聖グロリアーナのエースが往く、戦車の道と空の道   作:ゲオルギーJr

4 / 4
相変わらずマニアックな航空機(今作は戦車も)が出てきます。ある程度ストーリーが進んだら、またまとめて簡単な解説集も投稿しようかと思います。


聖グロvs知波単 中編

聖グロリアーナと知波単の戦車隊が遭遇したことで始まった地上戦。試合前のブリーフィングの段階では防御力に長ける聖グロ側が有利と思われたが、実際はそう上手くいかなかった。

 

「各車、敵に側面を向けないこと。正面装甲で弾きなさい」

 

隊長のダージリンは味方車両に無線で命令するが、状況は芳しくない。

 

「ダージリン様。どうやら知波単側の戦車は、我々を包囲しつつあるようです」

 

チャーチルの装填手オレンジペコが冷静に分析する。彼女の言う通り、知波単の九七式中戦車は、聖グロ側の戦車隊を包囲し、殲滅しようとしていた。いくら装甲で勝るとはいえ、こうも四方八方から攻撃されては、聖グロ側は厳しい。

 

「ダージリンさんに大洗での借りを返すとき! 砲撃!」

 

知波単戦車道の隊長、西絹代の命令によってじわじわと迫ってくる砲撃の嵐。

ジリ貧で苦しい状況だが、こうなってしまったのは理由がある。本来の聖グロ戦車道は、本隊をチャーチルやマチルダなどの重装甲の戦車で固めつつ、足の速いクルセイダー巡航戦車が別働隊として相手を攪乱するのが定石だった。しかし今回はクルセイダーを全て対空戦車タイプに替えたので、全体的に機動力が欠ける結果になったのだ。(対空戦車は火力も装甲も弱いので前に出られない)

 

とはいえ、まだ聖グロ側にも希望は残されている。

 

「そろそろ味方の航空機が到着するはずよ。それまで耐えて」

 

空からの支援。それがこの状況を打破する鍵だ。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「急ぎましょう。ダージリンの戦車がやられたら、指揮系統が混乱するわ」

 

知波単の戦闘機を撃墜し、航空優勢を確保したサザーランドのスピットファイアが地上の味方戦車部隊へと急ぐ。

 

「近接航空支援ですか。いよいよ実戦っぽくなってきましたね!」

 

その隣では、メイヨーが爆弾を搭載したテンペストに乗ってエレメントを組む。

今から行うのは、味方への近接航空支援。英語のClose Air Supportを略してCASと呼ばれることもある。

 

 

高度1000mまで降下し、地上を観察する二機。

 

「戦車を複数、目視したわ。あそこね」

 

サザーランドが発見したのは、地上で激しい撃ち合いをしている戦車の姿だ。まだこの段階では、どれが敵か味方かは区別できない。

 

「どれが知波単の戦車でしょうか?」

 

「もっと低空まで降りないと分からないわね」

 

航空支援で最も避けたいのは、味方への誤爆だ。そのためには、しっかりと敵と味方を判別できる高度まで降りなければならない。

現代の戦闘機であれば識別装置を見れば済むが、レシプロ機では自らの目に頼るしかないのだ。

 

「メイヨー。高度を下げて、地上に専念しなさい。私はここで空を見張っておくわ」

 

「はい。先輩」

 

既に知波単の航空機は残り一機のみだが、油断は出来ない。地上攻撃中の機体というのは低速かつ低高度にいるため、敵機に狙われやすいからだ。なのでサザーランドはメイヨーに対地攻撃を指示しつつ、自分はいつ残る敵機が来襲しても対応できるような態勢にしたのだ。

 

「ダージリンさん、お待たせしました! こちらメイヨー、近接航空支援を始めます!」

 

「あらメイヨーさん、助かりましたわ」

 

無線で味方戦車に伝えると、メイヨーは高度500mまで降下する。ここまで降りれば、どれが敵車両なのかが判別できる。

 

「あれが相手チームの戦車隊ですね。知波単の皆さんには申し訳ないですが、爆撃させてもらいますよ!」

 

メイヨーが狙いを定めたのは、味方部隊の真正面にいる九七式中戦車だ。三両が砲撃しつつチャーチル戦車に接近している。真っ先に排除しておきたい存在だ。

彼女の乗っているテンペストには現在、両翼下に450kg爆弾を二発ずつ搭載している。これを投下することで爆撃するのだが、やり方は主に三種類ある。

 

