寝取られエロゲ世界にTS転生したら幼馴染が竿役間男だった件について 作:カラスバ
ジージー、ジージー。
どこか遠くでアブラゼミの鳴く声が聞こえてくる。
まさに夏真っただ中って事を私に伝えてくれる。
ただそれを聞くと暑い事も思い出させてくれるので正直ちょっと鬱陶しい。
もうちょっと音量を下げて欲しいとも思うし。
ただまあ、これもこれで夏の風物詩なのだろう。
我慢していっそ楽しむべきなのだろう。
そして、今日は八月の始まり。
毎年恒例の夏祭りの時期が今年もやってきた。
公園を丸々使って、そこで出店を出したり盆踊りを踊ったりする、どこでも行われているような典型的な夏祭りだ。
私も毎年参加しているが、しかし今年は少し事情が異なる。
格好に気合が入っていた。
……お母さんから強引に浴衣を着せられた私は慣れない服装でフラフラしながら公園へと向かう。
到着して早々黒男の姿を探そうとしたが、しかし私よりも先に彼の方が私の方を発見したらしく、「歩夢ー」と声を掛けられる。
黒男はというといつも通りの格好だった。
まあ、知ってた。
なんて言うか似合わなそうだし、本人の性格的にも着たがらなそう。
それに、こういうお祭りの時にもいつも通りって方が彼らしい。
「今日は、浴衣、着て来たんだな」
「どーよ、似合う?」
「べ、別に。良いんじゃね?」
「そかそか」
否定されないのならば良いんだと思う。
着た甲斐はあったと考えよう。
少しだけホッとする。
「んじゃ、どこから回る?」
「まずは一周、かな」
「オッケー」
私達は並んで公園へと入る。
夏祭りは既に始まっていて、私のように浴衣を着ている子も、黒男のようにいつも通りの格好の奴も、平等に存在していた。
みながみな、それぞれ勝手に楽しんでいる。
凄く混沌しているし、とても楽しそうだ。
「で、何で既に食べ始めてんのお前?」
「ふぁに?」
「フランクフルト頬張りながら歩くな、危ないから」
「ふぉって」
「いや自分で持――いや、両手塞がっていやがるし。しょうがな――いや、待て。その状態でどうやってフランクフルト買ったんだお前?」
明らかに無理だろ。
不気味なものを見るような目で私の方を見てくる黒男。
いや、普通に買う時は強引に空いてた手で持っていたが?
私は仕方なしに手に持っていた焼きそばとお好み焼きを片手に持ち直し、空いた手でフランクフルトの刺さっている棒を持つ。
「じゃあ、食事は買ったし遊ぼうか。射的とかする?」
「……完全にフル装備の状態でか」
「ほら、私はあれだから。観測手だから」
「確かにお前の視力って2.0だけど、ここで活躍させるものじゃねえだろ。ていうか射的に観測手はいらねえ」
「あ、見て黒男。スーパーボール掬いがある」
「話を聞いて」
それで、結局二人で射的の屋台に向かう事になった。
そこで私の身体に衝撃が走る。
「え、マジで? DXブライドライバーじゃん……!」
「なにそれ。おもちゃ?」
「なにそれもなにも、プレミアムボンダイでしか買えない奴だよ!」
「……そんな代物を射的の景品にして良いのか?」
「ちなみにお値段税抜き12000円になります」
たっか。
黒男は目を丸くする。
あの変身アイテム、液晶が付いてていろいろな遊び方が出来るので、完全受注生産でその値段で買えるのはかなり安いと思う。
ちなみに私は買えませんでした。
ログイン戦争には勝てなかったよ……
「頑張って、黒男!」
「イヤ無理だろ。ぶっちゃけゴム鉄砲より威力が弱い射的の銃であんな明らかに重たそうな奴落とすのは。絶対アレ罠だって――」
「やれば出来る!」
「……金は出せよ」
「ダメだったね」
「知ってた」
肩を落としながら歩く私と「なにこいつ馬鹿か」みたいな目で見てくる黒男。
「まあ、お腹は膨れたので良いとしましょう」
「いつの間に食いやがったんだお前……?」
射的で頑張っている間にこう、もぐもぐと。
美味しかったです。
「だけど、んー。一通り周り終えちゃったね」
「帰るか?」
「いや、それはそれで寂しいし何かしたい――ん?」
と、そこで何やら前方から子供達の集団がやって来る。
見覚えのある顔だった。
ていうかクラスメイトの男連中だった。
「おー、雛木に黒男じゃねえか!」
「貴方は確か、モブ男君?」
「モブ男って誰だ!」
「あっはっは、冗談だって佐藤太郎君」
「絶対覚えてねえなお前!」
ちなみに彼の名前は本当に覚えていません。
すまんな、だけど現時点でクラスメイトの名前を半分しか覚えきれてないんだ。
彼は残念ながら覚えていない方にいる人間だった。
「いや、ていうかお前」
その、名前を憶えていない誰かさんの視線が私と黒男の間を行き来する。
なにやらにやにやしてるけど、何?
「何お前達、デートしてんの?」
その言葉で、一緒に来ていた連中が囃し立ててくる。
「うっわ、マジかよ!」
「なになに、お前等そーゆー奴だったの?」
「ち、ちげーし!!」
それに対し、黒男は過剰に反応を見せる。
「歩夢の事なんて、別にきら、いや、なんとも思ってねーし!」
「ツンデレかー?」
「な、……ばーか!」
顔を真っ赤にし、しかし上手い言葉が見つからなかったらしい彼はその場から走り去ってしまう。
その背中に向かって男達はなんか野次を飛ばしているけど、こいつらなー。
「あんたらねー、一緒に遊んでただけでデートになるならそこら辺恋人だらけになるでしょうが」
「ちげーのか?」
「違うけど」
「お、おー」
なにかぼそりと「黒男も可哀そうだな」と呟いていたが、残念ながら小さすぎて聞こえなかった。
はー、と溜息を吐く。
それから私は彼等に「じゃ、黒男追いかけるから」と断ってからその場から去る。
残念ながら格好が格好なので走りづらかったが、とはいえ走れない訳ではない。
公園を出て、それから車道に差し掛かる。
真っ暗で頼りない街灯に照らされたその場所の先で、黒男は肩で息をしながら立ち止まっていた。
どうやらいきなり走った所為で身体がびっくりした結果、持たなかったらしい。
「おーい、黒男!」
私は彼に走り寄――ろうとして、途中でコケてしまう。
もしかしたら捻挫してしまったかもしれない。
横断歩道の上だけど、辺りはまだ真っ暗で車の光は見えないし、大丈夫――
「歩夢ッッッッ!」
黒男の声。
こちらに走り寄って来る。
なんで?
私は疑問に思いつつのろのろと立ち上がりながら
どん。
どこか遠くでアブラゼミの鳴く声が聞こえてきた。
Season last『セイウンスカイ』。
近日公開――
安心してください、物語はまだまだ続きます。