堂島銀は視察も兼ねて各会場を見て回り、とある生徒のブースを発見する。
用意される食器や、お題などから推察するに彼女の出すものは……。
「アイツの料理は…ほう、田所恵と同じおでんか」
堂島は引き続き興味深そうに彼女の動きを観察している。
この試験において最も懸念すべきこと…それは同じ会場の他の生徒とお題が被ってしまうことだ。
無論、個人の創意工夫などで差別化こそ図れるが、しかし比較対象ができてしまうのは難しくもある。
同じ料理なうえ、似たような味付けであるなら客足も遠のくし、同じなら別にいいやと客の側としても食傷気味にもなってしまいかねない。
まず食べてもらうことが大前提のこのお題に於いて、それは後々まで響く致命的な打撃となってしまう。
とは言え、単純に興味から味の違いを比較したがる客もいるだろうし、絶対にそれがいけないというわけではないが。
しかし、彼女の料理を見た瞬間堂島はなるほど、と頷いた。
「やはりと言うべきか…アレは味噌おでんか」
味噌おでん。
それは名古屋や鹿児島で親しまれるおでんであり、醤油ベースでは無く味噌ベースの味付けが特徴的なものだ。
味噌蔵生まれの彼女らしい料理と言えるだろう。
見たところ、具材は卵にこんにゃく、ちくわに大根などなど…比較的オーソドックスだが、それが逆に注目を集める結果につながった。
「田所恵のひとくちサイズの朝食おでんとはまた違った切り口でやって来たな」
そうこうしているうちに、ひとり、またひとりと彼女のブースにちらほらと人が集まる。
とは言え…問題はその客の反応なわけだが…。
「なんと…なんと言うことだ…」
紳士然とした男が呟く。
「赤味噌や八丁味噌、甘口辛口などの癖のあるいくつもの味噌をブレンドしているにも関わらず、味も濃くなりすぎず互いの味噌同士の主張が喧嘩もしない…」
次いで老人が一口食べて驚く。
「極め付けはこの卵…まろやかな味わいに、味噌に入っている生姜がほのかに香る…」
生姜味噌おでん。それは青森の方で食べられる郷土料理でもある。
恐らく今回彼女はそれを参考にしたのだろう。
「あはは…まぁ、山の朝は冷えるって聞きますし…お味噌にはミネラルや塩分など、一日の活力になる成分が豊富に含まれていますから…なんて、つまらないお話を…ともあれ、お口にあったのなら何よりですよ」
周囲からの賛辞に困ったように笑うその様は、彼女の父親に本当に瓜二つで…堂島は微笑ましく思うと同時に、思わず顔を背けてしまいたくなる。
「…いやはや、驚かされた。これほど繊細に味噌を調合するとは…さぞや苦労なすったろう」
老人が微笑み労いの言葉をかける。
「いえ…わたしはわたしにできることをして来ただけのことです。特別なことなど、なにも…」
その後、彼女が200食を達成するのは最早当然のことだった。
おでんの具だと大根と卵が好きです。結局王道が一番美味しいんですよね(隙自語)。