ローカル役でしかあがれない   作:エゴイヒト

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主人公無双はよというお告げが聞こえたので、次鋒戦から副将戦までを主人公視点のダイジェストでお送りします。
なお中堅戦はぶちょー以外の能力者不在なので全編カットの模様。
その部長も2回戦は緊張で凹んで再起という原作と同じ流れをなぞることになるので……。


実践能力解析Ⅰ(2単位)

 次鋒戦が開始し、モニターには対局室の様子が映し出されている。控え室で浩子を応援しているのは私とセーラだけ。清水谷さんは怜を迎えに行って、そのまま仮眠室に直行したらしい。特別疲労の溜まる試合ではなかったと思うが、これからのことを考えると無理はいけない。少しでも疲労が溜まった状態で動き回ると、怜の体に負荷が掛かる。

 

「へえ。あの清澄の次鋒、まるで全部分かってるみたいだね」

 

 宮守の留学生、エイスリンは13巡目までに門前で聴牌する確率が異常に高いのだとか。この門前というのが肝で、公式戦での副露率がなんと0%という徹底した門前党。このデータから、エイスリンは鳴きをする必要が無い能力を持っているというのが私とフナQの共通見解だ。

 

 しかしこれに矛盾した驚きのデータが存在する。それは、地区大会での和了率が全国1位だということ。門前にこだわるとリーチをかけられるので点は高くなりがちだが、速度は鳴きを活用する打ち方に比べて落ちるので和了率は下がるはずなのに。

 

 この局で警戒すべきは当然、エイスリン・ウィッシュアート。そう思っていたのだが、東一局で彼女を差し置いて清澄の染谷まこが和了した。

 

「分かってるっていうたら、あの留学生の子の方がよっぽどやろ?」

「確かにね。怜みたい……っていうか、見えてる範囲でいったらそれ以上かもしれない」

 

 まるで山にどの牌が何枚残っているか、これから何がくるか全て分かっているようだ。しかも自分だけでなく、他家の自摸や配牌まで把握しているように見える。つまり、卓上で起こる全てを知っているかのような動き。そういう意味で、怜の未来視を上回っていると言える。

 

「でも、行動までは見えてない」

「というと?」

「さっきの清澄の不自然な鳴き。あれから全てが狂いだした」

 

 染谷 和了手牌

{45678五五六七八} {9} {横123}

 

 一向聴のタンピン一盃口を捨てて両面チー。エイスリンの13巡目までの和了率を意識して早さを求めたと言うには向聴数を落としているし、和了牌が{9}の一気通貫のみはやりすぎだ。こういう悪待ちは中堅の十八番だった気がするのだが。

 

「あの鳴きで和了れるってことは、清澄がエイスリンの能力の穴を突いているってことの証明だよ」

「鳴きが攻略法ってことか?」

「うーん。どうだろう」

 

 能力の解明を先にしないと確かなことは何も言えない。しかし、系統の判別がつかないという点が解明を阻んでいる。卓上の全ての牌を把握しているのだとすれば、知覚系かもしれない。しかしそれだけだと和了率全国1位は獲れない。宮永照のような純粋に和了りに直結する和了系や聴牌加速系の能力や、天江衣のような他家の和了率を下げることで自分の和了率を上げる支配系を上回れるとは到底思えない。怜がそうであるように、何もかも分かっていても他家に和了られることだってあるだろう。

 

 だから、自身の和了率を支える何かがあるはずなのだ。門前で手を進めると有効牌を持ってくる聴牌加速系とか? そんな単純な能力で和了率1位を実現できるのだろうか。13巡目以内というと、普通に他家に和了られてもおかしくはない巡目だ。自分や他家の自摸への干渉、強力な支配が必要なはず。13巡目……13という数字は、自摸牌を除いた手牌の数と同じだ。つまり理論上は13巡あれば手牌全てを入れ替えてどんな形にも持って行けるということになる。全ての自摸を操るのがエイスリンの能力ということか? しかし支配系にしては、特に能力を持っていそうもない清澄の鳴き一つで破られていた。

 

「いや、支配範囲と正確さ故の脆さか」

 

