ウルトラマンザイン   作:魚介(改)貧弱卿

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エピソード23 西風来たれり 4

「デェェェェアッ」

 

 瞬間最速は雷速と等しいザインの高速移動(ソニックムーヴ)

元が地底出身の怪獣であるガボラの視力など高が知れているため、それに追随できるのは電気を感知できるネロンガのみ

そしてネロンガの有する最大の能力である透明化は、飢餓状態でなければ発動できない

この瞬間、ザインは完全な優位に立った。

 

「デュゥァッ!」

 

 雷を撒き散らしながらの蹴り上げがネロンガに直撃し、そのまま吹き飛ばす。

 

ウルトラ念力

 

 両手を真上に、数百メートル上空にまで飛ばされたネロンガを白い両目が見据え、その姿に掌を重ねる

空間を歪める念力がネロンガの体ごと周囲の次元を捻じ切り潰そうとする中で、背後から攻撃が()()()()()

そう、突き刺さったのだ。

 

「ジュァ!……デュ……」

 

 複相現実レイヤーへの位相干渉に必要な精神集中が失われ、ザインの念力攻撃は中断

逆に空中から落下してくるネロンガの下敷きになってしまう。

 

「デュゥアアアッ!!」

 

 響く絶叫と共に幾らかのコンクリート片を砕き、木々を潰して地に臥せる赤き巨躯

その背中に突き刺さっていたものは

圧縮された槍状のウラン塊

そう、劣化ウラン芯弾と同じ原理をもつ徹甲武装である

その正体はウランを捕食・濃縮する生態を持つガボラの体内に生成された排泄物(ふようひん)、放射性の低い劣化ウランのその塊だ。

 

 機械的な謎の高音を立てるネロンガと吼えるガボラ、共に健在

対してザインは背部に突き刺さった槍、そしてネロンガのボディプレスによる甚大なダメージ、エネルギーは枯渇寸前という状態に陥り、カラータイマーが鳴り始める。

 

「くそッ……! なんとしても、こいつらを発電所に入れるわけには行かないッ!」

 

 ザインは未だ、援護を受けない多対一の実戦を経験したことは無かった

そのため、奴等の攻撃に対して為す術をもたないのだ

しかし、この背にするのは原子力発電所

一歩も引くわけにはいかない。

 

「デュ……ダッ!」

 

 残り少ないエネルギー量で念力を振り絞ってネロンガの巨躯を投げ飛ばし、構えを取り直したザイン

彼の瞳に映ったのは、彼の背後から駆け抜けて、光線銃での狙撃を試みる二人の姿

大多数の怪獣に共通する弱点、ビームの発射口となる部位を狙ったピンポイント射撃

しかし嗚呼、ヒトの身に許される力のなんと僅かなことが

確かに直撃したはずの蒼い光弾は、その(弱点)にさえ損害を与える事は叶わないのだ。

 

「くそったれッ! やっぱりBURKガン程度じゃ蚊が刺す程度にも効かねぇってことかよッ……!」

「しかし、今から退却してもザインが敗れれば我々も助からないでしょう……! 隊長、ここは腹を括るしかありませんッ!」

 

 二人の狙いは全く正確であったが、マキシマムモードでのピンポイント射撃を持ってしてなお火力不足という現実を知る

そして二人は攻撃するポイントを統一する事での火力向上を狙いながら叫んだ。

 

「分かってらァッ! 駒門、ここまで来たらお前も覚悟を決めやがれッ!」

「元より私は……そのつもりですッ!」

 

 

 二人の射撃はネロンガの角の一つを焼き続け、僅かながらに抵抗の証を刻み続け、人類の勇姿を示し続ける

その心意気に応えぬほど、ウルトラマンは惰弱ではない。

 

「デュゥァァァアッ!」

 

 拳を開いたザインは出現時と同じポーズを取り、意識を統一し

生体電流を高圧で回し、誘電によって発電所のエネルギーを引き込んで吸収する。

 

「デェィ!」

 

 しかし、急激な給電は物理的な影響をもたらしてしまったのか発電所の一角の配電がショートし、火事の勢いが強まっていく。

 

「隊長、発電所内にはまだ逃げ遅れた職員達が居る模様です! 自分が避難誘導に向かいます!」

「江渡……!?済まん、危険な任務になるが……頼んだぞッ!」

「いいか、決して無理はするなよ! 入隊早々死なれては寝覚めが悪いからなッ!」

 

 雄介と同期入隊の陸戦部隊(キャバリアーズ)所属、江渡匡彦(エト・クニヒコ)

前線を押し上げてきていた戦車隊のなかで、乗機を失いながらも脱出・合流してきた新人隊員である。

 

