ローカル役でしかあがれない   作:エゴイヒト

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怜……病んでさえいなければ……

「ほな、行ってくるわ」

「お願いします、先輩」

「無理せんといてな、怜」

「きばれよ~」

「怜、気負わなくていいよ。いつも通りね」

 

 ついに千里山女子の初陣の時が来た。清水谷さんの膝枕から起き上がった怜は、励ましの声を背に控室を後にする。

 

「インターハイ6日目、2回戦の第3試合は千里山女子と姫松高校の大阪の強豪2校が争う好カード!本日の実況は私、佐藤。解説は戒能プロです」

「グッドモーニング、です」

 

 残された4人はモニターで観戦する。ただ応援するために見るわけではない。インターハイでは前後半のインターバルでアドバイスができる。前半戦を見て、前情報と齟齬がないか注意しなければならない。

 

「出場校の紹介です。まずは強豪真嘉比を抑えて2回戦に進出しました、岩手県代表宮守女子。先鋒は小瀬川白望。続いて長野県代表清澄高校、片岡優希」

 

 宮守女子は次鋒のエイスリン、副将の臼沢塞、大将の姉帯豊音が要注意だろうか。清澄に関しては地区大会の牌譜も見て研究したが、初出場なのでどの選手も情報が少ない。特に次鋒の染谷まこ、副将の原村和は変な打ち筋はしていないので、良い成績を残している割に対策という対策はできなかった。だからこそ、フナQと清水谷さんなら互角以上に渡り合えると確信している。

 

「そして春季大会5位の南大阪代表姫松高校、上重漫」

 

 姫松はほとんどの面々が合同練習で面識がある。上重さんを除いて、特徴的な能力を持つ打ち手はいない。エースの洋榎さんは戦い慣れているセーラが相手をするので、心配はしていない。セーラは私との対局で能力者への耐性はある程度できているが、洋榎さんには戦績は若干負け越している。

先鋒と大将戦ではこちらから対策するのではなく向こうが対策してくるだろう。私達はそれを見て、対策の対策を講じる形だ。

 

「迎え撃つ北大阪代表は前年度インターハイ3位、春季大会2位の成績を残し第3シードでの出場となります、千里山女子。先鋒は園城寺怜」

 

 そして我らが千里山。千里山は怜と私でダブルエースと呼ばれているが、今年は3年生が4人で、その全員がエース格の実力を持つ。フナQも堅実な打ち手で、情報分析担当としてのバックアップも優秀。自分達のことながら、隙のないチームだと思う。今年こそは団体戦で全国優勝を獲る、と監督や部員達の今年に掛ける期待は大きい。

 

「いよいよ、ステージA2回戦第3試合が始まります」

 

 

 


 

 

 

 東1局 親 片岡優希 ドラ{①} 

 

 さて。藍もフナQも片岡さんに要注意と言ってたけど、私がする対策はいつも通り。立直や和了の未来が見えたら、自分が鳴くか誰かに鳴かせてずらす。もっとも、後者は他家の協力がある程度必要やけど。

 

「リーチだじぇ!」

 

 3順目でもうリーチ。予想はしていたけど、東発が最大の難所。疲労もごっつ溜まるわ。

 

 怜 南家 手牌

{④⑤⑦22589一二七八九} {白}

 

 どのみち裏目を引かんように頻繁に未来視しているからそう変わらんはずやねんけどな。気力を削られるというか、気持ちの問題やねん。

 

 

 瞳孔が開き、視界は緑に染まる。自摸る牌が手牌に乗る音、打牌音と擦過音が反響して聞こえる。

 

 怜 打{白}

 

 小瀬川 西家 打{五}

 

上重 北家 打{白}

 

 片岡 ツモ

{④⑤⑥2233477六七八} {4}

 

 ――視えた。

 

 視界を染める緑は収束し、私の意識は現実に帰還する。

 

 リーチ一発ツモ平和断么九一盃口の親っ跳。こんなん和了らせるわけにはいかんわ。上重さんは私の白に合わせ打ちして放銃を避けようとしとる。ハナから和了りを阻止する気はなさそうや。一方、小瀬川さんのど真ん中{五}切り。明らかに意志のある無筋切りで、誰かに鳴かせてずらそうとしとる。逆にいえば、こちら側の鳴かせにも反応してくれるっちゅうことや。

 