 天江衣の支配だって、136枚全ての牌の位置を操っているわけではない。他家の全ての配牌と自摸をコントロールしているように見えて、実は一向聴に縛り付けられるなら配牌も自摸も何でもいいのだ。だからこそ地区大会では宮永咲に槓材を集めることを許してしまったし、カンでなくとも鳴けば聴牌まで持って行けた。支配が緩んだ時は遠回りに打っただけで聴牌する者もいた。厳密に支配しているのは精々が海底牌ぐらいなのだ。

 

 一方のエイスリンは、かなり多くの牌を事細かに制御している。己の力を過ぎた領域まで支配を広げると、それだけ一つ一つの牌への支配力は弱まる。それゆえか、配牌や自摸を自由自在には操れず何らかの制限があると見える。例えば余りにも確率の低い現象は起こせない、とか。飜数を制御できるのであれば大会最多得点も獲れてしまうし、それ以前に毎局天和地和で和了ればいい。が、現実はそうなっていない。

 

「効率や打点を無視した想定できない鳴きや打牌をすれば、エイスリンの支配は破れるのかも」

 

 あるいは、支配系でなくとも牌に干渉する能力者がいるだけで一気に崩れるか。

 

「それ、浩子には言うたん?」

「いや、今気付いたことだからね」

「じゃあ、前半戦終わったら伝えないとあかんな」

「ここに座ってても清澄の鳴きが謎を解く鍵だってのは気付いただろうし。生のデータがあれば、フナQなら自力で気付くかも」

 

 気付かなくとも、エイスリンはこのまま清澄に任せておいたら何とかしてくれる。そしてエイスリンの支配を破るには大抵の場合で打点を下げる必要があるので、清澄が稼げる点数は微々たるものになるはず。この次鋒戦の目標は先鋒で稼いだ点数を極力減らさず中堅へ繋ぐこと。点棒のやり取りが安くなるのはこちらにとっては都合がいい。

 

「ツモ」

 

 東三局 浩子 ツモ ドラ{4}

{二三四②③④⑧⑧34} {2} {横一二三}

 

「500・1000」

 

 平和一盃口と断么九を捨てて鳴き三色とドラだけ。普段のフナQなら絶対にしない。これなら大丈夫そうかな。

 

 

 

次鋒戦終了

千里山 124500(+ 2400)

姫松  100200(+ 1600)

清澄   99900(+ 8100)

宮守   75400(ー12100)

 

 

 


 

 

 

 次鋒戦は若干清澄のペースで終わったが、宮守以外に大きな得失点はなかった。

 

「中堅戦は千里山女子の江口セーラ選手と姫松の愛宕洋榎選手が獲得点数を競い合うデッドヒート。清澄の竹井久選手は序盤は点数を大きく減らしましたが、なんとか半分を取り返しました。対照的に、宮守の鹿倉胡桃選手は最初は良い調子でしたが最終的にはマイナスに転落することとなりました」

 

 

中堅戦終了時点

千里山 135400(+10900)

姫松  112000(+11800)

清澄   83100(ー16800)

宮守   69500(ー 5900)

 

 中堅戦もつつがなく終わり、リードを維持したまま迎えた副将戦。ここが先鋒戦と並んで何が起こるか分からない難所だ。

 

 愛宕一族の例に漏れず防御寄りな打ち方をする、姫松の愛宕絹恵。完全デジタル派のインターミドルチャンピオン、清澄の原村和。そして我らが千里山の清水谷さん。この面子なら、清水谷さんが負ける要素は皆無といっていい。愛宕絹恵は、彼女より圧倒的に強い姉と互角以上に渡り合える清水谷さんの敵ではない。原村和は雀力で測ると五分だが、対戦相手の体温・呼吸・鼓動から精神状態すら見抜く『無極点』モードの清水谷さんには、観察眼・手牌読み・直感で及ばない。

 

 と、ここまではデジタルな打ち筋の面子が揃っている。しかしこの卓には、予測を覆しかねない不確定要素が存在する。その不安材料こそが、宮守の臼沢塞の存在だ。

 

