聖グロリアーナのエースが往く、戦車の道と空の道   作:ゲオルギーJr

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ブリーフィング

紅茶の園にて、戦車道と空戦道による合同試合が決定してから一週間後。

本番を控えた聖グロリアーナ女学院の生徒たちは、会場付近の小屋に集合していた。

 

「そろそろ時間ね。念のため点呼を取りましょう」

 

戦車道隊長ダージリンが、作戦会議に出席するメンバーを確認する。

 

「オレンジペコです。準備できてます」

「アッサム。準備完了です」

「ローズヒップ、参上ですわ!」

「サザーランド。準備オーケーよ」

「メイヨーです。いつでも大丈夫です」

「ウェリントン。スタンバイ完了ですわ」

 

「よろしい。では始めましょう」

 

全員の出席が確認できたところで、試合前のブリーフィングが開始した。

 

「まず最初に、試合のルールを確認しましょう。アッサム、お願い」

 

「はい」

 

既に数日前の段階で、試合の取り決めに関しては空戦道側にも伝えられていたが、ここで改めて確認する。

 

「参加する戦車の台数は10両。航空機の数は5機。ルールは通常の戦車道における殲滅戦で、先に全ての敵戦車を撃破した学校の勝利となります。フラッグ戦ではないので、フラッグ車はありません」

 

今回のような航空戦力が存在する状態でフラッグ戦にすると、最悪の場合戦車の出番が無くなる恐れがあるので、殲滅戦ルールを採用することになったようだ。

 

「また、今回のルールにおいては戦車と戦闘機、双方の戦力に対抗するために通常の戦車には対空機銃を。航空機には爆弾やロケット弾などの兵装を許可しています」

 

通常の戦車の対空機銃とは、ハッチ付近に取り付けて車長が使用するタイプの機関銃のことだ。あくまで気休め程度のものだが、対空戦車でなくとも最低限の自衛ができるようになっている。

 

航空機が装備する爆弾やロケット弾は、第二次世界大戦当時と同じ性能の物が使用可能となる。これは対地攻撃を担当するパイロットが、あらかじめ機体に積み込むことになるだろう。

 

「加えて、戦車道からは対空戦車。空戦道からは攻撃機や爆撃機が参加可能となります。当然、相手が使用することも考慮すべきでしょう」

 

対空戦車とは、通常の戦車から主砲を撤去した代わりに対空砲を装備した戦車のことだ。味方の戦車部隊を、空の脅威から守ることが主な役割となる。火力が低く、装甲も薄いので敵戦車との撃ち合いに弱いのが欠点だ。

 

攻撃機や爆撃機は、空対地能力に特化した航空機のことだ。爆弾を多く搭載できたり、敵の対空砲火から身を守るために、防御力が高めに設計されていることが多い。戦闘機に比べると機動力で劣る場合が多いので、制空戦には向いていない。

 

 

 

 

「ざっとこんなところかしら? では次に、相手の戦力分析に移りましょうか。アッサム、引き続きお願いね」

 

「はい。今回の対戦校は知波単学園です。戦車道では以前、大洗でのエキシビションマッチにて対戦経験があります」

 

聖グロ戦車道は以前に、プラウダ高校と組んで大洗・知波単連合チームと試合を行ったことがある。結果は、聖グロ・プラウダ連合の勝利に終わった。

 

「私たち空戦道でも、知波単学園と戦いましたよね。先輩」

 

「そうね。サンダース付属の学園艦へ行ったときに交戦したわ。ウェリントンは知らないでしょうけど」

 

「……鼻につく言い方ですわね」

 

サザーランドとメイヨーの二人も、知波単と対峙した経験がある。サンダース付属のエースと協力して、相手のエースであるカグツチも撃墜し、勝利した。

 

「陸でも空でも、我々聖グロリアーナは知波単に有利よ。けど、油断は禁物。まずは相手の戦車から分析していきましょうか」

 

「知波単学園の主力戦車は、九七式中戦車です。火力、装甲共に低めですが、突撃戦法には念のため注意が必要です」

 

九七式中戦車、通称”チハ”の性能はお世辞にも高いとは言えない。聖グロの主力戦車であるマチルダ歩兵戦車などの分厚い装甲を貫いてくる可能性は低いだろう。しかし、お家芸とも言える突撃ラッシュは、強引に防衛線を突破されかねないので面倒だ。

