ローカル役でしかあがれない   作:エゴイヒト

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大将戦は3話に分けます。


先負

 東1局 親 宮永咲 ドラ{4}

 

 咲 東家 配牌

{①③④1122二五六七八} {西}

 

 私の親で始まった大将戦。現在3位の清澄高校は、トップと5万5700点の差がある。しかもそのトップは全国ランキング2位の強豪、千里山高校。大将は前年度個人戦チャンピオン。

 

 緊張を解くため、部長からの指示を今一度思い出す。

 

 

 

「千里山を狙うのは避けた方がいいわ」

 

 当初は1000点しか持っていないと考えて打つ、という作戦だった。しかしこの卓に座った今ならわかる。この3人を相手にしてそれは無理だ。

 

 部長はそう感じた時のための案を用意してくれた。というより、副将戦が終了した時点で思っていたより千里山の一人浮き状態だったため作戦を変えざるを得なかった。

 

「今の咲じゃ、チャンピオンには絶対勝てないわ」

 

 絶対に勝てない。その言葉を、以前にも言われたことがある。染谷先輩の雀荘で藤田プロと戦った時だ。しかし、その言葉を部長の口から聞くことになるとは思わなかった。

 

 勝たなければいけない理由を抜きにしても、私にだって勝ちたいという気持ちがある。絶対に勝てないとまで言われると、流石にムッとする。確かに個人戦チャンピオンともなれば一筋縄ではいかないだろう。しかし、実際に戦ってみるまではどう転ぶかは分からないはず。

 

 衣ちゃんと戦った時は、一時は9万点以上の差をつけられた状態から勝つことができたのだから。たとえチャンピオンが衣ちゃんより強くとも、5万点の差をひっくり返せないとは限らない。そう主張したけど、部長は首を横に振った。

 

「咲が衣に勝った時は、対局の中で一向聴地獄や海底撈月という分かりやすい特徴が現れたでしょ。でも今回はそれがない」

 

 チャンピオンの持つ『千里山のトリックスター』という異名は、その変幻自在の戦い方からきているという。鳴きを多用する打ち手かと思えば遠い所から面前で高打点を作り上げるなどは序の口。打点が高くなるわけでも回し打ちする場面でもないのに牌効率を無視した選択をしたり、和了を目指さずオリもしない訳の分からない打ち方をするとか。極めつけは人和での大会最多和了者という恐ろしいデータもあるらしい。大会のルールでは人和が採用されていなくてよかった。

 

「え? でも……」

 

 チャンピオンには特徴が無いと言いたいのであれば、それは間違っている。過去の牌譜から、主要な警戒すべき特徴は分かっている。それらの正体や攻略法が分かったというわけではないけど、何を警戒すべきかは分かっている。

 

「連続和了、人和、そして去年の個人戦決勝の異常な対局……。それら目立つものだけを対策するのでは足りないの」

 

 部長は言う。

 

 私には嶺上開花がある。優希ちゃんは東場での早和了り。原村さんはデジタル打ち。染谷先輩は卓上を表情として記憶し、部長は悪待ちをする。私達全員に、自分の打ち方というものがある。

 

 しかし、小鳥谷藍という選手からは芯が見えてこない。底が見えない。未解明の謎が多すぎる。

 

 もし、気づいていないオカルトがあったとしたら?

 

 もし、脅威度を見誤っているオカルトがあったとしたら?

 

 もし、まだ見せていないオカルトがあったとしたら?