 彼女は過去の牌譜から、『和了りや向聴数の進みを封じる』能力を持っていると考えられる。単体攻撃版の天江衣と言えばその恐ろしさが分かるだろうか。原理的には『特定個人の自摸に干渉する』能力と考えられるので、より強い支配力でのゴリ押し突破は可能だろう。だが清水谷さんに牌に干渉するような能力は無いし、持っていたとしてあの銘苅を封殺するほどの支配力に勝てるかどうか。

 

 そもそもこの手の妨害能力は、正面からの対抗は効率が悪くなるようにできている。持ち得る力が同格でも、妨害側の方が少ないリソースで勝てるようになっているのだ。

 

 東3局、清水谷さんが『無極点』モードへ移行した。この状態になると、河からどの牌がどれだけ使われている可能性が高いかを推理し、そこから山に何が何枚残っているかも割り出す。この山読みの冴え渡りによって聴牌速度が速くなる。

 

「やっぱり、こちらをマークしてきましたね」

 

 にも拘らず、先程から手が全く進んでいない。臼沢塞の仕業と見て間違いない。事前に分かっていたことではあったが、彼女の能力は使用には疲労が伴うようで、常時発動は不可能。要所で封じてくるとしたらここしかない。

 

 どうせ封じられるなら『無極点』を使わなくていいのでは、と思うかもしれないが、それは違う。相手がマストカウンターで消耗するからこそ、通常時で封じられる心配がなくなる。親番の終了後に『無極点』を使い、次の親番を安心して迎えられるようにする。手が進まなくなったら途中で解除されないよう攻めっ気を出しつつ、バレない範囲でオリの準備をしていく。そんな作戦を立てた。

 

 

 はずだったのだが。

 

「千里山女子、清水谷竜華選手。清澄の原村和選手に2度目の満貫放銃です」

「彼女の放銃は珍しいですね。特にこの状態に入った時は」

 

 清水谷さんが『無極点』状態で放銃した。しかも特に警戒していなかった原村和に。

 

「あっれー?」

「藍、どういうことや?」

「全然分からない。私達は雰囲気で麻雀を打っている」

「んなわけあるかい」

 

 ぐおおお、こんなのは初めてだ。フナQも私も頭を抱える。清水谷さんの防御力と、清澄の捻らない打ち筋や無能力者ということを加味すると偶然以外で放銃は起こらないはず。これで2度目だし、何らかの能力が働いてるんじゃないかとは思うんだけど。

 

 清澄が実は能力を隠していた?

 臼沢塞の能力プロファイリングが間違っていた?

 あるいはあるいは、姫松に何かされた?

 

「おもろい、おもろいですよこのデータ」

「実に面白い」

「二人がおかしなってもうた」

 

 

 前後半のインターバル。清水谷さんから事情を訊きだすと、返ってきたのは思いもよらぬ答えだった。

 

「温度変化が感じ取れなかった?」

「原村さんの体温が異常に高くなっててな。風邪でも引いてはるんやろか」

 

 参ったな。まさか発熱でサーモグラフィーを攪乱するなんて、そんな抜け道があるとは。清水谷さんの聴牌察知は、単なる河読みの冴えだけでなく緊張状態による体温や心拍数の上昇を感知するとかそういう原理だ。厳密にはもっと多くの要素が複雑に絡まり合っているらしいが。

 

「そうでなくても呼吸や鼓動の乱れがほとんどなくて、聴牌気配が読みづらかったってのもあるんやけど」

 

 清澄の原村和、実は相性が悪いのか……?

 

「原村和に関しては、『無極点』の感覚には頼らんほうがいいですね」

「普通に打っても十分戦えると思うし、私もそれがいいと思う」

 

 次鋒戦といい、無警戒だった清澄が思わぬ活躍を見せている。しかし後半戦は清水谷さんも慣れてきたのか、逆に直撃を獲る場面も増えて収支はプラスに転じた。

 

 

 

副将戦終了

千里山 137300(+1900)

姫松  105200(ー6800)

清澄   81600(ー1500)

宮守   75900(+6400)

 




エイスリンの副露率0%は独自設定です。門前と態々言ってるし能力的に必要ないだろうなと。

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