寝取られエロゲ世界にTS転生したら幼馴染が竿役間男だった件について   作:カラスバ

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変わり者の二人

 結構大事になってしまった。

 

 そもそもあの危険生物――バフォメットはテレビで話題に上がるほどだった。

 それが小学生の手によって殺されたというのは、残念ながら誰にも知られていないけど。

 

 そしてその本人はというとバフォメットを倒す代償として、全身筋肉痛を引き起こしていた。

 ――それだけで済んだのか、と本人は拍子抜けしていた。

 なんなら骨の一本くらい覚悟していた。

 なんにせよ彼はそういう理由でしばらく家のベッドで横にならざるを得なかった。

 病院には行ってない。

 行くと、なんか面倒臭い事になるような気がしたからだ。

 

 そんな訳で脱走した大型の危険生物の事を皆が忘れた頃、改めて黒男は病院へと向かうのだった。

 とはいえ、今回は今まで通り歩夢に会いに来たわけではない。

 聖園あかりに会いに行く為だった。

 あのあと、どうなったのだろうか?

 連絡を貰っていないし、貰う手段もない。

 そういう訳で、直に足を運ぶしかないのだ

 

「あら、黒男君。もう大丈夫なの?」

 

 家を出ると、植木に水をやっていた歩夢のお母さんと出会う。

 ……あの時、彼が連絡をしたのは彼女だった。

 いきなりだったのにすぐに緊急事態を察した彼女はすぐに事態を解決すべく行動を開始した。

 車に乗って現場に到着。

 その後は彼の要望通り病院に連絡した後、車に乗ってその場から離脱した。

 あの獣の死体を見たのにも拘らず、歩夢のお母さんは悲鳴一つ上げなかった。

 それどころか、何が起こったのか尋ねようともしなかった。

 

「男には秘密の一つや二つ、必要よ」

 

 とは本人の談。

 

「ま、正確に言うとアレ。貴方が殺した事がバレたら世間的に大変な事になるでしょうからね」

 

 しかしそれでも、あかりの事は隠し切れない。

 実際にバフォメットの餌食になってしまったのだから。

 あの後、ベッドの上に拘束されていた黒男はスマホを使って情報を集めてみた。

 

 バフォメットがあの尻尾の蛇から注入する毒。

 それは人間の身体を、すぐに自分の子供を産めるようにする。

 具体的に言うと骨盤を含めた腰の形を強引に変形させるらしい。

 他にも生々しい話を聞いたが、しかし一応現代、外国では医療用として活用されているなど悪い話だけではない。

 何にせよそれを打ち込まれたあかりがただで済んでいる訳がなかった。

 

「今日は送っていかなくても良い?」

「いえ、自転車で行きます」

「気を付けて行くのよ~」

 

 そんな訳で自転車に乗り、病院へと向かう。

 ちりんちりんと操縦しながら考えるのは、これからの事だ。

 

(これから、歩夢とどんな顔をして会えば良いんだろうな)

 

 自分の力を理解すればするほどに、もっと上手いやり方はなかったのだろうかと考える。

 欲望のままに動く事を後悔はしない。

 そんな事を今更後悔出来てしまうほど、自分は善人ではなかった。

 何ならそれを通じて歩夢のいろいろな事を知れて良かったとすら思っている。

 

 自分は最低な人間だ。

 だから、そんな最低な人間が、これからも歩夢と一緒にいても良いのか。

 そんな風に考えてしまう。

 

 きっとこれからも、自分は歩夢と一緒にいる限りこの力を使うだろう。

 そうして歩夢を汚していき、いずれは――

 

(いずれは)

 

 そうなって欲しいと思う。

 思うから、やはり一緒にいるべきではないのではないかと思ってしまう。

 

(……)

 

 そうこうしている内に、黒男は病院へと辿り着く。

 しかしすぐに病室へと直行する気分にはなれず、代わりに周囲の庭になっているところを歩く事にする。

 季節はもう冬に近くなっていて、空気は若干肌寒い。

 いつの間にか夏の陽気は消え去っていた。

 一体、何時からだろうと思い出そうにも思い出せない。

 きっとそれは、誰も同じだろう。

 

 そうして黒男は気づいたら以前、あの獣と対峙した場所へと足を運んでいた。

 一体どうなったのだろうと興味を持っていたからかもしれない。

 ……しかし、そこは特に変化はなく、獣が折ったと思わしき枝の傷すらその場に残されていた。

 あの日の出来事はこの世界的には些細なものでしかなかったと、まるでそう言われているようだった。

 

「黒男さん、奇遇ですね」

 

 声を掛けられ、振り返る。

 聖園あかりだった。

 以前と変わらず厚着気味の格好をしているが、違うところといえば今日はロングスカートを履いている事だろうか?

