「え?」
その日の朝は、何も無かったはずだった
その連絡さえなければ、橙に染められたカーペットと壁に架けられた十字架が落ちることもなかった。
「夢乃さんが行方不明?」
「ええ、八木さん、BURK隊員用の病院でリハビリを終えた後、しばらくは自宅周辺に目撃されていたのですが……」
聡明で名の通った駒門が鸚鵡返しという珍しい反応を返したことに隊員達が驚くよりも早く、その頭は巡り廻る。
「ここ三日間、全く情報がないんです!それに周辺のスーパーなどの聴き込みも空振りで、本当に急にいなくなったとしか思えない!」
事実として、数人のBURK隊員は引退後に殺害されたり急死したりするケースがある
どこぞの異星人、過激派団体や宗教屋の狂信者などとも戦う職である以上、やはり退職してからもそれらの恨みある連中と遭遇することは避け難い。
「しかし妙なんです、八木さんは退職時に記録・記録総合抹消処理を受けていないので、BURK隊員としての護身術などは忘れていないはずなんですが」
「争った形跡も見られず、かしら?」
「はい、どころか車椅子も自宅にそのまま残されていたそうで、まるでちょっと買い物に外出する程度の感覚で居なくなってしまったようなんです」
しかし、下半身付随の夢乃が車椅子無くして移動など考え難い
現場でも特段の異常らしきものは発見できていないらしく、誘拐拉致を疑っても周囲の監視カメラ等にはそれらしい映像もない。
「何者か、超常的な存在が関与していると考えるべきね」
駒門の判断は決して尚早とは言い切れないものだった。
「頼れるかどうかはわからないけれど、彼に当たってみるのはどうかしら」
「彼、ですか?」
「えぇ、ちょうど入ったでしょう?優秀な新人が」
頭に疑問符を浮かべたオペレーターに、駒門は曖昧な笑みを返した。
どこか、荒れた、公園のような廃棄場
倒れる者達、煌めく星々、吹き荒む風。
「……」
顔のない体、未来のない子供達
ヴィジョンの中でも眠るだけ
あぁ、どうして
こんなにも腐ってしまうのか。
「……」
魔女は笑う、世界中を満たすために
魔女は笑う、世界中から奪うために。
「で、これが私に回ってきたというわけですか」
雄介が呼び出されると同時に手渡されたのは分厚い資料のファイル
日付や場所だけの付箋がついた写真や状況の簡潔な説明のレポート
こんな怪奇現象を説明するなど、作るだけでも相応に苦労したのであろう文書の束だった。
「そう、諸々の資料は用意したけれど、一応口頭でも説明しておきます
先日、元BURK隊員、八木夢乃氏の失踪事件が発生しました、事件現場はおそらく自宅と考えられます
しかし周辺の監視カメラ・車載カメラ等映像監視システムにはそれらしき姿が残っておらず、不審な車等も確認されないため、誘拐拉致とも考え難い状況です
自宅には氏が使用していた車椅子が残されており、また暴行等の痕跡は認められませんでした」
駒門から渡されたファイルが雄介のデスクを軋ませる。
「これらから鑑みるに外宇宙的あるいは高次元的存在による関与と判断し、犯人及び被害者の確保のため犯行手段及び犯人の特定を願います」
「承りました……しかしなぜ私に?こんな新人がしゃしゃり出てくるような場面ではないのではないでしょうか?」
「まぁそれはそうなんだけど……この件はちゃんと課長の方にも伝えてあるし、BURKの伝統的に新人の能力試験をするのよ……私も新人の時に色々あったわ」
駒門が哀れみの色を浮かべた目で雄介を眺める中、雄介は徐にファイルを開く。
「その件、よろしくお願いします」
「わかりました、微力ながら全力を尽くします」
詳細情報を確認するために100ページ近い資料を眺める雄介
過去の事件の時との類似性や聴き込みを担当した捜査官の所感報告など、ほとんどは益体もない情報だが、幾らかの部分には引っ掛かりを覚える。
(ザイン、宇宙人の仕業かもしれん
いかにも超常的な風体を感じる)
(……断定は難しいが、できるかも知れないな、短距離テレポート程度ならイカルス星人やガッツ星人、バルタン星人など生身で使用できる種族も多い
他者の意識を速やかに奪う事が可能なのも同じだ、その分どこの誰がやったかを特定することも困難、せめて現場の状況を直接把握できればいいんだが……)
(なら
雄介の意識が視覚を高め、左目が青く閃くと同時に遥か彼方の住宅街まで視野を広める
たしかにこの方法なら直接目視する事ができるだろう、しかし。
(あまりそういうことはするのは良くない、念力の乱用は肉体機能の低下だけじゃなく世界法則の混乱も起こしかねないからな)
たとえ研究者であっても、やる事が探偵ならば探偵の流儀に倣うのが吉
現場百遍と言われるように、直接訪れるのが一番良いのだ。
今後の作品展開の方針は?
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ニュージェネ系統
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昭和兄弟系統
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ンネェクサァス(ねっとり)