ウルトラマンザイン   作:魚介(改)貧弱卿

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エピソード4 降り注ぐ罪禍 1

 高級マンションの一室の扉がガチャリと開き、家主がその身を滑り込ませる

玄関でハイヒールのパンプスを脱いで揃え、そのままフローリングの床に足を下ろす

絨毯もなく冷たい床にも動じることなく、表情ひとつ変えずに女は部屋の奥へと向かう。

 

「……ねぇ、聞いてくれる?

今日また部長に無茶振りされてね?朝言われた見積もり昼に終わらせろ、なんて無理に決まってるじゃない、私だって他にも仕事あるんだし、本当は部長がやってる筈の仕事なんてやってらんないわよ

新人くんだって入ってたばっかりなんだし、まだエクセルだって怪しいんだからちゃんと誰かにつけないと行けないし、教育の報告書だって読まなきゃなのに私に仕事押し付けて自分はデスクでコーヒー飲んでばっかりでさ、

隙あらばお尻触ろうとしてくるし、もう最悪、訴えたら勝てるでしょ」

 

 

 明かりも灯されていない、暗く誰もいない部屋でアクアリウムの水槽に向かって話しかける女

ジャケットを脱いで投げ捨てるように放って、愚痴ばかりを水槽へと注ぎ込む

黒のビジネススーツは暗い部屋の中ではほとんど見えないが、逆に顕になった白いシャツだけは浮かぶように強調される

女が覗き込む水槽では、一匹のウナギが泳いでいた……。

 

 

「ねぇ、キング」

 


 

「ぷぁ……あぁ紅茶美味い……」

 

 雄介はというと、買ってきた12時の紅茶(ストレートティー)を一気飲みしていた

流石に雄介とて話すことも多い家庭教師をやっていれば喉も乾く

そんな時に彼がよく飲むのがこの紅茶であった。

 

(もう夕食の時間だろう?あまり水分をとり過ぎると体調を崩してしまう、それに一気飲みは体に悪い、控えるべきだ)

「走ったり飛んだりしたし、喋ると喉が乾くからな、乾きと飢えはその場の事だろ?」

 

 今日はディノゾールリバースを撃破したばかりであるし、砂埃で何度もえずく羽目になったのも事実なのだから、雄介の意見も認めざるを得ないと考えたのか、ザインは押し黙った。

 

「そういえば、ウルトラマンって飯食うのか?」

 

(光の国ではスパークの光エネルギーを直接補給するのがスタンダードなので一般的ではないが、食事の概念・文化は存在している、我々の顔には口があるだろう?口腔は存在しない、あくまで痕跡器官ではあるが人工進化以前には我々も食事していたらしいな

それ以外にも、地球に来たウルトラマン達によって限定的ながらにその文化は伝えられている

メビウスがカレーライスの味覚データを保存複製していたし、食材さえあればエース・タロウ・ユリアン・80といった数人は料理自体もできると聞く)

 

(ほーう……じゃあカレーライスは食ったことあるのか、今度食材買って作ってみるか?)

 

(自分で作るのは流石に初めてだな、指導を頼むぞ雄介

……そういえば、地球では金銭の概念も発達しているな、やはり食事や物品の使用・所持に影響するからなのか?)

 

 雄介は立ち上がるとペットボトルのラベルを剥がして捨てて、ボトルを水洗いしてペットボトル用のカゴに放り込み、そのまま料理の準備を始める。

 

(そっか、食事がないと食材買う事もないよな、人間は物的資源を常に消費するから、どうしても取引のために金銭の概念を発達させざるを得なかったんだよ

職業で手に入る資源が限定される社会の構造上、海漁師が山菜を、狩人が武器を、建築屋が食事を、それぞれ手に入れるためには相互交換が不可欠だからな)

 

 二口のコンロに火をつけ、片方に水を入れた鍋を、片方にフライパンを置く。

 

(なるほど……社会構造は生物の構造に大きく影響される、ということか

必要のないことは発展しないが、必要なものはその限りに成長する

まさに師に聞く通りだ)

 

 卓袱台に椀を置き、袋詰めのサラダを平皿に

油を敷いたフライパンに玉ねぎを刻み込んで軽く炒め、溶き卵を流し入れ、素早く巻き上げていく

味噌汁になる予定の湯が煮立つ頃には卵焼きは綺麗な長方形に巻き込まれて五等分されていた

 

(さて今日のメインは……これ)

 

 和布と麩を刻んで鍋に入れた雄介が冷蔵庫を開けて取り出したのは。

 

(肉、だな)

(豚バラ肉、他の生き物を殺して食う人間のカルマがよく現れてるだろ?