 小瀬川 河

{西⑨}

 

 この河。普通なら巡目早すぎて何切れば鳴いてくれるんかさっぱりわからん。無理ゲーや。

 

 怜 打{⑤}

 

「チー」

 

 小瀬川 チー{横⑤⑥⑦}

 

 でも、視えた未来は一つだけやない。行動によって変わる複数の未来、その一つに{⑤}を切ると鳴いてくれる未来が視えた。

 

「ツモ!」

 

 片岡 ツモ

{④⑤⑥2233477六七八} {1}

 

「リーチツモ平和、1300オールだじぇ」

 

 そして、どうあがいても和了られてしまうのは変わらんってことも知ってた。安目で済ませることができただけ御の字や。

 

「ダル……」

 

 小瀬川さん、諦めてないとええんやけど。

 

「ここからは私の連荘で終わらせる。この試合に東二局は来ない!」

 

 いや、それは流石に無理やろ……。と思うたけど、藍がトビ無しルールで下級生の部員達相手に32連荘とかやってたな。途中から絶望通り越して意地でも阻止しようと躍起になってたから良かったものの、あんなことされたら普通は麻雀辞めてまうで。絶望与えてるはずの本人の方が顔色悪なっとったのはなんでなん? 部内の練習でも日頃から派手な対局ばっかしとるから感覚麻痺してたけど、やっぱ藍はおかしいんやなってあの時は再認識したわ。

 

 東1局1本場 親 片岡優希 ドラ{7}

 

 怜 1巡目 手牌

{②③④12444568五白} {七}

 

 さっきのはただの精神攻撃や、そう思うことにしよう。気を取り直して、清澄の親を流すことに集中するで。とはいえ未来視をしても、1巡先では間に合わない可能性がある。今度こそはうまくいく可能性もあるが、さっきのように早い巡目では未来視をしても得られる情報量が少なすぎる。自分の自摸を見て手を作るという面では役に立つんやけどな。

 

 体力温存したかったけど、仕方がない。竜華達には内緒で藍と泉に協力してもらった特訓、早くも活きそうやわ。

 

 

 ダブル、2つ先へ――――

 

 再び視界が緑に染まる。しかし今度は見える光景が罅割れていて、私自身がダブって視える。

 

 怜 打{白}

 

 小瀬川 打{西}

 

上重 打{南}

 

 片岡 打{②}

 

 怜 自摸{7} 打{1}

 

 小瀬川 打{発}

 

上重 (自摸切り)打{南}

 

 片岡 リーチ 打{横5}

 

 怜 自摸{①}

 

 

 清澄が3巡目にリーチ。前巡に{②}を切ってる。ここを鳴くしかないか。流石に2巡先となると起こりうる未来の可能性が一気に増えるから、複数の未来を視ることはできない。鳴きや重なりを考慮しない手牌の切り方だけで計算しても、14の2乗で196通り。組み合わせ爆発ってやつやな、知らんけど。

 

「チー」

 

 怜 チー{横②③④} 打{1}

 

 これで、自摸巡が一つずれた。清澄が引く牌は上家の姫松が未来で自摸切った牌。さっきはずらしても和了ったけど、ずらしても聴牌するとは限らない。まして本来なら2枚切れになるはずの南。これでも清澄が聴牌する可能性は――

 

 1. 元々、手牌で南が対子だった場合

 改変後は南が刻子になる。これで聴牌するのは、{①②③⑥⑦⑧一二三四5南南} {南}とかのパターン。改変前は{①②③⑥⑦⑧一二三四5南南} {一}とかで聴牌してたことになるな。

 

 2. 元々、手牌で南が孤立牌だった場合

 改変後は南が雀頭になるかシャボ待ちでの聴牌ということになる。しかしこの場合、改変前は孤立牌を切らずにリーチしたことになるため、改変前も南を引いていたか南単騎待ちでのリーチだったということになる。後者やった場合はリーチどころか和了られる。……どんな確率やねん、と言いたいけどオカルトはそういう常識で考えたらあかんのやったな。

 

 3. 元々、南を持っていなかった場合

 これは聴牌できない。もしリーチをかけられるなら、2巡目で既に聴牌していたことになる。

 

 私の麻雀の腕は皆と比べてまだまだやけど、こういう思考力は未来視を活かすためにも必死に鍛えた。今回の場合はこんなこと考えてもしゃあないけど。いずれにせよ、私にできることはこれしか無かったんやし。上手くいってくれればええんやけど。

