なんとか余剰分の時間をギリギリまで休憩に費やし、部屋から少し時間的に余裕を持ってロビーに向かい、辿り着く。
既にわたし達以外にも、試験を生き残った生徒達が続々と集まっていた。
まぁ、遅れたりしてクビになったらそれこそこれまでの頑張りがパーだもんなぁ。
はぁ…でも、正直あんま休めてないんだよなぁ…。
ブラック過ぎないこの合宿?
いやまぁ、プロの世界が厳しいのはそうなんだろうけども…。
そして…やってきた先輩方。
堂島先輩がマイクを手に、労いの言葉をわたし達にかけ、長いお話の後…なんと、先輩方の料理を味わえるとか。
それで、各々用意された席につき、出された料理を食べてみたんだけども…なんっ……て言ったらいいんだろうなぁ…。
いや、美味しいよ!?
めちゃくちゃ美味しいし、滅多に食べられない料理なのは周りの反応からしてひしひしと伝わってくるんだけども…生まれてこの方、いかんせんこういうのにまっっったく縁が無かったモンで、味の…深み?素材を活かした味?ってくらいにしか表現方法がわかんない。
まぁコレはわたし自身が単純に知識とか語彙力不足なせいなんだろうけども…。
せいぜい、あぁこの料理には隠し味にあの味噌使ってるなぁ〜とか、この味噌入ってるなぁ〜くらいなもんで、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいなんだわ…。
そもそもわたしは味噌以外には基本貧乏舌なもんで、同じテーブルを囲む田所ちゃんが「美味しいね〜」なんてニッコニコ幸せそうな笑顔で言ってきても「アッウン、ソウダネ〜」くらいしか返せなくって…。
どっちかって言うと、テーブルマナー云々で誰かしらシェフの機嫌を損ねるんじゃあないかってそっちにばっかり気がいっててなぁ…。
いやまぁ、せっかく合格したんだし、貴重な機会なんだから素直に楽しめばいいんだろうけども…。
初日に香水でクビになってる人(全然知らない人だったけど)のことを思い出すとそこまで呑気にはなれないんだよなぁ…。
……単純にわたしが小心者なだけなんだろうけどもさぁ…。
しかもさっきからチラホラ聞こえてくる秋のセンバツ?だか何だかも何やら不穏な気配がしてヤバい…。
「あのさ、田所ちゃん…」
「え?どうかしたの?」
「その…さっきから聞こえてくる秋の…」
「ああ、選抜のこと?」
「やっぱ、極星寮からも出るのかなって…」
「そうだねぇ〜…創真くんもそうだけど、他にもスゴい人結構いるから…」
となると…また寮母のおばちゃんからなんか言われるのかなぁ…。
今から憂鬱だ…。
「でも、スゴいね!!もう秋の選抜のことに意識が向いてるなんて…私なんか今合宿通過できただけで胸がいっぱいだよ〜」
感心したような視線をこっちに向けてくる田所ちゃん。
いや、そう言うんじゃあ無いんだって。
「あはは…実際わたしもそんなモンだよ。ちょくちょく話題に出てたから聞いてみただけ…」
心なしか和やかな空気が少しピリついたような…。
おかげでノートのこと話題に出しそびれた…。
なんかヒントとか貰いたかったのにチクショウ!!
「はぁ…」
帰りたい…。
主人公ちゃんは生粋の庶民なのです。