わたしは料理が嫌いだ。
それはべつに美味しいものを食べたくないだとか、凝った食事が苦手だとかそういう事じゃあない。
わたしの父親は、料理一筋の人だったらしい。
ウチの先祖伝来の味噌を引っ提げて意気揚々とどこかの名門料理学校に入学叶ったらしい。
しかしそこでは才能及ばず、二年の時点で何かトラブルがあったのか、退学をたたきつけられて逃げるように各地に修行の旅に出、そこで出会った女性と結婚するも、結果としてわたし達家族を捨てた。病弱で入院中の母を残してだ。
その結果、父が家を出たのがわたしが十にも届かない頃。気がつけば嘘か本当か鎌倉の先祖の代からやっていると噂の実家の味噌蔵の仕切りや家事の一通りはわたしの仕事になっていた。
前者は職人達が何人か残ってくれたので何とかなったが授業参観やら、運動会やらと言った家族が集まる学校行事では身内が誰も来ることはなく、ひそひそと周囲から同情やらありもしない無責任な噂やらといった好機の目に晒されてきた。
放っておけばいいのに。人間とはなんとも優越感というやつに浸りたい生物らしい。
まぁ、職人の皆は忙しかったし、味噌に使われる酵母っていうのは温度管理やらなにやらと繊細なものだ。
それに味噌蔵を長いこと空けるわけにもいかないから仕方ない。
ただ、そのおかげで随分とひねくれにひねくれて偏屈かつ嫌味な性格になった自覚はある。
…身内に甘いとはよく言われるが。
「お嬢、ポストにこれが…」
「…ゲンさん、なにこれ?」
ウチの味噌蔵で最古参の職人が家のポストに入っていたと、恐る恐る差し出して来た封筒の裏には、十五年生きてきて見覚えのない人物の名前が。
「……………ハァ」
流石に中身も読まずに捨てるのも何だしと、特になんの感慨も無く単なる興味本位で読んでみると…。
「…遠月学園?」
「ええ。かつて父君が通われていた名門料理学校ですじゃ」
「なんで今更…落ちこぼれた父に代わってわたしに来いと?…いや、名門ってくらいだからそれはないか…」
落伍者の家にわざわざ手紙を送ると言う謎の行動に、ついつい首を傾げてしまう。
そもそもウチは老舗の料亭やホテルでも、新進気鋭のレストランでもない。
歴史だけはあると言う以外に特筆すべき点も無いただのしがない味噌蔵、それ以上でもそれ以下でも無い。
取引先も地元のお得意さんがほとんどで、まかり間違ってもおフランスの三つ星レストランだとか、二十三区のどこかの最上階にあるような会員制レストランに相手してもらえたりは無い。
だから、もしかしたらウチの味噌を学園に卸して欲しいという依頼か?なんてお花畑なことも一瞬頭をよぎったがそれも無いとかぶりを振る。
と言うか、仮にそうだったとしても文面はあまりに簡素で見積も何もあったものじゃあない。
というか…まるで、今年新しく編入する人間に宛てたかのような内容だ。
「お嬢、その認識で合ってます」
「…はぁ?」
内心が溢れていたようだ。ちくせう。
何でも、父の旧友の金だか銀だかなる男からの話が通ったとか通らなかったとか。
…誰?ってなったのも束の間。
わたしはいつの間にやら用意されていた車で一路、編入試験を受けることになってしまったのだ。
母も後から設備のいい病院に移動させてもらえるらしいので、そこは良かった。
ははは…帰りたい。
いや…そうしたら母さんが…。
胃が痛い…。
本作主人公…イメージとして、髪型は黒髪ショート。目の下にクマあり。苦労人。
基本悲観的な性格だが、田所ちゃんとはベクトルが違う。
警戒心が強く、常に眉間に皺が寄っている。
なお、話が続くかは未定。