ウルトラマンザイン   作:魚介(改)貧弱卿

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エピソード15 マクシムス 5

(雄介!こいつは明らかに強くなっているぞ!)

「火炎放射が…痛いっ!」

 

 以前の個体ではザインの拳に傷をつけることさえなかったはずの火炎放射が

いまや明確にダメージを与えている

格闘スキルも向上したのか、ザインの拳に的確に攻撃を合わせて来ている

スラッガーによる奇襲攻撃も実質的に失敗した以上は既に学習されていると考えるべきだろう。

 

「デヤァァッ!」

 

 全身の電子回路から電流を呼び起こし、ザインの拳に黄金の光が流れ出す

空電を鳴らして右腕を肩の位置まで引き絞り、満身の力を込めて殴りつける

レールガンの要領で電磁加速した拳がパンドンの顔面を殴り飛ばす!

 

(ギアを上げるぞ雄介!しっかりついて来い!)

「ああ!……行けるっ!」

 

 普段は強力無比な念力によって体内に抑え込まれているザインの電気エネルギー

極めて不安定ゆえに抑え込むしかなかったエネルギーを解き放つ

常にどこぞへと流れ出し、急速に消耗し、自然に補充することは極めて困難、体を構築するエネルギーという点に於いてこれ以上使い勝手の悪いエネルギーはない

だからこそ、他を傷つける武器としては一流。

 

(「エレクトリック!)」

 

 超高速移動で背後を取ったザインが今度は電磁加速した左脚で背を削ぎ取るように蹴り上げ、垂直に吹き飛ばし、さらに上に回って地面へと蹴り落とす。

 

ザイナスフィア

 

 スペシウムマイナスエネルギーは左腕に、スペシウムプラスエネルギーは右腕に

抽出され、分解された不自然なエネルギーが安定を求めてスパークし、引き合い

そしてフォトンへと転化する。

 

 

 丸ごと爆散したパンドンの死亡を確認したザインはすっと飛び立ち

戦いの疲れを癒すべく家へと帰っていった。

 

 


 

「いってて……」

 

 パンドンの嘴が突き刺さった右肩と火炎放射に炙られた左腕

さらに変身の蓄積ダメージによって軋む全身の骨、今夜は長風呂が確定したという所だが、雄介も腹は減るし眠りもする、何より明日はまた大学と毒ヶ丘邸に赴かねばならない

今のうちに準備が必要だ。

 

「……」

 

 念力で参考書や資料の束を動かして多少楽をしながら準備を済ませた雄介は

久方ぶりに思える濃いコーヒーを口にするのだった。

 

「まだ昼間だしな……」

 

 流石に即寝落ちというのはていが悪く、たまたま予定のない日であっても生活リズムは守らねばならない

丁度パンドン戦に緊急招集もかかったことだし、応じないのはそれだけで給料泥棒扱いで懲戒もあり得る重大な服務規程違反になる

パンドンのせいで火傷を負った(事実)ということにしておけば問題はなかろうが、一応現場にいた証明はできるようにしておかねばならない。

 

「移動するか」

 

 運転免許と財布を携えたヒーローがバイクのエンジンを吹かすまで、あと2分。

 


 

「これより、第Ⅳ分類(ディザスター級)兵装、ポラリスレイの引き渡しを実施する

立ち会いは私、アメリカ本部車輛科(ロッジ)次長(サブマスター)、ジョン・ケンタッキーが務める」

 

一方その頃、ついに凍結性の武装であるディザスター級、北極光(ポラリスレイ)が日本支部に引き渡されようとしていた。

 

「受け取り証明書にサインを」

「日本支部長代理として、整備科(メカニカ)科長(マスター)陣内啓司が第Ⅳ類兵装を受領する」

 

「兵装の納庫、および署名捺印を確認した、これを以て当該兵装の移管を完了したものとする」

 

 形式的なやりとりだが第Ⅳ分類、災害(ディザスター)級の兵装は扱いを間違えば火山を氷土に、森林を砂漠に、ビル街を荒野に、山岳を峡谷に変えかねない力を持つ危険な兵器

管理責任者も仰々しいと知りながらでも、なお慎重にならざるを得ないのだ。

 

「おつかれ、また今度飲もうや」

「……当分仕事ばっかで飲めなそうだ、すまんな」

 

 日米は安保条約やBURK本部と怪獣最頻出という立地の関係で共同作戦の多い都合上

お互いの支部・本部で人員に顔馴染みも多いのだった。

 


 

 翌朝9時頃、出勤して来た雄介は

 

「せんせぇ!」「あいってぇ!?」

 

思い切りハタかれた左腕の痛みに悲鳴をあげることになった。

 普段なら何の問題もないが、昨日の3戦目で明らかに火力の増したパンドンの火炎放射に焼かれたことで左腕には火傷が残っている

彼女は普段の感覚でペシペシしているつもりなのだろうが、そっと触れても引き攣るような痛みを感じる火傷の跡に直接攻撃は効きすぎる。

 

「先生?……大丈夫?」

「…いやなんでもない、大丈夫だ」

 

 明らかに顔色の悪い雄介の無理な台詞には流石に気づいた有彩が伺うように雄介を覗き見て、そして気づいた。

 

「先生また、怪我したの?」

 

「…………」「黙るな」

 

 流石に教え子に嘘をつくわけにもいかず、黙り込んだ雄介の左腕に彼女の指が握り込まれ

咄嗟に上がる声には耐えたものの、引き攣る表情は明白にそれを答えとして明かす。

 

「したんだ」

 

 流石に中学生の少女の腕力程度では傷口を抉るほどのところまではいかない

しかしだからと言って痛くないわけではない。

 

「パンドン戦ではちょっとしくじってな、うっかり……」

「それで、また火傷したんだ」

 

 怪獣にも防衛にも熱を使う攻撃手段は多く、だからこそ傷もそれに偏りやすい

一番堅い部分であることも相まって、雄介とザインは敵の攻撃を左腕で受けることが多く、そのフィードバックダメージもまた同じ箇所に現れる

雄介が左腕に火傷を負うのはこれで3度目なのだ。

 

「ちゃんと処置は医務官の人にやってもらったし、軟膏とか色々もらったから、これもすぐに消えるよ、だから大丈夫」

「……なら、いいけどさ」

 

「あぁ……それより、今日の一限は英語だよ、ちゃんと宿題やった?」

「勿論、終わってるよぉ」

 

 雄介は手早く話題を逸らし、そして敵からも目を逸らす

連続で出現するたびに強くなるパンドン、蓄積するダメージ、勝てなくなる日は近いかもしれない

そんな悲観的思考を、今だけに向けることで誤魔化して

雄介は家庭教師として教鞭をとった。

今後の作品展開の方針は?

  • ニュージェネ系統
  • 昭和兄弟系統
  • ンネェクサァス(ねっとり)

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