 

「アッサム様。知波単側は今回、対空戦車は配備しているのでしょうか?」

 

「現段階では不明です。仮に使ってくるのであれば、旧帝国陸軍の対空戦車もしくは対空自走砲となるでしょう」

 

「対空砲が飛んでくるのは厄介だわ。できれば早めに潰しておきたいわね」

 

知波単の対空戦車の有無は不明だが、もしあれば聖グロ側の戦闘機が動きづらくなるのは間違いないだろう。

 

「次に知波単の空戦道についてですが……。こちら側ではデータを用意出来なかったのですが……」

 

「大丈夫ですよ、アッサムさん! 知波単の戦闘機については私が知ってます! 一式戦闘機隼や、四式戦闘機疾風などの、旧帝国陸軍航空隊の機体が主力なんですよ!」

 

ここぞとばかりに、メイヨーが自慢げに知識を披露した。

知波単は陸空ともに旧帝国陸軍の兵器で統一しているが、陸とは違って空の戦力は充実している。隼や疾風は、聖グロのスピットファイアに引けを取らない高性能機だ。下手をすれば、制空戦で劣勢になってしまうだろう。

 

「空の方は勝てそう? サザーランド」

 

「安心してダージリン。必ず制空権は取ってみせるわ」

 

サザーランドの自信の源は、エースという称号の誇りだ。どんな強敵が相手でも、彼女が戦う前から敗北を認めることは絶対にない。

 

「ただ気になるのは、知波単が攻撃機や爆撃機を持っているのか否か……。仮にあるとすれば、やっぱり旧帝国陸軍機になるでしょうね」

 

対空戦車と同様に、ベールに包まれている知波単の対戦車攻撃機。これらについては完全に情報が無い以上、実戦に入るまで分からないだろう。

 

 

 

「では次に、今回の試合のフィールドについて説明します」

 

アッサムは卓上で地形図を使いながら解説する。

 

「今回のマップは大きく分けて平原と森林による、二つのエリアがあります」

 

南北に広げる平原を分断するように、森林は東西へと伸びている格好だ。

 

「平原エリアでは、真正面からの撃ち合いが多くなると予想されます。お互いに航空支援も呼びやすいでしょう」

 

平原のような開けた場所では、遠距離からの砲撃戦になりやすい。もしそうなれば、装甲に勝る聖グロ側が有利だろう。

 

「一方で森の中では、遭遇戦が多発する恐れがあります。至近距離では、九七式中戦車といえど油断出来ません」

 

視界が限られた森林の中では、突発的なゲリラ戦が展開されやすい。とりわけ撃ち合いで不利な知波単側は、近距離での不意討ちに賭けてくる可能性もあり得るだろう。

だが、それに加えてパイロット側にはもう一つ厄介な要素がある。

 

「うーん。森の中は上空からだと見えづらいだろうから面倒ね……」

 

空から地上を見る場合、森では木々に視界を遮られてしまう。これでは味方側に有力な航空支援を送ることは難しいだろう。だが裏を返せば、相手からの航空攻撃を避けやすい場所とも言える。

 

「もし知波単の航空機に狙われたら、森の中に逃げるのも有効かもしれませんね」

 

「こんな言葉を知ってる? ”地形には通ずる者有り、挂かる者有り”」

 

「孫子の兵法ですね」

 

「古今東西において地上戦では、何よりも地形に対する理解度が勝敗を分けるわ。ペコ、よく覚えておきなさい」

 

 

 

ルールや地形の確認、そして相手の戦力分析も済んだところで、試合開始まで一時間を切った。

 

「時間も押していることですし、最後にチーム分けについて発表しましょうか」

 

そう言ってダージリンは、各戦車に対する配置を説明する。

 

「私のチャーチル戦車を隊長車として、ルクリリ率いるマチルダ歩兵戦車隊を護衛につかせるわ。それとローズヒップ、いい?」

 

「はい! 何でございましょうかダージリン様!」

 

「あなたを、対空戦車隊のリーダーに任命するわ。クルセイダーAA Mk.II対空戦車のね」

 

「了解ですわ! ダージリン様にたかる空のハエ共を撃ち落として差し上げますわ!」

 

ローズヒップは、元々クルセイダー巡航戦車の乗り手だった。今回は派生型の対空戦車タイプだが、同じクルセイダーなら問題ないと、ダージリンは判断したのだろう。

 