 

「――何をされているのか分からないうちに負けるわ」

 

 絶対に勝てないと言われたことはショックだったけど、そこまで聞いて一理あるとも思った。

 

「だからこそ、情報を得る必要があるの。この2回戦を勝ち抜けば準決勝で、おそらく決勝でも戦うことになるわ。咲はそれまでに正体を見破らないといけない」

 

 部長は不利な状況にあることを認めた上で、全国大会優勝を諦めていない。私がいずれ勝つことを待っている(・・・・・)。部長の期待を裏切るわけにはいかない。沈みかけていた心に火が灯った。

 

「さしあたって、まずは2回戦を勝つことに集中しましょ。千里山が一番避けたいのは姫松に捲られること。徹底的に防御を固めていれば準決勝に進出できるんだから、無理をする必要が無い。私達がそれを追って無理をするのは危険よ」

 

 ガチガチに防御を固めた相手から直撃を取るのは至難の業。そして攻撃のために踏み込んだ分だけ、他校に隙を晒すことになる。悔しいけど、2位狙いの方が現実的。

 

「姫松も千里山からの出和了りは期待しない。早和了りで逃げ切ろうとしてくる筈」

 

 だから、私が狙うべきは姫松高校。2位に浮上することだけを考える。

 

 

 そう意気込んでいたのに、こんな時に限って自摸が悪いような。いや、普段の調子が出ないという方が正しいか。強烈な違和感がする。

 

 咲 十二巡目 手牌

{②③③④1122四五六七八} {②}

 

 すぐに、違和感の正体が分かった。普段は感じる数巡先の山からの槓材の気配が、何時まで経ってもしない。でも、嶺上牌に何があるかは分かるのが輪にかけて奇妙だ。

 

 カンができない。いや、事態はそれより深刻だ。刻子ができる気配すらない。いつもなら、この巡目には刻子一つくらいはできている筈なのに。しかも今のところポンもできていない。抱えられているのだろうか。これと同じような感覚を、最近どこかで味わった気がする。漂う空気が、どこか似ている。

 

 何が起きているのかは全然分からないが、この異常事態を起こしている元凶は考えるまでもなく分かる。

 

 ――お姉ちゃんを倒した人!!

 

 そう思って、卓上ばかりを見ていた顔を上げると。

 

「ひっ」

 

 目が合った。

 

 能面のような無機質な表情に、藍色の瞳。それは私を映しているに違いない。その瞳の主は、対面に座る千里山のエースが一角、小鳥谷藍。

 

 恐怖を覚えて、思わず視線を逸らした。あの視線が未だ注がれているのではないかと想像すると、この局ではもう彼女の顔を見ることはできなかった。

 

「ツモ」

 

 末原 北家 ツモ

{45688三四六七八} {二} {横⑥赤⑤⑦}

 

「1000、2000」

 

 私の中で高まる不安と恐怖を断ち切ったのは、末原さんだった。早和了りに注意してと言われたのに、意識が千里山の方へ飛んでいた。忘れるな、今戦うべきは千里山じゃない。

 

 でも、もしこれが続いたら……?

 

 

 東2局 親 豊音 ドラ{北}

 

 咲 北家 配牌

{①②⑧22257三四五東発} {中}

 

 東2局。焦燥とは裏腹に、今度は刻子ができている。対面の視線はこちらから外れ、顔も先程より穏やかな気がする。やはり何かしていたのかもしれない。

 

 しかし、安堵するのは早かった。

 

「カン」

 

 藍 カン {裏88裏} 新ドラ{八}

 

 嶺上牌を奪われた!?

 

 大丈夫、嶺上牌を奪われるのは何も初めてのことではない。それでも、大事なものを取られるようなこの感覚は慣れない。涙が浮かびそうになるのをこらえて、気持ちを切り替える。まだ和了ができなくなったわけじゃ――

 

 待って、カン?

 

 部長の言う通り、千里山は無理をする必要がない。勝っている今、カンをしてドラを増やすのはリスクでしかないはず。つまりこのカンは、明らかに私を意図してのものであると考えられる。だが、先のような思わず鳥肌が立つ視線はなかった。

 

 何故こちらを狙うのだろうか。狙うにしても2位の姫松を狙った方がいいはず。考えれば考えるほどに、違和感だけが大きくなっていく。

 

 

 豊音 打{三}

 

「ロン」

 

 末原 西家 ロン

{③④⑤666四五八八} {横534}

 

「7700」

 

