「先生……やっぱり怪我してる、それにまた火傷……」
その夜、ベッドの中で
有彩は蛆虫のように蠢いていた。
「今度は怪我しないなんて言ってたけど、絶対嘘、次も怪我する」
驚異的な勘であるが、有彩は変身しなくても前線に出て行く雄介の性格を踏まえた上で、現状を極めて正しく評価していた。
「先生はこれからも怪我し続ける
それにずっと前みたいに戦って、戦って、戦って……」
死ぬ、その一言だけは
ただの睡話でも語れない、奇妙なまでの現実感を伴っていた。
「先生……」
「いつか死んじゃいそう、かしら」
言いたくなかった一言が、誰かによって唱えられる
知らない声
余人入らぬ寝室にあるはずのない声。
「誰っ!?」
「お姉さんかな?」
黒い長髪とコート姿の女性
閉じたままの窓の内側に立っていたのでなければ、美しかっただろう姿。
「愛してるんだよね、好きなんだよね雄介のこと
なら、ちゃんと行動で示そうよ
震えて
裂けて
「……あぁ……」
敢えて薄めに淹れた緑茶の二杯目を飲み干して、スーパーで仕入れたトンカツ(半額税抜200円)をレンジ加熱
余熱を利用して鰹出汁で卵綴じを作る簡易カツ丼とこちらもスーパーで仕入れた『半日分の野菜』が売り文句なサラダ(税抜230円)に箸をつける。
「よし、いただきます」
ワンコインでそれなりの夕食を拵え、明日の予定を確認しながらキャベツを噛む
予備隊員といえど給与は出るため、そこまで厳しい生活ではないが
貧乏苦学生には一生物の根性が染み付いていた。
「?」
一瞬、背筋に走った悪寒を頭を振ってやり過ごし、雄介は新しく茶を淹れるのだった。
「で、朝っぱらからこれか……」
(雄介、もう本当に体が保たない、次変身したらしばらくは変身不能になるぞ)
うるさく鳴り続けるアラームは常の目覚ましとは異なる怪獣警報
耳障りなそれを止めもせずに走り出し、目指すはパンドンの暴れる山際
オフィスビルの集中する市街部や避難所に指定されている学校に隣接する山の上で戦うなど正気の沙汰ではないので、奴をどうにかしてそこから引き離さなくてはならない。
(わたしは反対したからなっ!)
「イグニッション!」
肉体の悲鳴を押し退けて光へと変わり、すぐさまに構える、もはや肉体には一刻の猶予もない
すぐにでも決めなくてはならないが、すぐに大技を使うのは下策中の下策
まずは隙を狙わねばならない!
「ジェァァッ!」
電撃と陽光のエネルギーが迸り、肉体の結束を失いかけながらもスラッガーに力を注ぎ込む
「デェイッ!」
念力による肉体結束が半ば解かれ、その出力で無理矢理にスペシウムソードを維持する
持ちの良いスペシウムソードだとはいえ、電気エネルギーの燃費は劣悪
必殺の一撃のために取っておかねばならない。
「……ディアッ!」
左手のスペシウムソードを維持しながらドロップキックを放ち、飛行能力との組み合わせで連続空中攻撃
初めて見る攻撃には防御が追いつかないのか、パンドンはされるがままに殴られて吹き飛ばされる
「ディ……デェヤァぁァァァァッ!」
再び大きく蹴り抜いて市街地周辺から吹き飛ばしたパンドンの中心部にスペシウムソードを突き刺し、エネルギーを流し込んで
そのまま右上に逆袈裟に切り上げ、背を向けて振り切る。
「ギュァイァァァァッ!」
使用したエネルギーの量が量なだけにザインもカラータイマーを鳴らしながら
背後で起きる爆発に乗って飛翔する
その時だった。
「ギュゥイジシイィィィッ!」
爆発四散したはずのパンドンが再び炎の中から立ち上がってきたのだ。
「デ……デュァッ!」
ザインも再び構えをとるが、カラータイマーの示すエネルギー残量は既に限界、もはや一刻の猶予もない。
「間に合ったァァァァッ!」
空を切り裂く蒼い閃光がパンドンを貫き、その全身からありとあらゆる熱を奪う
パンドンは巨大な氷像となって再びその動きを止めることになった。
作戦室に、霧島オペレーターの声が響く。
「やつはポラリスレイによって一旦完全凍結しました、これは事実です、しかし依然としてエネルギー反応は消滅しておらず
一度著しく減少した内在エネルギー量も増大を続けています
現在は休眠状態であっても、いずれは氷を割って活動を再開するものと思われます」
正面モニターに表示された予測復活時間は8時間後の18時17分
ディザスター級の凍結武装である永久凍結光線を受けてこれである
どれほどのエネルギーを内蔵していたのかなど考えたくもない。
「やはりか……!」
「しかし現状、マクスウェル熱分子分布偏移装置の燃料枯渇のため、ポラリスレイは再使用不可能
アメリカにも予備燃料棒は置いていないそうで、作成には1年掛かるとの話です」
「でもそれじゃあ間に合わない……」
「そこで、我々が提案する作戦は以下の通りです」
モニターに新たに表示されたのは
氷漬けのまま宇宙に垂直上昇していくパンドンのイメージ画像
そしてその足元にはGRAVITYの文字
重力偏向板を使用した宇宙への質量投擲、つまりは違法投棄であるが、相手がまともに倒せない怪獣であるならこれを視野には入るだろう。
「このように、8方位から同時に重力偏向板による抗重力を展開することで通常限界の6Gを大きく上回る出力を発揮することが可能となります
ただ同時に偏向板を起動するためにはそれぞれの箇所に人員を配置しなくてはなりません
またパンドンの周囲200メートルほどの至近距離にまで近づかねばならないため実行する作戦人員は非常に危険です」
「……なるほど」
作戦の概要が共有されたところで承認の是非を問う霧島に厳しい目を向ける弘原海。
「代案はあるのか?」
「いえ、残念ながら」
つまり、これ以外にはもっと非人道的な作戦しかないという言外の言葉に瞑目し
そして周囲を見回す。
「わかった、作戦を承認する」
今後の作品展開の方針は?
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ニュージェネ系統
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昭和兄弟系統
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ンネェクサァス(ねっとり)