ローカル役でしかあがれない   作:エゴイヒト

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展開の都合上、3年のインハイ前まで一気に話が飛んでます。2年生の話は後々回収する予定です。


ぼくのかんがえたさいきょうののうりょく

 全国高等学校麻雀選手権大会。通称インターハイ。全国の地区予選を勝ち抜いた52校が頂点を掴むべく争う熱い夏。今年で71回目の開催が、ここ東京で行われる。

 

 2回戦で千里山女子高校と戦う相手が確定したインターハイ3日目の夜。宿泊室には千里山のスタメンが揃っていた。

 

「清澄と宮守、それに姫松かあ」

 

 第3シード(・・・・・)である千里山は、6日目が全国での初陣となる。つまりまだ丸2日以上余裕があることになるが、早速私達は1回戦の試合を見直して対戦校の研究をしていた。2回戦と準決勝、準決勝と決勝の間は短いので、準決・決勝進出校を予測して今の内に対策しなくてはならない。よって時間は貴重なのだ。

 

「いきなり大阪2校がぶつかるとか勘弁してえな」

 

 先鋒、園城寺怜。千里山の二大エースの一角であり、一巡先を視る者の異名を持つ。元々エースは私一人だったのだが、部内で唯一私に黒星をつけたために怜との二大エースになった。私も大概だが、ベッドに突っ伏してぼやく姿からはエースの威厳をまるで感じられない。宮永さんや辻垣内さんを見ているだけにエースに対して幻想を抱いてしまう。

 

「幸い、合同合宿で面識あるんで姫松のデータは豊富です」

 

 次鋒、船久保浩子。千里山の情報分析班の彼女は、フナQの愛称で親しまれている。うちの監督愛宕雅枝の姪であり、丸眼鏡は愛宕一族の血を色濃く受け継いでいる証だ。いや、姫松の愛宕洋榎は眼鏡をかけてなかったな。

 

「せやけど裏を返せば向こうもバッチリ対策してくるってことやろ?」

 

 中堅、江口セーラ。一年生の段階で次期エース候補と考えられていたが、怜と私の登場でその座を譲ることになった。しかしその実力は特待生の名に恥じず他校のエース格と比べて遜色ない。

 一人称が『オレ』で、スカートを履くことを嫌がる。しかしインターハイの対局時には制服にさせられることだろう。

 

「藍はどこ注目してるん?」

 

 副将、清水谷竜華。千里山女子高校麻雀部の部長。純粋な雀力だと部内一だと思う。気が付くと怜に膝枕をしている。何がとは言わんがデカい。この世界はデカい人が稀によくいる。特に麻雀界隈でそれをヒシヒシと感じる。

 

「高校単位で見るなら姫松かなあ。結局のところ打ち方にクセがなくて順当に強いのが一番厄介だよね」

 

 大将、小鳥谷藍。すなわち私。恐縮ながら怜と二大エースを張らせてもらっている。

 

 順当に強いってのは、具体的に言うと辻垣内さんみたいな打ち手を指す。姫松で言うと愛宕洋榎とか。デジタル打ちで強いってのとは少し違う。オカルトに対する対処含めて、柔軟な打ち手ということだ。

 

「選手単位やと?」

「そりゃもちろん、清澄の先鋒一択でしょ」

 

 名前はたしか片岡優希だったはず。能力は誰の目に見ても明らかで、東場での早和了りだ。

 

「南場は勢いが落ちてるし、さっさと東場を終わらせればいいだけちゃうん?」

 

 清水谷さんはまだこの子の潜在的脅威を理解できていないようだ。たしかに能力の単純さゆえに対策もはっきりしているので、プロでさえ彼女を侮る者がいるかもしれない。

 

「清水谷さんはさ」

「また苗字で呼んでる。竜華でいいっていつも言うとんのに」

 

 頬を膨らませる清水谷さん。麻雀部に所属して一年以上の付き合いだが、未だ私の中でクラスカーストの頂点というイメージが強く、つい苗字で呼んでしまう。その度にこうして機嫌を損ねてしまうのだ。

 

「竜華さんはさ」

「それ余計に変やない?」

「……竜華は、麻雀における最強の能力ってなんだと思う?」

 

 麻雀で強さを語るのにさらっと能力という言葉が出てくることを異常と思わないのは、我々の間でオカルトの認知が浸透しているからである。私が入部したての頃はオカルトの存在は薄々感づいていたが、はっきりと超能力呼ばわりはしていなかった。清水谷さんもオカルトの領域に片足突っ込んでるのにね。体温が分かるとかマジ人間サーモグラフィー。

 