 

 

 3巡目 片岡 打{南}

 

 果たして清澄の先鋒は南を自摸切った。

 

 怜 自摸{六}

 

 そしてこれが、清澄が引いて聴牌となるはずだった有効牌。萬子は要注意やな。

 

 それからというものの、卓上に動きが見られんくなった。先程の一瞬の攻防がなかったかのような静けさ。和了りの遅さに違和感を覚えたのか、清澄の先鋒の顔には若干の焦りが見えとる。ポーカーフェイスとか無理そうやもんな。

 

「ツモ」

 

 怜 ツモ

{4445678五六七} {8} {横②③④}

 

「600・1100」

 

 

 東2局 親 怜 ドラ{白}

 

「っ」

 

 何とか清澄の親を流したと思うたら、今度は対面の上重さんが圧力を放ってきた。これが例の爆発ってやつか。フナQが言うてた、6から9の上の数牌が集まるっちゅうやつ。上重さんの爆発の条件は実はよう分かっとらん。合同練習でセーラや竜華、藍と対局した時には爆発してた。強敵と戦うと発動するらしいって話やけど、確実ではない。

 

 親番とはいえ、さっきみたいなことをバカスカやってると身が持たない。ここぞという所、それこそこの対局なら清澄の親番を流す時だけにしたほうがええ。今まで通り、一巡先だけでやり繰りする。

 

 6巡目 片岡 打{5}

 

「ロン」

「じぇ!?」

 

 上重 ロン

{⑦⑧⑨67789七八九東東} {5}

 

「2600」

 

 見えてたけど、リーチをかけずダマで三色のみなんてなあ。しかも上重さんの河には九索。能力的に、この巡目でその手牌ならチャンタ一盃口も狙えたはず。東場の速さに対応するために火力を捨てて待ちを広げ、堅実に和了ってきた。親は流されたけど、これで東場はあと2局。心強い味方と見るべきか、新たな脅威が現れたと見るべきか。

 

 

 東3局 親 小瀬川

 

「ツモ! 1000・2000だじぇ」

 

 清澄もスピードが落ちたわけやない。どうせこっちの手は間に合わんしそんな高くないことが見えてたから、特に妨害もせんかった。

 

 

 東4局 親 上重 ドラ{③}

 

「ちょいタンマ」

 

 今度は宮守かい。逡巡する時は、高い手を作ってるんやったか。和了りを諦めるわけではないけど、東場ははよ流してしまいたいから親以外なら誰に和了られてもまあ許したる。高い手でも自分の親やなし、姫松を削れるなら尚更や。

 

「深い所にいたなぁ」

 

 小瀬川 ツモ

{一二二三三五六七南南白白白} {一}

 

「ツモ。3000・6000」

 

 

 南1局 親 片岡優希 ドラ{4}

 

 ようやっと南場に持ち込めた。さっきまでようやってくれたな、こっからは私の独擅場や。

 

「リーチ」

 

 怜 打{横三}

 

 取り出したリーチ棒を天高く掲げ、真っすぐ振り下ろし卓に突き立てる。立直っていうくらいなんやから、リー棒は真っ直ぐ立てるものやろ。……いや、冗談やけどな。

 

「ツモ」

 

 手牌が開かれるのときっかり同じタイミングで、リー棒が倒れる。

 

 怜 ツモ 裏ドラ{六}

{③④赤⑤⑥⑦23477四五六} {⑤}

 

 リーチ一発ツモ平和断么九ドラ3。

 

「4000・8000」

 

 南場に持ち込めば、清澄の早和了りはなくなる。ということは、面前での聴牌が間に合うようになってリーチがかけられる。上重さんは相変わらず爆発したままやけど、火力を早さに変換するといっても毎回できるわけやない。未来の見える私に、平均聴牌速度で敵うわけないんや。小瀬川さんの特徴的な打ち方は、高い手を狙うために当然遅くなる。せやから東場をさっさと流して南場で稼ぐ、これが今回の戦術。単純やけど有効やろ?

 

 

 

 

 先鋒戦終了

千里山 122100

宮守   98600

清澄   91800

姫松   87500

 




全部書いたらキリがないし盛り上がりに欠けるので先鋒戦はここで終了。
主人公以外の対局はネタ切れする。
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