「分かってますよ!」

 

 機体を失った彼もまた、BURKガンを抜いて射撃を仕掛けていたのだが、彼の射撃精度は御世辞にも高いとは言えず、散漫な光弾は火力たり得ていない

自分でもそれが分かっていたのか、彼は潔く銃をホルスターに戻し、建屋に向かって走り出した。

 

「……しかしあいつ、ここ最近は異様に勇敢なんだよなぁ。ついこの間までは、ちょっと頼りないくらいだったんだが……」

「もしかしたら彼も雄介に……ウルトラマンザインに刺激されているのかも知れませんね」

「ハハッ、俺達も負けていられねぇなッ!」

 

 発電所を目指し、ネロンガの電撃を掻い潜りながら走り続けている匡彦。その背中を一瞥する弘原海と琴乃は不思議そうに顔を見合わせる

入隊から半年も過ぎていない彼の行動は、しかしその経歴に反して熟練の戦士じみた判断であり、それに違和感を覚えつつも好意的に受け取っていた二人は彼の戦士としての成長としてそれを喜んでいた。

 

「くッ、火災がどんどん激しくなって……」

 

 一方、発電所に到着した匡彦は、職員達の悲鳴が聞こえる方向へと走り続けていたのだが――行手を阻む火の勢いに思わず足を止めていた。

そして、次の瞬間に起きた爆発に巻き込まれ、激しく吹っ飛ばされてしまう。

 

「うわぁぁっ!しまった……!」

 

 その弾みで彼の懐からは、スティック状の『装置』が落下していた。火の海へと転がり落ちてしまったその『装置』を目にした匡彦は、焦燥の表情を浮かべて顔を上げる。

 

 彼の『力』その点火装置である『装置』を失ってしまった国彦の頭上からザインの声が聞こえる。

 

「ジュアァ、ァァアッ……!」

「ザイン……!」

 

 発電所の門前では、ザインがネロンガとガボラの猛攻に晒され、防戦一方となっていたのだ

 ネロンガの角から飛ぶ電撃と、ガボラの大顎から吐き出される放射能火炎、その両方から発電所を守るべく身を挺している彼のカラータイマーは、先程にエネルギーを補給したにも関わらず、すでに激しく点滅している

エネルギー量の減少でも、残時間限界でもないカラータイマーの点滅

それはウルトラマンにとって、命の危機を示していた

ザインのピンチを目にした匡彦は、険しい面持ちで拳を握り締める。

 

(ネロンガに遅れを取るようなあいつではない……! やはりガボラかッ……!)

 

 スペシウム133も放射性元素であり、その自己崩壊による核爆発こそスペシウム光線の威力の源

スペシウムの+ーの双極を分離し、敵に直接打ち込んで反応させるザイナスフィアの原理は、スペシウムの核反応で相手を自爆させるというものだ

生ける核爆弾たるガボラに打ち込めば東京周囲一帯は更地どころでは済まない。

 

 ネロンガから先に始末しようにも、2体が肩を並べているこの状況では、どうしてもガボラを巻き添えにしてしまう。

 文字通りの爆弾を抱えているガボラが相手では、本来のペースで戦うことは非常に難しい。まともな多対一の経験もないままその窮地に立たされているザインはまさに、絶体絶命となっていたのだ。

 

(やはり……俺がなんとかするしかないッ! 済みませんクライム教官、俺にはあいつを放っておくことなんて出来ないッ!)

 

 意を決した若き戦士が炎の壁の中へと飛び込んで、その身に熱い抱擁を受けながらも壁を抜け、転がりながらもその手に再び収めた装置を見遣る。

 

「弟弟子・・・の窮地に……熱いとか苦しいとか、言ってられるかよッ!」

 

 ――そう。彼の肉体には数日前から、ウルトラ戦士が憑依していたのである。

 かつては共に師ウルトラマンクライムの元で修行を積んでいたザインの『兄弟子』それが匡彦と一心同体になっていたウルトラ戦士の正体だったのだ。

彼が火の海に飛び込んでまで取り戻したスティック状の物体は、本来の力を呼び覚ますための『起動点火装置(イグニッションキー)』だったのである。

 

「ゼファーァァッ!」

 

 彼は意を決して、スティック状の変身アイテム――『ゼファードスティック』のスイッチを押すとその先端部を点灯し、空高く突き上げる

100万ワットの輝きが放たれ、周囲の炎光さえも巻き込んで、真紅の巨人の姿を露わにするのだった。

今後の作品展開の方針は?

  • ニュージェネ系統
  • 昭和兄弟系統
  • ンネェクサァス(ねっとり)

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