ウルトラマンザイン   作:魚介(改)貧弱卿

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エピソード19 BURK-年末-

「んで、年末だけれど……コーヒー飲む?夜更かしする?お酒とか入れちゃう?」

 

「俺はしない、コーヒーは飲む

酒は飲まないかつツマミは食う」

 

 年末という事で家に帰った雄介の前には勝手に上がり込んでいた翠風の姿があった。

 

「じゃあ前と同じだね、ピザとか宅配取っちゃう?」

「お前が買いたいなら良いが、それより寝させてもらって良いか?疲れてるんでな」

「寝正月だね、どーぞ、でも寝顔は見せてね」「誰が見せるか」

 

 中身のないトークをやり過ごした雄介は家に彼女が上がっている事自体を勤めて無視しながらベッドに横たわる。

 

「先お風呂入っちゃいなよ、私も入るから一緒にね」

「流石に狭いからよせ、それに寝られなくなるだろう」

「あははっ!」

 

 二人の話を打ち切って、雄介は風呂のためにガスをつける

 

「……はぁ……いっちゃった」

 

 雄介が視界から消えた途端に、翠風は表情を完全に消して廊下を見つめる。

 

「ゆーくんよりも……いや、ゆーくんの方が厄介かな……なかなかイカれメンタルしてるし、命とか軽く賭けちゃいそう」

 

 上下黒スーツに足元はタイツ、ここだけ見ると完全なOLだが、そんな事は関係ない

格好がどうあれ彼女は地球を滅ぼすべく侵略を行う存在である事に変わりはないのだ。

 

「どうせみんな死んじゃうんだから、そんなの意味ないのにね

それに魂になったらウボ=サスラもグラーキもみんな節操なく受け入れちゃうんだからダメだよ、ゆーくんはちゃーんと大いなるクトゥルフ様に帰依しなきゃね」

 

 

 融けた瞳で笑う彼女は

見紛うこともない、狂信の彩を滲ませていた。

 


 

「年末帰省とか、若人ならではの特権ですねぇ……」

「気が滅入るのは事実だが、我々もMACのように全滅したくなければ警戒を怠ることはできん」

 

「まぁそうですけれど……」

 

 コーヒーを飲みながら弘原海の言うように、年末年始や祝祭日であろうと、そんなことは怪獣や侵略者にとって何の意味もないのだから警戒を怠ってはおけない

だからこそ、年末年始などのタイミングでは一部を除いて若者達は家に帰しているのだ。

 

「お前もその若人なはずなんだがな」

「僕の方はとっくに詰んでますからね、友人家族なんてもういませんや

家なんて帰る場所もなきゃ帰りませんよ」

 

 生体エネルギー、空間エネルギー、時空振動などさまざまな種類のレーダーを統合した複合レーダーの探知結果を眺めながらぼやく

怪獣被害の被害者として、自宅周囲のほぼ全てを薙ぎ払われもはや家そのものも残ってはいない彼にとって、帰るべき場所など存在しないにも等しいのだ。

 

「たまたま外出してなきゃ死んでましたね、あの時は……まぁ、死んだようなものでしたけど」

 

 現代社会では施設や環境の復興が早すぎるあまりに犠牲者が軽視されるといった社会的問題もある

中学生の身でありながら友人や家族を突然失った彼に、社会はあまりにも厳しかったのだ。

 

 両親が死んだからなんだ、家を失ったからなんだ

ローンや税などの社会的義務、土地の管理、葬式の喪主、世帯主、突然様々な責務を押し付けられた挙句

誰にも顧みられる事はない

『そんなことは日常茶飯事だから』『自分も被害者だから』などとと言い訳をする社会は

彼を助ける事も導くこともなかった。

 

「そのあとは被災児童養護施設に引き取られて、家のあった土地も持っていかれちゃいましたけど

そのおかげで勉強に運動に集中できましたし、今の僕はそれがあってこそでしょうね」

 

「……気が滅入る話はやめだ、アンパン買ってくる」

「どうぞ」

 

 BURK日本基地、本日も平常運転。

 


 

「時差あるとこういう時面倒ですねぇ」

「それはそうね、各国基準とかあるし」

 

 エリアルベースに帰った二人もまた、新年を待っていた

特製クリスマス制服の恨みは忘れていないのか、ミニスカコスプレを勧めてきたスタッフ(男性)を少しだけ睨みつける三河隊員。

 

「イギリス基準なんでしたっけ?こういうの」

「グリニッジの本初子午線だったはずよ、あんまり正確に覚えてないけど」

 

 針式の腕時計を見つめていた三河が叫ぶ。

 

「あ、日変わりますよ皆さん!それじゃあみんなご一緒に」

 

 ちょうど口をつけたところだったホットチョコレートを慌てて空けた結が息を整えるのと同時に

その場にいたエリアルベースの隊員達が声をそろえる。

 


 

 場所は変わって、深海4000メートルの海溝の中、連絡艦スワローテイル艦内にて

 

「ん、日変わるわよ」

「深海だとLINEとかもみんな使えなくなるの厄介よね……」

「そりゃしょうがないじゃない、ほら行くわよ!」

 

 どうしたって季節感のない場所ではあるが、明と咲のオーシャンコンビも一斉に声を合わせた。





今後の作品展開の方針は?

  • ニュージェネ系統
  • 昭和兄弟系統
  • ンネェクサァス(ねっとり)

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