ウルトラマンザイン   作:魚介(改)貧弱卿

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エピソード11 変わり始める世界 4

「何っ!?」

 

 咄嗟に円盤の上から跳び退いて分身、多数の影を散開させて狙いを散らしつつ被害を確認する

円盤を狙われた、それも運動エネルギー減衰の効かないビーム兵器で

300年前によく流行った戦法を完璧に使いこなしている。

 

「原始人どもも少しは勉強しているようだ……な……っ!?」

 

円盤の被害を確認しようとして、己の複眼を疑うバルタン星人

そこには何も無かった

そう、跡形もなく消し飛ばされたのだ

バンタンの技術を結集した最新の円盤、とまでは言えずとも築30年ほどの新型機であるあの円盤を。

 

「バカな……」

 

 バンタン星人エヴェト、帰還手段を喪失してしまった哀れな漂着者になることが確定した愚か者の名である。

 

 


 

「円盤は完全に消滅しました!」

「よろしいわ、皆注意しなさい、油断した時こそ命取りになる、隊列を変更、サタンビートルには戦闘機隊、恐竜戦車には爆撃機隊を当てて、戦車隊は各隊ごとに援護に当たりなさい、くれぐれも残弾数と彼我の距離には気をつけて、怪獣同士に連携を許さぬよう、バルタン星人の残存個体は居る?」

 

「……1体確認しました!回収しますか?」

「いいえ、相手は侵略行動を仕掛けてきた以上、絶対的な敵と考えるべき存在です

容赦せずに殺しなさい、ただし必要以上に嬲るな」

 

 虫の手合いはとにかく増える

単なる残像や幻影ならまだマシで、物理的に分身したりテレポート装置を持ち込んだり、その場で増殖したりと縦横無尽なのだ

だからこそ、早くトドメを刺す

絶対的に敵なのは確定している以上、不殺を心がける必要などないのだから。

 

「風龍隊は神虎ミサイルの、ストライダー隊はベルクシュナイダーの残数を報告なさい」

 

〈残数ゼロです〉〈残り2投分程度〉〈1発残っております〉〈残数ゼロです〉

 

「流石に少ないか、なら他から補えばよい……そろそろくるかしら?」

「はい、もう5分ほどかと」

 

「……戦車隊には持ち堪えてもらいますか」

 

 


 

 一方、恐竜洗車の方へ割り振られた戦車隊の現場指揮官イヴァンナは恐竜戦車のその悍ましい形状もさることながら圧倒的なフィジカルに舌を巻いていた

そもそもこいつがモスクワ川の向こうに投下されてから戦端が開かれたと言うのに、未だにこのラーメンカレーじみた均整の無いキメラサイボーグは沈んでいないのだ。

 

「怯むな!我々が沈めば国が滅ぶぞ!」

「隊長、お供いたします」

「いらん、退却しろ!ガンダ、お前も降りろ、俺だけで十分だ」「はい、いいえ隊長、至近距離砲撃のためには砲手も必要です」

 

 通信で流れてくる煩わしい声

市街地の方で隊長自ら陣頭指揮を取り陣形を形作る対サタンビートル部隊は、奴のミサイルと毒ガスに苦戦している。

 

「仕方ない……軍法会議が怖くない馬鹿だけついて来い!突貫する!」

「隊長に続けっ!奴の毒ガスを止めるんだっ!」

 

 

 

「どうだ、俺たちの棺桶は立派だろう?お前も一緒に連れて行ってやるっ!」

 

 

 

 サタンビートルの方へ向かった戦車隊の総隊長ニコライ・タイラ・カザロフは奴の吐き出す毒ガスを止めるために突撃戦法を敢行し、その角と引き換えに殉職した。

 


 

「イヴァンナ!隊長が!」

「……くっ……!」

 

 後ろから届く操舵手ミーシャの悲鳴、

途切れた通信、遠くから聞こえた爆発音

もう何が起こったかは明らかだった。

 

「タイラが殉職した以上、私が最高階級だ、指揮権は私が引き継ぐ!」

 

