寝取られエロゲ世界にTS転生したら幼馴染が竿役間男だった件について   作:カラスバ

17 / 22
刹那の決着

 とはいえ威勢よく啖呵を切ったものの、黒男の勝利は極めて難しいものだった。

 第一に重要なのはあかりの生還。

 これは前提だ。

 彼女を傷つけてはならない。

 そしてそれは今のところ何とかなっている。

 自分に注意を向け、そのままじりじりと移動する。

 これなら何とか自分にとって都合の良い展開に持っていけるのではないかと淡い期待をする。

 

 しかし、やはりそう上手くいってはくれない。

 その獣はすぐに混乱から立ち直り、目の前にいる黒男が小さい子供でしかない事を判断する。

 ――取るに足らない障害でしかない事を理解する。

 そしてすぐに排除するべく、大地を蹴って飛び掛かってきた。

 

「……っ、『止まれ』!」

 

 一瞬の、硬直。

 しかしすぐにその身体は自由になって再びゆっくりと移動を開始する。

 

(やっぱり、完全には効かないか)

 

 そもそも動物に効くかも怪しかった。

 自分に注意を向けられただけでも御の字だったし、さっきのように動きを牽制出来たのも良かった。

 しかし、そう何度も効くとは思わないべきだろう。

 今のところ、あちらは黒男をあくまで障害としてしか見ておらず、簡単に倒せるものと思っているみたいだ。

 だが、本格的に敵とみなして排除しようとし始めたら、どうなるか。

 そうなる前に、早期の決着が望ましいだろう。

 

(そもそも、倒す必要はないのだけど)

 

 第二に重要なのは、自分の生存。

 そしてそれは別に目の前の獣を倒す事が条件ではない。

 究極の話、目の前の獣がここから立ち去ってくればそれで良いし、運良く武装した集団がやって来てあの獣を排除してくれても良い。

 ただ、ここは病院の死角、デッドスペースとも言えるべき場所。

 人はやって来ない、助けの声を上げても聞こえない。

 だとしたら、やはり――

 

(自分で何とかするしか、ない)

 

 黒男はまず自分の手の内にある石に意識を向ける。

 武器は、これだけ。

 なんて心許ない。

 どう考えても、「どうにか」出来るとは思えない。

 あんな怪獣染みた奴を倒すのならばそれこそ機関銃とか必要になってくるのではないか?

 全速力で投げたら、どうにかなるか?

 その頭蓋骨を打ち砕けば、何とかなる?

 しかし相当な勢いと威力で投げつけないと無理だろう。

 そんなの、普通の小学生には無理だ。

 

 そして幸い、自分は普通の小学生ではない。

 

 

 

 

 

「【時よ止まれ】」

 

 刹那、時間が停止する。

 否、少しだけ違う。

 ゆっくりと時間は経過しているようだが、その動きがゆっくりなので一瞬時が止まっているような錯覚をしてしまう。

 そんな中、黒男は自身に告げる。

 

 

「『動き出せ』」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ギチギチと身体が悲鳴を上げるのを感じる。

 しかし、時が止まっている中で黒男はまだまだ水中の中にいるようにのんびりとした動きだったが、それでも動き出す事が出来た。

 

 時間停止。

 黒男はこの能力を『思考能力の超高速化』と定義した。

 思考を高速化する事で時間が停止しているかのような錯覚を覚えていると、そう考えた。

 その中で動くためには、思考と同等の速度で動くしかない。

 それを実現するためには――身体能力を強引に解放するしかなかった。

 幸い、黒男にはその手段を持っていた。

 無論代償は多少支払わなければならないだろう。

 常人が普通に引き出せない力を無理に出しているのだから。

 だけど、それでも。

 

(今を、生きる為だ)

 

 黒男は全身を使って石を振りかぶる。

 今でも結構無理している自覚はあるので、ここから更に無理な事をしようとは思わない。

 全身の筋肉を使って――そして。

 

 

「……ッ!!!!」

 

 砲丸の如き勢いで射出される、石。

 ――次の瞬間、時間が解放された。

 すべてが早くなり、音が復活する。

 流星の如き勢いで石が飛んでいくのをちらっと見――黒男はずっこけそうになる。

 身体を精一杯振り回し、転倒を防ぐ。

 

 ――そして何かが砕け、弾ける音が聞こえた。

 

 顔を上げると、そこには石が脳天に半分埋まり、痛みにのたうち回る獣の姿があった。

 しかしそのように動いていられるのも一瞬だった。

 すぐにばたんと大きな音を立て倒れ、その場でびくびくと痙攣し始める。

 

「よ、っし……」

 

 弱弱しく自身の勝利を確信する。

 全身が痛い。

 文字通り身体の全身の筋肉が切断したような錯覚を覚える。

 もしかしたら本当にそうなっているかもしれない。

 なんにしても――次は、あかりの番だ。

 

 残念ながら、もう自分の力で助けを呼びに行く事は出来そうにない。

 黒男は渾身の力を振り絞り、ポケットからスマホを取り出す。 

 大丈夫、スマホは無事だった。

 震える指でスマホのロックを解除。

 電話帳を開き、二つしか登録されていない電話番号のうちの一つを選択する。

 申し訳ないけど――今、自分はあの人にしか連絡出来ない。

 

「もし、もし――」




黒男の時間停止能力について

本来は本当に物語に出てくるような「自分だけが動き回る事の出来る停止した世界」を展開する能力だったが、それが不完全に発動し、不幸な事故を目撃した事で黒男はその能力を「思考能力の超高速化」と定義。
それにより能力は変質し、今のような劣化(?)したものに落ち着く事になった。

催眠術による力の解放によってその中でも動き出せるようになったが、当然ただとはいかない。
犠牲を支払う必要があるし、その覚悟が黒男にはあった。










なんかクソボケ主人公が全く姿を現しませんが、安心してください。
彼女のとっておきの出番は最後に用意しています。
楽しみにしていてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。