「で、現場を見にきたはいいものの」
(妙な気配や痕跡は見当たらない、か)
流石に三日も経っていれば気配など薄れて消えてしまう、何が行われたのかも杳として知れず、と言ったところだ。
「……」
そもそも本人が行方不明とは言え女性の家であるし、事件現場だからと不作法に上がり込むなんて真似はできない
よってするべきは周辺調査なのだが。
「大したものは無さそうなんだよなぁ」
流石に雨が降ったりしたわけではないが、三日も経てば野外に残った痕跡など無いに等しい
のだが。
「……ん?」
外壁に触れた指に残る粉
壁の塗材ともまた違う白色の粒粉だ
念のため一部採取して物質の特定を試みることにした。
「さぁ、どうぞ」
尖り帽子にリボンを巻いて、大きく開いたハートカップの黒いドレスが色香と彩りを両立する、飾り気のないシルクの手袋が上品な一方、左手に掛けた鞄は不相応に大きくおもちゃのそれのよう
ドレスの背中に巻かれた橙色の蝶結びの大きなリボンはプレゼントボックスを彷彿とさせ
しなやかな大腿を飾るガーターベルトとレースに肌の透ける黒いハイソックス、反面ごつく見える大きめのローファーが全体のシルエットをデフォルメする。
黒尽くめの美少女が、この肌寒い季節をまるで省みないような格好で、子供達にお菓子を配っていた。
「ふふふっ、さぁみんな、お菓子はちゃんと用意していますから、順番ですよ」
豊かな胸を揺らしながら、壁に靡く髪を晒しながら、手にした鞄から魔法のように飴を取り出して
並ぶ子供達に手渡していく。
〈雄介君、聞こえるかしら?、駒門よ〉
「はい、通信感度良好、問題ありません〉
突如として耳に届いた着信に驚きながらもすぐに回線を繋いだ雄介
そこに届いた駒門の声。
「例の件だけれど、発見報告が上がったの
場所はN県の北方、詳細情報はガジェットに転送するから急いで現場に向かって
車は回してあげるから、指定ポイントで合流後シークレットハイウェイのレベル2、N-02を使って」
〈了解!〉
雄介は合流地点として指定されたBURKの息のかかったコンビニへと走り出し
そこに滑り込んできたBURKの制式採用している四駆(国産車)
BURKシルバーアローへと駆け寄る。
「乗って!」「はいっ!」
運転席から顔を出した女性、
「シートベルト締めてね、安全にかっ飛ばすから!」
「せめてどちらかにしてくださいっ」
「どっちもやるのが私達のおしごとよ!」
ギアはまさかのサードで発進、
マニュアル車でどういう動きをしているのかわからないが、彼女はプロなのだから任せればいいだろう。
「殺人的な加速……!」
内臓を痛めそうな勢いで急加速した車体と慣性で肋骨を折りに来るシートベルトに悲鳴じみた感想が漏れるが、彼女の方は慣れているらしく特に変わった様子もない。
「シルバーアローは最高時速450キロ、出してみる?飛ぶわよ」
「本当に“飛び”かねないのはNGです」
スペック上の最高速度だとしてもそんなスピードを出せば本当に地面を滑って揚力を獲得してしまう
時速300キロの新幹線でも浮き上がらないように車体自体を流線形にして空気の流れを制御しているというのに一般的な装輪車型でそれはシャレにならない。
偽装社屋の地下駐車場から入ったシークレットハイウェイを突っ走り
たったの30分で現地近くへと到着した。
「呼んだら十秒で来いとか言われる所ではあるが……流石に30分も前の目撃情報を追えるか……?」
公道に出てからは一般的な速度で普通に運転してくれているため、そこそこ余裕があったが周囲は見渡す限り普通の住宅街
数台の車がすれ違い、草臥れた会社員のような人達がてんでバラバラに歩いているだけで
どこにも怪しげな点は見当たらない。
そもそもなんらかの阻害技術あるいは能力を有する相手に今現在以外の全ての情報は当てにならない、古い情報に踊らされてはならないのだ
現在の彼女の位置を把握したいなら今現在の彼女を探さねばならない。
「目撃情報があったのはこの辺りよ、取り敢えず合流するからポイント教えてくれる?」
カーナビのように取り付けられた情報端末ガジェットに視線を送り
合流地点と思しき赤いピン留めされた地点の座標を読む。
「もう通りを一つ進んだところの交差点を左、アーケードの前ですね」
「はーい、次左ね」
「あなたも欲しいんですか?でもあげません
だってもう子供じゃないんですから
逆に言ってあげますね、trick or treat」
大人はこうして追い返し、子供だけにお菓子を配る、子供達だけを狙って繰り返す
それが一番良質な、甘い夢を持っているから。
秋深く、冬近い今
豊か穣るを言祝いで
いざや今宵これを祀らん。
今後の作品展開の方針は?
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ニュージェネ系統
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昭和兄弟系統
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ンネェクサァス(ねっとり)