なるべく生きてた形が分からないように血を抜いて分解して部品ごとに売ってるんだ

まぁ肉質が部位によっても違うから一緒くたにするのは良くないってのもあるんだけどさ)

 

 フライパンに油を敷き直し、醤油とボトル出汁を注いでチューブ生姜とニンニクを適当に追加して温め、タレを作ってから豚バラ肉を投入

当然焦げ付いていくがこのコゲこそカラメル化したタレであり、創作合成料理:生姜/照り焼きの最大の味わいなのだ。

 

(大丈夫なのか雄介!焦げ付いていないか!?)

「まぁ見てなさい」

 

 油跳ねに耐え続け火加減を見ながらひっくり返した豚肉には見事な透き飴色の照りがつき

漂う醤油とカツオ出汁の古風な匂いと生姜ニンニクのエスニックな香りが重なり合う。

 

「よし、完成」

 

 サラダの上に適当に置いた豚肉にフライパンに残ったタレを掛け直し

その味をサラダの方にも染み込ませる。

 

「それじゃあいただきます」

(いただきます)

 

 卵焼きは炒め玉ねぎの絶妙な堅さと舌で崩せるほどにふんわりとした卵の歯ごたえが心地よく、プレーンなだけあってあっさりとした味わい

米を一口入れて消費しつつ味をリセットし、湯気を立てる味噌汁の椀を取る。

 

(同化してるから分かる、これは美味いな……光の国ではエネルギー補給しかしなかったから初めて食べる筈だが、どこか懐かしい味だ)

(多分俺の影響だろうな、シャキシャキのキャベツの食感に震えろ)

 

 冗談混じりに会話しながら食事をすすめる二人は次にサラダの上側を僅かに取って米に乗せてセットで口に運んだ。

 

「うん、良い味」

 

 醤油ベースの濃いめのタレは味の薄いキャベツと米にこそよく似合う

味噌汁を一口飲んで麩を噛み切りつつついにメインへと箸を付けて

生姜照り焼きを米に乗せて口へ。

 

 スーパーの薄めのバラ肉は焼き上げられても硬くなりづらく、簡単に噛み切ることができる

焦げが出来ているのは表面のタレだけで肉の断面は白く、歯で噛み切ったそこから溢れ出した肉汁とタレの味が雄介に米を掻き込ませる。

 

「ぷぁ〜……」

 

 米を一頻り掻き込んだ雄介は口の中をリセットするべく一旦茶を飲もうとして……卵焼きへ。

 

(「あ、いいなこれ)」

 

 薄味プレーンの玉ねぎ卵焼きの歯応えと口の中に残る肉汁の味が重なり合い想定外の即興曲を奏でるのを感じた雄介の一言とザインの念話が重なった。

 


 

 

(「ごちそうさまでした」)

 

 空になった皿に手を合わせた雄介とザイン、念力を活用して皿をシンクに運びながら湯船に湯を張り布団を出して寝る用意を整え

その後は普通に皿を洗って風呂に入り、今しがた脱いだ服を洗濯機に突っ込む。

 

(こういう動作も初めてなんだよな)

(あぁ、そもそも衣類の概念も多少の装飾やプロテクターくらいに衰退しているからな

人間態に変身するタイプならそれなりに衣装を拵える必要もあるが

私は雄介に融合しているからそれも不要だ)

 

 喧騒に満ちた昼と違って

夜は静かに、思い思いに過ぎていく




たまには怪獣出てこなくてもいいよね……?

今後の作品展開の方針は?

  • ニュージェネ系統
  • 昭和兄弟系統
  • ンネェクサァス(ねっとり)
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