一つ目は水平爆撃で、これは機体を降下させずに真っ直ぐ飛びながら爆弾を落とす方法だ。

 

【挿絵表示】

 

この方法だと敵に接近せず爆撃できるため比較的安全だが、爆弾が落ちる場所がずれやすいので命中率が不安定になってしまう。

 

二つ目は緩降下爆撃で、これは目標に向かって緩やかに降下しつつ爆弾を投下する方法だ。

 

【挿絵表示】

 

こちらは目標に接近しなければならないのでリスクを伴うが、そのぶん着弾地点をコントロールしやすいため、より精度の高い爆撃が可能となる。

 

最後の三つ目は急降下爆撃で、これは目標の上空から一直線に急降下してから爆弾を投下する方法だ。

 

【挿絵表示】

 

これは今あげた三つの爆撃手段の中で最も命中率の高いやり方だが、降下中の速度調節や引き上げのタイミングが非常に難しく、専用のダイブブレーキを備えた機体でないと、地面に追突してしまう可能性がある。テンペストには不向きと言わざるを得ない。

 

「水平爆撃だと外れやすいから、緩降下爆撃にしようかな?」

 

今回メイヨーが選んだのは、二つ目の緩降下爆撃だ。もし水平爆撃にすると近くにいる味方戦車を誤爆してしまう恐れがあるため、こちらにしたのだろう。

セオリー通り、まずは目標となる九七式中戦車に向かって、スロットルを絞りながらゆっくりと降下する。相手の車載機関銃から反撃を受けるが、このくらいならテンペストは耐えられる。

 

「メイヨー、爆弾投下!」

 

目標にギリギリまで接近したタイミングで投下ボタンを押し、まずは片方の450kg爆弾を落とす。それが完了したら、間髪入れずにフルスロットルで速度と高度を上げつつ離脱する。これは自分が落とした爆弾の衝撃波で自滅するのを防ぐためだ。

 

直後、大きな爆発音と共に450kg爆弾が敵車両付近で炸裂する。周囲に広がる爆弾の衝撃波が、確かな手ごたえをメイヨーに感じさせた。

 

『九七式中戦車、走行不能!』

 

審判の蝶野亜美によるアナウンスによって、爆撃が成功した事が分かった。

 

「やったあ! やりましたよ先輩!」

 

初めての近接航空支援が成功し、喜ぶメイヨー。だがこれで終わった訳ではない。

 

「よくやったわメイヨー。でも知波単の戦車は未だ健在よ。もう一発お見舞いしてやりなさい」

 

今の爆撃によって撃破した敵は一両だけ。窮地の味方を救うには足りない。サザーランドは残る爆弾で再び攻撃するよう、メイヨーに促す。

 

「了解しました。もう一回、爆撃しますね!」

 

空には敵機もおらず、知波単の対空戦車も不在なのでメイヨーのテンペストは動きやすい。残るもう一個の450kg爆弾を投下するために、彼女の機体は爆撃コースを取り直していく。このときに役立つのが、シャンデルという空戦機動(マニューバ)だ。これは上昇しながら斜めに宙返りすることで、反転しながら高度を上げる動きだ。これによって素早く反復地上攻撃が出来るようになる。攻撃機や戦闘爆撃機に乗る際は重宝するだろう。

 

「メイヨー、投下します!」

 

態勢を立て直したところで再びテンペストが爆撃し、二両目の九七式中戦車を撃破する。爆弾は周囲に衝撃波が広がるおかげで、多少着弾地点がずれても効果を発揮するのがメリットだ。

 

 

「航空支援のおかげで知波単の戦車隊に隙が生まれたわ。アッサム、今よ」

 

「はい」

 

テンペストからの爆撃ですっかり弱体化した知波単の戦車を、砲手のアッサムは的確に狙撃する。

 

「一両、撃破しました」

 

「正面が開けましたわね。全車前進」

 

知波単戦車による包囲網が解かれたタイミングを逃さず、ダージリンは配下の戦車に前進を命令した。

これでひとまず、聖グロ戦車隊が包囲殲滅されるという最悪のパターンは回避できただろう。

 

「敵に突破されてしまいました! こうなったら西隊長、突撃の許可を!」

 

