寝取られエロゲ世界にTS転生したら幼馴染が竿役間男だった件について   作:カラスバ

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イドバタバタバタ

 黒男は一人帰路に就いていた。

 本来だったら病院でしばらく歩夢と共に時間を過ごすつもりだったが、しかし事情が事情だったのでやむを得ない。

 やむを得ないと感じる程度には、あかりの言葉は黒男にとって無視できないものだった。

 

「一緒に一杯遊んで欲しい」

 

 それは自分だって願ったものだったし、そして結局叶えられなかったものだった。

 後悔してもし切れない。

 自分があまりにも愚かで、何より自分勝手だったから。

 そしてそれが歩夢を怪我させる結果になってしまった事が、何より黒男は許せなかった。

 

 一応歩夢の言葉を信じるのならば、彼女は順調に回復に向かっている。

 ああしてキッズスペースで友人(?)と遊ぶ事が出来ているのだから、そうなのだろう。

 聖園あかり。

 どこか自分に似ている少女。

 シンパシーを感じている訳ではない。

 ただ、鏡写しの自分の姿を見せられているようで、見ていて正直気まずかった。

 一体全体、性別も見た目も全然違う彼女にどうしてそんな感情を抱いているのかは分からない、ただ直感的にそう思っただけだ。

 

 どちらにせよ、気まずくは思ったが別に悪感情を抱いている訳ではない。

 むしろ同情すらしている。

 一人きりで病院で入院しているのは精神的にとても苦痛だと思う。

 きっと両親もずっと一緒にいられる訳はないだろうし。

 それが歩夢と共に時間を過ごす事で和らぐのならば、それに越した事はない。

 

 ……なんていうか、ここ数か月で自分は変わってしまったような気がする。

 前まではもっと自分に我儘だった気がする。

 それがどうして、今では歩夢と、そしてその友人の事を気にかけているのだろう?

 ただただエロい事を考えて、歩夢と一緒に遊んで、隙を見て何とかして手を出そうとして――失敗する。

 その時間がとても好きで――心地が良かった。

 

 だけど今はどうだろう?

 歩夢はいない。

 黒男は独りぼっちだ。

 学校で喋る連中もあくまで「共通の話題を持つクラスメイト」でしかないし、そこから「遊びたいと思える友人」には進展しない。

 それ以前に、黒男は誰かと一緒に遊ぶ気にはなれなかった。

 自分の所為で歩夢が病院に入院しているのに、自分だけが心地良い時間に浸っている?

 そんな事、出来ない。

 出来る筈がなかった。

 

 とはいえ、何もせずにいる訳にはいかない。

 人間である以上生きていかなくてはならない。

 そういう気分ではないけれども、必死になって歩んでいかなくてはならないのだから――

 

 

「……?」

 

 そうして道を歩いて、そして家がある角を曲がるところまでやって来ると、何やら話し声が聞こえてくる。

 女性の声だ。

 そしてそれはイヤでも聞き覚えのあるものだった。

 

(母……)

 

 一人は自分の母親。

 そしてもう一人は、歩夢のお母さんだった。

 黒男は思わず角を曲がらずに息を潜め、そして二人の会話を聞く事にした。

 

「――そういえば、御宅の娘さん事故にあったんですってね?」

 

 開口一番、自分の母親がどこか嬉々とした口調で言うのが聞こえてきた。

 

「一体どうして? もしかして御宅の教育が悪いのかしら」

「そうねぇ、私としてはもっと男の腕を掴んで逃がさないようにしておきなさいと言っているのですが」

「男を必死に捕まえていないと逃げられちゃうようなところ、誰に似たのかしらね? それとも、どこにも学習塾に通っていないみたいだし、頭が悪いんじゃない?」

「馬鹿なのは確かにそうね、あれが頭が良いって事になるのならば世界がひっくり返るわ」

「あらあら、お母様にも見放されるなんて、本当に可哀そうな子っ」

 

 聞いていられなくなった黒男は角を曲がって二人のところへと歩いていく。

 黒男の姿を見、自分の母親はまるで鬼の首を取ったかのような表情をする。

 

「あら、黒男――」

「『早く家に入ってろよ』」

「……」

 

 彼の言葉を聞き、黒男の母親は黙って家に入っていく。

 歩夢のお母さんの方に向き直った黒男は「ごめんなさい」と頭を下げる。

 歩夢のお母さんはいきなり現れた黒男、そして彼に言われて素直に従った母親の姿に驚いたもののの、すぐに笑顔を見せる。

 

「別に、良いわよ。親の事で息子が謝る必要性はどこにもないんだから。それより、貴方の方が大変、でしょう?」

「でも――」

「それより、歩夢はどうだった?」

「それが、その……病院の友達と仲良くしてて、それで」

「帰ってきた、と」

 

 まるで責められているようで、黒男は顔を伏せる。

 そんな黒男の姿に苦笑した歩夢のお母さんは「もう」とその頭を撫でる。

 

「貴方が恥ずかしがり屋なのは、私も知っているわよ。でもま、もうちょっと勇気を出すべきね」

「それは、でも」

「ま、女の子の間に挟まるのはなかなかに大変だしね。ある意味帰って来たのは正解かも――次は、一人でいるチャンスを探して、アタックしてみなさいな」

「は、はぁ……」

 

 なんでこの人、自分に対してこんな事を言ってくるのだろう?

 特に最近はあからさまになっているような気がするけど、一体なんで?

 とはいえ黒男としては普通に話をする事が出来る重要な一人なので、「分かりました」と相槌を打ち、それから「それじゃあ」とその場を後にする。

 

 家に入り、それから自室へと入る。

 扉のカギをしっかり閉じ、それからパソコンの電源を入れた。

 今度会う時の話題でも探しておくか。

 そんな軽い気持ちでネットサーフィンを開始する。

 そしてウェブニュースの一面を見、首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……密輸業者が持ち込んだ危険生物の一体が、脱走?」


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