ウィンチェスター兄弟の最悪な『来』日 作:AQ to Do
『ギンジさん……ギンジさんはいらっしゃいますか』
『たかが一人生んだくらいで』
『オムライスオムライスオムライス!』
The Road So Far ――
『何の呪いだよ! 何で、何で俺だけ……!』
『人はな、都合の悪いことは全部妖怪のせいにしようとすんねん』
『そんなことでバケモノが来なくなるものか!』
『うあああああ!』
『油断していました。すぐにそこから逃げてください。あれの罠です』
『ヒデキさん、行きましょう、お山に。みんな待ってる』
『おいで知紗。一緒にお山で遊ぼう』
『わかるでしょ、それがただの噛み傷じゃないことくらい』
『えぇ、すべてこちらで準備します』
Now ……
『――助っ人を呼びましょう』
『ハンターです、化け物退治専門のね』
【アメリカ合衆国・ミネソタ州】
その廃屋は、まさに地獄だった。
「おいディーン! 弾残ってるか!?」
「いいやサミー! これで完売だ!」
始まりは単純、軽い気持ちで肝試しに来たカップルが変死した。単にそれだけの怪事件。
調査も順調、原因は明快。単なるゴーストが住み着いて地縛霊の類になっているだけ。
塩を込めたショットガンと鉄の弾丸、あとはバールやナパーム。
霊を地上に繋ぎとめる物品を探したら、塩をかけて燃やすだけ。
「誰だよ朝までには帰れるって言ったやつ!」
「うるせぇ十分前の俺は今の俺とは別人だ!」
火を噴くダブルバレル、風を切るバール。二人の男を囲むゴースト、その数は優に30を数える。
まさにホーンテッド・マンション。此処が地獄の一丁目。撃っても殴っても波は止まらず。
「あぁもう面倒臭い! やっちまっていいか!? なぁいいよな!?」
「あぁっ!? 何を……って、何するつもりだディーン!」
「決まってるだろ、こいつらまとめてリブロースステーキにしてやるのさ!」
取り出したるはガソリンと発炎筒、後はご察しの通り。
目当てのものを探す間がないなら、丸ごと燃やしてしまえばいいのさ。
「ったく酷い目にあったぜ」
「ああ全く、誰かさんが短気でバーベキュー起こしたせいでな!」
「おい怒るなよサミー、大ピンチを救ってやったんだ、感謝してほしいくらいだぜ」
「お前が放火したせいでこっちは危うく焼け死ぬところだったんだぞ!」
やいのやいのと大喧嘩。そんなところに一本の電話。
『ハロー、お元気しているかしら』
しっとりとした声、たどたどしい英語、それでいて底冷えするような気配。
「何の用だ、こっちはちょっと取り込み中なんだが」
『こちらも少し込み入った事情が出来上がってしまったの。二人ともこっちに来てくれないかしら』
「おいちょっと、来いったってアンタ今」
『頼んだわよ、チケットと前金はボビーおじ様経由で渡しておくから』
ツー、ツー、と無慈悲な切断音。うへぇと顔をしかめるディーン。
「誰からだ? お前がそんな顔をする相手っていうと……」
「アイツじゃねぇよ。ほら、いただろ、ヴァージニアのジャパンタウンで」
「おいそれって……」
「コトコ・ヒガ、日本最強の退魔師だよ」
【日本・成田空港】
成田に降り立ったサムの鼻を刺激したのは、排ガスの煙たさと甘酸っぱいような匂い。日本人は醤油の香りがするとかいうんだったか。
湿気の多さは俺たちアメリカ人にとっては気持ちのいいもんじゃない。シャツがじっとりと肌に張り付く感じがなんとも言えない。
「まさか俺たちが日本まで来るなんてな」
「仕方ないだろ、あの人にはジャパン・タウンでデカい借りがあるんだ。それにボビーだって言ってたじゃんか。『あの人の頼みは聞いておいたほうがいい』って」
「にしてもだなぁ、完全武装で至れり尽くせりな待遇ってどう考えてもヤバイ事案じゃねぇか」