「そう熱くなるな玉田! 冷静に次なる機会を待て! これは撤退ではない、転進だ!」*1

 

包囲網を崩されたことで、知波単の戦車たちは次々に撤退していく。だがそれに追い打ちをかけるように、聖グロ側から別の一機が到着した。

 

「ウェリントン、ここに参上ですわ。わたくしが来たからには、知波単の戦車共は一両も残さずスクラップにしてやりますわよ!」

 

飛来したのは、ウェリントンが乗るモスキート戦闘爆撃機だ。テンペストより更に多くの兵装を積んでいるので、より強力な航空支援が可能となる。

 

 

 

 

これで聖グロ側は陸空双方の戦力が揃ったが、そこに緊張感のこもった無線が入ってきた。

 

「こ、こちらルクリリ! 敵の攻撃機に追われてる! 救援を求める!」

 

それはダージリン率いる本隊とは別行動を取っていた隊員からの無線だった。

 

「こちらサザーランド。すぐ向かうわ! メイヨーも一緒に来なさい! ウェリントン。近接航空支援は、あなたに任せるわよ!」

 

敵の攻撃機は、味方戦車隊にとって最大の脅威だ。サザーランドはすぐにメイヨーと共に援護へ向かった。

 

「ルクリリ、森に逃げなさい。そこなら敵機も深追い出来ないはずよ」

 

「森ですか。了解し……、うわっ、また襲ってくるぞ!?

 

無線越しながら、ルクリリのマチルダIIは切羽詰まった状態のようだ。

 

「ルクリリ様、大丈夫でしょうか?」

 

「サザーランドとメイヨーさんの二人に託しましょう。私たちは知波単の戦車を追うわよ」

 

ダージリン率いる本隊は、上空にいるウェリントンのモスキートから支援を受けつつ、撤退する敵車両を追撃していった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

味方からの要請を受け、敵攻撃機の所在を探るサザーランドとメイヨー。

とりあえず先ほど救援を求めてきた味方車両の安否を確認する。

 

「こちらサザーランド。無事ならば応答して」

 

「味方機? 助かったぁ~。同伴のマチルダも撃破されて、もうダメかと思った。早くあの敵機を追い払って!」

 

幸いなことに、知波単機に追われていたルクリリの戦車は森の中で空襲を凌いでいたようだ。これ以上の被害を出さないためにも、いち早くその機体を撃墜しなければならない。

 

「目視したわ。アイツが知波単側の最後の一機よ」

 

「あの機体、初めて見る航空機ですね……」

 

周辺の空域を偵察していると、敵機らしき機影が見えてきた。

だがその機体形状は、これまで知波単が使用してきた隼や疾風とは明らかに違うものだった。プロペラが二つの双発機で、機体サイズも大きめだ。メイヨーは自身の持つ飛行機に対する知識を総動員して機種を特定する。

 

「思い出しました! あれは帝国陸軍の航空機、キ-102です! 攻撃機だとすれば乙型でしょうか。57mm砲を搭載しているので、かなり高火力ですよ」

 

キ-102は旧帝国陸軍航空隊が開発した双発複座の機体で、用途に合わせて三種類の派生型が製造された。その一つであるキ-102乙は攻撃機タイプで、これは地上軍への近接航空支援に特化している。*2機首には上空から容易に戦車を貫ける57mm砲を積んでいる上、追加で500kgまでの爆弾も携行できるという強力な攻撃機だ。

 

「ダージリンのためにも生かしておけないわ。早々に撃墜しましょう」

 

対地能力に優れた攻撃機は、たった一機でも戦車隊を壊滅させるだけのポテンシャルを秘めている。なのでサザーランドは、キ102乙がダージリン率いる本隊の上空に到達する前に撃ち落としておきたかったのだ。

スピットファイアを操縦し、敵機の背後から接近し射撃のチャンスを伺う。

 

「アラハバキ殿! 敵戦闘機に追尾されています!」

「むむっ、小癪な。だが反撃之手は或る」

 

サザーランドは敵のキ-102乙が射程圏内に入ったと見るや、20mm機関砲の発射ボタンを押そうとした。

が、そのとき、思わぬ攻撃が相手から飛んできた。背後から銃弾を撃ってきたのだ。

 

「っ!?」

 

間一髪、反応が間に合い回避機動を取ったことでサザーランドの機体は被弾せずに済んだ。

 