 

「大丈夫なのか?」

 

 それはあの獣に襲われた傷は問題ないのか。

 そして元々の病弱な身体は問題ないのか。

 何より、大人達は茲にいる事を許しているのか。

 それらを含めての言葉だった。

 しかしあかりはそれに対しては答えず、代わりに「どうしてここにいるのですか?」と逆に尋ねてきた。

 

「お姉さまに会いに来たなら、早くいけば良いのに」

「……いや、今日はお前に会いに来たんだよ」

「あかりに?」

「ほら、その。大丈夫なのかなって思って」

 

 その問いに対して、あかりはくしゃっと表情を歪める。

 どうやら自分は質問を間違えたらしい事は、黒男もすぐに分かった。

 

「大丈夫、なのかなぁ……」

 

 きゅっ、とそこであかりはスカートの裾を絞ってみせた。

 そうする事で彼女の腰回りが浮き出る事になった訳だが。

 

「私、こんなになっちゃった」

 

 まだ第二次性徴を迎えていないらしかった、すらっとした肉体。

 胸の膨らみもまだなく、しかしその腰だけが異常に発達していた。

 お尻だけが大人になっている。

 言葉で言うのは簡単だが、しかしその身体の変化を本人が受け付けているのかどうかについては、彼女の表情を見れば火を見るよりも明らかだった。

 

「こんな、こんな……っ、全然、キモチワルイ、でしょう?」

「それは」

「気持ち悪いよ……こんなお尻、お姉さまが見たら絶対、私の事を嫌いになっちゃう」

 

 彼女は涙を見せないけど。

 だけど心中で泣いている。

 

「黒男さん、私はやっぱり貴方が嫌い。これからも一緒にお姉さまといられる貴方が、妬ましい」

「俺は」

 

 知らず内に、黒男の口は勝手に動いていた。

 

「俺はお前が羨ましいよ。どこまでも心が綺麗で、だからそんな風に歩夢と一緒にいられないって考えられる――俺にはそんな風に考えるのは、やっぱり無理だろうから」

「そう、ですか」

「――なあ、あかり」

 

 黒男は言う。

 

「俺はお前の命を救った、言ってしまえば命の恩人だ」

「……それがどうかしたんですか? 命の恩人だから、何かこちらに何かする権利があるとでも、そう言いたいのですか?」

「そうだ」

「は、はっ――それなら、どうするのですか? 良いですよ、私に何をさせたいのですか?」

「あいつと、歩夢とこれからも友達でいてくれ」

 

 黒男の言葉にあかりは戸惑い、瞳を揺らす。

 

「それは、でも」

「あいつにとって必要なのは、きっとお前みたいな心が綺麗な人間だ。それにきっと、あいつはお前の身体が多少変わったって、何も変わらない。そういう人間だってのは、お前だって分かるだろ?」

「それは――分かってます! けど」

「独りぼっちにさせないでやってくれ」

「……まるで、貴方は。お姉さまと一緒にいられないと言いたげですね」

 

 あかりの問いに、沈黙せざるを得なかった黒男。 

 そんな姿を見て、あかりは「はぁ」と嘆息する。

 

「……貴方こそ、お姉さまと一緒にいてください。お姉さまは、貴方の事を話す時、とても楽しそうでした」

「そう、なのか?」

「嬉しそうにしないでください、腹立たしい――まったく、変わりたいなら変わりたいですが、それも今の身体では無理でしょうから」

 

 ふー、ともう一度息を吐くあかり。

 それから力ない笑みを浮かべるあかりは続けた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ので、時がやってきたら私も、ええ。私も絶対お姉さまのところに行きます……その時は、絶対貴方のその場所を奪って見せますから」

 

 覚悟してしてください。

 その言葉に黒男は最初こそ困惑したものの、すぐに「仕方がないな」と相槌を打つ。

 

「俺はお前の事を、多少は戦友(ともだち)と思っている」

「私は貴方の事を、多少は戦友(ライバル)だと思ってます」

「だから、これからも歩夢と仲良くしてやってくれ」

「貴方も、これからもお姉さまと一緒にいてあげてください」

 

 そして、二人は少しだけ恥ずかしそうにしながら握手をする。

 

 それは傍から見れば――とても仲の良い友達同士のように見えた。




次回、『どこまでも普通な君は』。

近日公開――?

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