 

 

 

これで地上の戦車隊のチーム分けは完了した。あとは空だけである。

 

「先輩。私たちパイロットのチーム分けはどうしますか?」

 

「とりあえず、制空権の確保に専念するチームと味方地上部隊を支援するチームに分けるのが良いと思うわ」

 

航空機が敵戦車を撃破したい場合は、爆弾やロケット弾が必要となるが、それらの兵装は空中戦では機動力を下げる邪魔な荷物でしかない。現代の戦闘機であれば、対地兵装に空対空ミサイルを装備して対地制空の両方をこなすことも可能だが、旧世代のレシプロ機ではそうもいかない。

 

「それだったら先輩の乗るスピットファイアは制空担当で、私のテンペストが対地を担当するのはどうですか?」

 

メイヨーの提案は、それぞれの機体の特性を熟知した上でのものだ。

俊敏なスピットファイアは空中戦は得意なものの、搭載できる爆弾やロケット弾の量は少ない。

一方テンペストであれば、それら対戦車用の兵装を多めに搭載でき、低空での性能も発揮しやすい。

 

「良い提案だわ。じゃあそれで決まりね」

 

「その理論であれば、必然的にわたくしのモスキートは対地担当になりますわね」

 

ウェリントンの搭乗機であるモスキートは、メイヨーのテンペストより更に多くの兵装を搭載できる。戦車部隊への火力支援にはうってつけだろう。

 

「分かったわ。だったらメイヨーとウェリントンが対地チーム。私と残る二人のパイロットは、制空チームって采配で確定ね」

 

対地攻撃機を多くすれば、味方戦車への支援も充実するが、代わりに空中戦で不利になってしまう。相手も戦闘機を使用してくることを考慮すれば、制空担当が三機で対地担当が二機というのは理想的な配分と言える。

 

 

 

「さて、準備完了ですわね。このままブリーフィングを終わりにしても良いけれど……」

 

作戦会議は一通り終了したが、ダージリンは一つだけ、どうしてもやりたいことがあった。

 

「サザーランド? 折角ですから、私たちの掛け声を決めませんこと?」

 

「掛け声?」

 

「いわゆる、みほさんの”パンツァーフォー!”みたいな……。いや、あなたには伝わりませんわね。とにかく、そういう決め台詞が欲しいのよ」

 

「はぁ……。ダージリンって意外と変なことも決めたがるわね」

 

ダージリンから謎の要求をされ、悩むサザーランド。思考の末、彼女はこんな考えを出した。

 

「私たちの母校の聖グロって、イギリス風の学校でしょ? だったら掛け声もイギリス風にすれば合うんじゃない?」

 

「イギリス風となると……、”女王陛下万歳!”的なものかしら?」

 

「そうそう。ついでにそれを英語にすれば完璧ね」

 

「なるほど……。では早速、皆でその掛け声を上げましょうか」

 

ダージリンは指で3カウントして、場にいる聖グロの生徒全員で一斉に掛け声を上げた。

 

GOD SAVE THE QUEEN!(ゴッドセイブザクイーン!)「ですわ!」

 

こうして、試合前のブリーフィングは解散となった。

 

「いくわよペコ、アッサム、ローズヒップ。未知なる戦車道を楽しみましょう」

 

「私たちも機体の準備をするわよ、メイヨー。あ、あとついでにウェリントンも」

 

「わたくしを”ついでに”扱いとは生意気ですわね、サザーランド!」

 

戦車道と空戦道の各々の生徒たちが、開始位置に向かっていく。

いよいよ試合の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

聖グロ側と同時進行で、知波単側も試合への準備を進めていた。

 

「カグツチ殿! こちらは対空戦車も手配済みです! この試合で、我々の団結力を知らしめましょう!」

 

「良ゐぞ、絹代殿。わっちらも取って置きの攻撃機を持っておる。()()()()()()何ぞ一捻りじゃ!」

 

そこには、これまで知波単学園で未確認だった戦車と航空機が置かれていた。

 

 




今作の執筆にあたって各国の対空戦車や対空自走砲について調べているんですが、マイナーながら面白そうな物が多いです。
というかガルパンの小説で、ここまで対空戦車がピックアップされることは多分今まで無かった……と思います。(あったら教えてください)
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