キロ、誤差範囲内ですがズレ大きい、クルセイダー各機の飛行ルートの再設定を行います!」

「データ照合中……出ました、バルタン星人の円盤です!」

 

 空間転移を完了して、縮小化を解除したバルタンの円盤が意味ありげに回転しながら上空から降りてくる。

 

「あぁ……」

 

 あれははるか80年前、バルタン星人が最後に姿を現した時

その時から、人類は待っていた

奴等が再び現れる日を

今度こそ、確実に、人類の力で奴等を凌駕するために。

 

「ようやくか」

 

 

 

「BURKロシア支部対怪獣対策室長ナターシャ・セルゲーノヴナの権限に於いて第Ⅲ分類(アステロイドバスター)級以下全兵装の使用を許可する、各科戦闘員は演習に基づく配置で総員出撃、直ちに立体陣形を組みなさい、第三種戦闘体制発令、非戦闘員は所定ブロックへ退避、広報課は避難指示の放送を継続して、輸送科に緊急通信を打ちなさい『直ちに陸戦大隊の輸送車輛の用意を完了させよ』よ、空戦部隊と連携する陸上部隊を現場へ展開するわ」

 

「はい!」「はい!シークレットラインレベル4までを解放します、市民の避難を急いでください」「車輛科長に通信入れました!」

「通信です!海軍南部方面軍旗艦モスクワより入電あり、内容は『我ガ隊、演習ヲ中断セリ、直チニ転進スル』!」

 

 海底に目覚めしクトゥルフを放逐してからの2ヶ月間、全く現れなかった宇宙からの侵略者

BURK本来の敵に対して、歯車が回り始めた。




よりにもよって割り当てられた支部がロシアなのヤバい、あんまり有能にしたくないけど
無能では防衛できない……

今後の作品展開の方針は?

  • ニュージェネ系統
  • 昭和兄弟系統
  • ンネェクサァス(ねっとり)

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