 その後東3局も末原さんに和了られてしまい、2位との点差はどんどん開いてしまう。

 

 

 東4局 親 末原 ドラ{⑧}

 

 だがチャンスはすぐに回ってきた。

 

 末原 打{2}

 

「カン」

 

 咲 カン {横2222} 新ドラ{4}

 

「ツモ。嶺上開花、8000」

 

 咲 南家 ツモ

{②③④⑧⑧四五南南南} {六} {横2222}

 

 私の大将戦、そして全国大会初の嶺上開花に要した局はたった4局。にも関わらず、その道のりは余りにも長く感じられた。

 

 

 


 

 

 

 南1局 親 咲 ドラ{二}

 

 大明槓の嶺上開花で責任払いとか、初めて食らった気がする。せっかくいい調子で和了ってたのにペース崩されたわ。

 

 にしても、千里山の動きが不気味や。守りに徹してる割にさっきのカンはちょっと不自然やったし。そのくせ自分で和了ろうとは考えてへんようにも見えるし、辻褄が合わん。こっちの和了を妨害してくる気配もない。うちに和了られるのは怖くないってか? 舐められたもんやな。

 

 そもそも、こいつが守りに入るってところも納得がいかん。いつもはこちらに主導権を握らせたりしない。ながら麻雀並みに脱力して打っている時でも、もっと攻撃的やった。

 

 まあそれでも、やることは変わらへん。当初の作戦通り、オリと超早和了りを駆使して逃げ切る。

 

 けど拾える点は拾う。例えばこんな手は。

 

 末原 北家 手牌

{①②③④1234567二四} {三}

 

「リーチ」

 

 末原 打{横①}

 

 リーチドラ1の三面張。高め三色も付いてくる。半荘2回を耐えるためにも、稼げるときに稼いでおきたい。

 

「追っかけるけどー。とおらば――リーチ」

 

 とか考えてたら、宮守がすぐに追いかけてきた。

 

 末原 打{七}

 

「ロン。リーチ一発ドラ1で5200」

 

 豊音 南家 ロン

{③④⑤⑦⑧⑨567六八西西} {七} 裏ドラ{7}

 

 くっ、三面張で嵌張に負けるか。まあこんなのはようある事、切り替えて切り替えて。

 

 

 南3局 親 藍 ドラ{中}

 

 南2局は清澄がまた嶺上開花で和了った。追いすがられとるけど、焦りは禁物や。まだリードはある。そしてこの局は、待ちは悪くないけど役なしでリーチかけるしかない手を聴牌した。

 

「リーチ」

「とおらば――追っかけリーチするけどー」

 

 

 末原 打{3}

 

「ロン。リーチ一発一通で8000」

 

 豊音 北家 ロン

{①②③④⑤⑥⑦⑧⑨3九九九} {3} 裏ドラ{5}

 

 また追っかけられて一発で振り込み。偶然にしても酷いわ。……いや、ほんまに偶然か?

 

 

 南4局 親 末原 ドラ{1}

 

「リーチ!」

 

 もう一回だけ確かめる。これで無理なら後はダマでいくしかない。宮守も、千里山や清澄の大将と同じあちら側(・・・・)の打ち手かもしれん。もしそうなら、対策なしでは後半戦に響く。

 

「通らばリーチ」

「あ、それロンです」

 

 豊音 打{横七}

 

 やっぱり来た、三回目の追っかけリーチ!!

 

 地区大会や一回戦の牌譜を見たけど、こんな打ち方してなかった。けど、ここまでされたらもう偶然で片付けたらあかん。

 

 宮守の大将が微かに口角を上げる。間違いない、これは――

 

 

「「え?」」

 

 

 藍 北家 ロン

{一一一二二二三三四四四五六} {七}

 

「門前清一三暗刻、16000」

 

 ……なんか、もう訳分からんわ。

 

 

 

大将戦前半戦終了

 

千里山 149300 

姫松   94700

清澄   94500

宮守   61500

 

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