「連続和了!」

「白糸台の宮永照と、藍先輩がそうですね」

 

 フナQがタブレットを操作すると、テレビに宮永照の動画が映る。連続和了は彼女の代名詞といっていい。

 

「私も似たようなことよくやるけど、専門じゃないから穴だらけだよ」

「よう言うわ。謙遜も過ぎれば嫌味やで」

 

 いやいや、実際そこを突かれて怜に負けてるし。

 

「話を戻すけど、連続和了は不正解だね。いや、現存する能力では最強かもしれないけど」

 

 麻雀において、和了とは正義である。普通の麻雀ならいかに和了るかよりもいかに振り込まないかが腕の見せ所だが、和了れるに越したことはない。親で和了ればもちろん大きく点を稼げるし、子なら他家の親を流すことができる。手が安くても、他家の和了を阻止することは時に点棒以上の価値がある。こういう観点から見ても、連続和了は現存する和了系能力ではトップクラスの能力といっていい。しかしそれでも最強ではないのだ。

 

 最強の能力を議論する上で避けて通れない対抗馬が、去年の天江衣のような支配系能力である。実際に和了系の能力と対局すれば、相性によっては封殺することも少なくない。加えて、『他人に和了らせず自分は和了る』を至上主義とするなら、現実には支配系の方がそれを体現している。しかしこれもまた最強ではない。

 

「必ず和了る!」

「叶える願いの数を増やすみたいな狡い答えやな」

「でも結局これに尽きると思うで」

 

 わたしもそんなんあったら欲しいわー、と怜。お前はもう十分強いやろ業突く張り、とセーラがツッコミを入れる。

 連続和了は実在する中では最強だとしても、理論上最強ではない。和了系の極地として考えられるのは清水谷さんの言う通り『必ず和了る』だろう。一方、天江衣のような支配系の極地を考えると、『他家を絶対に和了らせない』とかだろうか。和了られる前に和了ればやっていることは同じなのだから、明らかに和了系に比べて迂遠な支配系は最強の能力には不要というのが持論だ。だから『最強の能力とは何か?』という問いに対して『必ず和了る能力』という回答は、方向性はあっている。

 そしてこの能力をより具体的かつ弱点を補う表現にすると――

 

「『他のあらゆる能力の影響を受けず、必ず起家になり天和を和了り続ける』能力こそ、私は理論上最強だと思う」

 

 それに比べたら私や宮永照、天江衣など雑魚同然だ。

 

「それはえげつないな。でも、そんな奴今までもこれからも存在せえへんやろ」

 

 ちゅうかいてたまるか、とセーラは一笑に付す。

 

「……そういうことですか」

 

 突然、フナQが何かに納得したかのような発言をする。彼女にはこの話の行き着く先が分かったようだ。

 

「あい、話が見えてこんわぁ。……ふわぁ」

「私も。最強の能力が藍の言う通りだとして、考えるだけ無駄やと思うんやけど」

 

 一方、怜と清水谷さんは疑問を浮かべている。

 

「清澄の先鋒こそ、理論上最強に一番近いって藍先輩は言いたいんですよ」

「今大会はまだ誰も天和和了ってないんやなかった?」

 

 フナQがまたタブレットを操作して、片岡優希の統計データを映す。地区大会と今日の試合を見ても、彼女は天和を和了っていない。清水谷さんの言う通り、今大会ではまだ誰も和了っていない。

 

「うわ、何この子の個人戦の成績。予選1日目だけぶっちぎりやんか」

 

 怜が見ていたのは個人戦県予選の予選の成績。予選の予選ってなんか分かりにくいな。確かに、微睡みかけていた怜が思わず目を覚ますくらいにはびっくりする成績をしている。東風戦だからね。2日目の本戦からは半荘だからガクンと下がってるけど。

 

「片岡はまだ一年です。来年、再来年と成長すればもしや……てことでしょう。実際、起家になる確率はほぼ100%です」

「そういうこと。それに、天和を和了るだけならそう遠くないかもしれないよ」

「そうかあ?」

「能力に関しては藍が一番見識あるし、うちは信じるで」

「でもそこまで言っておいて片岡さんと当たるのはわたしやねんな」

 

 今はまだ速いだけだし、怜なら勝てるだろう。

 

「じゃあ、フナQは誰が手ごわいと思う?」

 

 今度はフナQに質問する清水谷さん。一回戦で飛び終了を見せた竹井久、昨年度個人戦6位の銘苅を一度も和了らせなかった臼沢塞とかは、フナQも警戒するだろう。前者は打ち筋が能力性のものか不明だし、後者は十中八九能力だと思うが、全容が掴めないので私も対策を考えるのは難しい。

 

「私は宮永咲やと思います」

 

 宮永……。宮永照と関係があるのかな。そんな子いたっけ?

