短めー。
「この生徒ですか…」
配布された目の前の紙を見ながら、遠月学園が誇る教師陣の数名が机を囲んで話し合っていた。
「そうだ」
「しかし…彼女は本当に堂島先輩が気にかけるほどの逸材なんです?」
投げかけられるそれは当然の質問。
それだけ元遠月十傑の、それも第一席を務めていた男の発言力には重みと責任が伴うものだ。
しかし、それにも躊躇せずに堂島は答える。
「その点なら心配は無い。何故なら…」
「何故なら?」
「………」
若干の間、静寂が空間を穿つ。
そして、堂島銀は口を開く。
「彼女はあの『味噌の奇術師』の娘だからだ」
「彼の娘さん!?」
それを聞くなり、にわかにその場がざわつく。
『味噌の奇術師』
かつて遠月十傑に最も近かったとされる実力者として知られるも、訳あって遠月学園を離れた紛うこと無き鬼才。
嘘か真か、彼の退学騒動の折にはあの学園総帥たる薙切仙左衛門自らが動き、直属の部下を使って彼をひと月に渡って説得、引き止めたほどだったとか。
当時を知る者たちは皆口を揃えて彼の努力と才能、そして実力を認めながら「間が悪かった」とそう言うが、その先…実際に何が起きたかについては皆そろって口をつぐむ。
彼の実家の味噌蔵の八百年以上に渡る長年の歴史に裏打ちされた知識と技術、そして一癖も二癖もある、正に曲者揃いの遠月の実力者の中にあって、なお穏やかな人柄。
そのいずれも非の打ち所がない。
強いて言えば、多少悪戯好きな茶目っ気はあったが、それも十分に許容範囲だった。
…だからこそ、あの悲劇が起きた、否、起きてしまったのだろうが。
「しかし…そうとなると話は変わってきますなぁ…」
「うむ…」
事情を理解するなり、今度は深刻な表情を浮かべる。
「いや、彼女は何も知らないし、何も知らされていない」
「え?」
堂島銀のその発言に、一同は意外そうな表情をするものの、それもそうか…と納得した様子だ。
「しかし、あの事故は堂島先輩の責任じゃあ…」
「言うな」
堂島は短く、しかし重く、そう言う。
「アイツは…全てを分かっていたからこそ、何も言わずに学園を…そして実家を去った。誰にも、何も言わずにな…」
「あのお人好し…」
そう零したのは誰だったか。
「そして、その娘たる彼女の編入試験での結果は…」
『合格』と、ただその二文字が書かれている。
血統のみならず、実力を示したということでもあるのだ。
その事実の示すところは即ち
運の悪いことに…或いは皮肉なことに、彼女は彼女自身の嫌う料理の才能があったということの証明に他ならない。
そしてそれはあまりにも…
残酷なことだった。