ウルトラマンザイン   作:魚介(改)貧弱卿

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エピソード16 眠り 4

「あ、熱源センサー?……」

 

 一瞬のみ僅かな反応を示したのは、基地周辺に存在する侵入防止用のセンサー

時刻は午前1時だった。

 

「この位置だと、病院の方かな?」

 

 槙島花音は即時病院の警備員に連絡をとった。

 


 

「賭博第一段階を完了、恙無し

第二段階に移行する」

 

 僅かな反応を残しながらも病院内部に侵入成功したサーペント星人アコナは

そのまま病院内の構造を把握し、入院用の病棟へと向かっていた。

 

(しかし、直観的に把握できるような図形で院内の構造が掲示されていて助かった

なんにせよ分かり易い)

 

 細心の配慮によって他民族にも非識字者にも理解できるようにさまざまなシンボルで掲示された院内の案内図は、意図通りに容易な構造把握を可能とし

全く意図にない侵入者へその情報を開示していた。

 

 

 センサー類を掻い潜って接近するための下調べである第一段階、そして実際に病院内に侵入してボディを調達する第二段階

最後にあれば純水を確保するか、あるいは脱出する第三段階

作戦の1/3を達成した彼の目論見は決して甘くはなかった。

 


 

(明らかに地球人とは違う脳波出力だ、異星人、それもこんな夜中に忍び込んで来るくらいだ

どう見ても敵性と言える

……こっそり医療品を盗りに来たのか、あるいは擬態もできないほどに弱った状態で命を繋げる可能性に賭けに来たか、というところだな)

 

(つまり怪我人か、なら条件は対等だな)

(彼我の状態にもよるだろう、十分に気をつけるんだ、接近してきたらナースコールだぞ)

 

 ザインは雄介の自己対処前提の言葉を嗜めるが、ナースコールで呼ばれるのは一般の看護師さんにすぎず、対宇宙人戦に於いてはむしろ危険に晒すだけだろう。

 

(ナースがなんの役に立つってんだよ、宇宙竜のほうならともかく、一般人なんだから危ないだろ)

(……確かにそうだな、軽率だった)

 

((言っている間に来たぞっ!))

 

 二人で悠長に話し合っているうちに、サーペント星人が接近してきた

この病室は通り過ぎるつもりのようだが、それを見過ごすウルトラマンではない。

 

(ザインッ!)(変身は禁止だ、エネルギーの方なら可能な限り支援する)

「おうっ!」

 

 光の軌跡を残してベッドから飛び起きた雄介はそのまま扉を引き開け

廊下に飛び出して、そこをヨタヨタと通り過ぎようとしていたサーペント星人に飛び蹴りを見舞う。

 

「ぐっあっ!?何者だっ!」

「お前こそ不法侵入者だろうが」

 

 空電が鳴るほどにエネルギーを高めだ左拳がサーペント星人星人に突き刺さる

が、大気中の水分を吸収して再生してしまうようで、一瞬のみ砕けるものの、すぐに修復される。

 

「お前も異星人なら私の邪魔をするな!

私は今命の危機に瀕しているんだ!」

 

 夜間の病院という都合上、警備員が駆けつけるようなことがないように最低限の音量まで抑えた声

しかし雄介はそれを意に介さない

そもそも見つかって困るのは雄介の側ではないのだから。

 

「あいにく、俺は地球生まれ地球育ちの地球人なんでな、遠慮なく邪魔させてもらう」

 

 雄介の言葉と共に、手刀に光が宿る

爆発させないように切断攻撃で倒すために。

 

「ザァイッ!」

 

 少し離れた距離、雄介の速度は雷と同じ

そして向こうは錆びた足

どんなに急いでも、止まっているのと変わらない。

 

 突き込まれた手刀がサーペント星人の体表装甲を貫き、そのまま臓腑まで突き抜ける

しかし。

 

「ぬっ……ぬぅん!」

 

 ずぶり、と自らの胴体から雄介の腕を引き抜き、なおも歩きだす

まるで攻撃そのものを意に介していないかのように。

 

(雄介ここは一旦退くんだ、有効打ではない!)

 

 切った端から再生した装甲が伸びて来る、流石に再生にも限度はあるだろうが

こちらのエネルギー量にも体力にも限度はある、千日手になるのは不利だ。

 

「いやダメだ、ここで退く訳にはいかないっ!」

 

 サーペント星人の鎧を切り裂く手刀、損傷にも構わずに再生を続けるサーペント星人

時間はこちらの味方だが、エネルギーの消耗は激しい

しかし、病院という施設内で何をするかもわからない相手を前に引き下がることはできない!

 

スペシウムスラッシュ

 

「ゼェアッッ」

 

 切断技を飛ばしてより深く攻撃を入れるが、両断寸前の状態からすらも再生してのける星人の再生能力(リジェネ)に雄介は戦慄を余儀なくされた。

 


 

 時は少し遡り、戦闘が開始される寸前

BURK日本支部防衛基地の対怪獣作戦室では、オペレーター二人が隊長へと連絡を試みていた。

 

「熱源感知レーダー及び生体エネルギーレーダーも反応しました、座標はおそらくTP-07地区内、本基地併設病院内です!」

 

〈わかった〉

「しかし隊長、この時間この場所じゃあ人なんて動員しようがないですよ!」

 

 槙島と霧島、二人の報告は弘原海へと届いた、が、さすがに午前1時という時間と基地併設病院という閉鎖環境の中では警備隊や防衛隊を動かすにも限度がある。

 

〈心配ない……俺が行く〉

 

 


 

 そして、左腕に宿したスペシウム崩壊光が完全に残光となって消えるその時に

ようやく援軍は到着した

弘原海隊長の放つBURKガンが装甲に着弾し、火花を散らす

 

「霧島!種別は!?」

 

〈ドキュメントGUY、サーペント星人ですっ体内の90%以上が水のため、周囲の水分から再生します

塩か高熱が有効です!〉

「了解っ!

さて、サーペント星人さんよ

まずは御退場願おう、ここは病院なんでな」

 

「そういう訳にはいかない

私も命を懸けているが故」

 

 無言で双方の放った光線銃の弾丸は、お互いに身を翻したために廊下の先へと消える。

 

「椎名隊員、使えっ!」「はいっ!」

 

 左ホルスターからもう一丁のBURKガンを抜いた弘原海は背後の雄介へと向けてそれを投げ

雄介もそれを即座に構えて撃つ

 

「厄介な……ふんっ!」

 

 右脇腹に貫通痕を作りながらも身体を流体化して欠損を再生しつつさらに廊下を進み、そして窓から飛び降りた!

 

(巨大化するつもりかっ!?)

(いや、サーペント星人は単独ではスケールの大きい巨大化能力は持たない

せいぜい5メートル程度が関の山というところだ

おそらくあれは付近に円盤を隠しているのだろう)

 

(って、それ冷静に言ってる場合か!」

 

 走り出した雄介も窓から飛び降りようとするが、肩を掴まれて止められる。

 

「お前は寝てろ、俺が追う」

 

「しかし」「これは命令だ」

 

「了解」

 


 

 雄介が病院の窓から夜空を見上げると、僅かに光が昇っていくのが見える。

 

「逃げられたか……」

 

 随分な低速で飛行していく円盤は、それを追うように放たれた光条に貫かれて爆発した。

今後の作品展開の方針は?

  • ニュージェネ系統
  • 昭和兄弟系統
  • ンネェクサァス(ねっとり)

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