 

「清澄の大将です。一回戦では回ってこなかったから印象ないでしょうけど……。藍先輩は当日までに地区大会の牌譜をちゃんと見てくださいね」

「他の子を気にしてる場合やないんちゃう?」

 

 揶揄うセーラ。フナQが言うならば強いのかもしれない。

 

「どういう打ち手なの?」

「とにかく槓を多用して、嶺上開花で和了っとります」

 

 嶺上開花で和了る、ときたか。さすがに見たことないタイプかも。多用ということは槓材を集めやすい、カンすると嶺上開花できる、といった感じの能力だろうか。

 

「私も似たような能力を持ってるけど、かなり限定的だからあまり好んで使わないんだよね」

 

 清澄の大将の能力は私より嶺上開花に特化しているだろう。というか私って器用貧乏すぎないか。

 

「ほう。後で詳しく聞かせてください」

 

 フナQが眼鏡が光ったような気がした。いや、そんなにたいしたもんじゃないから期待しないでね?

 

 あれこれ話しているうちに気づけば皆で対策を出し合っており、それをフナQがどこからか用意したホワイトボードに列挙している。

 

 1.こちらがカンをすることで嶺上牌を奪う。

 

 私の案。この案はこちらがカンできなければ話にならない。槓材を揃えるスピードで真正面からやりあって能力持ちに勝てるかどうか。加えて、能力の原理によっては無意味かもしれない。つまり、嶺上牌が見えている知覚系か、カンすると有効牌や和了牌を引くという自摸強化系なのか。能力の系統によって通用するかどうか依存してしまう点が問題だ。前者なら通用するが、後者には効かない。

 

 2.生牌を切らないことで大明槓を防ぐ。

 

 怜の案。中盤以降は徹底的に生牌を切らないという戦略だ。自分視点二つ以上見えていない牌を切らなければ確かに大明槓による責任払いは無くなるが、自分の手牌も狭めてしまう。順子手に寄せればその狭さもわずかに緩和されるが、それでもまだきつい。それに根本的な話、暗槓へは何の対策にもなっていない。というか怜ならピンポイントで鳴く牌が分かるからこんなことする意味ないじゃん。

 

 3.他家と協力してドッ()バトルして四槓散了を意識させる。

 

 セーラの案。ネタ枠。いくら高打点が好きとはいえドラ増えまくってリスキーすぎるでしょ。1と同様の理由で狙ってできることじゃないし、他校が意図を理解して(あるいは理解したとしても)乗ってくるとは思えない。

 

「一番現実的なのは1やない? マシってだけやけど」

「狙えたら狙うくらいの気持ちで行きましょう」

「浩子、それ狙わんやつや」

 

 今列挙したのは能力を使わなくてもできる対策。能力を使う方法なら二つ、いや三つは思い浮かぶ。でも実際は対策なしで真正面から戦うつもりでいる。こちらを妨害してくるわけではないなら、和了られる前に和了ればいいだけのこと。一応、様子見していくつかの策を試すぐらいはするけど。

 

「この手合いは私にとっては鴨だから問題ないかも(・・)

「お? ダジャレか?」

「違う」

 

 意図しないダジャレで揚げ足取られると誰でもムカつく説、あると思います。

 

 セーラはこんな風によく揶揄ってくるし、フナQは私を実験動物ばりに研究対象にしようとする。怜は清水谷さんがいない時に膝を枕にしようとしてくる(そのくせ67点とか微妙な点数を付ける)し、清水谷さんは不意に距離を詰めてくる。千里山麻雀部は騒がしくて仕方がない。

 

 ……最初は渋っていたが、今では麻雀部に所属してよかったと思っている。ここでは自分の能力を存分に発揮してもいいのだから。勝つことが正義な大会では、持つ者は遠慮なく能力を使っている。もはや麻雀ではなく異能力バトルと考えれば、遠慮もなくなるというもの。さすがにそこまで言うのは麻雀に青春をかける高校生達に失礼かもしれないが。

 

「私の能力知ってるでしょ? 手牌に制限がかかる能力は対策しやすいんだよ。2回戦はできればそっちは使わないけど」

「竜華~、また藍が舐めプしようとしてるで~」

「いや清水谷さん(・・・・・)これは監督とも話し合って決めたことであって戦略的な意味が――あっ」

 

 何より、部員という友達ができたこと。これに勝る理由はない。

 

 




自称高1最強がログアウトしました。
順当に考えて1年が抜けるよね。二条泉ちゃん推しの人いたらスマン。
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