 凍水の仮面を被って、非情な女を演じる

いつもの事だ、その筈だった。

 

〈イヴァンナ隊長、報告です!ニコライ隊長以下3名が殉職!〉

「総員後退!陣形を維持しなさい!」

 

〈イヴァンナ隊長に報告!10番機残弾数僅か!〉

〈隊長!サタンビートルのミサイル止まりません!〉

 

「くっ……!第7小隊は退却、速やかに補給、第15小隊と交代して、ミサイルは根性で回避するか……腹部の突起を破壊しなさい、おそらくそれが一番です!」

 

〈こちら戦闘機隊よりエアリー5、イヴァンナ副長応答してくれ!〉

〈隊長!3番機インシデント発生!機体放棄します!〉

〈21番機です、申しッーー〉

〈敵、突撃姿勢に入りました!〉

 

 圧倒的情報量

指揮官としての訓練こそ受けていたが、 50機もの戦車隊全てを統括するほどの管制能力は彼女にはまだ備わっていない

前隊長が作戦行動中死亡(KIA)となり、指揮権が彼女に移った事で報告が集中し、そのために一手、反応が遅れた。

 

「ひぃっ……っ!」

 

 最初からここまでひたすらに耐え凌いでいただけだった恐竜戦車の無限軌道が急激に回り

姿勢を落とした恐竜戦車が突撃してくる

体長50メートルの怪獣が、それも自らがよく知る戦車の体格(シルエット)を持つそれが

時速100キロ近い速度で突撃してきたのだ。

 

 時速100キロの自動車に衝突すると人間は砕ける、轢かれるとか吹き飛ぶとかの次元ではなく、砕けるのだ

若くして軍に勤める彼女は知っている、その遺体の凄惨さを

故に竦んだ、それだけのこと

たったそれだけが、彼女の死因となった。

 

「きゃぁぁぁっ!」

 

 

「デヤァァッ!」

 

 仮にも大河であるモスクワ川を飛沫を上げて走り抜け、縦横無尽に暴れ回る恐竜戦車に、飛び蹴りが叩きつけられた。

 

 

 

「あれは……ウルトラマン……」

 

 それは、誰の声だったのかもわからない

ただ一つ頷いた彼は、拳を握って恐竜戦車を迎え撃つ。

 


 

(状況は把握した、だが2体1……いや、向こうは足止めが効いている、私が相手をするのはこいつだけでいい)

 

 直前まで陣を敷いていた戦車隊は砲撃を浴びせながらもついに河を越えて来た恐竜戦車の前に敗走を余儀なくされている

だが足元に人がいるのは危険だ

その点で言えば退却してくれた方が助かる。

 

「デヤァァッ!」

 

 銀鉄の拳がひらめき、恐竜戦車の顔面に炸裂した。

 

 


 

「まさかウルトラマンまで来るとは思っていなかったわね……まぁ良い

戦車隊はサタンビートルに注力、戦闘不能機体は撤退なさい、自力で退がれないなら機体を捨てても構いません

まずは生き残りなさい!」

 

 室長の命令に従い撤退を始める僚機に引き連れられる形で退がるイヴァンナ機

彼女の瞳には涙と、そして色濃い恐怖が残っていた。

 

「戦車隊の指揮権はデュバルが引き継ぎ、部隊の臨時再編のため基地側より時間稼ぎを行います」

 

 

 円盤の迎撃のために膨大な量の上級兵装を使ったため、怪獣二体に対しては決定力が足りず、爆弾や照明弾による牽制・目眩しで時間を稼ぐ現場部隊達

そこに、通信で声が届いた。

 

〈総員後退なさい、彼らが来るわ〉

 

 その瞬間、戦場は沸いた

歓声に、勝利の確信に。

 

特殊兵器(エクスカリバー) 走れ、我らが友の為に(メロス)
 到着

今後の作品展開の方針は?

  • ニュージェネ系統
  • 昭和兄弟系統
  • ンネェクサァス(ねっとり)

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