琴子はあらゆる手段を使って俺たちを招いたらしい。
飛行機は最高級。ホテルも都会からは遠いが割と高級。おまけに武器弾薬とインパラまで、C-17で横田基地から駐車場まで運んである。
詳しいことはホテルに着いてかららしいが、いったいどんなヤバイ化け物を相手にするのやら。
「ま、考えてても埒が明かねぇし、適当に飯食ってさっさと向かっちまおう」
「あぁ、そうだな」
駐車場の一等地に止められた我らがインパラを見つけ近寄ると、ワイパーには何やら紙が挟まっている。
「これは、和紙だ。琴子からのメッセージかな」
手触りの滑らかな折り目を開くと、墨と筆で書かれた英文が広がる。達筆すぎて若干読みにくい。
『ようこそ日本へ。道中はくれぐれも気を付けて』
「こりゃあどういうことだ」
「さぁね、ともかく向かってみれば分かることだろ」
兄貴が運転、俺が助手席。いつものスタイル。
首都高に入って兄貴の悪趣味なロックを聞き流しながらぼうっと外を見る。
その時だった。
――バンッ、バンッ、バンッ
銃声と聞き間違えるほどデカい音。だが、銃撃なんてありはしない。
じゃあいったい何だ。まさか、時速100kmで走るインパラの屋根をたたく奴がいるなんて――!
「おい何だ! バックファイアか!?」
「いや違う、これは……何かが屋根に乗りやがったんだ!」
「おいおい冗談だろ!」
――バンッ、バンッ、バンッ
ついには赤い手形がサイドウィンドウにべったり着き始めた。
「こいつ纏わりついてやがるっ!」
「クソッタレ! 琴子の忠告はこういうことかよ! 振り切るぞ!」
ディーンがアクセルを踏み込む。スピードメーターは100から120を越して140へ。
ハンドルを揺らし、振り落とそうとしてみるが、どうやら奴には効かないらしい。
「ああ畜生! サム、窓を開けて奴に聖水をぶちまけろ!」
「はぁっ!? 日本の霊に効くか分かんないんだぞ!?」
「つべこべいわずにやりやがれ! このままじゃインパラにプレスされちまう!」
いつの間にか手形は全方位の窓を埋め尽くす勢いで増え、屋根を軋ませ凹ませている。
ワイパーで擦っても消えず、そればかりかワイパーを何かがへし折った。
「あぁクソッ! ディーン、まっすぐ走ってくれよ!」
「おうよ!」
後部座席に置いたトランクからボトルを掴む。銀製、十字と聖句の刻印、悪魔でも女みたいな悲鳴を上げる特効薬。
こいつを屋根の上に居座る奴に振りかけてやれば万事解決。
いざ、窓を開けるハンドルに手をかけた瞬間、そいつが勝手に回り始めて化け物を迎え入れようとする。
ヤバイ、そう思った矢先に何かが首を絞めつける。尋常じゃない力、だが正体は見えない。
「ヤバイヤバイヤバイ! サム、やれ!」
手探りで腰のベルトに通した鞘を見つけ、ナイフを引き抜いた勢いのまま目の前に振るう。
手ごたえは殆どない、空を切った。だが同時に、この世のものとは思えない甲高い悲鳴が上がり、首の力が弱まった。
その隙に、ボトルを開けて中身を車内にばらまく。ジュッと肉の焼けるような嫌な音と共に、さらに悲鳴が上がる。
「おいやったのか!」
「まだだ! 火傷が怖くて手を引っ込めただけさ」
聖水がかかってびしょ濡れの俺とディーン、滑稽だが今は謎の敵から俺たちを守ってくれる。
次は何だ、どこからでもかかってこい。身構えていると、『』と不気味な言葉を残して、邪悪な気配が消える。
「……やっと終わったみたいだな」
「いや、単に逃げただけだよ」
日本に来て数時間、ガタガタになったインパラと共に、俺たちは目的地に到着した。
スーパーナチュラルはS3まで履修しています。
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