暗い天井に吊るされた電灯が光を放つ、無機質な建屋の一角に作られたハリボテのスタジオ
その中で彼女は笑顔を浮かべる。
「はじめまして、地球のみんな
私はクラリッサ、夢の魔女
今日は私が主役になって、みんなにとってもあまーいチョコの作り方を教えてあげるわ」
ギランボ=クラリッサ、本来なら夢乃の精神世界に潜伏しているはずの彼女だが、普段濃紫や黒のドレスを纏う彼女もこの日ばかりは白衣に濃茶色のエプロンと伊達メガネとバンダナを付けて調理台に臨んでいた。
「クラリッサ、それじゃあ説明不足過ぎるでしょう?初めまして皆さん
私は八木夢乃、BURK日本支部の元隊員で、今は引退して隠居しています」
その横から現れた夢乃はクラリッサを制止し、その横に立って自らもお辞儀をする
夢の世界と現実の狭間であるこの小さな空間は彼女が万全に行動できる数少ない領域の一つだ。
「今日はクラリッサと一緒にチョコレートを作ろうと思います
みんなも一緒に作ってみようね」
同じような格好でクラリッサと並んだ夢乃が会釈して、クラリッサが軽く指を振ると唐突に音楽が鳴り始める。
「まずはみんな、手は洗いましたか?
食品を扱うことになるので、どれだけ気をつけても過剰ということはありませんよ」
夢の属性を強く反映したこの世界に雑菌など存在しないが、彼女たちにとっては重要事項であるらしい
一通り手を洗った後、クラリッサが語り始める。
「今日作るのは簡単に、板チョコを溶かして再整形するものよ、ご家庭の設備でも簡単に作れるから気負わずにやってみましょう」
クラリッサが召喚したのはいかにも歴史ありげな大鍋、俎板、板チョコと包丁、大と小のボウル、ゴムへらだ。
「まずはチョコを小さくしていくわ、こんな風に……あまりこだわり過ぎるのも良くないけれど、出来るだけ細かく刻んでいくわね」
大きな塊では湯煎して溶かす時に熱が伝わりづらく、熱の通り方に斑ができてしまう
そのため溶かす時にも時間がかかる、溶かした後にも風味が飛んでしまったりと問題が起こるのだ
そうならないように熱の通り方を可能な限りに均一にするため、チョコレートはできる限り細かくしたほうが良いのである。
「よいしょっと」
彼女の声と同時に振られた指にしたがい、大鍋が空を飛んでコンロに乗り、自ら火に架けられる
夢乃達がチョコを刻んでいるうちに十分な温度を受けたのか、さっと火を止めて再び二人の元へと飛んでいく。
「それじゃあ湯煎に入ります、小さい方のボウルに細かく刻んだチョコレートを入れて、大きな方のボウルにお湯を注いだら、小さい方のボウルをお湯に浸かるように重ねるの」
「こうする事で、直接チョコレートに触れさせずにお湯の熱をチョコレートに伝えて溶かすのよ」
ちなみに50〜55°Cの湯が適温である
これ以上では熱が通り過ぎてしまう事が多く、これ以下では溶けないことが多い。
「そのままでも待っていれば溶けるけれど、ゆっくりかき混ぜてあげた方が均一に溶けるので、混ぜていきます」
そっとゴムへらを差し込み、細かく刻まれたチョコレートをかき混ぜていく
一分程度で徐々に原型を失いはじめたチョコレートはやがて完全に溶け切るのだった。
「うん、ちょうどよく溶けてきたわね
それじゃあ引き揚げるわよ
あんまり長く湯煎しているとチョコレートの油分が浮いて分離してしまったりして品質が落ちるから、こういうのは確認と思い切りが大事よ」
溶けたチョコレートのボウルを持ち上げたクラリッサはそれに少しだけ指を当ててみて、その指さわりに満足したように微笑を浮かべる。
「生地が出来たら後は型に入れて固める……のだけれど、ここからは温度管理と手際が命だわ
気をつけて、ついて来れる人だけついて来なさい」
彼女の動作が急加速し、人差し指に残ったチョコが空中に軌跡を描くとそれらが実体を得たようにオーブンシート、バットやハートの型へと変化する。
「ちょっと待ってよぉ」
「待たないわ、貴女の方こそついて来なさいよね、さぁ貴女はコルネを作っておいて」
現在のチョコの温度は約40°Cと言ったところだ。
「湯煎に使ったボウルに今度は冷水(10〜15°C)を入れて同じように重ねてチョコレートを冷やすわ
大体30°Cくらいまで冷えたら……粘りが出て来て手指に結構な力が要るけれど頑張りなさい、気合いよ」
大体40〜50回程全体をかき回したらチョコは全体的にペースト状になった
テンパリングの完了である。
「ねぇコルネってこれで良いの?」
夢乃がオーブンシートを巻いて作った漏斗型をクラリッサに手渡すと、彼女は一瞥と同時にそれを目の前に置く。
「ええ、上出来よ
みんな見えるかしら?こうやって物を巻いて作る簡易の絞り口のことをコルネっていうの
ヤギの角笛と似ているらしいわね」
「あー、もしかして意地悪?」
「さぁ?知らないわね」
もう、と頬を膨らせる
「さぁ、型に流していくわよ
できる限り空気が入らないようにね、マヨネーズとかケチャップとか、残り少ないのを絞り出そうとした時に暴発する悲劇はみんなも経験あるんじゃないかしら?」
「うわ……絶対面倒くさいやつじゃん」
本当に面倒臭そうに呟く彼女の声を聞き流したクラリッサは手際よくチョコレートを型に流し込み、それを冷蔵庫へと静置した。
「あとは大体1〜2時間置いておけば完成よ、型を外したらラッピングすることになるから、今のうちに包装を選びましょうか」
彼女が手を叩くと煙を立てて現れる無数の包装紙とリボン達、さまざまな色と柄のそれらをじっくりと吟味して、その中から2人が選んだのはそれぞれ
銀の散らされた群青の包装紙に橙色のリボンと赤一色の包装紙に銀と白のリボンだった。
「そろそろ良いかしら?」
「えぇ、もう固まっているわね」
水を除いたおおよその物質と同じくチョコレートは冷え固まると体積が縮むため、型とチョコの間には僅かながら空間ができる
その隙間が固まった頃合を見計らうにも、型からの剥離のためにも役立つのだ。
トントンと衝撃を与えて型から外したチョコレートをシートに乗せて
そのシートを基準にボール紙を折って箱を作り、それを包装紙でラッピングし、最後にリボンを留めたらこれでようやく完成だ
準備から数えれば2時間と言ったところだろうか?
「お疲れ様ね、じゃああとはお片付けをしましょうか」
訂正、2時間半は掛かった。
ちなみにBURK日本支部は一括の名義で全員に配布します
ホワイトデーも一括で全員にお返しがありますが、それぞれ個人で購入・プレゼントするのも自由としています。
今後の作品展開の方針は?
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ニュージェネ系統
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昭和兄弟系統
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ンネェクサァス(ねっとり)