味噌の歴史は紐解くと思いのほか深く、一番古い文献ではそれこそ平安の時代にまで遡ると言う。
最初は甘味などと同様に貴族のみ口にできる贅沢品であり、時として高い地位の人間の給料として用いられたほどだったとか。
やがて時代が降るにつれ、中国からやって来た僧が伝えたすり鉢で粒味噌を潰し、それが水に溶けやすいことから味噌汁という日本の国民食に発展。一汁一菜という食事の基本はこれが発祥だとも言われる。
室町以降、味噌は庶民にも浸透していき、それ以降も様々な改良や土地ごとの特色も含めて様々な種類が存在する。
その組み合わせはまさしく無限にあり、その扱いひとつで料理人の腕が問われるほど。
当時を知る元ちゃん研主将、豪田林はその時のことを振り返る。
「正直、最初は半信半疑でごわした。味噌蔵の娘とは言え田舎者と、心のどこかで侮る気持ちがあったのでごわしょう。或いは、折れかけた自身の心を必死に守ろうと八つ当たりしていただけだったのかも…今となってはただただ己の愚行を恥じ入るばかり…しかし、教室で広げられた味噌を見て、おいどん…いや、我々は夢を見たのでごわす」
と、目を細めてそう言った。
彼の見た味噌はその一つ一つが綿密で精巧、繊細なものであり…。
どこかノスタルジックな思いにさせてもらえるものだったとか。
…………………………
薙切えりなとちゃん研の食戟が行われた会場にて、その結果が明かされる。
「勝者!!薙切えりな!!」
……デスヨネー。
まぁうん。正直そこまでうまくいくとは思ってなかったよ。
いやまぁ?わたしとしてはめっちゃ大柄な先輩方が頭を下げに来て若干ハイになってたのもあるんだろうけどもさ?
ゴシゴシと目を擦ってモニターに表示された票数を確認する。
2ー1
勝者 薙切えりな
うん。改めてどっからどう見てもちゃん研の負けです。ありがとうございました。
「申し訳ありません先輩方。お力になれず…」
わたしは通路でちゃん研の人たちがやって来るのを待って、通りがかったところを深々と頭を下げる。
力及ばなかったのは確かだし。
先輩は少しの沈黙の後
「…いや、あの食の魔王の一族に、一票とは言え土をつけることができたのはそれだけで名誉でごわす」
そう、晴れやかな顔で言ってた。
「歴史は過去のみにあらず、道途絶えたならば新たなる道を探すだけのこと。貴殿にはそのことを教えられ申した」
そう言って、今度は向こうに頭を下げられる。
「…は?」
いやいや、別にそんなこと教えたつもりは…。
「よって我々ちゃん研一同!!貴殿を主将として新たに味噌研究会の立ち上げをする所存…」
「結構です」
いやまぁ…負けちゃった以上文句言うなって話だけどもさ〜。
別に今のとこ研究会はいいかなぁ〜…。
……………
「なぜ、票をちゃん研側に入れたのです?」
遠月学園からの帰りの車内にて、何気ない会話のような、しかし問い詰めるような、そんな訝るような質問がひとりの男に投げかけられた。
「いえね。彼らの料理にはどこか…覚えがあるような気がしたんですよ」
男は遠月学園のOBだった。
「…覚えですか?」
「ええ」
次いで投げかけられる質問に男は頷く。
「まだまだ未熟ではありましたが、しかし…あの味噌の調合は何処か特徴的で、私の心の琴線に直接触れるものでした。えりな様の料理は素晴らしいものでした。しかし心の琴線には触れなかった。だからちゃん研に票を投じた。それだけです。まるで…」
奇術にかかってしまったようですね。
何かを狙ってか、或いは本当にそう思ってか、ふと口から出たその言葉に、他二名は目をパチクリさせるばかりだった。
食戟の結果はほんへと変わらないので飛ばしました。