「もう一度、問います
貴方は何故ここにいる?」
「仕事だ、それ以外に答えはない」
「そうですか……では、可及的速やかに終えてください、私からは以上です」
全くの無表情で彼女はくるりと背を向けた
ただでさえ短いスカートが振れてさらに裾が持ち上がるが、雄介は視線を奪われることなく彼女の全体を見続ける。
「さぁ、続きをどうぞ」
「…………」
そもそも彼女を探すのが仕事であった以上、任務自体は達成と言っていい
しかし今の彼女は明らかに精神的干渉の影響下にある
となれば彼女に干渉している異次元生体にまで遡ってケジメを付けさせなければならない
しかしBURKガンでは火力不足であることは先ほど証明されてしまった。
(いやそれはおかしい、流石に岩を撃ち抜くほどの攻撃を受けるなんて想定をするとは考え難い)
(そもそもコスト・パフォーマンス比率がおかしいだろう、適当に拾った現地民くらいなら無駄に防御を施すよりも使い捨てるほうがマシと考えることの方が多い筈だ)
((つまり))
二人の思考が一致する。
(彼女の中に本体がいる!)
「ザイン・イグニッション!」
心臓に鍵剣を突き刺し、大きく捻って光を解き放つ
赤と銀の戦士の姿へと変じた二人が再び彼女へと一手を放つ。
「待ちなさい」
その時、彼女が表情を変えた。
「流石に高エネルギー攻撃を受けては保護し切れないので、やめていただきたい
それより、お話をしましょう
紅茶とコーヒーはどちらが良いかしら?」
「……」「紅茶で」
ザインと肉体を入れ替え、雄介へと戻る
紅茶はもちろん飲む気はないが、形だけは貰っておこうというものだ。
「ではティーセットをお出ししますね、レモンとお砂糖、ミルクはご自由に、ケーキはいかが?」
「結構だ」
彼女が手にしたステッキが振られるたび、星やハートや音符が飛んだり跳ねたりと騒がしく動き回り、テーブルやティーセットにケーキスタンドが現れる。
「あら残念ですね、とっても美味しいですのに……」
本当に残念そうな表情ではあるが、それで騙されて死ぬわけにはいかない。
「さぁ、どうぞ」
そこにはこだわりがあるのか、席を立ってまで自分で淹れた紅茶を供する彼女
湯気のたつティーカップ
淹れる温度は高いほどよいとされる紅茶だからこそだろう。
「さて、では私から
私は異次元魔女ギランボ、と言われる種族の一人なのですけれど、まぁわかりやすいのでギランボとお呼びくださいな」
「やはり人格を乗っ取っているのか」
「はい、とはいっても体の娘のためでもあります」
「なに?」
魔女は嘘のような笑みを深める。
「皆さんは普段、何を食べていらっしゃいますか?水、炭水化物、硫化水素、アミノ酸、電気、どれも一般的ですけれど
私たちギランボは『夢』を食べるのです」
「それが?」
「夢とは正確には脳の電磁パルス、『これをしたい』『あれを作りたい』という未来へのイメージです
これが生来実体を持たない私たちに『未来』を与える」
相槌だけで続きを促しながらも雄介は視線と武装を維持して警戒を続ける
一方彼女はクリームの乗ったクッキーを少しずつ食べながら紅茶を一口
気品ある優雅な所作だ。
「私たちはイメージによって成り立つ幻像であり、本来は実体として存在しない架空の存在に過ぎません、しかし」
紅茶を飲みきり、彼女は強い視線を雄介に向ける。
「私たちとて、生まれた以上は生きる義務がある、それに選り好みする程度には意志もあるのです」
「……」
雄介の前の茶器には未だに湯気を立てる紅茶が残ったまま、彼もまた押し黙ったままだ。
「しかし昨今、夢は腐敗している
子供達は夢想し、仮想に立脚した自由思考を以て幻想という枝葉を広げ、現実へとそれを投影する力を失いつつあります
子供という木に生りながら地に堕した夢は腐敗して、もはや食べられるものではない」
「だから、どうだというんだ」
「最近の子たちに未来を問えば、やれYouTuber、やれ国家公務員、やれ自衛隊員
テンプレートの解答で求めるのはみな安定ばかり
これではいけないのです、
なりたい理想の自分、脚光を浴びる新たな発見、焼け付くようなスリルと世界を塗り変えるような革新的な物品や技術の発明を『考える』ものでなくてはいけない
そこに発展がなくては夢は夢ではなくただの欲望であり、自他含めて『変わる』未来を思い描くことこそ夢を持つということなのです」
「だから、それと八木隊員の体を使っていることがどう繋がるというんだ!」
「はい、それはこの体の…………八木夢乃の夢に関係します」
白い羊がテーブルクロスの下から現れ、ウールが綿飴へと変わる
彼女はそれをステッキに乗せて軽く息を吹きかけると、こんどはそれらが綿毛へと変わって飛んでいき、うずたかい廃品の山に着地するとすぐに育って花を咲かせる。
「彼女の夢は、『もう一度立って歩くこと』」
その声と共に咲いたタンポポが空へと浮き上がり、拡大してスクリーンへと変わった。
「以前の邪神降臨儀式が行われた際、乗機を失った夢乃はそれでも避難誘導を行い、結果として足を失いました」
夢乃本人から抽出されたのであろう記憶がスクリーンに写されて流れる。
「そして、足を失い歩くことができなくなった夢乃は除隊を余儀なくされましたが、それでも諦めませんでした
現時点でもそれは変わっておらず、私自身がそれを蝕んでいてもなお夢乃の夢は折れていない
今停滞し沈んでいる状況からかつての自分へと返り咲こうとする、変わり進む意志があるのです
ですが、現在の地球の医療で神経・骨、筋肉全てが損傷した足を回復する手段はありません
それこそクローニングや器官をまるごと移植するほかにないのです」
「……」
もう、雄介にも彼女の目的はわかっていた。
「私が憑依し、融合することで彼女の下半身は外部から操り、動かすことができていますが、解除すればたちどころに足は動かなくなり、すぐにでも倒れ込むことになります」
「私は彼女の夢を守りたい、腐った林檎ばかりのこの世で、やっと見つけた黄金の林檎の生る木を守りたいのです
これは私のためでもあり、同時に夢乃の為でもある
……お分かりいただけましたか?」
「なるほど、概ね分かった」
(それで、どうするつもりだ
言っていることは感動的だが)
(やっていることは寄生虫だな)
本人の自我を乗っ取っていることが既に社会性を損なう危険な行為であり、侵略行為に該当する行動でもある、が彼女を守りたいという発言に嘘は感じられない。
「……」
これは難しい議題になりそうだ。
今後の作品展開の方針は?
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ニュージェネ系統
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昭和兄弟系統
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ンネェクサァス(ねっとり)