ウルトラマンザイン   作:魚介(改)貧弱卿

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エピソード12 理由を求めて 1

「あーあ、向こうでドンパチしてるだけかぁ……せっかく頑張って仕込んでみれば、あんな中途半端な奴に先を越されて使われるなんて……屈辱だよまったく」

 

 唇を噛む顎を開いて、笑う

 

「セミ如きがミンミンジージー騒がしい

真の自由、真の力、真の愛って奴を知らないんだよ」

 

「その真のってやつを、お前は知ってるのかよ」

 

 雄介を眺めながら、笑う

 

「もちろん、じゃなきゃ女の子なんてやってられないでしょう?ゆーくん」

「……あの時と同じ答えか……」

 

 ベランダで風に吹かれながら

とびきりに甘い声と共にコートを翻す彼女の答えに辟易しながら、雄介は彼女の言葉を待った。

 

「ねぇ、ゆーくん、ただいま」

「……お帰り、翠」

 


 

 既に死んでいるはずの人物

自分がこの手で看取ったはずの彼女

布良翠風の帰還

こんな事はあり得ないはずだった。

 

『死人は蘇らない』原則、古今東西全ての叡智の頂に立つ、誰もが求め欲した死者の蘇生技術

ゾンビに始まり降霊術、魂の召喚などの魔術儀式、彼岸や死者の日などの年中行事、ミイラや読経などの葬儀法ありとあらゆる場所にそれは関与し、そしてそれらは諦められ、形骸化している

故に、あり得ない

他ならぬ雄介自身が一時期それに傾倒したが故に知っている、死者の蘇生はあり得ないのだということを。

 

「ねぇゆーくん、どうしたの?

さっきからずっと怖い顔してるよ?」

 

「……なんでもないよ、大丈夫」

 

「そう?なら良いんだけど」

 

 彼女の姿、彼女の声、一度として忘れたことはない

その記憶と相違はない

他人が化けているのなら、多少なりともズレがあるはずだ。

 

 思い当たる点には、『死体人形』という操術技法がある

実に悪辣だが、人の死体に防腐処置と改造を施し、糸を通して筋肉を操り、まるで生きているかのように動かすものだ

だがそれは人形操士がいなければ動かず、常に操られるだけの人形にすぎない

彼女には明らかな体温や明確な意志が見られる、違う

宇宙には念力による動作で操る方法もあるが、死体に生きた生物の思念を入れることは困難を極める

よって違うと考えるべきだろう。

 

「ねぇ、一緒にお料理しよ?

お昼ご飯まだだからさ、ひさしぶりに肉じゃが、作ってあげるね」

「……あぁ」

 

「また、暗い顔してる」

「あ、いや、本当になんでもないんだ、大丈夫さ」

 

 相棒(ザイン)は未だ帰らず

ただ彼女だけが目の前に。

 

「さて、料理だろ?まずは買い物に行こうか、ジャガイモ買ってないし」

「そっか、じゃあ一緒に行こっ!」

 

 雄介は彼女から一歩だけ離れて、隣を歩く。

 


 

 

 

「……」

 

 怪獣2体を撃破したことを確認し、ザインは実体を解いて雄介の元へと帰る

その前に一つ頷いて、視線を基地へ。

 

「……デヤッ!」

 

 インフィニティネットへ接続したザインのデータが分解され、急速に日本へと転送される

ウルトラマンとしてみても文句ない速度のデータ転送が速やかに完遂され、日本の上空で再実体化

再び実体を解いて今度はアストラル体へ

等身大サイズでアストラル体のまま飛翔し、家にいた雄介と再び同化する。

 

(彼方はまだ朝だったが、こちらではもう昼過ぎという頃か)

(あぁ、戻ってきたのか、ザイン

こちらでは妙なことがあった)

 

(どうした?)(俺の彼女が帰ってきた)

 

 その瞬間、ザインは怪訝げな声を上げる。

 

(確か、亡くなったのでは無かったのか?)

(ああ、明らかに、確実に死んだよ

奴に刺されて、俺の腕の中で死んだ)

 

(それでは……)

(だがこの肉じゃがを見てくれ、事実として存在している)

 

 冷蔵庫を開けると、そこにはラップの掛けられた深皿に収められた肉じゃが

一食分としてはやや量が少ないように見える、そして雄介は割と大雑把に食材を切る癖があるが、この芋や人参は見事に細かく一口分に切り揃えられてネギまで添えてある、雄介が一人で作るのならここまで手を込ませはしないだろう。

 

(たしかに、雄介が作ったのではないようだな)

(彼女が作り置きして残してくれたものだ、久しぶりでたくさん作りすぎた、と言ってな

潜入中の他人だとすればそんなわかりやすいミスをするものだろうか?)

 

(一理ある……しかし、生物が死から蘇るということは基本的にないだろう?

我々ウルトラマンだって、『死者の蘇生』ではなく『死にかけの人物との命の共有』が限度だ、完全に死んだ人物はどうにもならない)

 

 そう、ウルトラマン及び光の国が有する技術『命の固形化』とて完全に絶命した生物を救うことはできない

できるのは『原型を止めるような死に方で、かつ死に切っていない人物』の傷を治し、生命力を補完する程度にすぎない

それは見かけ上は死んだものを生き返らせているように見えても生者を回復させているだけにすぎないのだ。

 

(それが不思議なんだ……何故彼女が現れたのか、本当に彼女なのか

本人だとすれば今更に蘇った理由はなんなのか、偽物だとすれば公的に死んでいる彼女の姿を騙るのは何故か

全てが謎なんだ)

 

(それは……深く考えざるを得ないな)

(やはり直ぐには分からない、と言う事か)

 

 わずかな時間の思案の後に、そこには深いため息と謎だけが残った

肉じゃがは二人で夕食に食べた。

今後の作品展開の方針は?

  • ニュージェネ系統
  • 昭和兄弟系統
  • ンネェクサァス(ねっとり)

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