寝取られエロゲ世界にTS転生したら幼馴染が竿役間男だった件について   作:カラスバ

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子供の残酷さにこそ光を見出す事だって、きっとある筈


ブルーローズを手折る様に

「あかりちゃんは身体が弱いんだから大丈夫よ!」

 

 それは聖園あかりが良く聞く言葉だった。

 病弱で生来身体が脆かった彼女は常に両親から心配されて育ってきた。

 ちょっとした事で体調を崩しがちだった彼女の事を両親は常に気にかけていて、だからちょっとした無理も彼女にはさせなかった。

 それはすべて、彼女の事を愛していたからだろう。

 しかし、それでも。

 

(お母さんも、お父さんも、私の事も見てない)

 

 常に完璧に計算され尽くされた食事を時間通りに食べ、完食はせずに腹八分目で終わらせる。

 眠る時間も決められていた、本なんて読んで貰った事もなかった。

 外で遊んだ事もない、お友達を作った事もない。

 勉強だって、本当はもっとやりたかった。

 

 自分の夢、願望、欲求。

 それらを一切叶えてくれないのに、両親は何時だって「あなたの為だ」と言う。

 不思議だった。

 どうして自分はこんなにも心が虚ろなのに、それを気づいてくれないのだろう。

 愛しているって、心の底から言えるんだろう。

 それがとても、あかりにとっては不思議で仕方がなかった。

 

 病院に入院してもその疑問は常につき纏った。

 いや、あるいはマシになったかもしれない。

 

(お医者様は、それがお仕事だから)

 

 お仕事を遂行しているだけなのだから、仕方がない。

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 矛盾しているようで、間違ってはいないと思う。

 

 それでも、結局のところ自分の環境は変わらない。

 まるで檻の中にいるようだった。

 見る事の出来る風景が固定され、移動出来る範囲は決められて、食事は何時だって他人が持って来たものを見られながら食べる。

 快適なのは間違いない。

 誰よりも大切にされているのだろう。

 それでも、でも。

 

(私は――)

 

 

 

 

 そんなある日、聖園あかりは雛木歩夢に出会った。

 

 自分の活動範囲であるキッズスペースで時間を持て余していた時、偶然出会う事になった彼女は開口一番あかりに尋ねてきた。

 

「貴方、名前はなんて言うの?」

 

 自分の周りにいる人間は何時だって自分の事を知っている事が第一条件だったので、ある意味自分の名前を聞かれるというのはとても新鮮だった。

 おずおずと「聖園あかり、です」と名乗ると、彼女はきらりと目を輝かせた。

 

「聖園あかりって言うんだ? 道理で病弱そうだった!」

 

 どういう意味?

 しかしそう尋ねるよりも前に歩夢が矢継ぎ早に言葉攻めをして来る。

 どこに住んでいるのか、とか。

 どんな食べ物が好きなのか、とか。

 そんな取り留めのない事。

 それは聖園あかりにとっては正直どうでも良いような――いつも憧れていた事だった。

 

 こんな風に誰かからどうでも良いような事をされたかった。

 無味無臭の毒にも薬にもならない、全く持って意味のない事を。

 ドキドキと決して強くない心臓が鼓動する。

 高揚で眩暈がする。

 それでも決して気持ちは昂るばかりで、何時までもこうしていたいと思った。

 

 結局途中で看護婦の人に止められ、病室に戻る事になった。

 帰る途中、その人に雛木歩夢という女の子が車に轢かれ入院している事を知った。

 そうには見えなかった。

 いや、車椅子に載せられた彼女は全身包帯塗れだったのでこれは絶対物理的に怪我をしたのだろうなとは思ってはいた。

 しかし彼女から発せられるいくつもの元気な言葉達からは、そんな事故に遭ったという悲壮感などを感じられなかった。

 それ以上に、目の前の聖園あかりの事を知りたくて知りたくて仕方がないって感じだった。

 

 自分みたいに脆い存在に対して興味を示してくれる。

 正直どうしてだろうと思った。

 だって、自分の事を知れば知るほどにその扱いが如何に難しく、そして面倒かが分かって来るだろうから。

 そしていずれは他人行儀になる。

 しかし――むしろ歩夢の勢いは増すばかりだった。

 

 もしかしてこの人、自分の事なんてどうでも良いと思っているのだろうか?

 ふと、そのように思った。

 それなら自分がどうなろうと知った事ではないだろうし、自分勝手に話しかけてくる理由の説明にもなる。

 

 それでも良かった。

 それで良かった。

 だって自分は、その自分勝手さに助けられたのだから。

 赤の他人から乱雑に扱われるなんて経験、今までした事がなかった。

 すべてがすべて未経験。

  

 だから、今度は自分が彼女と同じように踏み込む番だと、そう思った。

 

(お姉さま……)

 

 最初こそ驚いていたけれど、だけど受け入れてくれた日の事を今でも覚えている。

 その表情を見て、してやったりとも思った。

 その後、しっかりやり返されけど。

 そんな風に子供みたいに馬鹿馬鹿しいやり取りを出来る事が、何より嬉しかった。

 

 だけどこの時間は永遠ではない。

 

 いずれ歩夢は回復し、病院から退院する。

 そうなったらまた、自分は独りぼっちだ――でも。

 だけど、もう大丈夫。

 私はもう、沢山お姉さまからぽかぽかするものを貰ったから。

 だから、大丈夫。

 これさえあれば、一人でも頑張れるんだ。

 もしかしたら目の前に広がる檻をこじ開けられるかもしれない。

 そんな風に思えるほどに、自分は成長出来たのだ。

 

 そんな時だった。

 

 

 聖園あかりが、毒島黒男に出会ったのは。


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