「あっ、先輩。言い忘れてましたけど、キ-102乙には後部機銃手が座ってますよ」

 

「……そういう大事なことは最初に言いなさい、メイヨー」

 

後部機銃とは、一部の航空機が自衛のために装備している兵器だ。キ-102乙のような攻撃機や爆撃機は、一般的に速度や機動力が戦闘機に比べて劣っている。その弱点を補うために後ろの座席に銃手を座らせて、いざとなったら機関銃で応戦できるようにしているのだ。故に戦闘機パイロットは背後を取っても油断できないのである。

 

「後部機銃は厄介ね。どう対処すれば良いのかしら?」

 

「単純に、機銃手が狙えない位置につけば反撃されないですよ。例えば真下とか」

 

後部機銃手も人間だ。機銃の範囲外にいる敵機には反撃できない。死角から接近すれば簡単に撃墜できるだろう。

 

「なら、真下からの突き上げを食らわせてやりましょう」

 

メイヨーからの助言を活かして、サザーランドは一旦降下してからの上昇による突き上げ機動でキ102を狙った。

 

「ええい、さっさと機銃で反撃せんか!」

「下にいる敵機をどう狙えと?」

「大和魂でどうにかせよ!」

「大和魂でも無理なものは無理ぞ」

 

制空戦闘機として設計されていないキ-102では、スピットファイアに歯が立たない。最終手段であった後部機銃すら封じられると、呆気なくイスパノ20mm機関砲によって粉砕されたのだった。

 

『知波単側の航空機の墜落を確認。これが最後の一機だ』

 

「お見事です、先輩」

 

「あなたのアドバイスのおかげで楽に落とせたわ、ありがとう」

 

知波単側の五機目の航空機であるキ-102乙を始末したことで、空における主導権は完全に聖グロ側が握ることとなった。味方の戦闘爆撃機も安心して地上への支援に専念できるようになったので、戦車戦でもかなり優位となるだろう。

 

「約束通り、制空権は確保できたわ。制空担当としての任務達成ね」

 

味方への障害となる敵航空戦力も掃討し、とりあえず一安心……。

 

 

 

 

と、思われたその矢先、サザーランドと同じ制空担当だったもう一機のハリケーンから緊迫した無線が入ってきた。

 

「助けて! どこかから弾幕が狙ってきて―――

 

そのパイロットは最後まで言い切ることはなく、無線は途切れてしまう。

 

『聖グロのハリケーンの墜落を確認した』

 

「妙ね。敵戦闘機は排除したのに……」

 

先ほどの無線は明らかに不自然だ。知波単側の航空機はたった今、サザーランドが全滅させた。となれば、ハリケーンはなぜ撃墜されたのだろうか? 敵戦闘機でないとすれば、考えられる可能性は一つしかない。

 

「もしかして、相手側にも対空戦車が?」

 

「というか、それしかないでしょうね」

 

今回聖グロ側がクルセイダー対空戦車を用意したのと同じように、知波単側もまた対空戦車を配備している可能性が極めて濃厚となった。それを撃破しない限り、制空権を完全に握ったとは言えないだろう。

 

「こちらサザーランド。ダージリン、そっちはどう?」

 

「こちらダージリン。作戦は順調に進行中。勝利まであと一歩ですわね」

 

味方戦車部隊の状況は良好だ。サザーランドやメイヨーが支援する必要はないだろう。

 

「分かった。それじゃあ私たちは敵の対空戦車を探しましょうか」

 

「了解です、先輩」

 

試合は聖グロリアーナ優勢となったが、まだ勝利が確定したわけではない。相手の逆転の芽を摘むためにも、不安材料は残しておきたくないのが人情だ。

サザーランドとメイヨーの二人は、知波単側の対空戦車を発見し撃破すべく、偵察飛行を開始したのだった。

 

 

*1
太平洋戦争中、大本営は国民向けのニュースで頑なに”撤退”という言葉を使わずに、耳ざわりの良い”転進”と言い換えることで誤魔化したのが元ネタ。

*2
あと二つについては高高度迎撃機タイプの甲型と、夜間戦闘機タイプの丙型となる




対空戦車と戦闘爆撃機は英語でそれぞれアンチエア・タンクとファイター・ボンバーと言いますが、個人的にはドイツ語のフラックパンツァーとヤークトボマーの方が格好良くて好きです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。